浮遊戦艦にて
『転生者』の世界を脱し、世界を放置したクリスタルとルーグ。
今はとある戦艦に身を寄せている。
クリスタルとルーグは、現在とある『戦艦』の甲板に出ている。
今滞在中の『戦艦』の内部とは違い、外はガスの匂いが漂っている。
それを少し不快に思いながら、二人は『仕事』をこなしていく。
二人が訪れた先は、ガスで出来ているが故に地面が無い惑星。
そこで暮らす『浮遊戦艦の団体』に二人は身を寄せている。
その『浮遊戦艦』の滞在条件として『依頼した仕事をこなす事』を提示され、二人はその『仕事』をしている。
今の仕事は『甲板の修理』である。
「案の定、外はガスの匂いが酷いな。無害なガスだから平気だが、不快だ。」
錆付き剥がれた甲板の床を接合しながら、クリスタルがそうぼやく。
別の部位の接合をしているルーグがそれに答える。
「我儘言うなよ。物資ギリギリで生活している所に居させて貰ってるだけ、かなりマシだろう。」
「それは俺も許容範囲だが、このガスは話が別だ。むせそうなくらいガスが濃いからな。マスクくらい寄こせっての。」
「それは、まあ、気持ちは分かるが・・・・。」
物資が不足気味の戦艦には、急に来た二人の旅人分のガスマスクは無く、仕方なしに二人はマスクをせずに作業を行っている。
ガスのせいで霞んで良くは見えないが、遠くに見える他の作業員はガスマスクを着用して作業にあたっている。
「俺達は予定もなしに此処に来たんだ。物資が回っていないから、多少の我慢は仕方ないだろ。」
「ま、さっさと作業を終わらせるか。その方が誰も損しないしな。」
手っ取り早く二人は作業を終わらせる。
とりわけ機械に強いクリスタルの手際は素早く、あっという間に甲板と修理素材の接合を終わらせていく。
そして自分たちの作業が終わり、二人はそのまま艦内に戻ろうとする。
そこでルーグがふと立ち止まり、クリスタルに耳打ちをする。
「なぁ、ここで恩を売っておかないか? 多少待遇は良くなるかも。」
「なるほどな? 要は『甲板修理を手伝う』、そういう事か。」
クリスタルも意見に同意した様で、遠くにいる作業員に大きな声で問う。
「皆! 修理が間に合っていない場所は何処かあるか!!?」
それを聞いた作業員のうち何名かが手を上げて二人を呼ぶ。
クリスタルとルーグはそれぞれ作業員の元に駆け寄り、甲板修理の材料を受け取り、共に修理を再開する。
幾つか経年劣化ではない、『意図的な破損』を見つけつつ。
そして修理が終わればまた他の箇所へ修理に向かい、次々と仕事の手伝いに周る。
_________
手伝いが終わり、クリスタルとルーグは作業員と艦内に戻る。
既に時刻は夕食の時間である。
この戦艦は、生活区域が幅広い戦艦のため、戦艦員として働く者は多い。
その戦艦員の大勢は食堂にて夕食にありついている。
食欲を程々そそる程度の匂いが漂っている。
今日はあまり豪華な食事ではないようだ。
二人も他の戦艦員と同様に食事配給の待機列に並び、自分の番を待つ。
すると、ある戦艦員が近づいてくる。
「お、ここにお二人ともいたのか。さっきは助かったよ、ありがとう。」
見れば先ほど二人が作業を手伝った作業員であった。
ルーグは頭を軽く下げ、「大したことではないです」と微笑みながら返す。
「ここで居させて貰う対価ですし、自分達だけ戦艦内に帰るのが忍びなかったのです。お気になさらずに。」
「そうか、でもありがとう。せっかくだし、何か困っている事は無いか? 教えられる範囲なら教えるし、要望があれば上に通そうか?」
ルーグのお世辞と態度に作業員は気を良くしたようだ。
二人の思惑通り、恩を売れたようだ。
「じゃあ作業効率化として、俺達の分のガスマスクを貰いたい。惑星を構成するガスは無害ではあるが、匂いがあってむせるんでな。」
「そうだな、旅人のお二人にはまだだったものな。それは食事後上司に言っておこう。他に要望はあるか?」
作業員は二人に親身になってくれている様子で問いかける。
そこでルーグが前から思っていた事を問う。
「では、この戦艦と他の戦艦達の事を聞かせて下さい。可能であれば、何故この惑星に滞在しているのかも含めての説明が欲しいです。」
作業員は腕を組んで悩みだす。
「そうだな・・・・。話をしてもいいが、長くなってしまうぞ? 食事をしながらでもいいか?」
