表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
JIGSAW PUZZLE  作者: よぞら
Fake color
38/57

38th piece Very gray day

「大丈夫?後藤ちゃん。」

「ジュース飲む?」


 鬼の役目放棄という突然のトラブルで試験期間前最後の活動が中止となったかくれんぼサークルの部室にて愛路は葵含む4年の女子に囲まれていた。

 人払いした志郎はその様子を見守っている。殴られた顔面は赤く腫れ始め口からも鼻からも血が出ており服は所々汚れていた。止血するまでと顔に当てているタオルは赤く染まりつつある。

 改めて見ると酷い有様だ。

 保健室に連れて行くべきなのだが怪我の原因からして大事にするわけにはいかないだろう。他学生による暴力沙汰など確実に面倒事に発展する。

 殴られた原因によっては愛路に多大な被害がいくと予想した志郎は内々で治めることにしたのだ。


「……シロー。」

「何?」


 愛路が掠れた小さな声で呼んだため近づくと服の裾を掴まれた。


「……吐きそう。」


 真っ青な顔で言われ、立ち上がる事すら出来ない愛路を抱えてトイレへ連れて行く。一番奥の個室の前で下ろすと愛路は咳き込みながら激しくえずいた。


「……うぅ。」


 個室で蹲り唸る愛路の背中を志郎が摩り続けて十数分。一度も胃の内容物が出てくる事は無く愛路は吐気の波に揺られていた。激しく殴られてというより鼻と口から流れ込む血液が吐気を誘発したようだ。

 血が止まるまでは辛い。同じ経験のある志郎は葵が差し入れてくれた水で何度が嗽をさせて鼻血だけでも口内へ行かないように下を向かせる。


「だいぶ血が止まってきたね。もうちょっとかなぁ。」


 志郎はタオルに付着する血の量が減ってきた事を確認し、もう吐くことはないだろうと愛路をトイレの個室から連れ出した。少しは体調も回復したようで愛路は手や顔についた血を洗うと自力で部室まで歩いた。


「おかえり。」


 部室へ入ると葵達と談笑中の桃花が出迎える。女子達は全員かくれんぼTシャツから私服へ着替え終えていた。


「戻ってたのかい、松本君。」

「荒事を女子に押し付けるとか酷くない?」


 成り行きとはいえ湊の足止めをさせられた桃花は志郎へボディーブローを入れながら文句を言う。しかしあの場で志郎が出張れば確実に乱闘に発展し病院沙汰になった事だろう。

 ただでさえ頭に血が上っている湊へ火に油どころかガソリンを注ぐような言動で挑発する様が容易に想像できる。湊は空手有段者だが志郎は乱闘専門だ。格式に則った手合せであれば確実に湊へ軍配が上がるだろうがルール無用の乱闘となれば話は別。更に志郎の過去の喧嘩相手は打たれ強い者ばかりであった為に手加減が強火だ。

 志郎自身、桃花が鳩尾へ渾身の一撃を放ったとしても顔色一つ変えないタフさである。


「頼りにしてるよ。関東レディース飛威血(ピーチ)魔迦論マカロン•初代総長。」

「それやめて。名誉棄損。」


 もう一度鳩尾目掛けて殴るが全く効果が無いので桃花は志郎の足を蹴る。サークル活動の為に運動靴を履いていた事を悔やむ。ヒールで踏めば少しくらいダメージを与えられたはずだ。


「桃花がレディース総長って言われるの絶対に天王寺君の悪ふざけが原因だよね。」


 桃花は葵と同じ中高一貫教育の女学校だ。お嬢様学校ではないが偏差値は高めで喧嘩や非行などと無縁であった。見た目と雰囲気から志郎が面白がって揶揄したことが悪評の始まりだったりする。


「次に言ったら蹴るから。」

「もう蹴ってるじゃないか。」


 明日はピンヒールで踏もうと物騒な事を考えながら桃花は茫然と立ち尽くす愛路の前に立つ。


「後藤ちゃん。大丈夫?」

「…うん。ありがとう。」


 湊に無理矢理連れて行かれる様をかくれんぼサークルの部員が目撃して知らされた桃花と志郎が駆け付けなければ、どうなっていただろうか。翔の悪い予感が的中したことに息を吐くと志郎は愛路と自分の荷物を持つ。


「帰るよ。後藤ちゃん。」

「でもバイトが……。」

「その顔で行ったら通報されるって。僕が代わりにシフトはいるから今日は休んで。」


 冗談に聞こえない冗談で言いくるめ半ば強制的に翔のマンションへ送り、早々に帰宅していた家主へ愛路を押し付けると志郎はバイト先へ向かった。

 どうしたものかと思考を巡らせながら業務を終え、適当に遅い夕食を済ませて戻ると愛路はリビングに併設された4畳半程の和室で眠っていた。翔は怖い顔面を険しく歪めながらリビングで煙草を吸っている。


「なんか盛った?あんな状態の後藤ちゃんが早く寝るなんて信じがたいんだけど。」

「人聞きの悪ぅことを。飲みモンに酒垂らしただけじゃ。」


 無理矢理眠らされているような愛路を見ながら翔へ問えば少しばかり物騒な返事が返ってきた。アルコールに弱い愛路なら数滴垂らしただけで泥酔状態となり寝落ちる事だろう。しかしながら怪我人にアルコール摂取させるなど正気の沙汰ではない。


