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【旧版】Crystal Asiro【クリスタルアシロ】  作者: wiz
第1章 国王と側近
2/58

王国の原則

国を治める者として、城下町の視察をするクリスタルとルーグ。

視察現場で二人は何を考えているのか?

レイレード王国にある、変わった『原則』とは?


そして何者かが二人を訪ねてくる・・・。


※一部直接的な残酷描写がございます。ご注意を!

 空が曇り気味なこの日、クリスタルとルーグは『城下町の視察』に来ていた。


 国王であるクリスタルは政治の最終決定権があり、側近のルーグはクリスタルの補佐をしつつも代理を務めることがある。

この国、『レイレード王国』は、この二人で国を動かしているというのが実情だ。

それ故に、二人は「住民の生活に合わせた政治をする事」「住民の感覚を忘れない事」に気を付けている。

そのための視察である。


 二人は市民に混じり旅人の様な服を着ており、普通の国王では着ないような、少しばかり汚れたマントも羽織っている。

衣服は綺麗だが、決して目立たない色合いだ。

 この様な恰好をするのは、今回は『一般人としての視察』だからである。

ルーグの腰には短剣が装備されているが、国王の視察に無防備で同行する訳にはいかない為、あくまでも護身用としての短剣である。



 城のお膝元とも言える城下町は、木材を柱としたレンガ造りの民家が並ぶ。

路地裏には小さな個人店や民家の玄関が少し見える。

ここでは貴族の屋敷といった豪華な建物は見当たらず、見えるのは一般民家ばかりだ。

大きな通りには屋台が並び、主に野菜やその場で食べられるような食品が並んでいる。


 屋台のおばさんから焼き鳥を買い、二人でかぶりつく。

香ばしい炭火の匂いと甘いタレの風味がたまらない。

肉も良い肉を使っているのか、旨味がある。

二人は思わず早食いをする。


「最近、屋台の肉が旨くなったよな。良い事だ。」

「一般人用の鶏の飼育業者に、安価で良い餌を卸せるように出来たからな。」

「自国で餌の開発に着手して正解だったな、クリスタル。」


ルーグが焼き鳥を食べつつ横目でクリスタルを見やる。

隣にいるクリスタルは串だけ持っている状態だった。


「食べるの早いって! ちゃんとしっかり噛んで食べろ!」

「俺肉好きだし? あんなんじゃ俺の腹は満たされないぜ!」

「だからと言って早く食う必要はないだろ!」

「旨いんだもん! それに他のも食べたいし、仕方ないだろ?」


 城のお膝元である城下町の大通りで交わされる、国の2トップのどうでもいい口論を見る住民達。

その目は非常に温かいものである。

小さな子供からも「こくおうさまだー!」と声をかけられている。

それに答えつつも、結局は二人は口論を続ける。

そしてその最中、クリスタルの目にある店が飛び込む。


「___でもな、あ、あのコロッケ旨そうじゃん! 買おうぜ!」

「あのな、お前・・・・。まぁ、コロッケ買うのはいいけど。店員さん、クリームコロッケ二つ下さい。」


 店員は「あいよ!」と言い、クリームコロッケを二人に手渡す。

揚げたてのコロッケは紙越しでも熱いくらいだ。

油の独特の香りに紛れて、クリームの良い匂いも混ざって食欲が増す。


「あっつ!! だがそれがいい!」

「熱いのはコロッケだから仕方ないだろ! 頂きまーす。」


 二人がコロッケにかぶりつく。

しかし、二人は固まる。


「・・・・クリスタル。コロッケのクリーム部分、なんか味変な感じがしないか?」

「だよな。意図的な味付けではない、変な味だ。」


 二人は顔を見合わせる。

思い当たる節があったからだ。


「小麦農家がよく使う農薬、最近取引先の国が薬品変えたはずだ。覚えてるか?」

「クリスタルに代わって俺が取引したからな。あの時、相手に質問したんだよ。『なんで農薬の成分変えたのか』って。」

「で、答えは『安価な新薬開発に成功したから』だったか? 報告書ではそう書いてたよな、お前。」

