『性別」の定義
とある世界にやってきたクリスタルとルーグ。
公衆浴場に入ると性別を聞かれて・・・?
クリスタルとルーグは今、とある街に来ている。
コンクリートの様な素材で出来た白い建物が多く目立ち、同じく白い建物の繁華街には大勢の客が押し寄せ賑わう。
住宅街も似たデザインの建物ばかりである。
そんな街中でも特に大きく目立つ建物に、二人は荷物を持ってやってきた。
建物には「公衆浴場 コロッセオム」と書かれている。
「こんなデカい風呂場作ってどうするんだろうな? 邪魔じゃないか?」
「だよな。住宅街に小ぢんまりあってもいいだろうに。」
二人は建物を眺める。
ちょっとした闘技場や運動場のような大きさである。
「試しに入ってみるか? 何が理由でこんなに大きいのか分かるかもな。」
「だな! 早速入るか!」
二人が建物に入り、「大人 850\」のチケットを買い、受付に渡す。
その受付が、このような事を言い出す。
「お二人様、性別はAからZのどれでしょうか?」
「「え?」」
聞きなれない『性別はAからZのどれか』という言葉に、二人は固まる。
気を取り直したルーグが受付に問う。
「すみません、俺達今日この世界に来たばかりの者で、『性別がAからZのどれか』の意味が分からないんですが。」
「あぁ! 遠くからの旅人さんだったのですね! 失礼致しました、ご説明しますね。」
「悪いな、頼む。」
受付が何やらパンフレットを持って来た。
「これを参考に説明させて頂きますね。我が世界はAからZまでの計26個の性別がございます。他の世界でよくある性別の例として、『男性』は『A』、『女性』は『Y』、性別の無い方は『Z』となっています。BからXはAとYの中間や、全く違う性別を表しています。」
パンフレットの図を見れば『普通の』人間にはないような部位がある者が多くいる。
「なるほど、確かに言われて初めて見た目もちょっと違うのが分かりますね。」
「そう仰る旅の方は多いですよ。ですので、パンフレットをご用意しております。良ければ一冊お手元にどうぞ。」
「それじゃあ貰って行こう。で、性別だが、俺はYで、隣のはAだ。」
「畏まりました。ではAの方は右手を進んで突き当りが、Yの方は左手を進んで奥から一つ手前の入り口が脱衣所です。また、大浴場は混浴となっております。水着を着用の上、ご入浴ください。」
予想していなかった『混浴』という単語に二人は目を丸くする。
「混浴!? ・・・・性別が多いので、大浴場を性別分用意するのは難しいからですかね。」
「すまん、水着の貸し出しか売店はあるか? 水着なしでの混浴はまずいだろ。」
「ご安心を、水着売り場も貸し出しもございます。受付裏に売店及び貸出窓口がございますので、そちらへお声をおかけ下さい。」
「よかった・・・・。ありがとうございます。」
二人は水着を貸し出してもらい、二手に別れてそれぞれ脱衣所に向かう。
「じゃあなルーグ、達者でな・・・・!」
「どうせ大浴場で会うんだから、そんな今生の別れみたいな言い方するな!」
今日もルーグのツッコミが冴えわたる。
__________
ルーグはまず脱衣所で水着に着替え、普段通りに体を洗い、大浴場へ向かう。
広さは思ったよりもあり、一つ一つの湯船も大きい。
その分、入っている人の人数も多い。
暫く周りを観察して待っていれば、クリスタルがやってくる。
クリスタルはビキニにハーフパンツを履くタイプの水着を着ている。
体格の良いルーグと並ぶと、クリスタルがかなり華奢ではあるものの胸があるのがわかる。
ルーグも男性にしてはしっかりと鍛えられているものの、引き締まっている印象を受ける。
「お、先に来てたかルーグ。早速入るか!」
「お前、どうせジャグジー入る気だろ? ぬるいから。」
「当たり前だ! 俺はお前よりも熱いのに弱いからな!」
「胸張って言う事か? とりあえず行くぞ。」
何故かドヤ顔で宣言するクリスタル。
それをまたもやツッコむルーグ。
始めはクリスタルご希望のジャグジーに入る。
ぬるい湯である上に泡が出てくるためか、子連れが多く入っている。
「やっぱり泡風呂だろ! 丁度いい温度だわ。」
