セイレーン達の本音
ハルシャル国王と第一王子に、無茶な提案をするクリスタル。
その提案を考えた根拠は・・・。
「セイレーンの住処の間近に、観光地を作ればいい。」
セイレーンを神聖視するハルシャル国王と第一王子は、その発言に固まる。
ルーグは表情や態度こそ変えないが、クリスタルに苦言を呈する。
「・・・・クリスタル国王。先ほどハルシャル国王が仰っていた通り、セイレーンの住処はハルシャル王国の民にとっては『禁地』とされる神聖な場所です。民から顰蹙を買うかと思われます。どうか撤回を。」
「そうならせないための頭だろ? さて、固まっている所悪いが、話をしようか。ハルシャル国王と第一王子。」
クリスタルは固まっているのにも構わず、ハルシャル国王に提案をする。
「俺とそちらの国で、双方で民が得をする『観光計画の取引』をしようじゃないか。」
「・・・観光計画の、取引ですか?」
「そうだ。まぁ、ちゃんと説明しよう。」
クリスタルは造船所の所長から応接室を借りて、場を設ける。
ハルシャル国王と王子を座らせ、クリスタルはその対面に足を組んで座り、ルーグはクリスタルの傍で立って控えている。
衝撃が抜けて来た交渉相手二人に、クリスタルが話を始める。
「まず、どうして『禁地』となっている場所の間近に、わざわざ観光地を作る案を出したかについて話そうか。人目につけるためだ。そうする事で、早期に土地を荒らす奴を発見できる。」
「ですが、セイレーン達はその人目を嫌うのです。それ故に我が国では兵士を配備出来なかったのです。どのようにセイレーン達を納得させるのですか?」
「そもそもセイレーン達との交渉も、全く取り付く島もないのです。『我々に構うな』と。」
残念そうに話す国王と王子の言葉に、クリスタルは質問で返す。
「ハルシャル国王と王子。そもそもセイレーン達は何故人目を嫌うか分かるか?」
「・・・・いえ。」
「私も、存じ上げないです。」
「では教えようか。俺の側近が。」
「・・・・ご命令とあれば。」
いきなり話を振られたルーグは内心クリスタルに「いきなり俺に話しを振るな」とツッコミつつ、セイレーンの話をする。
「セイレーンの特徴として、ご存知の通りでしょうが歌が得意であり、歌により人を惑わし溺れさせます。同時に海に恵みをもたらします。そのためにハルシャル王国では畏怖されるのでしょう。そして基本的にセイレーンは人を嫌います。」
手を組み静かに聞くハルシャル国王と王子に向けて、ルーグは話を続ける。
「私は以前にクリスタル国王の旅に同伴させて頂いた際に、他の地ではありますがセイレーンと話をする事に成功した事がございます。そして『どうして人を惑わすのか』をお聞きする事が出来ました。」
「その理由はなんでしょうか?」
少し前のめりになりつつ固唾を飲み、ハルシャル国王と第一王子は話を聞く。
「彼らなりの『狩りの準備』です。」
「『狩りの準備』、ですか? 『狩り』ではなく?」
意外な言葉に、ハルシャル国王は何処か拍子抜けしたような声を出す。
「そうです。『狩りの準備』の為に、人を溺れさせるのです。セイレーンは歌で生き物を溺れさせた後、その死肉で魚をおびき寄せ、寄ってきた魚を狩るのです。つまり歌で『餌の調達』を行っている訳です。」
セイレーンの『狩り』を知らなかったハルシャル国王と王子は再度固まる。
顔も心なしか青ざめている。
クリスタルがルーグの話を引き継ぐ。
「普通はセイレーンにとって『餌』認定している人間は、わざわざ遠ざける対象ではなく、むしろおびき寄せたい対象だ。ただの『餌』なんだからな。それなのに、そちらの国のセイレーンは人間を『避けている』。どうしてか、ちょっと考えれば分かるだろう?」
今一つピンと来ていないのか、首を傾げるハルシャル国王と王子に、クリスタルは答える。
「気に入られているんだよ、お宅らの国の人間は。だから『餌にしたくない』んだ。自分たちを崇めて大事にしてくれる他種族を、セイレーンは気に入って好いている。だが、『餌にしたい』という本能があるから、嫌ったふりをして『避けている』訳だ。」
「そのような有難い事が、あるのでしょうか?」
「少なくとも俺はそちらの国出身のセイレーンから聞いた事があるぞ? 『餌にしてるなんて言えないし、したくない』『嫌われたくない』『ふりでもして避けるしかない』と。」
クリスタルは足を組み直して話を続ける。
「そこで俺からの提案だ。セイレーンは食料が欲しいし人を誘惑もしたい。セイレーンの歌声を聞ける場を設け、それを観光のメインにして売り上げを出す訳だ。セイレーンには『給料として』海産物を分けたり金を支払ったりして対応する。国民はセイレーンの歌声を目的として来る客に、名産品やらを売ればいい。セイレーン達の真相が分かれば、アイディアは簡単だろう?」
「確かにそうですね・・・・。ですが、セイレーン達の考えが分からないが為に至らなかった考えでございます。」
「ですが話を聞く気が無いセイレーン達と、どうやって説得の場を設ければよいのでしょうか?」
困っている二人に、クリスタルがさらに提案をする。
「そこは俺が仲介して話を通そう。案を出したからには責任を持とう。俺みたいな『高位種族』にセイレーンの誘惑は効きにくいからな。」
「ありがとうございます! 交渉の場を設けるのをお願いしても宜しいでしょうか?」
「私からもお願い致します。どうか、セイレーン達と交流し守りたいのです。」
頭を下げるハルシャル国王と王子。
クリスタルは「頭は下げなくていい」と言う。
「さっきも言ったが、これは交渉だ。俺の国とも取引してくれ。」
「どんなご要望でしょうか?」
「海産物か真珠、サンゴの取引を増やして欲しい。値段はそのままでいい。」
ハルシャル国王は申し訳なさそうにする。
「海産物に関しては、価格が変わらなければ是非取引しましょう。真珠やサンゴにつきましては、生産量の関係で確約が出来かねます。」
クリスタルもそれが予想出来ていたようで、動じない。
「なら海産物だけでいい。余裕があれば真珠やサンゴの取引も検討してくれ。」
「では、セイレーン達との関係が改善できた暁には、優先的に取引致しましょう。」
「ならこの段階での内容を正式に書面にしよう。ルーグ、契約書を。」
「かしこまりました。こちらにございます。」
お互いに書面にサインをし、交渉は無事終わる。
そして会話の様子を、ドア越しにセイレーン達が聞いていた。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
今回のお話はいかがでしたでしょうか?
今回はセイレーンの特徴が出てきました。
ここでのセイレーンの特徴は、あくまでもこの作品の設定です。
でもセイレーン達、って何となくですが魚食べてそうですだなと思っています。
皆さん、セイレーン達は何を食べてると思いますか?
次回は
厚かましいですが、創作の励みになりますので、良ければ評価をお願い致します。
改めて、読んで頂きありがとうございました!