各国代表晩餐会
クリスタルの国で晩餐会が開かれた。
代表が集まる場でのクリスタルは不機嫌な様子。
煌びやかな装飾が施された、美しい大会場。
会場内はビュッフェ形式の食事会が行われており、これから暫く行われる『国際会議』の前夜祭にふさわしい雰囲気である。
小さなバルコニーが複数設置されており、何名かはそこで夜風に当たっているようだ。
その会場の中央に鎮座する玉座。
そこに座るクリスタルは不機嫌そのものだった。
今日は各国の国王や帝王、首脳が集まっての晩餐会。
クリスタルはこの晩餐会が嫌いだった。
「レイレード国王様、バルビーダ国の国王にございます。」
「レイレード国王様、ご機嫌麗しゅう。ニルアニア帝国帝王でございます。」
「レイレード国王様___」
物凄い数の交流国の挨拶を受けるからである。
その合間に、クリスタルの傍に控えているルーグが小声で注意する。
「クリスタル国王、ちょっとは態度を改めて下さい。足組んで肘をついてたら、誰でも気分が悪いものでございます。」
「だって退屈だ。最初の挨拶に来る奴は、どれも俺のご機嫌取りばかり。話にならん。」
「まぁ、そうではありますが。ですが一時ですので、どうかご容赦を。」
「へーい。」
肘をつくのは止めたが、脚を組むのは止めないクリスタルに、ルーグはため息をつく。
「はぁ・・・・。では次の代表様、ご挨拶を___」
そして挨拶ラッシュはまだまだ続く。
__________
レイレード王国に初めて来た、とある公国の代表は挨拶の順番を待っていた。
うろうろしていると、とある大帝国の帝王が寄って来る。
長い白髭を蓄えた初老の男性が、公国の代表に挨拶をする。
「ご機嫌麗しゅう。何かお困りですかな?」
「これは、アゼミア大帝国の帝王様!! その、恥ずかしながら、ご挨拶のタイミングが分からずに困っているのです。」
「それはそれは。この国の国王様は気難しい方。挨拶にも決まりがあるのです。宜しければ、この国の国王様への『決まり』をお教えしましょうか?」
「それは是非に! お願い致します!」
アゼミア帝王は「それでは僭越ながら、」と説明をする。
「レイレード国王様に先に挨拶をするのは、交流の浅い方からでございます。初めの方は挨拶のみです。徐々に交流の深い方が挨拶を行い、少しだけお話をするのが許可されます。最後の方になると、小話や交渉のお話が出来る様になります。」
「そうなのですか! では、私は先に挨拶をしなければ!!」
「その方がいいでしょうな。正直に『決まりを知らずにいた』旨を伝えれば、国王様は失礼を水に流して下さいますよ。」
慌てる公国の代表に、アゼミア帝王は優しく声をかける。
そして公国の代表は頭を下げて礼を言う。
「ありがとうございます! それでは、私は早々にご挨拶に向かわねば失礼にあたってしまいます! そうとは知らずに、無礼を働いてしまいました! アゼミア帝王様、レイレード国王様にご挨拶後、またご挨拶させて下さい!! これでは一度失礼致します!!」
「お待ちしておりますよ。ごゆっくりなされて下さい。」
公国の代表は慌てて挨拶に向かい、それを小さく手を振り見送るアゼミア帝王。
「いやはや、若い方は見ていて気分が良いですな。素直で良い方でした。さて、私も後の方でご挨拶に向かわねばなりませんな。」
待ち人が出来た帝王は、ビュッフェ形式の料理を取り、食事をする事にした。
__________
「___では次の代表の方、ご挨拶を。」
挨拶ラッシュも終盤。
ここに来て、クリスタルもようやく機嫌がマシになる。
終盤になればなるほど、親しい国の代表が来るからである。
礼もわきまえ、私利私欲より互いの国の民の利益を考える者ばかりなのも、クリスタルの機嫌が良くなる要因だ。
「ハルシャル王国国王でございます。今回は跡継ぎの息子も連れて参りました。」
