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JIGSAW PUZZLE  作者: よぞら
Cocktail piano
32/57

32nd piece French Connection

「失敬だね。僕は悲鳴を上げられる程、醜悪で凶悪なのかな。」


 至近距離で悲鳴を浴びた志郎は大音量を吹き込まれた耳を撫でながら近くの椅子に座る。


「ててててててて天王寺先輩っ。」


 容赦なくテーブルに叩きつけられた記憶が蘇り英仁の顔面に汗が滲む。本当に手加減というものがなかった。1秒てメガネが割れないよう額を打ち付け緩やかに鼻を潰していくなど実に手馴れていた。


「かくれんぼサークルの部室は後藤ちゃん以外の部外者立入禁止だよ。」

「おい、天王寺。そんなルールいつ決まったよ。」


 思わず桃花か指摘した志郎の発言は理不尽なものだ。志郎にしてみれば英仁も杏も可愛い後輩に付き纏う迷惑な後輩であり不当な扱いは当然のことなのだが他者からすれば横暴である。


「天王寺君って特に諸星君に辛辣だね。少しは先輩らしく優しくしてあげなよ。去年なんか後藤ちゃんに諸星君限定で肉体言語使うように誘導してたし。」

「大島先輩。」


 小指の爪程の少量であるが同情した葵が助け舟をだし、英仁の目が期待に輝く。優しい綺麗なお姉さんと謙る勢いだ。


「つきまとい行為を相談されたから解決方法を示唆しただけさ。意中の相手に蹴られるなんて君たちの業界ではご褒美なんだろ?」

「天王寺先輩ぃぃ!!?」


 しかしながらその助け舟は転覆どころか木っ端微塵に砕かれた。肉体的精神的苦痛を与えられたり羞恥心や屈辱感を誘導されたりすることによって性的興奮を得る性的嗜好の一つのタイプである被虐性欲疑惑を仄めかすオマケ付きで。


「それで、どうだったのさ?」


 崩れ落ちた英仁を誰一人慰めるものはおらず、茶番を無視した桃花が自体収束の成果を問う。


「常磐君の真似してる子と後藤ちゃんを妄想彼氏認定してる子は間違いなく同一人物だね。文学部1年の内田(ウチダ) 恵留(メグル)。一応聞くけど、後藤ちゃん知ってる?」


 志郎の質問に愛路は首を横に降る。大学内での愛路の交友関係は希薄だ。連絡先を交換している相手なら五本指で余る。


「1年の子にそれとなく聞き取りをお願いして聞き耳立ててたけど関わりを持たない方が賢明かな。」

「そんなにヤバいの?」


 何事にも好奇心旺盛に飛び込みトラブルすら楽しむ志郎が手を引くなどただ事ではない。それだけで事の重大さが伝わり緊張が走る。


「自分が可愛いと思ってる頭の痛いブスが人の男の彼女面とか信じらんない。妄想女は夢から現実に出てくんなって感じ。こっちは優しい眼差しで告白されて、大学では視線を絡ませて愛を語ってるんだから!……なんてな妄言吐いてたよ。」


 裏声を駆使して再現された聞取り内容はギガトン級の破壊力を伴った。口汚く杏を罵っているが自己紹介にしか思えない。その後の内容が想像を絶する危険度である。目は口ほどに物を言うとあるが現実問題視線での会話など不可能だ。

 俗にいう勘違いする人種の典型的な受け答えであり通常会話が成立しない事は目に見えている。愛路が直接交際を断っても周りが何を言っても都合の良い事しか聞こえず都合の良いように話も記憶も変換して真実にしてしまう事だろう。


「心と心で繋がっているけど擦れ違いが多くて側にいれないからいつも遠くから見守ってるってさ。」

「うえっ」

「キモっ」


 更に告知された内容は全員の背筋に悪寒を走らせた。桃花と葵は思わず声が出て愛路はホラー映画の幽霊が画面から出てきたかのように恐怖で固まっている。


「………怖ぇ。」

「愛路君、講義の時とかお昼とか予定が合う限り俺が側にるよ。」


 流石の英仁も勘違い甚だしい恵留に慄き、愛路を庇護する提案をした。都合よく創造した妄想と現実の区別がつかず自制心の抑えられない危険物だ。冗談抜きで殺傷沙汰に発展する可能性もある。


