54th piece Sultry night
「愛路~。呑んでるか?」
「呑んでねぇよ。まだ19だしな。」
ビール片手に肩を組んで絡む英仁に愛路はデコピンを飛ばす。今月末の誕生日を迎えればめでたく二十歳となり酒も煙草も解禁となるが法律は法律だ。残り数日とはいえ飲酒は許されない。
「ぜーんぜん連絡返してくれねぇんだもん。寂しかったぜ?」
輝架へ逢いに行ってから気が沈み食事が喉を通らなかった。何もする気がおこらず呆然と過ごしていた。志郎や柊が来たような気がしたが何を話したか覚えていない。
誘いがきているから遊びにでも言ってこいと翔に携帯電話を返されたのは今日の夕方の事だ。
愛路く~ん!
本日18:00駅前の福猫に来てほしいなぁ。
一緒に遊びましょ(^o^)丿
クソメガネと表示された差出人からのふざけたメール。
そのまま鞄を持たされて外に出され、仕方なく英仁の誘いに乗ったのだった。指定された場所へ行ってみれば上級生含む英仁の遊び仲間が待っていた。何度か一緒に遊んだが英仁以外は名前と顔が一致しない。
愛路が現れたことで英仁はガッツポーズをし、男性陣は何人か頭を抱えて崩れ落ちた。大方、来るか否かで賭け事をしていたのだろう。
それからは女性陣に囲まれ歌わされやっと解放され、飲み物片手に休んでいると英仁が絡んできたのだ。彼ならばこのモヤモヤした気持ちを解決する術を知っているだろうか。
「なぁ、英仁。」
「なんだ、お悩み相談か?お兄さんに言ってごらんなさーい。」
一足先に誕生日を迎えて二十歳になった英仁はここぞとばかりに先輩風を吹かせる。いつもの愛路なら足を踏むぐらいしただろう。
「何もやる気が起きねぇときお前ならどうする?」
茶化したつもりが、本当に相談事が来て英仁の酔いが7割ほど冷めた。
「何かあったのか?」
「忘れていいって言われた。」
佇まいを正し、声を抑えて問う英仁に愛路は正直に話す。
「……女か?」
「……まぁ。」
小さな声で肯定された言葉に英仁は落としそうになったグラスをテーブルに置いた。言葉通りであれば失恋の相談である。
拗れた女性関係の噂とは正反対に浮いた話の出てこない愛路からの失恋相談だ。
英仁は立ち上がると流行の曲を熱唱する男からマイクを奪うと力の限り叫んだ。
「皆ぁぁぁ!愛路君が失恋したそうです。今こそ完全フリー!!」
女子達の黄色い声が上がる。
人の失恋を喜ぶなど極めて下劣であるが、愛路以外酔っ払いにつき真面な判断力が失われている状態だ。
喪失感から何もやる気が起きず読書すらページが進まない。寂しさや悲しみよりも虚しさが強く、持て余す感情に堪え難いからと英仁に相談するなど間違いだったと愛路は猛省する。
愛路の周りには女性陣が飲み物片手に集まってきた。
「後藤君、失恋ってどうした?」
「意中の相手に忘れていいって言われたってさ!せつねぇぇぇぇぇ」
マイクを奪った相手にリバース・チャンスリーをかけられながらも流れ続ける伴奏に合わせて暴露する英仁へ愛路は御絞りを投げつけた。見事に顔面にヒットしメガネが飛んでいく。
「痛ぇな。フラれた女なんて忘れちまえ。さようなら過去の女!こんにちは新しい女!というわけで告白ターイム。愛路くぅぅぅぅん。俺と付き合ってくださぁぁぁぁい!ぎゃははははははは。」
人の不幸は蜜の味とでもいうのか酔っているだけか大笑いする英仁に苛立ちを覚える。
「俺がYESつったら付き合うのかよクソメガネ。」
怒気を孕んだ低めの声を出せば場の空気が凍った。丁度流れていた曲のアウトロも終わり男女12人が詰め込まれたカラオケBOXの一室は静まり返る。
「ごめんなさぁぁぁぁぁいっ。怒ったの?ごめんってば愛路っ。冗談だからな?冗談だよな?」
マイクを放り出し愛路の足に縋りついて謝る英仁。その顔には『天王寺先輩に潰される』と書いてある。愛路は不幸を喜ばれた仕返しに虎の威を借ることにした。
「恋人出来たってシローに連絡するわ。」
にこやかに携帯を取り出した愛路の最上級の脅しに英仁の顔から血の気が引いた。
「やめてやめてやめてやめてやめて絶対やめて!」
「やれ、後藤。俺が赦す。」
愛路の腕を掴んで全力で止める英仁を無情にも男連中が抑え込んだ。嘘でも恋人が出来たなどと志郎に言えばどんな人災が降りかかるか見当もつかないが、愛路は送る気のないメールを英仁の前で作り始めた。
ピロンピロン。ピロンピロン。
愛路の携帯電話に着信が入り、英仁と女性陣が悲鳴を上げた。
登録外の番号からの着信は数秒で切れ愛路は携帯電話をポケットにしまう。
「でなくて良かったの?」
「うん。」
メールが送信されなかったことで男性陣は残念がり、英仁はほっと安堵の息を吐いた。
「後藤も歌おうぜ。」
「歌ったらすっきりするぞ。」
何時の間に愛路が歌唱可能な曲が選曲されておりイントロが流れると同時にマイクを渡される。英仁に覚えさせられた歌だ。
気持ちとは逆にアップテンポの明るい曲。
ほんの数日前のことなのに輝架の顔も声も記憶から薄れてはっきりしない。毎日、毎時間のように聞こえていた声は無くなり、夢でさえも輝架が出てくることはなかった。
彼女以上に好きになる女性がこの先いるだろうか。忘れろと言われて忘れる事も諦める事も出来ない。ずっと二人で夢見た図書館に居たかった。
しかし日常は無情にも動き続け留まる事を許さなかった。
(◉ω◉)はい、久々のクソメガネでした。アホ可愛い憎まれ愛されキャラです。




