身勝手の『対価』
『大結界祭』の後、『聖女の力』が無くなったアリア。
彼女のその後は・・・。
※一部直接的な残酷描写がございます。ご注意を!
「聖女様ぁー!」
「聖女様万歳!!」
そんな歓声の中、笑顔で『聖女』はかけられた声に手を振る。
聖女の愛らしい笑顔に、民衆はさらに声を上げる。
その様子を、クリスタルとルーグは遠目に見る。
「さて、今日は魔法を発動させる日だな。多少時間はかかったが、無事『魔払いの結界の力』を無くす・付与させることは出来そうだ。」
「力の付与対象者はもう決めたし、今日の夕方発動させよう。」
「だな。今やれば力が抜けて面倒事になりそうだしな。」
クリスタルとルーグはその場を離れ、賑わっている屋台を見回る事にした。
生温い風が吹く。
__________
『大結界祭』の翌日。
アリアは目覚めると不思議な感覚に襲われた。
『メリナ』
その名前がふと頭に過り、離れない。
「これは、『お告げ』・・・・!? あぁ、『依頼』通りだわ・・・・!!」
早速身支度を終わらせ、神殿内にいる神官達に静かに告げる。
「本日『お告げ』がありました。『メリナ』という人物が、次の『聖女』です。連れて来て下さい。」
神官たちはざわめく。
新官長がアリアに駆け寄り、手を取る。
「本当ですか、聖女様!? こんなに早く代が変わってしまう例はなかったのに!?」
「ですが、確かに『お告げ』がありました。私は力が弱かったのでしょう。申し訳ございませんが、もう代替わりなのでしょう。」
アリアの悲しそうな表情に、神官達も悲しむ。
その後急いで『メリナ』という女性を神官達は探す。
日に日に弱まる『聖女の力』に、アリアは罪悪感もあるが、それ以上に内心喜びを感じていた。
そして数日後、『メリナ』が連れてこられた。
「お願い致します!! 私を家に帰らせて下さい!!」
泣き叫ぶメリナ。
そんな『次の聖女』に、アリアは頭を下げ話す。
「申し訳ございません・・・。もう私には聖女の力がないのです。故にその力を持つ、貴方が『聖女』にならなければなりません。ここで皆のために祈り、結界を張り続けて下さい。お願い致します。」
「そんな・・・・! こんな突然!! あぁ・・・・!!!」
崩れ落ちて号泣するメリナを前に、アリアはその場にいる皆に宣言する。
「ここに新たな『聖女』の誕生を宣言します。皆、どうか新たな『聖女』の誕生を祝いましょう・・・・!」
泣き崩れるメリナに、その場に居た者は皆祝いの言葉を贈る。
「新たな『聖女』様、万歳!」
「『聖女メリナ』様! おめでとうございます!」
「『聖女』様、どうか我々をお守りください・・・!」
メリナに、その言葉は届かない。
__________
アリアは今、故郷に向かう道を歩いている。
懐かしい草の匂いに土の匂い。
『聖女』の時には無かった香りだ。
手荷物は、最低限の物と少しのお土産。
『聖女』の使命を押し付けてしまったメリナには悪いが、家族と大好きな幼馴染に会える喜びには敵わない。
「みんな、元気かしら? ふふ、楽しみだわ!」
村に着くと、予想に反してその雰囲気は沈んでいた。
近くに居た知り合いのおじさんに、アリアは声をかける。
「おじさん! どうかしたの?」
「おぉ、アリアじゃないか! 『聖女』のお勤めご苦労様だったな。ちょっと、な・・・・。」
「何があったの? 教えて!」
アリアが問い詰めると、その声に周りが反応する。
「アリア!? 帰って来たのか。」
「こんな時に。」
「これは、どう説明すべきだ?」
その言葉に戸惑うアリアに、10数年会っていない両親が駆け寄る。
「アリア!! あぁ、久しぶりね・・・・!!」
「おかえり、アリア・・・・!」
「お父さん! お母さん! 会いたかった・・・・!!」
老けた両親に抱き着くアリア。
その優しいぬくもりも匂いも、昔のままだ。
アリアは暫くの抱擁の後に、両親に質問する。
「ねぇ、どうしてこんなに雰囲気が暗いの?」
その言葉に、両親が固まる。
「どうしたの? お父さん、お母さん。」
「実はだな・・・。」
父が眉をひそめ、言いにくそうに口を開く。
「お前の幼馴染のアレンの婚約者が、『聖女』になったんだ。」
「・・・・え?」
「今日、本当はアレンと婚約者の『メリナ』という女性との結婚式だったの。気立ての良い子で、隣町から引っ越して此処に住む予定だったの。でも・・・・。」
「そんな・・・・。」
アリアは固まる。
『自身の身勝手』で、幼馴染の結婚式が無くなった。
そんな事も露知らず、両親はアリアを慰める。
「決して、お前のせいじゃない。お前は『聖女』の役目を果たしていただけだ。お前がショックを受ける事ではない。ただ、アレンには今近づかない方がいいだろう。」
「そうよ、貴方はただ使命を全うしただけよ。こんな事知らなかったでしょうし。」
両親の慰めが、アリアを苦しめる。
そしてアリアは、荷物を投げて幼馴染の元へ走り出した。
「アリア! 待ちなさい!!」
「今アレンの元へ向かうな!! 戻ってこい!!」
それでも、アリアは走る。
大好きで、本当は結婚したかった幼馴染のアレンの元へ。
『自分の身勝手で、婚約者を聖女にしてしまった』事を、謝りたかった。
アリアはアレンの家へたどり着く。
ドアをドンドンと強く叩く。
「アレン! あたしよ! アリアよ!! お願い、お話したいの!! ドアを開けて!!」
ドアが静かに開く。
「アレン!本当にごめんなさ___」
腹部に激痛が走った。
「お前のせいで」
久しぶりの会う、幼馴染の眼に光はない。
「お前が『お告げ』なんてしなければ、」
その手には、赤に染まったナイフ。
「俺は、メリナと一緒に居れたんだ!!!」
倒れる自分に幼馴染は乗りかかり、ナイフを向ける。
「メリナの妊娠も分かっていたのに!!」
ナイフが、振り下ろされる。
「何故、俺から妻も子供も奪いやがったんだ!!!!」
ナイフが、左胸に降ろされる。
__________
「『元聖女が死亡。男性が一人投獄。』だってさ。いやぁ、物騒だねぇ。」
「俺達の『依頼』結果だろ。これで良かったのか?」
王都から離れた街でそんな号外の看板を見て、クリスタルとルーグはぼやく。
「だってそれしか『対価』がなかっただろう? ま、死ぬとは思わなかったがな。」
「そこまでは想定してないけどさ。俺達は『依頼』をこなし、アリアは『対価』を支払った。それだけだが、これは後味が悪い。」
「ま、俺達が出来る事はしたさ。せいぜい捕まった男性と、新しい『聖女』の今後が上手くいけばいいな。」
クリスタルとルーグはその場を後にする。
「まず腹ごなしだな。バー行こうぜ。」
「昼から飲むなよ、クリスタル。」
二人は人ごみに紛れ、そのまま見えなくなった。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
今回のお話はいかがでしたでしょうか?
今回は後味の悪いお話でした・・・。
アリアの『対価』は実に重たいものになりました。
彼女は最期に家族と幼馴染に会えて、幸せだったのでしょうか?
そこまでは推し量る事は出来ませんが。
次回は二人の旅の続き。
別の世界での旅のお話になります。
厚かましいですが、創作の励みになりますので、良ければ評価をお願い致します。
改めて、読んで頂きありがとうございました!