「大丈夫?おっぱい揉む?」


 桃花は青褪める愛路を気遣い和ませようと仲間内で流行っているお巫山戯をするが当の本人はセクハラ被害者のように顔を歪めた。


「……阿呆か。」

「そこは揉ませて頂けよ男として!」


 勘弁してくれと額に手を当てる愛路に英仁が力の限り叫ぶ。実際のサイズか盛っているかは定かではないが桃花のバストサイズは服の上から見た限り巨乳の部類に入る。健全な男子であれば興味をそそられる胸元だろう。


「推定Fカップの松本君のおっぱいは置いといて。あの調子なら近いうちに自滅するだろうけどこちらから不用意な接触は避けるべきだろうね。後藤ちゃんはなるべく一人にならない方が良さそうかな。」

「Fカップ!?痛いっ」


 バストサイズのみに過剰反応した英仁の向う脛を蹴り飛ばした愛路にしても冷ややかな視線をむける推定Bカップの杏にしても早期解決したいところだが、藪をつついて蛇を出すより蛇が自身の毒で自滅してくれたほうが良い。毒が致死量の数万倍はありそうで触ってはいけない案件だ。

 もとより根源の恵留は1年女子の中ではかなり浮いており大学生活早々人間関係で大転倒する未来しかない。愛路のように黙々と勉学に励む生徒であれば問題ないが、彼女の様なタイプでは厳しいだろう。