「ぬるい。半身浴にはいいが。」
『フリーズドラゴン』のクリスタルには合っている温度だが、人間であるルーグにはぬるく、体が温まる気がしない。
「正直、もう少し熱いのに入りたいけど、どうせお前はついて行かないよなぁ。」
「別に別行動しても良くね?」
「誰を護衛してると思ってんだよ! それに、今お前から離れるのは色々まずい。」
ルーグが親指で後ろを差せば、何人かのAらしき者がクリスタルを見ている。
クリスタルの視線とルーグの圧に気づき、慌てて逃げていく。
それを見てクリスタルも納得する。
「そういう事か。これは離れない方がいいな。それでも、俺は熱い風呂は嫌だ!」
「たまには俺の我儘も聞いてくれよ。いつも俺ばっかり要望聞くじゃん。」
「俺が上司だぞ! 我儘聞けよー!」
「旅するのに上司も部下もあるか!」
そう言い合いつつ、二人は結局次の湯船に入る。
お湯は白く濁り、鉄の香りがほのかにする。
少しだけぬるぬるするような質感の湯だ。
熱さは先ほどより高いが、それでも40度程度の温度だ。
そんな温度ではあるが、クリスタルには熱いようだ。
「俺、これ以上の温度の湯には入りたくない。」
「まだぬるくないか? まぁ、さっきよりマシだが。」
「熱い」「ぬるい」の軽い口論を繰り広げる二人。
そんな事をしていると、隣にいた40歳辺りの女性らしき人に声をかけられた。
その人は胸から太ももまで覆う様な水着を着ている。
「先ほどからよくお話をされていますね。貴方達は恋人かご友人ですか?」
「一緒に旅をしている仲ですね。相棒です。」
「そうでしたか! 『旅をしている仲』と言ってしましたが、旅人さんですか?」
「そうだ。この世界に初めて来てな。性別が多いのに驚いたぞ。」
「この世界にようこそ! 他の旅人さんにも言われるんですよ。『性別が多い』って。」
女性らしき人は、笑いながら話す。
クリスタルが思っていた事を話す。
「気に障ったら悪いんだが、お姉さんの性別はなんだ? 見た目は俺と同じYに見えるが。」
「私は『V』です。見た目はYと似ていますが、ちゃんと体の作りが違うんです。」
「どう違うんだ? デリケートな話で悪いが、例えば生殖機能が違うとかか?」
見た目はYの人物にそう問えば、周りを見渡し人があまりいないのを確認してから、その人は答えてくれる。
「生殖機能については、私の性別はYと同じです。ですが、少し体が違うんです。」
「それはお聞きしても大丈夫なお話ですか?」
「えぇ。他の世界はバラつきはありますが、少なくともこの国は性別に関しての話題はオープンな方なんです。それに私も是非外の世界から来た方に、私たちの性別を知って欲しいんです。」
「実は・・・・。」とVの人は二人の耳元で話す。
固まるルーグに、感心するクリスタル。
「そうなのか。面白いな! 色んな性別があるのは。」
「そんな人もいるんだな・・・・。まだ知らない事もあるもんだ。」
「驚かれてしまったかもしれませんが、『こんな特徴がある人がいる』と思ってくだされば何よりです。」
「そうだな。これはいい知見になった。教えてくれてありがとう。」
「正直凄い驚きましたが、この世界では常識なんですよね。詳細まではお話しませんが、土産話にさせて頂きます。」
「それはそれは! ついでに色々教えましょうか?」
その言葉にクリスタルは嬉々として、ルーグはためらいつつ答える。
「お願いしてもいいか?俺は聞きたい。」
「また驚いてしまうかもしれませんが、お聞きしたいです。」
「いいですよ! では___」
こうしてVの女性から性別の話を聞くことになった二人。
「世の中、広いもんだな。」とは、ルーグの談である。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
今回のお話はいかがでしたでしょうか?
今回は『性別』のお話でした!
多種にわたる性別がある世界、皆様はどう思いますか?
次回は別の世界を旅します!
次はどのような世界を行くのか、お楽しみ!
厚かましいですが、創作の励みになりますので、良ければ評価をお願い致します。
改めて、読んで頂きありがとうございました!