労働と身分制度
新規住民の様子を視察するクリスタルとルーグ。
城内で働く『一般市民』からの質問に答えつつ、彼らに『身分制度』を教える。
クリスタルとルーグが執務室で書類に目を通していると、部下から報告が上がって来た。
「先日『新しい住民』の受け入れを致しました。閣下、書類をご確認願います。」
「わかった。」
ルーグが書類を受け取れば、いつも通り『一般市民』が多く、数名『一般市民以下の者』がいるらしい。
『一般市民以上の者』はいないようだ。
総数やそれぞれの人数を確認し、書類にサインをしてクリスタルに手渡す。
「今回も特に異常は無し。総人数は例年と比べたら多くなってきているな。」
「了解。俺達の国以外で死者を受け入れている場所が無くなっているんだろう。そこはしゃあない。」
「住民が増えることに反対はないが、問題は『住民の当面の生活費』じゃないか?」
「あー・・・・。」
ルーグの指摘に、クリスタルが頬杖をつき少々悩む。
彼はそのまま書類の確認を進めつつ、話をする。
「今新規住民は一ヶ月、国系列の働き口で働いてもらって、お金稼いでいるだろ? それは城内でもそうだ。国の情報が漏れない場所で働いてもらって、新規住民は生活費を稼いでいる。だが、そろそろ城で任せられる仕事がない。」
「それなんだよなぁ。城の仕事では、荷物運搬・森林の手入れ・洗濯・掃除くらいしか任せられる仕事がない。それ以外は新規住民を任せられる働き口に任せるしかないんだよな。新しい働き口も、そろそろ開拓しないとまずい。」
『新規住民の生活の確保』。
国を治める者として、これはかなり深刻な悩みである。
国費で一ヶ月分の生活費を賄ってしまっても問題はないのだが、入国者が不安定なだけあり、その策は行いたくないのが二人の意見だ。
「どうするかな・・・・。新規住民の様子の視察をして、アイディアを探ってみるか?」
悩むクリスタルのぼやきに、ルーグがちらりとクリスタルを見てぼやく。
「・・・・お前、まともな視察、出来るんだな。」
「いつもまともだろ、いい加減にしろよ。」
一言で軽口を止め、クリスタルも書類のサインを再開する。
ルーグは明日のスケジュールに『新規住民の視察』と記入し、日程を決めた。
明日の執務室の主は、不在になるようだ。
_________
翌日。
クリスタルとルーグは『新規住民の視察』をするために、城内でも目立たない裏方へ向かう。
向かった先の洗濯場では、召使いたちが多くのシーツ類やカーテンが洗濯をしている。
機械で洗える洗濯物は機械の中に入れて洗濯をするが、大半の洗濯物は大きなタライで手洗いをしている。
クリスタルとルーグが入室すると、作業をしていた召使いたちが作業を止めて一礼をしてくる。
クリスタルが手を上げて礼を止めさせ、召使いに作業を続けさせる。
二人が作業を眺めていると、洗濯場の責任者の召使いがやって来る。
深々と一礼をしてから、微笑みながら責任者は挨拶をする。
「国王様に閣下様。本日はこのようば場所にお越し下さりありがとうございます。」
「ご苦労。ルーグが連絡をした通り、新規住民の働いている様子の視察だ。普段通りにするように。」
「承知致しました。」
「せっかくだから、もし機械や設備に不備があれば俺に言ってくれ。俺達が直接設備を見れる機会だしな。」
「お気遣いありがとうございます。現段階では不備はございませんのでご安心を。」
「そうか。では業務に戻ってくれ。挨拶に来てくれてありがとうな。」
「とんでもございません。では、失礼いたします。」
二人はまず辺りを見渡す。
せっかくなので、この洗濯場の様子の視察も行うつもりである。
皆真面目に、だが楽しそうに談笑しつつ洗濯をしたり、外で洗いたての洗濯物のしわを伸ばしつつ干している。
幾つも洗濯物が穏やかに風に揺られなびいている。
そんな洗濯場の一角に、二人は目をやる。
タライでシーツを洗っている集団だが、何処か手際が悪い。
彼らが数日前からここで働いている『新規住民』のようだ。
クリスタルとルーグがそちらへ向かえば、指導係が指導を止め、二人に一礼をする。
それに釣られてか、他の『新規住民』もとりあえず一礼をする。
「お疲れ様です、国王様に閣下様。今回は『新規住民の視察』と伺っております。水場で御足元が悪い中この様な場所までお越し下さり、ありがとうございます。」