「いっそ告白でもしてくれば木っ端微塵に粉砕できるのにね。」

「嫌だよ。話したくもねぇよ。怖ぇし。」


 葵の提案に愛路は全力で拒絶した。真夜中に心霊スポットで野宿する方が安全とさえ感じる。


「後藤ちゃん。いつも言ってるけど回りくどい断り方しないで過剰なくらいきっぱり断るんだよ?諦めさせるのも優しさだよ。」

「そうそう。名前も知らない相手なら遠慮いらないから。俺は豚の真珠になるつもりはないくらい言いなね。」

「へいへい。」


 葵と桃花の忠告に生返事を返す愛路。忠告内容に思考が止まる英仁と杏。乾いた笑みを浮かべる志郎。

 確かに名前も知らない相手からの告白など迷惑でしかない。外見のみで恋人候補にするなどアクセサリー扱いだ。しかし、豚の真珠はあんまりである。

 別の諍いが起こりそうな断り方は辞めたほうがよいのではないかという言葉を英仁は飲み込む。葵と桃花の本気の目が怖かったのだ。


「あの、天王寺先輩。」

「なんだい?」


 取り敢えず怯える愛路を今日は家まで送ろうなどと考えていると杏が恐る恐る話しかけてくる。


「気になってたんですけど、あの噂はどの部分が真実なんですか?」

「君は清純そうに見えて俗物的な趣向があるのかな。」

「え?」


 好奇心に負けて蒸し返した疑問の返答は思いがけない返り討ちとなった。


「常盤君は男同士の卑猥な妄想が好きなのかい?」

「ちがっ」


 手痛い返り討ちを理解する前に放たれた追い撃ちで赤面する杏。 


「先輩、女の子もスケベじゃなかったら人類滅亡っすよ。」

「諸星君!違うから!」


 フォローにならないフォローを入れる英仁に杏は声を荒げる。


「気持ち悪ぃ。」

「マナ!違うって言ってるでしょ!!」


 トドメとも呼べる愛路の呟きに場は混沌とする。

 桃花と葵は静観しており止める人間と纏める人間がいないのだ。ツッコミ役のいない漫才のように会話が破綻してゆく。


「残念だけど僕の愛は可愛い弟に注ぐ分で品薄でね。後藤ちゃんは可愛い後輩だけど常盤君の期待には応えられないかな?」

「天王寺先輩!違いますから。」

「まぁ、まぁ、杏ちゃんにそうゆう趣味があっても軽蔑とかしないから。」

「諸星君もいい加減にして!」


 要件かけ離れて続く志郎のおちょくりと調子よく合わせる英仁に杏は頭から湯気が出そうになっている。


「俺は軽蔑も差別もするからな。」

「マナ!いい加減にしないと湊に言うからねっ。」

「あぁ?湊は関係ねぇだろ?」


 きっぱりと差別発言をした愛路と言い合いを始めた杏を横目に志郎は英仁に近づいて耳元で囁いた。


「でもね?銀蝿君にそうゆう趣味があって後藤ちゃんに付きまとっているなら全力で潰すからね?」

「ひっ」


 にこやかに笑う志郎に英仁は呼吸を止めた。思わぬ飛び火に否定も出来ずに冷や汗を滝のように流している。非の打ち所がない笑顔が恐怖を倍増していた。

 そうこうしている内に講義の時間が迫ったので愛路は桃花と葵に別れを告げ、腹いせに志郎の尻を蹴とばして部室を抜け出した。


「あ、ちょっと!待ちなさいよマナ!」

「愛路!置いてくなよっ。おじゃしましたぁ!」


 杏と英仁は入室時に怯えていた様が嘘のように落ち着きなく騒ぎながら追いかける。

 嵐が去ったような静けさに、志郎は容赦なく蹴られた尻を摩りながらやれやれと息を吐いた。


「それにしても顔だけでモテるとか哀れだよね。」

「社交的じゃないから余計にね。」


 愛路が英仁のような性格であれば好いてくる女子に囲まれて薔薇色の大学生活となったことだろう。しかしながら望まない好意は暴力に等しい。特に外見だけで好意を寄せられる愛路には、相手への理想が高く妄想力と依存心の強い上に倫理的思考が出来ないような女性が群がる傾向にある。


「虫除けに噂通り天王寺が後藤ちゃんと付き合ってるって事にしちゃえば?一瞬で色々吹っ飛ぶじゃん。」

「見てる方は楽しいだろうけど後藤ちゃんで遊ぶなって翔君に殺されるって。この前だってお玉で殴られたのに。」


 桃花の発案に志郎は苦虫を噛み潰したような顔をした。今回の事も愛路経由で翔に伝わり原因の一部が志郎などと知れれば救急搬送されない程度に制裁を下される可能性が高い。


「あの顔の怖い天王寺君と同校だったって人?」

「そうそう後藤ちゃんの同棲相手。」


 指名手配犯のような凶悪な顔つきは一度会っただけの葵の記憶にしっかりと刻まれていた。未だに同い年という事実が信じられない。


「私、デコピン食らった事あるわ。」


 愛路で遊びすぎて下された強烈なデコピンを思い出し桃花は額を撫でた。確かに高校生を夜遅くまで連れまわした事は反省している。あの頃は開放的な大学生活に触発もされ若かったのだ。


「だいたい偽装恋人役なら松本君の方が適任じゃない?後藤ちゃんが松本君の男って知れたら女の子は寄り付かないんじゃない?」

「無理。後藤ちゃんは妹みたいなもんだし。」


 男扱いすらされていない愛路を憐れみ志郎はキリシタンでもないのに十字を切った。


「せめて弟枠にしてあげなよ。」

「女装させたらあたしより可愛いかったじゃん。」

「懐かしいね。」


 女装と言っても化粧を施してウィッグを被せただけなのだが元の素材が良い為、美女に化けたのだ。その後ふざけて誰かの高校時代のセーラー服を着せられた愛路は筋張った足を見なければ女子であった。顔面だけならば志郎のストライクゾーンの中心に刺さった事は自分の胸に後生大事に仕舞っておくつもりである。


「ぶっちゃけ顔は最高だけど、後藤ちゃんを男として見れないよね。」

「気弱だしひ弱だし可愛い過ぎるしやっぱり妹ポジじゃんね。」

「好意的なのか攻撃的なのか理解に苦しむよ。」


 葵と桃花の言い草に流石の志郎も諌めるように口を出す。


「なんにせよ天王寺は元凶に一役買ってんだから後藤ちゃんのために一肌どころかスッポンポンに脱ぐべきじゃない?」

「だよねー。後藤ちゃん助けるなら天王寺君が適役だよねー。事実無根の噂の中の真実は暴行されてるとこを華麗に助けたって所だし。」


 噂の真相を知り得ており、からかう二人に志郎は鼻で笑った。


「それに関しては謹んでお断り申し上げるよ。」


 暴行現場に居合わせた事は事実だが華麗になど助けていない。

 狂気的な出会いが原因で愛路は長い間、志郎に怯えていたのだから美談にすり替えるなど馬鹿馬鹿しい。


「過ぎ去った事を面白半分に脚色するものじゃないよ。」


French Connection

ブランデーとアマレットの組み合わせの甘口カクテル。

カクテル言葉『妄想力豊かな不思議な世界の住人』



◇内田 恵留

愛路を脳内彼氏にした妄想を現実に展開する1年生女子。



(◉ω◉)実は恵留ちゃんにはモデルがいます。

身近にK-POPアイドルに心頭する方がいまして、脳内で婚姻まで済ませた愉快な方です。


そして余談ですが男性が認識するバストサイズと実際のバストサイズには2カップほどの誤差があるそうです。


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