城の騎士試験
クリスタルの城を守る騎士の、入団試験が開始された。
その現場と結果は・・・?
※一部直接的な戦闘描写がございます。ご注意を!
ライトと「取引契約書」を作り、二柱が帰って暫く経った頃。
王国では城に仕える者達の採用面接・試験が行われていた。
城に仕える者は、大きく分割されればメイドや執事といった『世話係』、兵士や魔導士などの『軍隊』に分かれる。
全てにおいて面接と実技がある。
特に『軍隊』は四分割されており、武力に特化した『兵士』、魔法に特化した『魔導士』、武力も魔法にも特化した『騎士』、スパイや暗殺を行う『影』がいる。
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今行われている採用試験は『騎士』の部隊。
死後の国であるレイレード王国に来る前は猛者や勇者と言われていた様な人物が100名程揃っている。
質素ではあるがしっかりとした設備が整っている会場に、皆何処か感嘆を含んだ声をもらす。
そんな中、今回の試験官がやって来る。
試験官は『騎士団長』。
彼は平均より少し長身の人間の男性であり、かなり身軽そうな金属の鎧を着ている。
頭は兜で覆い関節部分もプロテクターを付けているものの、剣などの武器は見当たらない。
騎士団長が声を上げる。
「まずは試験の挑戦、感謝する。実技試験の内容だが、団長である私との手合わせである。私に何らかの傷を負わせたものが試験合格となる。物理的にでも、魔法によるものでも構わない。」
試験を受ける者達がざわめく。
「こんなので採用されていいものか?」
「相手がかすり傷負ってもいいって事ですよね。」
「不敗国の試験って、こんなにも簡単なものなのか? がっかりだ。」
試験の内容が簡単である事に驚き、舐めている様子。
それを分かっている様子で騎士団長は言葉を続ける。
「私を転ばせてかすり傷を負わせても試験は通る。出来るものならな。」
ニヤリと挑発的に笑い、そう告げる騎士団長。
それに触発された、一人のオーガが騎士団長の前に出る。
その体格は騎士団長の体格の1.5倍程である。
持っている槍を構えるオーガ。
「出来るぜ。俺は幾つもの国を救ってきたんだからな! 早速行かせて貰ってもいいか?」
「いいぞ。では、手合わせ願おう。」
騎士団長のその言葉を皮切りに、突然オーガは後方10m先の壁まで吹き飛ばされる。
3m程空いていたオーガとの間合いを一気に詰め、騎士団長が体術でオーガをぶん投げたのだ。
訳が分からない様子のオーガの下から、炎が噴き上げその血肉を焼く。
辺りに嫌な焦げ臭さが漂う。
会場には、オーガの絶叫が響く。
炎の熱と反比例して凍り付く試験者。
その場で倒れ動かなくなったオーガを見て、騎士団長は宣言する。
「お前は不合格だ。意気込みは良かったがな。」
そして後ろに控えていた魔導士達に向き直り、「この者の手当てを。」と命じて引き下げさせる。
オーガが救護室へ運ばれるのを見届け、騎士団長は改めて試験者に向き直る。
「さて、幾多の国を救ってきたオーガの英雄が倒れた。次は誰が倒れたい?」
その眼は、異様なまでにぎらついていた。
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「___で、今年の騎士合格者は二人だな。多いじゃないか。」
執務室にてクリスタルは騎士試験の報告を受け、騎士団長にそう言う。
「例年、誰も実技で通過しませんからね。今年は新人が入って来てくれて嬉しいものです。」
「お前もだいぶ強くなったからな。お前が入団したての頃なんて『人を斬るなんて、何事だ!』とか言って俺に斬りかかって、返り討ちにあったよな。」
「国王様!それは自分の黒歴史です!!言わないで下さいお願いします!!」
クリスタルから昔の黒歴史を言われ、手で顔を覆う騎士団長。
彼の耳が赤い。
「昔は自分も若かったです。『人は必ず話し合いで分かり合える』と、そう思い込んでいた時期がありました。今では『人を斬る事で、守れるものがある』のを分かっておりますが。」
「それならいい。俺は『人を殺せ』とは『影』以外には命じる事はないからな。」