「盛ってるじゃん。」


 出血は止まっているようが随分と顔が腫れている。美形の顔に傷が付くと痛々しいものだ。翔の顔ならば悪人面を強調させるアクセサリーだったことだろう。

 眠る愛路の顔がやけに赤い気がして肌に触れると体温が高い。傷のせいか発熱しているようだ。


「で?何があったんじゃ?」


 怒気を孕んだ翔の問いに何も説明していなかったと思い返し志郎は和室への襖を閉めるとリビングに戻る。


「率直に言うと幼馴染君に殴られたって事しか知らないよ。」

「原因は?」

「それは僕より翔君の方が心当たりあるんじゃない?」


 それだけ言うと志郎は帰っていった。てっきり泊まっていくものだと想定して夜食を用意していた翔は拍子抜けした後にああそうかと納得する。平静を保っているが志郎自身相当腹を立てているようだ。これは何処かで適当に暴れて発散してくるのだろう。

 同い年で翔の方が体格は良いが体力は志郎のほうが格段に上である。何をするかは考えたくもないがスポーツ選手も青ざめるトレーニング的な事を祈るばかりだ。

 翔は頭を掻きながら立ち上がると愛路の額に冷却シートを張って寝ることにした。昨晩はあまり寝ていないのだから眠気が限界だった。

 ベッドにダイブして数秒でブラックアウトした翔の意識はインターホンの音で呼び戻された。体感的には数分の睡眠と思ったが時計を見れば8時間経過している。理想的な快眠時間だ。


「おはよう、翔君。」


 呼び鈴の主は予想通りの人物で画面に映る顔は殴り倒したいほど爽快な笑みを浮かべていた。翔は無言でセキュリティーを解除し玄関を開錠すると、和室の襖を開けて確実に悪化している愛路の姿に見なければよかったと目を覆った。

 唇の半分と頬が腫れ、再出血したのか枕に小さくない赤いシミができている。


「昨日より悲惨な事になってるね。」

「うおっ瞬間移動したんか?」


 どうしようかと悩む翔の背後から志郎の声がして飛び跳ねる程、驚く。エレベーターを使ったとしても7階にある翔の部屋へここまで早く辿り着けないだろう。志郎がパルクール擬きを駆使した人間離れした動きで階段を駆け上がる姿が脳内に浮かんで頭痛がする。


「後藤ちゃーん?大丈夫?」


 志郎が話しかけるが愛路はピクリとも動かない。寝ているというよりは気絶しているのかもしれない。打撲痕の所為で右目の周りは赤黒くなり、唇と頬は腫れて青痣が濃くなっていた。その上風呂上りのように赤い肌は汗ばんでいる。医師目線であれば軽傷だが一般人からすれば重篤な重傷だ。


「翔君今日はお仕事でしょ?後藤ちゃんは僕が看てるよ。」


 出勤時間が迫りどうしようかと悩む翔へ志郎が看病を申し出た。


「シロー。大学はいかんでええんか?」

「必要な単位は取ってあるから大丈夫だよ。」


 志郎は小学校時代から弟に対する見栄だけで成績上位を保っていたため、単位にも就職活動もかなり余裕があるのだ。試験レポートは早々に終わっており優等生の上を行く余裕があった。


「ほんなら頼む。」


 いつもより遅く起きたため時間のなかった翔は朝食を省略して身支度を整えると女子高生みたいに咥えて走ればいいと食パンを差し出す志郎をアッパーエルボーで黙らせて出社した。

 翔を見送った志郎が食パンを齧りながら和室へ行くと愛路は起き上がっていた。その顔は高熱で赤く、息も荒い。


「おはよう後藤ちゃん。もう少ししたら病院に行こうか。」

「平気。」

「熱だってあるし、目が赤いよ。あまり寝てないんじゃない?ご飯だって食べれないでしょ?」


 志郎の言うとおり愛路は何度も目が覚めて起き上がることも出来ない状態で睡眠不足だった。おまけに空手有段者に数発殴られ口の中と唇を数か所切っていて食事など出来るような状態ではない。


「平気だから、ほっといてくれよっ。」


 話すだけでも傷が引き攣り、鋭い痛みに愛路は顔を歪めた。声を上げた事で傷口が裂けたのか止まっていたはずの血が口元から滴る。


「お節介くらい焼かせてよ。」


 駄々をこねる愛路の頬にそっと氷嚢を当てて、志郎は横に座った。


「……病院は、嫌だ。」

「うん。じゃあ、ほっぺた冷やしながら寝てよっか。ゼリーとかなら食べれるかな。」


 世話を焼く志郎は優しい。高校3年生になっても夏樹が志郎を慕うことも理解できる。

 初めて会った後も愛路はこんなふうに世話を焼かれた。

 閉館時間が過ぎた図書館からの帰り道、嫌がらせ紛いなことをしてくるグループの同級生女子からの告白を断ると『お前ごときが断るな』と平手打ちされた挙句、近くにいた同グループの男子たちから袋叩きにされた。告白は賭け事に負けた女子へ課せられた罰ゲームでその気になった愛路を嗤って楽しむ趣旨だったらしい。

 通りかかった志郎が眩しいくらいの笑顔で彼らを蹴散らした姿をよく覚えている。その後は翔の家へ連れて行かれ怪我の手当てをされた。

 笑顔で暴力を振るった志郎か怖くて堪らなかったが、助け出してくれた事もあり慕っていたのだ。

 口には出さないが志郎が兄だったらと愛路が思った事は一度や二度ではない。


(◉ω◉)志郎は頼りになるお兄ちゃんです。

友人からしたらちょっとウザい奴で、他人からしたら関わりを持ちなくない奴です。


そして桃花のレディース伝説も原因は志郎君でした(笑)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