「お宅がそれでも良ければ、俺達は話が聞きたい。話を聞いても大丈夫か?」
「大丈夫だ。では食事をしながらでも話そうか。まずは食事の配給を待たないとならないがな。」
「確かにそうですね。配給を待ちながらでもお話を聞かせて下さい。」
作業員とルーグは少し苦笑いを浮かべ、お互いの顔を見る。
残っているクリスタルは、「早く話せ」と言わんばかりの目線を送っているが。
_________
「『ドラゴン』から逃げている?」
思っていた事とは違う答えに、ルーグは聞き返す。
「そうなんだ。もとはただ生活できる場所を探していただけだったんだが・・・・。」
作業員は眉尻を下げてサラダを食べる。
クリスタルは味気ない干し肉を食べながら問う。
「ドラゴンは本来『高位種族』。理由が無ければ人間を追いかけまわすどころか、攻撃はしない。何か過去にトラブルでもあったのか?」
「それが何も無くてな。ある日突然現れて、ここの惑星調査をしていた俺達を追いかけまわすようになったんだ。」
ため息交じりに作業員は答える。
ルーグは乾パンを齧り、さらに問いかける。
「先ほど『戦艦は4隻ある』と仰っていましたよね? 特定の戦艦が狙われる、といった事はあるのですか?」
「特にないが、この『住民区域特化型戦艦』が一番被害が出やすいな。『戦闘特化型戦艦』の真後ろに位置しているからだろうが・・・・。」
「それとドラゴンとの戦闘の流れ弾が当たりやすいから、被害が出やすいんじゃないか? 甲板に幾つも砲弾の後が残っていたぞ。」
「そういうのは致し方ないんだが、確かにその被害もあるな。そもそもドラゴンが襲ってこなければいい話ではあるのだがな・・・・。」
3人で食事を取りつつ話は進んでいく。
「要はドラゴンに攻撃されて、宇宙に逃げるにも破損が酷く逃げられない。修復道具も食料も『生産区域特化型戦艦』での生産が間に合っていない現状のせいで、何も出来ずに此処にいる訳だな?」
クリスタルの要約に作業員は頷く。
食器は下げており、3人で水を飲みつつ話を続けている。
「そうそう。『生産特化型戦艦』は2隻。それでも間に合わないくらいには被害が大きいんだ。それに俺達みたいな『甲板に出る作業員』も少ない。何時攻撃が来るか分からないから、皆やりたがらないんだ。お二人が手伝ってくれて、本当に有難い訳なんだ。」
「ここに居させてもらう代わりの仕事ですから。お役に立つならば何よりです。」
「そうとはいえ、助かるし___」
ルーグは変わらず微笑みを崩さず、作業員と会話を続ける。
クリスタルはテーブルに肘をつき、暇そうに二人を眺める。
突如、戦艦が大きく揺れた。
空気の振動だけの衝撃なのは分かったものの、戦艦が軽く軋む程の衝撃。
そして、腹の底から恐怖を感じるような、ドラゴンの咆哮。
「ヤツだ!! 『ドラゴン』が現れたぞ!!!」
誰かがそう叫ぶ。
艦内の照明も赤色の緊急体制に入り、その危険を知らせる。
緊急警報放送もけたたましく鳴っている。
「『ドラゴン』が艦体後方より現れました! 皆さん緊急時の準備をお願い致します!!」
それを聞き、作業員は慌ててクリスタルとルーグを比較的安全な場所へ避難させようと誘導する。
「お二人とも、こちらに!! 戦闘要員じゃないから、安全な場所で待機しててくれ!!」
しかし、二人はそれを聞かず、甲板へ向かい走り出す。
何人もの人とぶつかりそうになりつつ、それでも人と当たらずに走っていく。
引き止める声は次第に遠くなる。
そして武器を手に、二人は甲板に出た。
「行くぞルーグ。『世界管理の仕事』だ。」
「了解、クリスタル。」
二人の目の前には、戦艦よりも大きな『バーニングドラゴン』が一体。
全身を震わせて咆哮を上げていた。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
今回のお話はいかがでしたでしょうか?
今回はガスの惑星に漂う戦艦でのお話でした。
やって来たドラゴン。
それに対峙するクリスタルとルーグ。
甲板の下に住民がいる状況下で、どう対処するのでしょうか?
次回はドラゴンとの対峙からです。
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改めて、読んで頂きありがとうございました!