貴族たる者
クリスタルとルーグは、それぞれ貴族の仕事を視察する。
クリスタルは会議へ、ルーグは当主の執務室へ向かう。
クリスタルとルーグは、今度は大貴族の当主の仕事場を視察する。
視察は二手に分かれて行う事にした。
クリスタルは当主と他の貴族との会談に同席し、ルーグは当主の資料の調査を行う。
クリスタルは当主と会議室に入室する。
既に到着していた他貴族達は、突然現れた国王に大層驚いたのか、皆驚愕の表情である。
それに対してクリスタルが一言。
「何だお前ら? 俺が突然来るのにそこまで驚くのか? 何かやましい事でもあるのか?」
クリスタルの圧力に、皆冷や汗をダラダラと流す。
こうして改めて問われると、やましい事などしていないものの、何故かしてしまった気分になるものである。
クリスタルは当主の後ろに用意されていた、大層豪華なソファに足を組んで座る。
「さて、いつもの様に会議していいぞ。俺に直接質問・確認してもいい。意見を聞いても構わない。」
クリスタル以外の貴族達は思っていた。
『そんな度胸はない』
クリスタルの視線を感じつつ、貴族達の会議は重苦しく始まる。
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一方のルーグは当主の執務室に来ていた。
当主の秘書が持って来た資料をひたすら読み漁り、不正がないか・誤った内容がないかをチェックしていく。
「ふむ・・・・。秘書さん、資料はこれだけか? 農作物の収穫量の資料がもう少し欲しい。」
3つ程ある資料の山を読み終わったルーグが、当主の秘書に問う。
秘書は想像以上の速さで資料を読んだルーグに驚きつつ、「資料を持って参ります」と言い退出する。
それを見届け、ルーグは一人執務室を見渡す。
「何処かに不正資料はないか・・・・?」
今回の視察のもう一つの目的である『不正資料の発見』を、ルーグは内緒でクリスタルから任されていた。
ルーグは『国王の側近』であると同時に、スパイやアサシンといった『裏の仕事』も行う。
その手の仕事には、彼はめっぽう強い。
ルーグは早速壁に埋め込まれている本棚を漁る。
どれも本は変わった物が無い本ばかりで、本棚自体にも細工はない。
その後執務机の調査を行うと、今度は細工が見つかる。
机の引き出しの裏側に、ボタンがある。
「なんて典型的な・・・・。」
ルーグがそのボタンを押せば、執務机のセットの椅子の床が開く。
床には少しだけ空間があり、中には金銀財宝と様々な高価な宝石がある。
それらを無視して資料が無いかを探る。
資料らしきものは一切見当たらない。
「ただのへそくり入れか。見たところの総額も、当主の懐事情を考えれば賄賂ではなさそうだ。その痕跡も見当たらないし。」
ルーグは何事も無かったように全て元通りにして、当主の執事を待つ事にした。
痕跡を元に戻し、程なくして当主の執事が追加の資料を持ってくる。
「閣下様、お待たせ致しました。こちらがご希望の資料です。」
「ありがとう。すまないが、ついでに紅茶を頼めるか?」
「畏まりました。」
ルーグは紅茶を待ちながら、持ってきてもらった資料を読み漁る事にした。
不正は見当たらない。
ルーグは安堵しつつ、さらに資料を分析してクリスタルを待つ事にした。
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会議は重苦しい空気の中、何とか進んでいく。
議長である大貴族の当主が皆に問う。
「『貴族の身内は、貴族に成りえない場合がある』。これを分かってもらえない事が現在の一番の問題です。皆様、改善案はございますかな?」
会議室は静まり返る。
この議題は以前から問題に上がっているものの、なかなか解決しない問題だ。
この国の身分は『生前の行い』が基準である。
例え親が『貴族』であっても、その子どもまで『貴族』になるか、それは子ども次第である。
親が『貴族』で子供が『一般市民』という例や、またその逆もあり得る。
生前血縁で『貴族』になった者には、この制度をなかなか理解し難い制度がための反発をする。
この会議に集まる者達はこの制度に理解があるがために、逆に解決策を見いだせないでいるのだ。
「やはりもう一度『身分制度』に対しての理解を深めるための、勉強会の様な催しを行ってはいかがでしょうか?」
「しかし、それは以前にも何度も行ったではありませんか。」
「では他に何かございますか?」
「そうですね・・・・。お茶会で『身分制度』について話し合ってはいかがでしょうか?」
「理解の無い方とのお茶会となりますと、『身分制度』の悪口大会にしかなりませんか?」
せっかく出てくるアイディアも、反論のせいでボツになる。
この流れを何度も繰り返し、再度室内は静かになる。
会議を進めようと当主が呼びかける。
「・・・・皆様、他に何か案はございますか?」
「「「・・・・・・。」」」
会議はいよいよ行き詰まる。
そこでふと何かを思いついたような様子の貴族の一人が、恐る恐る手を上げた。
「国王様、私めから提案がございます。ご意見をお聞かせ願いませんでしょうか?」
「お? 何だ? 出来る範囲で答えよう。」
クリスタルは貴族が自身に意見を聞こうとしているのに、気を良くした。
いつもクリスタルは『恐れ多いから』と意見を問われないからである。
それでも意見を聞こうとした貴族に、クリスタル自身も姿勢を改める。
貴族が緊張しつつもクリスタルに提案を言う。
「国王様をゲストにした、お茶会を開くというのはいかがでしょうか? 国王様がゲストなら、『身分制度』についての議題を出しても悪口大会にならないかと。表向きとしては賛成の意見ばかり出るでしょうが、国王様直々の説明ならば、この『身分制度』に理解が出るかもしれません。」
「ふむ、なるほどな・・・・。」
貴族の提案に、クリスタルは少々悩むが、それでもしっかりと答える。
「初めから俺がゲストだと分かると、表向きの意見を用意してやって来るだろう。俺がゲストだと分からない状態でのお茶会ならいいだろうな。これには皆の協力が必要だが、構わないか?」
「国王様のご負担になってしまいますが、国王様が宜しければお願い申し上げます。」
「私も同じ意見でございます。国王様の意見に賛同いたします。」
クリスタルの提案に、貴族達は口々に同意する。
当主が一度咳払いをして、皆の意見をまとめる。
「では、国王様のご協力のもと『身分制度について話し合うお茶会を開催する』、という提案で宜しいでしょうか?」
辺りを見渡せば、皆賛同の意志を示している。
クリスタルはそれを見て席を立つ。
「当主、今回の『お茶会開催』についての書類を提出してくれ。先に言ったように、俺はこの茶会に協力しよう。書類提出期限は一週間後とするが、多少前後してもいい。」
いつものニヤリ顔をして、クリスタルは「ごきげんよう。」と言い退室する。
近くに居た屋敷の召使いに「ルーグを呼べ。城へ帰る。」と伝え、自身は先に馬車へ向かった。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
今回のお話はいかがでしたでしょうか?
今回は貴族の仕事の視察でした。
ルーグは不正調査をこっそり行い、クリスタルは会議に参加していました。
結果会議の方は『身分制度について』どうするか、恐れ多くともクリスタルに意見を聞いて会議を進めることができました。
『恐れ多いから意見を聞かない』のと『恐れ多くても意見を聞く』。
どちらが良いのでしょうか?
次回は『魔力搾取者』の身分の視察です。
この国での再下層の身分の彼らは、どのような日常を過ごしているのでしょうか?
また厚かましいですが、創作の励みになりますので、良ければブックマーク・評価をお願い致します。
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改めて、読んで頂きありがとうございました!