「そうそう。その農薬のせいだと思う。これは___」


「「また仕事が増えた。」」


 クリスタルが「面倒な事を。」と言う傍で、ルーグも頭を悩ませつつ『やる事リスト』に『小麦農薬の開発or新しい取引先の開拓』とメモする。


 この『面倒事』が、二人が視察で何より大事にしている事でもある。


「国民が一番飯食うのに、これじゃあ国をまとめる者として失策だな。」

「だからこそ、俺達も同じものを食うんだ。俺達が良いものばっかり食って、どうして国民は良いものが食えない理がある?」

「そうだな。貴族にも、国民にも、俺達と同じだけ良い物食べて貰わないとな。屋台の食べ物でも安心して食べられるだけ、俺達が衛生面も視野に整備したし。今回は『小麦農薬の改善』っていう課題が見えたから、今後はこれに取り組まないとな。」

「小麦農薬の問題はまずいが、先に視察終わらせよう。その後どうするか考えよう。」

「だな。さて、次の区域に行くか。」


 残りのコロッケを平らげ、二人は街の中央に設備されている『レンガの柱の建物』に向かう。

其処には外壁は少ないが内壁は10か所程設置されており、その中には『都市間ワープ装置』と呼ばれる魔方陣が配備されている。

二人が乗ろうとしている魔方陣は、薄く青白く光っている。

『オーガ区域行』と書かれた魔方陣に乗れば、二人は瞬く間に光の粒子の様に消えていった。

___________


 次の視察場所は「オーガ」と称される事の多い種族の住む区域だ。

街並みは石を基調とした作りをしており、何処か湿気を感じる。

電気の明かりがあるものの、地区が森の中にあるせいで薄暗い印象を受ける。


 ここの住民はある世界では「ゴブリン」、別の世界では「鬼」と言われる種である。

クリスタルの国では、頭に角の生えた彼らを「オーガ」とまとめて称されている。

そしてその凶暴性の高さから、国民の中でも恐れられている事の多い種族である。


 クリスタルとルーグが街並みを見渡しつつ、おかしな事が無いかを見て回る。

賑わいはいつも通りで異常はない。

しかし小さな通りを歩いている途中、ルーグが「あ、」と呟く。

クリスタルがルーグの見る方向を見れば、昼が過ぎても賑わうレストランがある。


「何?お前も腹減ってんの?」

「そうだけれども、俺が見てるのは店の張り紙だ。これ、『差別対象になる』。」



 『差別対象』。

その言葉を聞き、クリスタルは睨むように張り紙を見てみる。



 『0のつく日は「オーガの日」!オーガ種の皆さまにサービス品をお渡ししています!』

それを見たクリスタルはさらに顔を顰める。


「これは間違いなく『差別禁止法』にあたるな。店に聞き出す必要があるな。行くぞ、ルーグ。」

「了解。」


 ルーグはこっそり腰のベルトから、見えないワイヤーの様な物を取り出しておいた。

__________


 店に入れば、そこはオーガの客で満席状態だ。

『違法な張り紙』に惹かれたのだろう。

昼を過ぎても店内には濃い肉類の良い匂いが漂っており、緊急事態でもなければ食事を取りたくなる。

 二人の元に来た店員に、「店長を呼べ」と命令し、店長を出させる。

程なくして大型のオーガの店長が出てくる。


「これは陛下に閣下。どのようなご用件でしょうか?」

「外の張り紙を見た。アレはなんだ?」

「あぁ! あの張り紙を見て下さったのですね! 良い案でございましょう?」


 ニコニコしている店主は、何かを勘違いしているようだ。

ルーグが店主とクリスタルの間に立って、こう言った。


「あぁ、見たさ。『生まれ持ったモノでの差別が厳禁』であるこの国で、よくも『種族差別』してくれたな? 罰則の対象だ。」


 店主を見るルーグは、傍から見れば感情が全くない印象を受ける。

そのルーグの様子と『罰則の対象』という言葉に、店主は怯みつつも強気で言葉を返す。


「お言葉ですが、閣下。私はこの国で一番重たい罰則である『種族差別』はしていません! 今回の張り紙は、あくまでもオーガ種へのサービス! 他の種族を貶すような真似はしていません!!」

