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第1話「9歳児、転生する」

「……都築琉夏さん。」


 柔らかい声がした。馴染みのない、女性の声だ。


「……ぅ、あと10分……」


「…………」



*  *  *



「……………………10分、経ったわよ?」


 身体を起こした。寝ぼけた頭で周囲を見回す。

 辺りは、この世のものとは思えないほどの絶景が広がっていた。澄んだ水で満たされた地面が、限りなく続く空をそっくりそのまま映している。そしてどこからか、主よ御許に近づかんが聞こえてくる。なんというか最終回っぽい雰囲気だ。天国という概念をそのまま形にしたような場所だな。


「…………夢?」


「ブッブー。」


 正面でしゃがみ込んでいる女性が、不機嫌そうにそう言った。

 長い金髪を編み込んでまとめた彼女は、織姫のコスプレみたいな仰仰しい衣装に身を包んでいる。


「ここは死後の世界。……覚えてないの?君、死んだのよ。」


「えっ、え?ええ……?」


 起き抜けに怒涛の展開が目の前で始まり、流石に頭が冴えてきた。ボクは確かに、さっきまで公園にいたはずだ。こんな場所は知らないし、この女性も初めて会ったように思える。ドッキリだと思いたいが、このリアリティー、流石に現実だと受け止めざるを得ない。


「……ボク、死んだんですか?さっきまで普通に公園にいたはずなんですけど……」


「普通じゃないことしたじゃない!覚えてないの!?」


 目の前の女性が、苛立ちを隠さずにそう怒鳴ってきた。

 覚えてないかと言われたって、いきなりブランコで首吊ったとか、ジャングルジムから飛び降りたとか、そんなことはしていないはずだ。確か学校帰りに暇をつぶそうと公園に寄り、しばらく図書館で借りた本をベンチに座って読み、それから、落ちていた飴を見つけて、拾って食べて、


「…………そこから先の記憶がない……」


「その飴、毒が入ってたのよ。」


「ええええ!?」


 女性は頬杖をついて、淡々と話し進める。


「拾い食いする馬鹿を殺してやろうって、どっかのアホの策略にまんまと引っかかったんじゃないの?知らんけど。」


「そっ……そんなことで死ぬなんて、あんまりじゃないですか!享年9歳ですよ!?」


「だから知らんって。私に文句言わないでよ。」


 女性はふうとため息をつくと、立ち上がってボクの周りをグルグルと歩いて回った。

 あまりに非現実的で受け入れがたいが、黙っていても何も変わらない。とりあえず今までのことは水に流し、この状況と向き合わなければ。ボクは顔を上げ、彼女に声を掛けた。


「……今更ですけど、誰ですか?女神様とかですか?」


「おっ、鋭い!何よ、もしかして信仰心の厚い子だったりしたの?」


「いえ……」


 ボクは、さっきまで公園のベンチで読んでいた小説を思い出していた。非力だった主人公が死んで転生し、生まれ変わって大冒険を繰り広げる話。いわゆる異世界転生ものだ。ありがちなありえない話だと思って読んでいたものが、まさか自分の身に降りかかるとは。あの類の話になぞらえると、


「ここは死後の世界で、今からボクは転生することになってて、女神様はその水先案内人的な……?」


「おおっ!大体合ってるわよ!いやー、説明が省けて助かるわ。」


 予習が役に立ったな。女神は満面の笑みでボクの眼前にしゃがみ込むと、乱暴に頭を掻きまわしてきた。撫でているつもりなのだろうか。


「私の名前は、女神アリシア。この世界の狭間に辿り着いた魂……要するに、死んだ人を転生させるのが主な仕事なんだけど、今回はちょっとイレギュラーが発生しててね。」


「イレギュラー?」


「転生先の世界で、人口が予定よりかなり減っちゃってるのよ。モンスターっていう、人を襲う化け物に相当な人数が殺されちゃったみたいで。丸腰の君が転生したところで、また死んじゃうかもしれないでしょ?ということで大サービス!」


「ボクの望みを、何でも一つ叶えてくれるとか?」


 先んじて言うと、女神は口を尖らせた。


「そうだけど……何当然みたいに言ってんのよ。結構大変なんだからね?私の恩寵をありがたーく賜るように」


「じゃあ早速注文いいですか?」


「注文て!ここはファミレスか!?チーズインハンバーグ添えて異世界転生させっぞオラ!」


 案外俗っぽいツッコミを披露する女神を無視し、ボクは目を輝かせて叫んだ。


「お金!一生使いきれないくらいの、大金を授けてください!」


 前のめりになるボクに対し、女神は神妙な顔をして腕を組んだ。


「……お金かぁ。私は女神と言えど、世界に自由に干渉できないのよ。生まれてくる君の身体に細工をするくらいのことしかできない、って言った方が分かりやすいかしら?要するに、お金が望みなら、子宮の中にいる君に札を握らせるくらいのことしかできないわ。」


 しょっぱすぎるだろ。大体、子宮の中で赤ちゃんが握りしめることができるお金っていくらだ?絶対大した額じゃない。それ以前にお札がびちょびちょだろうし、全然使い物にならないじゃないか。お金でそれなら、モンスターとやらに勝てるような強い武器を、なんて望むことはできなさそうだ。


「物理的な望みは難しいと思うけど……君、例えばさ、将来の夢とかはなかったの?」


 悩むボクを見かねてか、正面に座る女神は、少し優しい口調で聞いてきた。そうは言われても、ボクはまだ9歳だし、具体的に将来就きたい職業など考えたこともなかった。


「……そうだ、偉く、なりたかったです。身体も小さいし、声も高いし、貧乏だったから、馬鹿にされることが多くて……」


「だったらそうね、政治家かギルドの2択かしら。転生先の世界で偉いっていったら、その2つが思い浮かぶわ。私のおススメはギルドね。この間転生させた男が王様になってたと思うから、政治家は幅を利かせづらいと思うし。」 


 女神は、存外真面目に応えてくれた。彼女から女神という神々しさをまるで感じなかったが、多少真摯な部分もあるらしい。


「決まんないなら、とりあえず力でも授けてあげようか?無難だし。」


「じゃあそれでお願いします。……あっ、せっかくなら!」


 ボクは思い付きで、こう口にした。


「この世に敵なし、ってくらいの力!お願いします!」


「オッケー。」


 女神は怪しげに口角を上げて微笑むと、両腕を天に伸ばした。


「主なる御霊に光あれ、えー、賤なる子に救いあれ!」


 その瞬間、辺りは目を開いていられないほどの眩い光で包まれる。ナイター照明を目の前で点灯されたみたいだ。

 女神は続ける。


「願うは力。圧倒的力!誰にも負けぬ力を彼に授けたまえ!」


 彼女が叫んでいる最中に、急に眠気が襲い掛かってきた。真っ白だった視界が、黒く淀んでいく。


「じゃあ……二度目の生を楽しんでね。かわいそうなおチビちゃん。」


 柔らかい、そんな言葉が、薄れていく意識の中で聞こえた気がした。


本作が自分にとって初めての作品ですので、至らぬ点もあるかと思いますが、しばらく付き合っていただけたら幸いです。


ブクマや、画面下の☆で応援していただけると、非常に励みになります。よろしくお願いいたします!

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