「ご紹介に与りました、ハルシャル王国第一王子でございます。お初にお目にかかります、レイレード国王様。」
親子は礼儀正しく挨拶をする。
それにクリスタルも気分がいい。
「お、久しいな国王殿。跡継ぎが決まったのか。それは目出たいな。」
「ありがとうございます。今後は息子もご挨拶や交渉に同伴させますので、どうかお見知りおき。」
「あぁ、わかった。是非に第一王子殿には、国王殿の様な賢王になって欲しいものだ。期待しているぞ。」
「ご期待に沿えるよう、精進してまいります。」
笑顔で礼儀正しい後継者に、クリスタルも好印象を覚える、
そして「そういえば、」と話を切り出す。
「この間そちらの国からの輸入品が、こちらでは国民に人気でな。今回の国際会議の合間に、改めて取引の話でもしたいところだな。」
「それは有難いお話です。我が国の特産品ですので、質にもこだわっております。今度是非交渉をさせて頂きたい所存です。それでは長話もここまでに致しましょうか。月並みではございますが、どうぞご無理はならさずに。失礼致します。」
「あぁ、ゆっくり楽しんでくれ。」
下がっていく国王と第一王子に、クリスタルもルーグも礼をする。
「最後の代表者の方、どうぞ前へ。」
やってきたのは、ライトとレフト。
以前の時とは違い、着ている服は礼服とドレスである。
どちらも質の良い物だと一目見て分かる物だ。
二人は優雅に一礼をし、ライトが先行しクリスタルとルーグに挨拶をする。
「お久しぶりでございます、レイレード国王様にルーグ閣下様。『神の世界』より代表として参りました、創造神ライルートでございます。お招き頂きありがとうございます。」
「同じく『神の世界』よリ参りまシた、破壊神レフィールにございまス。この度の晩餐会、楽シまセて頂いておリまス。」
クリスタルも『国の代表として』挨拶をする。
「創造神ライルート殿、破壊神レフィール殿。遠いこの国までよく来たな。この晩餐会を楽しんでいるようで何よりだが、その後は我が城でゆっくり休むといい。」
「ありがとうございます。是非そうさせて頂きますね。それと、この前の交渉により蚕の糸を我が領域に輸出下さり、有難い限りでございます。しばらくは我が領域も安泰で過ごせる事が出来ます。」
「それは何よりだ。こちらもライルート殿からの農薬の輸入で、国民の食べ物の質が改善された。礼を言わせてくれ。ありがとう。」
ライトは穏やかに微笑みながら、「それは何よりでございます。」と言う。
それに続き、レフトが口を開く。
「今度我が領域での取引も増やシて頂けたラ幸いでス。酪農が盛んでスので、ソの手の取引は強いのでス。」
「そういえば、レフィール殿の領域は肉や魚が主流の領域だったな。酪農に関しては、そちらの取引も増やしていこう。」
「あリがとうございまス。ソレではアタシはこレで失礼致シまス。」
「私も失礼致します。どうぞお体にお気をつけて下さい。」
「あぁ、そちらもな。楽しんでいってくれ。」
二人は下がって行く。
その後ろ姿を見て、ルーグは部下に伝令を頼む。
「ライルート様とレフィール様にお伝えを。『後で部屋にお越しくださいませ』と。」
「畏まりました。」
晩餐会は、夜更けまで続く。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
今回のお話はいかがでしたでしょうか?
今回からクリスタルの国との交流に重きを置いた章が始まります。
クリスタルの国での『晩餐会の挨拶ルール』、現実ではなかなか無いルールだったかと思います。
そしてライトとレフトの『代表としての一面』もありましたね。
今後の二人との関わり合いも書いてまいります。
次回は呼ばれたライトとレフトが、クリスタル達の部屋に呼ばれたところからです。
厚かましいですが、創作の励みになりますので、良ければ評価をお願い致します。
改めて、読んで頂きありがとうございました!