22nd piece Sleepover party
「うう……。」
「ひぐっ……うぐぅぅ。」
「……グスッ。」
夜中のリビングで男が3人団子になって噎び泣いている。盛大に涙を流す男達の瞳には映画のエンドロールが写っていた。
「大丈夫か?」
愛路は涙と鼻水を垂らす3人にタオルとティッシュペーパーを箱ごと渡した。
「ヤバイ。無理……ずびびっ」
「なんで最後の最後で……うわぁぁん。」
「あぁ……明日仕事中、思い出し泣きじゃわ」
盛大に鼻水をかむ志朗、グチャグチャの顔で志朗に抱きついて泣き叫ぶ夏樹、タオルで足りないからバスタオルが欲しいなどと言い出す翔。大柄な男達が泣く姿はお世辞にも綺麗とは言えない。志郎と夏樹は四捨五入したら190センチの大男であり翔は厚みのある筋肉の塊。むさ苦しい事この上ない。
なぜこのようなとっ散らかった状態になってしまったのか。
事の発端は朝まで遡る。
大雨の影響で一晩泊まった夏樹を迎えに来た志朗が楽しそうだから自分も泊まりたいと言い出したのだ。断る理由も予定も無かった翔は了承し、それぞれ大学やら職場やら向かった。
夏樹の宿題で疲れた愛路は何を口実に逃げようかと考えて過ごした。バイトの後に何回かお持ち帰りされたお姉さんに誘われこれ幸いと付いて行こうとしたが志朗が逃がすはずもなく、煌めく笑顔で連行された。
仕事を終えた翔と部活を終えた夏樹も合流し、買い出し序に寄ったレンタルショップにて感動映画で泣いたら負け等というくだらない競争が勃発した。そこで30分程、吟味し選ばれたのはまさかの子供向けの長編アニメーション映画。
罰ゲームを決めながら騒がしく夕食を食べて入浴を済まし、誰一人パジャマを着てない泣いてはいけない映画鑑賞パジャマパーティーが開催されたのだった。
子供向けとはいえストーリーは感情移入しやすくコメディが強い中、不意打ちで涙腺を刺激してくる山場があった。クライマックスでは苦楽を共にしたメインキャラクターとのまさかの別れがあり大番狂わせの泣ける映画に分類されるのだろう。
現に夏樹は中盤から大粒の涙を流し、弟を微笑ましそうに見ていた志朗も鼻で笑っていた翔も終盤で撃沈した。しかしながら愛路の瞳は涙に潤うどころか110分の酷使に乾ききっている。
ストーリーに多少の感動はあったが常日頃から多くの本を読む愛路にとって涙を流す程心打たれるものでもなかったのだ。
「それで額に目を書いてパンイチでスクワット100回やるのか?さらにその姿を通話履歴1番最初の人に写メるのか?」
絶対勝利の自信と悪ノリの産物に3人は視線を泳がせる。夏樹の額に落書きの案で止めておけばよかったものをアルコールもはいっていた志朗と翔は過酷な罰をふんだんに付け足したのだ。まさか子供向けのアニメーション映画で感涙するなど誰ひとり想像すらしなかった。
「後藤ちゃん……俺ヤダよ!こんな罰ゲーム!」
耐えかねた夏樹が膝立ちで抱きついて懇願してくる。そんな彼の前髪を避けて額を晒すと用意周到にテーブルにあった油性ペンで第三の瞳を開眼させた。
「はい次の人ぉ。」
「後藤ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん。」
無慈悲な仕打ちに夏樹は涙を溢れさせ翔と志朗は座ったまま一歩後退る。
極端なネガティブ思考とコミュニケーション能力の欠落の為、付き合い悪く根暗な愛路だが本音はお笑いや馬鹿騒ぎが好きだったりする。
コメディ番組視聴時に笑いすぎて嘔吐した過去もあるが故に普段は故意に避けるほど笑いの沸点が低い。
そんな愛路が気遣い不要なこの面子で今の面白い状況を逃す筈がなかった。
