ファッションベイビー
『見た目が重要視』される常夜の国。
そこではある『話題』が持ち上がっているようだ。
常に日の光が無い街に、クリスタルはルーグはたどり着く。
店先や街灯やネオンが眩しく輝いているため、その闇夜を押しのけている。
あちこちでファッションに特化した店が並び、街の大通りではファッションショーも開催され、大盛況だ。
メイクの店もさることながら、特に目につくのが『整形』の看板が並ぶ店の数。
値段もクリスタルの国と比べても遥かに安い。
「さて、このままホテル行くか?」
「先に服をこの国仕様にしよう。この旅装束では悪目立ちするからな。」
クリスタルとルーグは幾つかの店で服を新調し、腹ごしらえをする為にバーに寄る事にした。
_________
賑やかなバーのカウンター席に座り、二人は赤ワインとつまみを頼む。
二人で今後の観光ルートの計画を立てていると、声をかけられた。
「貴方方、『ファッションベイビー』についてどう思われますか?」
「あ? いきなり何だ?」
「『ファッションベイビー』? 何故いきなりそんな質問を?」
声の主は、隣席の酔いの回った女性だ。
女性はウィスキーのロックを片手に話し始める。
「今この国では、遺伝子操作され外見を美しくした『ファッションベイビー』が流行しております。私はそれを止めさせる団体で活動しているのです。」
「確かこの国では『見た目が全て』と言える程に、皆外見を整えていますね。ファッションセンスもそうですが、整形が当たり前である点には驚きました。」
「あんた、何故それを止めさせたいんだ? 見た目が重要視されているのは、ここでは良い事だろう?」
クリスタルの質問に、女性は声を少々荒げ口早に話す。
「遺伝子を操作してまで外見を変えるのは、これは生命への冒涜ですよ! 親から受け継いだ優秀な遺伝子までもを変えてしまう・・・・! これは由々しき事態ではありませんか!!?」
そう言い、女性はグラスを空にする。
クリスタルはどうでもいい様な話を聞かされた態度を取っている。
そしてワインのグラスを傾け、女性に問う。
「それなら、親から受け継いだ優秀な外見を『整形』という形で変えるのはどう思う? それも自然摂理に反していないか?」
「『整形』はこの国の『文化』です! 『自らの外見を思うようにしたい』という個人の自由意志です!」
鼻息を荒くし反論する女性。
今度はルーグが質問をする。
「その意見では『ファッションベイビー』も『整形』も同じではありませんか? 『ファッションベイビー』が続けば、それは『文化』になります。貴方は『新しい文化』となり得るものを否定するのですか?」
「それは・・・・ッ!! ですが『整形』は自由意志の元に行われます! 『ファッションベイビー』はその人物の意志関係なく行われる、残虐な『整形』ではありませんか!?」
その言葉にクリスタルが反論する。
実に興味なさげではあるが。
「生まれた『ファッションベイビー』が外見を気に入らないのなら、それこそ『整形』すればいいんじゃないか? それなら個人の自由意志を奪わないだろう?」
「この・・・・ッ、余所者風情がッ!! 話になりません!!!」
ギャーギャーと騒ぎ立てつつ女性はバーを出る。
代金の支払い忘れに、店員が女性を慌てて追いかける。
それを見つつ、クリスタルとルーグは話を始める。
「ルーグ、お前は『ファッションベイビー』賛成派? 反対派?」
「俺は反対派かな。 クリスタル、お前は賛成派だな?」
「お、よく分かったな。」
お互い赤ワインを飲みつつ、小魚入りナッツをつまむ。
クリスタルは小魚を、ルーグはナッツをよく食べている。
「で、『ファッションベイビー』の何が反対なんだ? いいじゃねぇか、見た目悪く生まれる訳でもないし。『整形』も出来る訳だし。」
クリスタルの意見に、ルーグは唸りつつ考え、答える。
「個人的には『遺伝子を無理に操作する』のがどうかと思ったんだ。遺伝子操作は障害を持ってしまう恐れもあるだろう?」
「まぁ、それは分かる。が、障害の話は置いておこう。それは実験をしっかり行えば良いだけだからな。で、さっきの女との違う意見はあるか?」
クリスタルが小魚を食べつつ質問する。
同じ『反対派』だったが、ルーグは女性の味方をしなかったからである。
ルーグはナッツを食べてから答える。
「『ファッションベイビーが新しい文化となっても構わない』事だ。さっきの人は認めようとしなかったが、俺はリスキーではあるが『新しい文化』にしてもいいと思う。」
「ほう。その心は?」
「遺伝子操作の技術進歩の可能性があるだろ? 何年とも操作を続ければ、障害を持たずに生まれる『ファッションベイビー』も多くなるはずだ。優秀な遺伝子だって残せる。」
「確かにな。だが、お前の悩みである『遺伝子を無理に操作する事』については解決していないぞ?」
「それなんだよなぁ・・・・。」
ルーグは頭をガシガシと掻く。
彼も彼なりに悩んでいるようだ。
「こればかりは感情論だ。そしてその感情は、ファッションベイビー自体の感情が重要視される。生まれる前から感情が分かればいいが、そうは出来ないだろう。」
クリスタルがワイングラスの中身を空け、おかわりを頼む。
そしてそのついでに意見を言う。
「俺は『整形』という手段があるから『ファッションベイビー』賛成だな。この国では安価に『整形』という手段がとれるからな。」
「じゃあ『整形』が高価なら、反対だったのか?」
「そうではないが、大きな要素ではあるな。」
クリスタルはルーグからワインを分けて貰い、一口だけ飲む。
「高価だったら、ファッションベイビー以外に外見の自由が無くなるだろう。そうではないから、構わないと俺は思う。『整形』を先にするか後にするかの違いだ。」
頼んだスパークリングワインが届き、クリスタルはそれを少しずつ飲む。
パチパチとした音と刺激が心地よい。
「それと、さっきお前が言っていたが『遺伝子操作』によって優秀な遺伝子を残せれば、それを活用できるだろう。頭の良くなる薬だの、肌が紫外線に強い遺伝子だの、色々な奴に活用してやればいい。」
クリスタルはつまみの小魚を食べる。
「ま、そもそも親の意志でデザインされる『ファッションベイビー』なんて、愛玩動物とさして何も変わらないと思うがな。」
ここまで読んで頂きありがとうございます!
今回のお話はいかがでしたでしょうか?
今回はディベート形式のお話でございました。
テーマはタイトル通り、『ファッションベイビー』です。
今回は久しぶりに難しいテーマでしたので、かなりお読みになるのが難しかったと思います。
せっかくなので、この様な頭を使うお話も書きたいものですが、人気があるかどうか・・・。
次回はとある転生世界でのお話です。
また厚かましいですが、創作の励みになりますので、良ければブックマーク・評価をお願い致します。
感想・レビューもお待ちしております!
改めて、読んで頂きありがとうございました!