貴族の役目
貴族の視察を行う事にしたクリスタルとルーグ。
そこは城から遠く離れた土地。
貴族の様子を、統治者から聞くことに。
クリスタルとルーグは正式な衣装を着た状態で、城の一角の魔法転送装置に来ている。
向かう先は、城から遠く離れた『貴族区域』である。
目的は『貴族の生活及び仕事の視察』だ。
ルーグは移動の前に視察の内容の詳細の確認を資料で確認しつつ、普段の視察で着ない衣装についてぼやく。
「久しぶりの『貴族』の視察だな。普段の視察の服じゃないから、正直落ち着かないな。」
「わかるわー。いちいちドレス着ないといけないのが面倒だ。動きにくい。」
「仕方ないだろ、お前女だし。それに有事の際に動くのは俺だからいいだろ。」
クリスタルはふわりとしたドレスの裾を、手でファサファサと動かして邪魔そうにしている。
ドレスの裾はそれに合わせてゆらゆらと動き、飾られた宝石や装飾品がキラキラと光る。
「そんな事やってないで、さっさと行くぞ。貴族の視察項目は多いんだからな。」
「へいへい、じゃあ行くか。」
二人は魔方陣に乗り、『貴族区域』へ向かう。
光の粒子の様になり、二人の姿は一瞬で消える。
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たどり着いた先は、あちこちに大きな屋敷がある区域。
自分たちの城は遠すぎて見えず、遠くに見えるのは他の区域の住宅街、特に屋敷が多く見える。
二人は転送装置から降りて、ルーグのサポートを借りつつクリスタルは馬車に乗り、それにルーグも続いて乗り込む。
二人が馬車に乗り込んだのを従者が確認した後、馬車は『貴族区域』の視察ルートを巡回する。
『貴族区域』と言うだけあり、建築様式は様々ではあるものの、どれも負けず劣らずの美しい屋敷が立ち並ぶ。
通りの端は光る宝石で飾られており、それらが電灯の役割を果たしている。
地区を歩く人々も、一般市民とは違い、ドレスなどのしっかりとした衣装を着ている。
見事な装飾品や宝石で着飾っている婦人に、従者が日傘をさして付き添っているのも見える。
それらを眺めつつルーグが視察用メモに地区の様子を記入していく。
「見た目は特に異常はないな。不審者も見当たらない。」
「ま、ここらで不審者はいねぇよな。一番不審者がいる可能性があるのは、屋敷の中だろうよ。」
「違いないな。」
薄橙色のレンガの大通りを馬車は往く。
目的地はこの辺りの『貴族区域』を統一している大貴族の屋敷。
向かう道中で様々な貴族の視線を感じる。
様々な思いがあるであろうそれらを全て無視して、馬車は往く。
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「国王様、閣下様。ようこそ我が屋敷へ。私がこの辺りの『貴族区域』の統治者でございます。」
屋敷に入れば早速この屋敷の主人がメイド達や執事と共に頭を下げる。
クリスタルの城程ではないが、他の貴族に比べて相当数のメイド達がいる。
内装も装飾も見事である。
やって来たクリスタルはルーグに先導されて屋敷に入る。
「ご苦労。事前告知の通り、今日は視察に来た。」
「出迎えご苦労様。『仕事の内容確認』と『貴族達の様子の聴取』が主な視察内容だ。対応頼む。」
クリスタルとルーグがそう言えば、主人は「承知致しました。」と応接間に二人を案内する。
金銀で出来た調度品が並べられた応接間のソファにクリスタルは足を組んで座り、主人はその対面に座る。
ルーグはクリスタルの後ろで控えている。
クリスタルが出された紅茶を啜り、早速議題に入る。
「まずは貴族達の様子から聞こう。現状何か大きなトラブルは報告されてはいないが、小さなトラブルや問題はあったか?」
当主は言いにくそうに、それでもしっかりと答える。
「近年『貴族』になった者の中に、『何故貴族が城から遠い地を任されるのか』と不満を持っている者がおります。『国の力が及びにくい遠隔地程、代わりの統治者として貴族が必要である』と説明いたしましたが納得されない者もおります故、後に問題になりかねないかと。」
「ふむ、貴族の仕事の趣旨を理解していない者がいる訳だな?」
「仰る通りでございます。」
貴族の役目は当主が言った通り『国の統治が及びにくい遠隔地の統治』である。
この理由から、この国では力のある貴族程城から遠い土地に住まう事になっている。
国や世界によっては、逆に力のある貴族程城から近い場所に住まう事が多い。
不満を持つ貴族は、そのような文化の出身故に不満を持つのだろう。
悩むクリスタルが後ろで控えているルーグに話しかける。
「ルーグ、お前何か改善案はあるか? 対象者に当主から貴族の趣旨を再度周知してもらうくらいしか、今すぐには案が出ないんだが。」
「そうだな・・・・。俺としては、対象者に『貴族としてこの土地を統治している』という実感を持たせたらどうかと思う。」
「と、言いますと?」
ルーグはクリスタルと当主に「俺も具体的な案は直ぐに出ないが、」と言いつつも説明をする。
「不満を持つ貴族に、この遠隔地特有の仕事を増やすんだ。例えば『農作物の収穫増加』『勤務形態の改善及び税の徴収』とかな。それを実施してその成果を生活に反映させれば『貴族としてここを治めている』という実感が湧いて、不満は減るんじゃないか?」
ルーグの提案に、当主が何度も軽く頷き納得する。
クリスタルも顎に手を当てて、考えつつも納得しているようだ。
「流石は閣下様。それならば不満を持つ者は減っていくかと思います。」
「直ぐに不満は減るわけではないが、それなら俺達から政策が出せるな。」
クリスタルがルーグに顔を向けて命令をする。
「言い出したからには、この政策はお前が担当しろ。政策の確認や改善案は俺も協力する。」
「了解。案が出来次第、書類を提出する。」
一先ず『貴族の不満』に関しては解決方法を模索する方針になった。
そして二人は次の視察内容である『貴族としての仕事』の確認をする事にした。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
今回のお話はいかがでしたでしょうか?
今回は貴族の様子のお話でした。
現実の昔の貴族は、城から近い位置に屋敷があったようですが、この国ではその真逆です。
理由はあれど、いきなり遠隔地に飛ばされる貴族はびっくりしてしまうかと思います。
次回は今回のお話の続きでございます。
仕事の視察、そしてどのような人物が『貴族』になれるのかのお話です。
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改めて、読んで頂きありがとうございました!