「『人を斬る』事、それは『殺せ』という事ではない。それを分かるまで苦労しました。それ以降は相手を死なせないように手加減するのにさらに苦労しました。」
頭を掻き、苦笑いする騎士団長。
そんな彼の成長を見てきたクリスタルが、騎士団長に言う。
「お前は良くやっているし、努力も惜しまない。それが今に繋がっている証拠として、精鋭部隊である騎士団の団長を任せている訳だ。」
「重役を自分にお任せ下さり、光栄にございます。」
また騎士団長の耳が赤くなる。
今度は顔を隠さず、待機の状態で指示を待つ。
そんな彼にクリスタルは指示を出す。
「お前は今日はもう休んで、明日から新人の教育指導内容を考えろ。今週は新人を座学なんかで覚えさせることが多いから、5日後までに教育内容を提出するように。いいな?」
クリスタルからの労いに、騎士団長は敬礼で返す。
執務室を出る際に、騎士団長が「そういえば国王様、」と口を開く。
「『影』の合格者は出たのですか? 『影』は閣下の直々の独立部隊。閣下の試験に耐え抜いた者はいるのですか?」
クリスタルはニヤリとして答える。
「拷問のプロであるルーグから受ける拷問に、全て耐えられる奴が早々出てくると思うか?」
今年も『影』の部隊の試験者は、全て脱落したらしい。
騎士団長は「昔自分が受けた試験が『影』でなくて良かったです。」と言い、執務室を後にした。
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騎士団長が出て行ってから数時間後、執務室にルーグが入ってくる。
シャワーを浴びた後らしく、髪が少し濡れている。
「お疲れ。騎士の方の試験はどうだったんだ?」
「おっつー。二人合格者出たぞ。」
「多いじゃないか。良かったな。」
ルーグが「人手不足がマシになるな。」と呟く。
仕事が増えるが、後に活躍する可能性がある者が増えるのは良い事である。
「他の部隊はどうなってるんだろうな。合格者は出てるといいんだが・・・。」
「兵士は3名、魔導士は2名。これも上々だ。」
「『影』はダメだったがな。拷問された時の耐性がまるでない。そんなものじゃ秘密ばらす可能性があるからアウトだ。」
「確かにな。ちなみに試験を受けた者の手当ては?」
クリスタルが横で資料を確認しているルーグをちらりと見やる。
「試験者全員には魔法で記憶処理して体を治療し、『試験で嫌な事があった』という事だけ覚えて帰ってもらった。」
「対処してるならいい。『影』は騎士と並ぶ精鋭。妥協が出来ない。」
クリスタルはルーグに紅茶を入れるように言い、ルーグは「了解」と言って体を伸ばす。
「今日はさすがに俺も疲れたな。ちょっと業務スピード下げてもいいか?仕事量は変えないから。」
「仕事量も下げていい。明日に回せる仕事は明日に回せ。」
クリスタルもルーグに配慮し、暗に「書類仕事を休め」と言っているようだ。
お茶入れを命じたのは、それが理由であるとルーグにはわかった。
「じゃあ今日はゆっくりするさ。クリスタルも無茶するなよ。」
「俺は仕事があんだよ。他の奴を休ませてるからな。」
「なら紅茶に合うケーキでも持ってこようか?さっきコック長が作ってたから。」
「旨そうだな。せっかくだし、お前の分も持ってこい。アフタヌーンティーにするぞ。」
「はいはい、わかったよ。ちょっと行ってくる。」
先ほどまで試験で拷問をしていたとは思えない、何処か穏やかな表情で、ルーグは執務室を出て行った。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
今回のお話はいかがでしたでしょうか?
今回は騎士の入団試験の様子と、その結果の様子でした。
こんな入団試験、受けたいでしょうか?
またルーグがちょっとヤバい奴なのが分かったかと思います。
彼の仕事が「何でもやる」と言う事の意味が分かったかなと。
次回は視察回です!
「エルフ」の区域を見る二人の様子が分かるかと思います。
厚かましいですが、創作の励みになりますので、良ければ評価をお願い致します。
改めて、読んで頂きありがとうございました!