「はぁ? 『オーガ種しか』サービスが受けられないのに、何処が『種族差別していない』だと? とぼけるのも大概にしろ。」


 クリスタルの怒気の混じった言葉に、店主が後ずさる。


「お前がこの国に来た時に、説明があったはずだぞ? 『特定の種族だけが得をする行為も差別である』と。数多の種族が暮らすこの国にとって、争いの火種になりかねない『種族差別』は大罪。この国の入国時にきっちり講習で習ったはずだぞ? 入国時の義務なんだからな。」


 店主は顔面蒼白だ。

店内にいる客も先ほどまでの賑やかさを失い、沈黙している。


「国王の名において、お前を『種族差別の罪』で罰する。ルーグ、ソイツを連れて来い。」

「御意。大人しく捕まれよ。」


 店主は膝から崩れ落ち、ルーグは拘束しようとする。

しかし、



「うがぁぁああああああぁあああ!!!!!!!!!」



拘束される一瞬の隙に、店主が暴れて拘束を解く。

クリスタルに殴り掛かろうとする店主。


その拳は、届かない。



___腕が、取れていたから。



店内に、血しぶきが上がり、床を赤黒く染めていく。

店は客の悲鳴で騒然となる。



「う"あ"あ"あ"ぁぁあ"ぁあ"あ"あ"ぁあ"!!!!!!????」



 店主の絶叫を他所に、ルーグが言う。


「だから『大人しく捕まれよ』って言っただろ?」


 何時抜刀したのか、ルーグの手には紅い短剣が握られている。

床に赤い滴りができ、カーペットを赤黒く染めていく。

鉄錆の匂いが入り混じり、店内は酷い匂いに変わっていく。

痛みで絶叫し、暴れる店主を今度こそワイヤーの様な物で縛り上げ拘束する。


そして近場に居た部下に店主をそのまま引き渡し、店内の鎮静化も任せる。


「はぁ・・・・、ここでも厄介事か。面倒だ。何でこの国に入る時のルールやマナー講習、皆聞かないんだか。おかげで俺らは大変だ。」


 クリスタルが頭の後ろに腕を組み、そうぼやく。

ルーグはその横で短剣に付いた血を質の良いハンカチで拭ってる。


「この国の最低限のルールなのにな。守ればこんな目に合わないのに、なんでだろうな?」

「ま、これで暫くはこの辺りに今回の件の噂は広まるだろう。暫くは兵士の見回りをさせつつ、再犯対策しないとな。」


 そうぼやきつつ、二人はオーガの住む区域の視察を続けることにした。

___________


 城に戻った二人は、今回の視察の問題について話していた。

ルーグが紅茶を入れ、ソファに座っているクリスタルに差し出す。

それを受け取り、クリスタルはそれを啜る。

 今日も紅茶が旨い。

一息入れた後、クリスタルがルーグに問う。


「『小麦農薬問題』に『種族贔屓問題』か。俺とお前、どっちがどっちを担当する?」

「俺が農薬取引した訳だし、取引解除含めて俺が『農薬問題』を担当しようか。クリスタルは『種族贔屓』の方をお願い出来るか?」

「ま、そうだな。国のトップからまたお達しすれば、贔屓はマシになるだろう。」

「それもだが、入国時の講習も見直さないといけないな。」


 「何せ、」とルーグはため息交じりに言う。


「この国は『死者の国』。幾多とある国・世界で生活していた者達が集まってるんだ。住民は何処か別の場所で生活していた。そこで身に着けた価値観や考えは変わりにくい。だからこそ、入国時に講習やって注意喚起しないと。」