「クソが俺も男じゃ。好きにせぃ!」
腹を括った翔が服を脱ぎ捨てた。筋肉美に出来上がっている体に布面積の少ないビキニパンツ。自身の筋肉を見せたいだけの気迫迫る悪人面の額に愛路は目の絵では無く肉と書いた。
「ぶはははははははっ」
なんともお約束な落書きに額に第三の眼が開眼している夏樹が腹を抱えて笑う。
「シローには五芒星書いてやる。」
罰ゲーム対象者にもかかわらず傍観していた志郎の顔を掴み意気揚々と愛路は星印を書いた。胡散臭い善人顔の額に五芒星が足されたことでオカルト的な意味で危険な面構えとなり翔も夏樹も声すら出せずに笑い転げる。
「あはははははは。」
ふにゃふにゃと力の抜けるような声で笑う愛路。この笑い方には見覚えがある。
テーブルの上には空のグラスとまだ半分残っているグラス。志郎は頭に過った可能性に残っている方のグラスを手にとって飲むと甘い酸っぱいレモン味が炭酸と弾ける。そこにはアルコール特有の苦味は感じられなかった。
「もしかしてさ、後藤ちゃんさ、僕のレモンサワーをさ、レモンスカッシュとさ、間違えて飲んだ?」
「んんん?知ぃらねぇ。」
素面ならば絶対にしない間延びした語尾。猫かぶりしているときとは違う気抜けした上機嫌な顔。明らかに酔っている。奈良漬や甘酒など限りなく零に近いアルコール度数でも酔ってしまうのだからグラス半分に残っていた濃いめのレモンサワーを飲んだとしたらこの状況も頷ける。
「ほらぁ罰ゲームだぞぉ。シローとナッツも脱げよぉ。スクワット100回だぞぉ。」
赤みの増した頬と瞼が半分落ちた目。酒のまわり具合から映画のクライマックスあたりで間違えて呑んだのだろう。
「何じゃナッツ。そのパンツは。」
「翔兄には言われたくねぇよっ。」
志郎が出来上がっている愛路をどうしようかと思考を巡らせているうちに観念した夏樹が下着姿となっていた。運動部で引き締めた体は高校生とは思えない程の肉体美だ。
ここに肉食系の女性がいたとしたら翔と夏樹の身体は目の保養になった事だろう。その下着がビキニパンツとファンシーなウサギ柄でなければ。
「ごらぁ、シローもやれよぉ。」
なんとも情けない弟と友人の姿に固まっていると焦れた愛路が服に手をかけてきた。
「きゃー後藤ちゃんのエッチぃ。」
「あぁん?観念しりょ。」
軽口をたたきながら腕を掴んで抵抗すると呂律が回らなくなった愛路か電池が切れたように脱力して倒れ込んできた。
「おっと。」
慌てて受け止めるとふにゃふにゃと笑いながら寝息を立て始めた。
「どうしたんじゃ愛路。」
「いや、ぼくのと間違えて呑んで酔い潰れただけだよ。」
「相変わらず弱いのう。」
一般人であれば酔い潰れるほどの量ではない。酒に対して免疫が弱すぎる体質的なものだろう。
笑い上戸に極度な絡み酒ととんでもない酒乱は見ていて楽しいが就職前に対策を取らないと色々な意味で危険ではある。
「後藤ちゃん寝ちゃったし罰ゲームやらなくていいよな?な?」
最年少の狡い提案に志郎と翔は親指を立てた。その罪滅しではないが愛路をベッドへ運びより質の良い安眠へ促して他愛もない話で盛り上がりながら夜は老けていく。
翌朝、諸々の記憶のない愛路は謎の頭痛に悩まされて翔、志郎、夏樹の三人は油性ペンで書かれた落書きを隠すために大きめの絆創膏を貼る羽目になるのだった。
(◉ω◉)夏樹は188cm。志郎は187cm。翔は177cmだけど100kgの筋肉。
とんでもなくむさ苦しい空間です。
この面子で罰ゲームとか誰得なのでしょうかね?
因みに写メとは写真添付メールの事ですね。
あの便利なメッセンジャーアプリが導入された現代では死語となっているのでしょう。




