満たされぬ者
路地裏から現れた老人は、クリスタルとルーグと契約する。
その願いは高い掛け金が必要だったようだ。
「『契約書』、確かにサインを貰ったぞ。」
「本当に、これで俺は生活できるのか・・・?」
「あぁ、俺達に二言はない。明日にでもギャンブルが上手くなってるだろうさ。」
「た、助かる・・・・。」
契約書の写しを握りしめ、老人は礼を言った。
ルーグが問う。
「お前、さっき『凄腕だった』とか言ってたよな? 何故落ちぶれたんだ?」
「俺があんまり勝つから、行きつけのディーラーが俺が来る度他の奴と交代しやがったんだ。交代したディーラーは、俺よりも凄腕だった。俺は技術で負けちまって、こんな有様よ・・・・。」
「大人しくスロットでもやっていれば良かったんじゃないか?」
「生憎、俺はスロットに嫌われちまってる。負け続けた俺に、さらに追い打ちをかけやがった。」
老人はヨロヨロと立ち上がり、路地裏に向かう。
「だが、これで俺は助かるんだろ? 明日早速ギャンブルしてみるさ。ありがとよ。」
そう言い、おそらく今の住処であろう路地裏へ戻っていく。
残されたクリスタルとルーグは、ホテルを取り割り当てられたスイートルームでくつろぐ。
「さて、どうやって『ギャンブル運』を上げてやる?」
「ふむ・・・・。」
そもそも『運を上げる』事を、持続魔法でどう行うか。
そしてそれに合う対価を考えなければならない。
「単純に『運を上げる事』が目的だろ? なら対価は___」
ルーグの提案をクリスタルは聞く。
確かにそれなら納得のいく『対価』である。
「いいだろう。それで魔法の持続を行っていこう。さて、準備に取り掛かろう。」
二人は魔法式を考える。
その『対価』を糧として、持続的に発動する魔法を。
__________
「うはははは! また全勝ちだ!!」
不思議な男女に『契約書』という物を書かされてから、ギャンブラーは再び返り咲いた。
今では生活に何不自由ないし、老人だった外見も若かりし頃まで戻り、生きながらえている。
周りも人が集まり、自分を讃えてくる。
「本日もスロットに花札に、果ては麻雀で一人勝ち! 流石はギャンブラー様!! 腕は健在でしたな!」
「まぁ、今まで手を抜いていただけだったからな! 本気を出せば、ざっとこんなものよ!」
「手を抜かれていたとは! これはたまげましたな!!」
煽てられて気分は良い。
最高の女も、最上級の酒も堪能できる。
しかし、何処か可笑しい。
「うん・・・・? 支配人、もっと旨い酒とつまみはないのか?」
「申し訳ございません。貴方様にお出ししたものが我が店の最上級の品物でございます。」
「・・・・まぁ、いい。次は別のも用意しておいてくれ。」
最近、いつも『満たされない』のだ。
以前は幾らでも食べたかったつまみも、今は味気ない。
幾らでも飲めた酒も、今は物足りなく感じる。
女も同様だ。
何をしても、『欲が満たされない』。
「・・・・まぁ、あの契約以来良い思いばかりしてきたしな。たまには別のギャンブルでもして、負けてみるか!」
苦手なスロットに挑戦するギャンブラー。
以前の彼を知っている者達は、内心負けを見たがっている。
しかし、結果は。
「ナインセブンを、4連続も!!?」
「今までここまでの快挙は、誰も成し遂げていないのに!」
「アイツ、何者だ・・・・!?」
周りが動揺しざわつく。
しかし一番動揺していたのは、ナインセブンを出したギャンブラー本人である。
ギャンブラーは、スロットから滝の様に湧き出てくるコインを、呆然と見ていた。
スロットのレバーを握っている手が震えて止まらない。
「どういう事だ・・・・!? 何故、ここまでの事が連続で・・・・!!?」
ここまでの強運は、もはや恐怖でしかない。
支配人にコインを『寿命という金』に変えて、慌ててギャンブラーは店を出る。
「あの変な男女に、こんな契約を解除してもらわんと、何が『対価』か分かったモンじゃない・・・・!!」
しかし、あの路地裏付近に戻ってもあの二人組はいない。
話を聞くと、当てもなく何処かのギャンブル場に出入りをしているそうだが、明確な情報は得られなかった。
「蒼髪の女と黄緑の髪の男がいたら、捕まえておいてくれ! 礼はする!」
そうあちこちの支配人に言いふらし、頼んだ。
それでも2人組は捕まらない。
次第に、ギャンブラーは限界を迎えた。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
今回のお話はいかがでしたでしょうか?
今回は契約をしたギャンブラーの様子が見れたお話でした。
なにやら満たされる事のない彼。
どうするのでしょうか・・・?
次回は限界を迎えたギャンブラーのその後です。
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改めて、読んで頂きありがとうございました!