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JIGSAW PUZZLE  作者: よぞら
Vignette
43/57

43rd piece  Cheers!

 カチャンと4つのグラスが鳴り、中の飲み物が揺れる。アルコールとノンアルコールの炭酸が弾けた。


「ハッピーバースデー夏樹。」

「おめでとうナッツ。」

「おめっとさん。」


 7月15日。翔のマンションに集まり夏樹の誕生日パーティをしていた。翔のお手製のご馳走とケーキを食べてプレゼントを渡し、月並みではあるが盛り上がっている。


「ナッツも18かぁ。早いのう。進路はどうするんじゃ?」


 感慨深く話す翔は子育てを終えた中高年の様だ。出会った頃の夏樹は小学生でふくよかだが小さかったのだから仕方がない。今では見上げる程、大きくなったが弟分とはいつまでも小さいイメージのままなのだ。


「一応、特別救助隊目指してる。海保とかと迷ったけど消防車の方がカッコいいし。」


 長身で恵まれた体格を持ち体力自慢の夏樹ならば肉体労働を好むだろう。兄と違い好戦的ではないので自衛隊や警察官などへは微塵も興味がいかなかったようだ。攻守よりも救助へ趣が行くなど夏樹らしい。


「夏樹は小さい頃から消防車に熱烈で見かける度に鼻息荒く興奮してたしね。」

「言い方。」


 志郎の変態臭い言い回しに愛路は呆れながらツッコミを入れる。

 本日は食べ散らかしても大騒ぎしても怒る親はいないと沢山食べて満足した夏樹はTVの前を陣取り愛路とレースゲームをしていた。久々に楽しそうな愛路。明るい夏樹と遊ぶのは楽しいようだ。

 成人組の志郎と翔はダイニングに座り、酒を嗜んでいた。二人のゲームの腕前は人並みであり、現役高校生で余る時間をゲームに潰す夏樹には過不足だ。一方、10本の指を自在に操りピアノを弾ける為か愛路の腕前は上級であり、専ら夏樹のゲームの対戦相手は愛路が指名される事が9割をしめている。


「殴られた怪我はもう良いみたいだけど、どう?」


 見た限り、愛路の顔にあった痣も傷も綺麗に治っている。10日ほど前は腫れ上がり出血していたなど嘘のようだ。


「ずっと勉強しとる。」


 何かに脅迫されているみたいに勉強していた愛路に翔は溜息を吐いた。成績は悪くないはずなのに留年でもかかっているかのように必死だった。いい加減心配になり家から出したら大学へは行くようになったが帰宅すれば机で寝落ちるまで勉強している。


「翔君さ、学生の時にテスト前とか勉強が嫌で片付けしたり他の事したりしなかった?」


 試験勉強から遠のいて2年目の翔は未だに思い出す。普段は目もくれない所の掃除をしたり、必要のない片付けをしたり。不思議と捗るのだ。


「愛路にとっては嫌な事から逃げる手段が勉強って事かい。」

「会ったばかりの頃もずっと勉強してたよね。」


 ピアノも読書も限りがある。誰にも文句を言われずに続けられたのが勉強だったのだろう。ペンだこが潰れて血が滲み、腱鞘炎になっても問題集を説き続けていた。見かねた志郎が遊びに連れ出すようになりマシになったのだが愛路の勉強時間は長いままだ。


「なんでそっとしとってくれんのかってな。泣いとったわ。柊さんも難儀じゃのう。」

「え?柊さんに会ったの?」

「しょっちゅうな。愛路がおらん時見計らって愚痴りにきよる。」


 先日、翔のもとへ訪れた柊はとても荒れていた。感情的に泣き、慰める事に苦労したのだ。出会い頭に美女に泣きながら抱きつかれ豊満な胸がぐいぐい当たり理性が危なかった。素数を数えて鎮めようとしたが覚えているのは100までの25個。6回くらい繰り返し暗唱する情けない方法を取り辛かったと目を覆う。


「柊さんも翔君も僕をのけ者にして酷いよ。」

「シロー。」


 諌めるように翔が名前を呼ぶと志郎は両手を上げた。


「冗談だよ。あんな顔で拒否されたら詮索できないって。」


 愛路の過去を追求したら悔いるように泣きそうな顔になったのだ。さすがの志郎でも女性に泣かれる事態は避けたい。


「ま、僕は今まで通り僕の好きなようにするけどね。」

「あんま暴れんようにな。内定決まっとんじゃろ?」

「大丈夫だって。やんちゃする年じゃないし、母さん怖いし。」


 翔は志郎の母親を思い出して顔を引き攣らせた。こんな大男兄弟を産み育てたと思えないくらい小柄で華奢な女性。身長など150センチに満たないというのに軽々と志郎を投げ飛ばし一撃で仕留めるのだ。特に格闘などの経験があるわけでもないというのにとにかく強い。

 更に母親の感というべきか、女の感というべきか志郎が悪さをすれば即座に見抜き問い詰める。一声で志郎を黙らせて制圧する唯一の人物であった。天王寺家は父親も絶対服従する母親の天下だ。


「それにしても来週だね。後藤ちゃんが心配だよ。」


 もうすぐ愛路の両親の命日。今も心穏やかではないだろう。


「心配だけならアホでも出来よるわ。」

「手厳しいなぁ。僕たちに出来る事なんて殆どないじゃん。」


 愛路が亡くしたものを埋めるだけの力など志郎にも翔にもない。家族でも恋人でもなく、ただの友人なのだ。


「いつも通りアホ晒しとるしかないじゃろ。シローが優しゅうしたら胃に穴あくわ。」

「翔君?僕これでも教授たちの期待の星だからね?」


 阿呆と馬鹿にする翔に対し心外だと反論する志郎。

 大学では教授たちには一目置かれるが、生徒達には狂人の変態扱いされていた。2年次に司法試験予備試験に合格し3年次に司法試験に合格していたからだ。しかし必死に試験勉強に励む姿等だれも見ておらず、遊びにバイトにサークル活動に弟の家庭教師と司法試験を控えていると思えない生活スタイルで、寝不足も疲労すら匂わせた事がなかった。

 試験合格について学友に知らせた時は『お前バカじゃねぇの??変態っ』と六法辞書で殴られた。それからというもの事あるごとに六法辞書で殴られた。


「いやアホじゃろうて。そういえばシローが勉強しとるとこ見た事無いのう。やっぱりアホじゃ。」

「いや、あのね?翔君。小学生時代の夏樹の『ビックバンの前の宇宙はどんな世界だったの?』っていう質問に比べたら答えが用意されている試験問題の方が楽だから。」

「分からんって言えば一言で済むんに、海外のどえらい教授の共著論文読んで答え探しとったのう。」


 小学生中学年だった弟の無邪気な質問に答えようと当時中学生だった志郎は英文で書かれていたにも関わらす、大人でも読まない難しい本を辞書片手に読み漁っていた。


「あの時は英語の成績がビックバン起こしたよ。」

「ついでに宇宙のアホが誕生したってかい。」


 遠い目をする志郎に翔は本物の阿呆と肯定した。どれだけ成績が良くとも馬鹿兄の副産物でしかないのだ。


「兄ちゃん、翔兄、4人で対戦しようぜ。」

「はーい。お兄ちゃんが行きますよぉ。」


 愛路の圧勝レースに飽きたのか、夏樹は志郎と翔をゲームに誘う。金曜日の夜は賑やかに更けていった。


(◉ω◉)7月15日はナッツの誕生日。

志郎と翔ってタバコ吸ってるか飲んだくれてる場面しかないような気がするのは吾輩だけでござんしょうか?


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