「指導に洗濯、ご苦労。」
「全員ご苦労様。指導と『新規住民の人』の様子さえ分かればいいから、普段通りにしてくれ。」
『新規住民』達は会話からクリスタルとルーグが国王様とその側近であることが分かったのか、今度は深々と礼をする。
その顔を上げさせ、ルーグが『新規住民』達に声をかける。
「この国での当面の生活に、何か不備や質問はないか? 今のうちに疑問や不安を解消して欲しい。」
ルーグの質問に、数名が遠慮がちに質問をする。
「あの、『ここで暮らす事を選ばなかった人』は、どうなったんですか? 別のドアに入ってから、一切姿が見えないのですが・・・・。」
「説明が抜けていたか、すまないな。簡単に言えば、『転生』してもらった。当然、記憶はない状態での転生だ。記憶があれば色々面倒事が起きるし、転生した本人も混乱してしまうからな。」
「なるほど・・・・、分かりました。」
「私から質問いいでしょうか? 『一般市民』以外の身分の人も、お城で働いているのでしょうか?」
「城に限らず、全員働いてもらっている。『一般市民』はあまり働く場所に制限はない。城でも情報漏えいの可能性のない場所での労働をしてもらっているのが、その証拠だな。」
「では、『一般市民ではない人』はどうなるのですか?」
「『一般市民以上の者』、ここでは『貴族』と言われる者は、各所に居る他の貴族のもとで働いてもらって、『貴族としての仕事』を覚えてもらっている。一方で『一般市民以下の者』、ここでは『魔力搾取者』と言われる者は、義務化されている『魔力の徴収』と生前の行いを反省させるための『特殊労働』をしてもらっている。」
身分制度の詳細はともかく、クリスタルが回答した『特殊労働』という聞きなれない言葉に皆は首を傾げる。
それを察知して、ルーグが補足する。
「『特殊労働』って言うのは、皆がやりたがらない様な仕事をしたり、生前の自身の行いで苦しんだ者の追体験をしたりして反省させたり、とかだな。ここで寿命が来て生まれ変わった際に、同じことをさせないようにするために後者の事をさせている。」
「・・・・何だが、自分の国にあった『地獄』みたいな感じですね。お仕置きする感じが。」
「世界によってはそう思われるかもしれないな。ここではお仕置き、ではなく『被害者の追体験』だけれども。」
その他幾つか詳細な説明をして、『一般市民』達の疑問は色々解消されていく。
その後クリスタルとルーグは、少し距離を取って彼らの仕事の様子を見守る。
タライでシーツを洗うのに慣れている者やそうではない者の差はあるものの、それでも皆水はねや汚れと戦いつつ懸命に働いている。
「今回も問題なく皆働いているな。良い事だ。」
「結構質問があったし、やっぱり定期的な視察は必要だな。来た当初ではなかった疑問が出てきてもおかしくはないから。」
「そうだな。後、今回いなかったが『貴族』の視察もしておかないとな。」
クリスタルの言葉に、ルーグがふと提案する。
「それなら、改めて全部の身分の視察してみるか? 最近『一般市民』の視察ばかりで『貴族』と『魔力搾取者』の様子を見ていないだろ。」
クリスタルが顎に手を当て、考える。
「・・・・それもそうだな。久しぶりに他の身分の者も見てみよう。日程調整を。」
「了解。」
しばらく二人は視察をした後、城内での他場所の視察を行うため、その場を後にした。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
今回のお話はいかがでしたでしょうか?
今回は『当面新規住民がどう生活するのか』と『身分制度について』の説明回でした。
暫く新規住民は生活を保障される代わりに労働をして賃金を稼いでいます。
その賃金で自身の住みたい地域で暮らし始める、というのがこの国の一般市民の生活の流れです。
また身分が3つある事も明記されました。
『貴族』はともかく、『魔力搾取者』の身分の詳細は今後書いていきたいと思います。
次回は『貴族』の暮らしの視察の様子をお届けします。
また厚かましいですが、創作の励みになりますので、良ければブックマーク・評価をお願い致します。
感想・レビューもお待ちしております!
改めて、読んで頂きありがとうございました!