「死んだのにも関わらず、もう一度この国で人生やり直せるだけ有難いと思って欲しい所もあるがな。」

「生きていた時に『どう生きたかったか』がこの国で実践してやり直せるしな。」


 クリスタルはルーグに席を勧めて座らせる。

ルーグはそれに答え、クリスタルの横にある椅子に座る。

ため息交じりに彼は先ほどの話を続ける。


「まあ、どうするかは俺が考えるさ。お前は農薬問題考えろ。」

「そりゃどうも。さて、まずは新しい取引先の開拓か、国で生産させるか、どっちにしようか。」


 二人が悩みつつ紅茶を啜っていると、ノックの音がした。

「入れ。」とルーグ言えば、メイドがやってくる。


「『神の世界』より、創造神様と破壊神様がいらっしゃいました。お通ししても良いでしょうか?」



 当然の『神』の来訪。

普通は「何事か」と思われるような響きの言葉である。

しかし、クリスタルとルーグにとっては驚くことでもない。


「通せ。茶菓子も出すように。」


 そうルーグが命じ、メイドは頭を下げて下がっていった。



 そして程なくしてやってきた、二柱。

二柱は人間の姿をしており、また性別も男と女で違っている。


 男性は、長身で細身の全身がほぼ真っ白なフワフワとしていそうな服を着ており、髪も一部が空色のメッシュが入った白髪であり、肩を軽く過ぎるくらいの長さがある。

 一方の女性は、女性にしては身長があり、露出の多い黒いサラリとした素材のドレスを着ている。髪も一部が赤い黒髪を背中の中間あたりまで長く伸ばしている。

そして二柱の眼は右目が青色、左目が赤色のお揃いのオッドアイである。

 見た目が対極的であったり似ていたりする不思議な二柱だが、なにより特徴的なのは、二柱の雰囲気の差である。、


「久しぶり、二人とも! 元気だったかい?」

穏やかで何処までも優しそうな笑顔と声をした男性。


「あラ、相変わラずね。ちょっと遊びに来たわよ!」

何処か口調も纏う雰囲気も、その笑顔も狂気を感じる女性。


 その二柱を見て、ルーグが席を立つ。


「久しぶりだな、『ライト』に『レフト』。今席と紅茶出すから待っててくれ。」

「ありがと! ルーグ入れるお茶、美味しいから嬉しいなぁ・・・。」


 『ライト』と言われた男性はそうのんびりと話す。

そしてルーグに勧められるまま、クリスタルの正面のソファに座る。

一方の女性はクリスタルが座っているソファの背もたれに腰をかける。


「クリスタル、今アタシが壊シてもいいモノってあル? ちょっと最近破壊欲求が不満なのよね~。」

「何でもかんでも壊してもいいモノがあると思うな、レフト。この間のはたまたま壊して欲しいものがあっただけだ。今はない。」

「ソう?残念ね。」


 『レフト』と言われた女性は、つまらなそうに呟く。

そしてルーグに促され、レフトもライトの隣に座る。

そして脚を組み、ため息交じりに話しをする。


「最近、アタシの国でもなかなか壊シがいのあル物がないのよね。だかラライトとこっちに遊びに来たのに。」

「何しでかす気だ?俺達だけならお相手するぜ?」

「あラ、言ったわね?」


 クリスタルのニヤリ顔に、レフトはご満悦な様子になる。


「なラ、とびっきり美味シいお肉が食べたいわ!ちょっと狩猟して、皆でバーベキューシまシょう!」


 まさかの要望に、ルーグが苦笑いする。

ライトがルーグに手土産の菓子を渡して、クリスタルに向き合って言う。


「僕からもお願い。レフト、最近僕に付き添ってお野菜ばかり食べてたから、お肉食べさせてあげたいんだ。ダメかな?」


 ちょっと困ったような表情のライトに、腕を組んだクリスタルは真面目な表情で答える。



「せっかくだが、俺は普通に売ってるドラゴンの肉が食べたい!」

ここまで読んで頂きありがとうございます!

今回のお話はいかがでしたでしょうか?


王国にある『種族差別禁止』という原則や、国のトップが庶民と同じ食べ物を食べるという、変わった様子を見せられた回でした。


また、この国が『死後の国』であり、『他の国・世界では死んでいる者が、この国の住民である』という大事な要素も書けたかなと思っております。


次回は最後に訪ねてきた『ライト』『レフト』について、そして国のトップとしての会談のお話になります。



厚かましいですが、創作の励みになりますので、良ければ評価をお願いします。


改めて、読んで頂きありがとうございました!


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― 新着の感想 ―
[良い点] まさかの神様登場…! [一言] じっくり読まさせていただきますー!
[良い点] なるほど〜……、「固定種族だけが得をする」ことも「差別」と言われれば確かにそうなんですよね。実際リアルだと男性女性、あとは年代分けてるわけですが、あれだってれっきとした差別ですよね。 …
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