『転生者』は『主人公』足り得るのか?
「この世界は消滅する可能性がある」。
クリスタルが『空間管理』で見た、世界消滅の原因とは?
そして二人はどうするのか?
「この世界は、間もなく崩壊する可能性がある。」
その声は、普段の彼女からは聞かない、酷く真面目なものである。
ルーグがメンテナンスの手を止めて問う。
「何を見た。何が原因だ。」
「『転生者』が原因だ。例の『張り紙』を覚えているか?」
「『主人公は誰か』という内容だったな。・・・・まさか。」
ルーグがクリスタルに近づく。
そんな彼にクリスタルがディスプレイを見せる。
そのディスプレイから音声を聞き出す。
『転生者』と思わしき何名かが討論をしているようだ。
「この世界の『主人公』は、武力で決めるべきじゃないか!? 外の魔物の討伐には武力が欠かせない!」
「武力だけでは討伐出来ない場合はどうする!? 魔法こそが優先されるべきだろう!」
「『スキル』が優秀な者が『主人公』と言えるのではないでしょうか!? 『スキル』は我々『転生者』の象徴です! 『スキル』が優秀では無かったら、何が『転生者』なのですか!」
「ではその『優秀なスキル』の前提は何だ! 何を以てして『スキルの優劣』を測る!?」
次第に討論は激化していく。
それを二人は黙って聞く。
「これでは優劣がつかない、やはり戦う事しか手立てはないのでは・・・?」
「それは『主人公』にあるまじき行為ではないのか!? ただ優劣を競うだけの為に戦うなど・・・・。」
「だがそれ以外に何かあるのか? この世界のあらゆるダンジョンは全て攻略済み、魔物も最近は討伐し過ぎて数が居ない。この状況下でどうしろと?」
「それに『偽物の主人公』をあぶり出す機会になるのでは? 偽物と戦い、勝利するのが『主人公』たるものでは?」
議論は次第に『主人公を決める為に戦う』事に集結していく。
そこでクリスタルはディスプレイを閉じた。
「ご覧の有様だな。『主人公』というものにこだわり過ぎて、世界が崩壊しかねん。」
「どうする、クリスタル。世界崩壊するのを止めるか?」
クリスタルは武器のメンテナンスの続きを行う。
「現段階では『崩壊の可能性がある』だけで、当然『助かる可能性もある』。」
「つまり『世界を助ける誰かを待つ』って事か?」
「察しが良くて助かる。」
クリスタルの回答に、ルーグは少しため息をつく。
「お前は本当『我関せず』だよな。少しは情をかけてもいいんじゃないか?」
「いちいち他人に情なんてかけていられるか。面倒な。」
クリスタルはさも当たり前かの様に吐き捨てる。
「だが多少情はかけなきゃ、リターンはないぞ。情をかけるから、何時かはそれが自分に返って来るものだろう?」
「面倒だな。仲間内だけでいいだろ、そんなもの。」
「あっそ・・・・。」
クリスタルの冷たさに、ルーグは呆れて何も言えないでいる。
とりあえず自身も武器のメンテナンスの続きを始め、有事に備えることにした。
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「私こそが転生者の頂点、『主人公』だ!」
「脳筋バカが『主人公』なものか! 優秀な『スキル』を持ってこそ、真の『主人公』ではないのか!?」
「『スキル』や武力だけで解決はしない! 魔法を使いこなす者が『主人公』にふさわしい!」
そんな討論が、街中の中央広場や酒場、ギルド、宿、露店からでも聞こえてくる。
どれも『転生者』が抗議しており、騒ぎにもなっている。
住民は他所に避難する者もいれば、その抗議に参加する者もいる。
クリスタルとルーグは避難者と共に遠くの街まで逃げることにした。
「いくら『転生者様』とはいえ、やって良い事と悪い事がありますよね・・・・。」
「どうして? まものがいないのに、どうして『てんせいいしゃさん』はたたかうの?」
「幸せな生活が出来るかと思っていたのに・・・・。」
避難者はどれも『転生者』に落胆している。
その呟きをクリスタルとルーグは聞き、ひそひそと小声で話す。
「なんてザマだ。ここまで住民に言わせるか・・・・。」
「住民は今まで『転生者』が魔物を退け、手助けをしてくれたから、今まで彼らは『転生者』を優遇し尊敬していた。それなのにも関わらず『転生者』は住民を考えず、自身の優劣をつけるために戦争をする。恩を仇で返す様なものだ。」
二人も住民と同様の気分である。
議論が激化し、最近は街中でも武力や『スキル』などでの争いも起きてしまっている状態だ。
「ルーグ、ここはさっさと撤収するぞ。この世界の事は、この世界の者に任せる。」
「・・・・了解。お前が言うなら従うさ。」
人ごみを避け、二人は誰もいない路地裏へ周る。
そしてクリスタルが『次元の切れ込み』を入れ、二人で世界を離れる。
この世界の結末を、『転生者』に任せて。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
今回のお話はいかがでしたでしょうか?
今回は『転生者』によって争いが起こってしまう場面でした。
『自身が主人公である』事は、『転生者』にとって魅力的なのでしょうね。
そしてクリスタルとルーグは『何もしない』という選択を取りました。
次回はこの世界のその後の様子からです。
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改めて、読んで頂きありがとうございました!