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JIGSAW PUZZLE  作者: よぞら
Departure
48/57

48th piece Break time

 8月の昼下がり、ミンミン蝉がうるさい程鳴いている。

 翔と志郎は建築現場の裏側にある日陰で壁に背を預けて話し込む。淡々と抑揚のない声で話す翔の言葉を志郎は相槌も打たずに聞いていた。

 与えられた休憩時間はとっくに過ぎているが来客の用が終わるまで気にしなくて良いと缶コーヒーと共に上司に告げられた。

 親ほど年の離れた同僚に囲まれて仕事をする最年少の翔は甘やかされて優遇されているようだ。職人の世界では高齢化が進み中々若い芽が育たず辞職されまいと必死なのだ。


「だから愛路は他人を怖がっとるんじゃ。」

「は?何それ?」


 長い時間をかけて愛路の過去を聞いた志郎は手に持ったスチール缶を握りつぶした。

 親戚達からは愛路は中学時代から非行に走り中学2年の冬に大怪我をして親戚の1人をノイローゼにし自殺未遂に追い込んだ。その後、女子大学生に騙されて警察沙汰を起こしたと聞かされている。

 柊からは愛路は中学時代に一時期親戚の知人に預けられそこで出会った少女と仲良くなった。引っ越した後もその子の事が忘れられず、家では冷遇され学校ではいじめられて泣いているときに柊と逢い、助けようとしていたら冤罪を掛けられて警察沙汰となったと聞かされている。

 そして今、翔から聞かされた過去。

 中学進学と共に預けられた親戚の妻から夫に浮気された腹いせに虐待され、学校ではクラスメイトから鬱憤の発散に暴行を受けた。逃げ場であった図書館で余命わずかな少女と会い空想に夢を見た。中学2年の夏に少女が逝去し、冬には無理心中に巻き込まれ、少女の姉である柊に助けを求めるも虐待の証拠と遺産分配の偽造を隠し通す為に柊は濡れ衣を着せられて引き離されてと信じられない内容の事実。

 これで全てが繋がった。

 親戚たちは自分たちを守るために暴虐を隠す嘘を吐き、柊は愛路を守るために空想を真実のように話して時系列を偽っていたのだ。

 今、ここに愛路を虐げた当人がいれば何をしていたか分からない程の怒りを覚える。コーヒー缶を潰しただけで怒りを治めた自分を志郎は讃えた。

 大学も夏休みに入り、愛路がバイトを無断欠席したので翔の元へ来てみれば頑なに拒絶された話を聞かされて青天の霹靂である。その上、翔が知っている事を命日の朝に愛路へ暴露したというのだ。口が滑ったなどという事ではなく意図的に。


「なんで今更話したのさ。」

「もう知らんふりできんかったしのう。」


 深い息を吐いて翔は頭を抱えた。

 翔とてまだ21歳。社会人2年目の若造なのだ。受け止めて抱えるには愛路の過去は重すぎる。まして裕福な家庭で両親と祖父に可愛がられて甘やかされて育った翔には愛路の過去など想像も出来ない不幸だ。


「話してもうたあん日から、愛路帰ってこんのじゃ。」


 連絡を取ろうにも愛路の携帯電話は倒れていた夜からずっと翔が持っている。親戚に番号の漏れてしまった電話など愛路にとって害でしかない。現に時々電源を入れると番号登録外の着信が数十件ある。


「テストじゃゆうとったが大学は行っとったか?柊さんも知らんいうし。」


 翔のマンションでも柊のところでもなければどこにいるのだろう。知る限り、短期間であろうと宿泊するほど仲の良い人づきあいがあったとも思えない。


「試験は受けてたみたいだし、夏休み前夜祭の女子会にも参加してたみたいだよ。」


 志郎は学部も学年も違うが愛路と同じ学部の後輩と桃花からだいたいの情報がはいっていた。取敢えず大学では平常通りだと伝えると翔は安堵し空を仰ぐ。


「そうか、俺はもうどうしたらええかわからん。」


 何を話せばよいかどんな顔で会えばよいかすらわからないと漏らす翔。愛路がいなくなったという知らせに会いに来た柊に至っては何かを悟り、もう無理だと諦めてしまったのだから不安は増長するばかりだ。

 志郎は立ち上がると翔の横面を力の限り笑顔で殴った。現役を遠のいたとはいえ元喧嘩専門の不良の一撃は重い。鍛え上げている翔でさえ殴り倒された。


「ほんとに今更だよね。かっこつけて黙ってたなら最後まで黙ってなよ。」


 基本的に翔は日常生活で誰かに頼ろうとしない。強面な顔が原因で喧嘩を売られ続けた中学時代も突如1人暮らしを強いられた高校時代も。出来ないなら出来ないでよいと言うのに1人で解決しようとするのだ。

 どうにもならなくなり、身動きが取れなくなったことが何度あった事か。


「翔くんさぁ、初めから僕に頼ってくれてても良かったんじゃない?。」


 殴られた頬を抑えながら呻く翔を見下ろす志郎は優しい言葉をかけるが、その表情は笑顔であることが底なしに恐ろしい。

 翔は倒されたまま溢れそうになる涙を隠すように目を覆った。


「シロー、頼む。俺専用の害虫バスター探し出してくれ。」

「素直でよろしい。」


 呆れたように息を吐きながら志郎は翔を助け起こした。弱音を吐いて吹っ切れたのか先ほどまでの情けない表情が翔から消えている。


「だいたいあいつを拾って俺に押し付けたシローにも責任あるんじゃ。」

「はいはい。」


 責任転嫁まで始めた翔に苦笑しながら志郎は煙草に火を点ける。翔も思い出したように煙草を取り出して火を点けた。


「夏は嫌いじゃ。」


 地面に引っくり返る蝉を忌々しげに見ながら翔は煙を吐き出した。


(◉ω◉)新章スタート!

そろそろ終盤に向かってまーす。


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