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JIGSAW PUZZLE  作者: よぞら
That child
27/57

27th piece Make in drawing

 友人などいらないと思っていた。人と接することが怖くて一人でよいのだと言い聞かせている。

 笑顔や差し障りのない言葉で表面的に接して諦めていた期間もある。直ぐに引っ越さなければならないと思うと馴れ合う気になれなかった。仲良くなっても無駄だと感じていたのだ。そのせいか数ヶ月経ってもクラスに馴染まない転校生は目立った。

 一部の生徒にやっかみと僻みの対象として映ることも多々あり行動に移された時もある。

 容赦なく殴られ憔悴している間にトイレの個室に押し込められて大量の水を浴びせられた。

 言いたいことがあるなら面と向かって言えばよいのに多人数で寄って集って陰湿なことだ。そのまま教室に戻る気になれず濡れたまま朝日を見た高台へ来ていた。

 高いところは嫌いだったがこの場所にいると全てが馬鹿馬鹿しく思えて気が軽くなる。


『あれぇ、アイちゃんだ。』


 声がして後ろを振り替えると少女が立っていた。


『びっちょびちょだな。どした?』

『ファッションだ。』


 説明するのも面倒で適当に答える。聞いた本人もどうでもいいらしく、ふぅんと頷いてランドセルをその辺に放った。


『痛いか?』


 頬に出来た痣を撫でられ、ピリッと痛みが走る。


『お前こそどうした?』


 少女の服は所々土汚れが付き両膝を擦りむいていた。血は止まっておらず脛に赤い筋を作りパステルカラーの靴下を汚している。

 大方、何処かの道端で派手に転んだのだろう。自発的に転んだか人為的に転んだかは定かではないが。


『イメチェンだ。』


 言いながら少女は横に座り、溜め息を一つ溢して変わらない町並みを大きな瞳に映していた。

 何故という疑問もやめさせる為の抵抗も消えてしまった。剥き出しの本能で外れモノを淘汰する同級生が2人の眼には人間に見えないのだ。


『お揃いだな、アイちゃん。』


 情けない共通点に声を上げて嗤った。理不尽と理性に牙を折られて反撃すら出来ない二人は負け犬だった。


「愛路~。そろそろ行くぞぉ。」


 触発されて思い出した記憶の一片に思いを馳せていると英仁が目の前に現れた。ここは文学部の教室で数分前まで本日最後の講義を受けていたのだ。

 ぽつりぽつりと教育学部の2年生が復活を遂げて愛路と英仁の臨時ボランティアは今日を含めて二日で終わることになっていた。

 考えてもしかたないと立ち上がり、英仁に促されて付属小学校の学童の教室へと足を向けた。


「では2人組になって相手の似顔絵を描きましょう。3人組でもかまいませんよ。」


 本日は似顔絵を描くというレクレーションが準備されていた。放課後児童指導員の杉谷先生が開始の合図をすると生徒たちは蜘蛛の子を散らすように席を立ち、各々の中の良い者同士組む。ただ一人を除いて。

 声を掛けあって二人組を作る中、混ざろうともしないのは諦めているからだろうか。断られた苦痛を味わいたくないからだろうか。3人組になる女子グループがポツポツあるなかで席を立つこともなくスケッチブックを抱えたまま俯く少女。馴染めない人間にとってこのような企画は苦痛でしかない。

 愛路は自分たちも似顔絵を描こうかと冗談っぽく言ってくる英仁に翔直伝のデコピンをお見舞いして棚に置かれたスケッチブックと筆記用具を持ち輪から外れた少女の前に座った。

 嫌われ者の女の子、竜ヶ崎雨音は不思議そうに愛路を見つめる。


「竜ヶ崎さん、一人なら俺と組まない?」

「え?」

「下手だけど頑張るから。」


 少し顔を赤らめ、蚊の鳴くような声でお願いしますと言った。愛路が記憶する限り雨音はボーイッシュな出立だったが、今日はレースの着いたボーダーワンピースにデニムのショートパンツと可愛らしい服装だ。

 ショートヘアーも似合っているが、丸顔でクリッとした大きな瞳の容姿はロングヘアーの方が似合いそうに思える。

 チラチラと見ているがちっとも筆が進まない。勢いに任せて座ってしまったがドローイングなど愛路の私生活から遠く離れた未知の世界だ。

 中学生までは授業で描くこともあったが高校生からは美術は選択授業に組まれたので、音楽を選んだ愛路は数年間スケッチブックすら触っていない。

 さてどうしようと悩み、取敢えず輪郭である丸を描く。耳、目、眉毛、鼻、口を大体の位置に描き最後に髪の毛を足せば人間らしくなったが、幼稚園の壁に飾られていそうな幼い絵となった。画才の無さが清々しい程、伝わる一枚だ。


「普段、どんな本読むの?」

「はいっ。」


 誤魔化すように話しかけると必要以上に驚かせてしまったようで雨音は鉛筆を落とした。あまりビクビクされると自分が悪いことをしているようで罪悪感の様なものが込み上げてくる。


「この前、図書室で沢山借りてたでしょ?どんな本読むの。」


 拾った鉛筆を渡しながら言えば雨音は再び俯いてしまった。内気な子とコミュニケーションをとるなど自分には無謀だったと乾いた笑みを浮かべながら、少しでも似せようとスケッチブックに線を増やす。影でもつければ立体的になるだろうかと思ったが落書きの域から脱出できない。

 一から書き直そうかと悩み始めた時、ポソポソと小さな声がする。


「えっと物語が多いです。」

「そっか、俺もよく本読むから。」


 会話が成り立つと少し嬉しくなる。相手は小学生だがれっきとした人間だ。


「先生は…。」

「うわっ。愛路へったくそだなぁ。」


 会話が続きそうなところで英仁の大きな声が耳元で炸裂した。隣には重人と隼人もいる。どうやら適当に描き終った生徒と茶化しにまわっているようだ。


「後藤先生。俺の妹幼稚園児だけどもっと上手だぞ。」

「俺、左手で描いてももっと上手に描けると思う。」


 二人の男子生徒が次々と好き勝手に言ってくるのでは興味を示した生徒が集まり、抽象画も目玉を落とす愛路の描いた似顔絵はあっという間に晒される。


「なんだこれぇ。」

「モデル可愛そう。」

「一番下手じゃねぇ?」

「後藤センセー、こんなに下手でも大学行けるのか?」


 素直な事は良い事だが、その素直さが鋭い刃となる時もある。解ってはいるが、解っているからこそ人から諭されると悲しい。


「杉谷先生。諸星君が僕の事、好きだからってイジメます。」


 収集がつかなくなってきたので先導した英仁を生贄に挙手して言うと教室はどっと笑いに包まれた。

 雨音はスケッチブックを抱えたまま俯いている。そこには小学生とは思えない画力で愛路の綺麗な顔が描かれていた。


(◉ω◉)似顔絵って描くの難しいですよね。

因みに愛路の画力は抽象画も目玉を落とす事故案件です。


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