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新たな力と共に+We have to stop her

 

「どうした彼岸!! その程度か!!」

 薙ぎ払われる大剣。吹き飛ばされたヒガンバナは花壇に叩きつけられる。

「せめて《コードデストロイヤー》が使えれば……」

「新たな姿を使えなくしたのは、その姿の貴様をこの手で葬る為。使えた所で戦力差は埋まらない」

 錆だらけの大剣はブレイクソードの防御すら容易く弾き、ヒガンバナの装甲を削る。傷から錆は侵食し、ヒガンバナを蝕んでいく。

「ぐっ、これは、まさか……!?」

「再び復讐者に立ち戻れ。私は″復讐者″である貴様を、完膚なきまでに破壊したい! その為に地獄の底から蘇ったのだから!!」

 この錆に完全に喰われれば、また記憶を捻じ曲げられる。それを察したヒガンバナは、

「うぉぉぉっ!!」

 ブレイクソードを自らの傷口に突き立て、装甲ごと傷が刻まれた箇所を抉り取った。

「ぁ、が、ぅ、すまないが、お前との決着よりも優先するべき事がある」

「なん、だと?」

 大剣を握る力が強くなるのが、手の震えから感じ取れる。だが今はそれに構わず、《シャドウアサシン》へフォームチェンジ。

 振り下ろされた一撃を霧となって回避、そのまま撤退した。

「彼岸……逃げるのか……逃げるのか貴様ぁぁぁ!! うぁぁぁぁぁぁ!!!」

 無差別に斬撃波を放ち、病院や広場を破壊。絶叫が天使の飛び交う空へ吸い込まれる。

「私との決着よりも、優先、優先……ふ、ククク、あの女か。ンフフフ、ならば……」

 変身を解いた弟切は、不敵な笑みを浮かべた。



 白葉が指定した合流場所を皆に伝えた後、桜達は山神達と合流を果たした。のだが、

「……あの、な、桜。お前こんな時に……」

「桜くんさぁ、また美少女をお持ち帰りですか?」

「そりゃないっすよ桜さん」

「待って、話を聞いて!」

 冷めた視線を一斉に向けられ、桜は慌てて両手を振り回す。

「白葉とはその、色々あったんだって! 俺の命の恩人みたいなもの! エリカ、セラ、2人は信じてくれ……」

 そう言いつつ振り返ったのだが、視線の先にいる姉妹の顔は桜が期待した表情ではなかった。

「桜さんって可愛い女の子持ち帰る人だったんだ……ま、まぁ、英雄は色を好むって言うし……」

「あの、セラさん?」

「色々あった、かぁ。……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「エリカさん!?」

 セラは何か納得した様に頷き、エリカは全ての力を抜き切った様な溜息を吐いて奥へ引っ込んでしまった。

「そんなどうでもいい事で騒がないで。このままじゃ世界が姉さん達に滅ぼされるんだから」

 やりとりを遮ったのは白葉。表情こそ冷静だが、声色には僅かな焦りが含まれている。しかし山神がこの場にいる誰もが感じているであろう疑問を投げかける。

「その前にだ。お前の名前が忌魅木白葉で、とりあえずは味方側、転校生と社長の妹ってのは聞いた。けどそれだけじゃお前の言う事を信じる訳にはいかない。何をしようとしてるのかを正直に言え」

「嘘かどうかを考える時間があるの?」

「こっちにゃ天然嘘発見機がいるからな」

「だぁれが天然嘘発見機じゃ張り倒すぞ」

 睡蓮は青筋を立てるものの、何度も手を握り締めて堪える。やがて白葉は小さく話し始めた。

「姉さん達は、この世界に復讐する為に人類をデータ化、まとめて消去しようとしている。それを防ぐ為に、私は貴方達に姉さん達を止めてもらう」

「……おい睡蓮」

「いや、嘘は吐いてないよ。……それで、具体的にどうして欲しいのさ?」

「サーバーセム、ていうのがあるんでしょう。まずはそれがある場所へ案内して欲しい」

「なんでそれ知って……って、おい!」

 山神は桜を怒鳴りつける。しかし桜は首を横に振り回す。

「いやいやいや、何も言ってないって!」

 など弁明を行う。

「サーバーセムがあれば、姉さん達を止める手段を作る事だって出来る。というか、私はそれを知っている」

「……」

 山神は目線で睡蓮へ問う。しかし睡蓮は首を振って返答する。

「大丈夫、嘘は吐いてない」

「本当かよ」

「はぁぁぁ!? 疑うくらいなら最初から聞くなやコラァ!!」

「なんだお前、なに急にキレてウゴゴゴゴッ!!?」

 馬乗りで絞めあげられ、悶絶する山神。そんな仲睦まじい2人を他所に、白葉は桜へ向き直る。

「ねぇ、私が言うのもあれなんだけど、この人達で大丈夫なの?」

「大丈夫、それだけははっきり言える。それに俺達はもう君を頼るしかない」

「……なら急ぎましょう」

「あ、待って待って」

 外へ出ようとした白葉を、奥から現れたエリカが引き止める。手には大きなバスケットを抱えている。

「まだ何も食べてないでしょ? 一応作ったんだけど」

「時間がないってさっきあれだけ……」

「あ、だから歩きながらでも食べられたらなって。はい」

 バスケットから皆に配られたのは少し大振りなサンドイッチ。中身はハムとマヨネーズだけだが、整えられた形が食欲をそそる。

「それなら……ん……ぁ、美味しい……」

「美味しい? よかったぁ、具が少ないなんてレベルじゃないからちょっと不安で」

 白葉はサンドイッチに口をつけながらも、目の前で笑うエリカへ視線を向ける。彼女は計画の阻止に必要不可欠な存在であり、白葉としてはこのように協力的な姿勢を見せてくれていることは助かる。

 だがそれとは別に、何か感じたことのない感覚が心に入り込む。

「この気持ち、姉さん達も感じていたのかな……」




 街中をはびこるスレイジェル達の目を躱し、辿り着いた地下室。道中には既に大量のスレイジェル達の残骸が転がっており、足の踏み場がほとんどなくなっている。

「彼岸か……」

「サーバーセムの様子を見る限り、必死に守ってくれたんだろうな。でも、あいつもスレイジェル達もいないのは妙じゃないか?」

 これだけの量のスレイジェル達が襲ってきたということは、蒼葉に取り憑いた何かはサーバーセムも狙っていたということ。いくら彼岸に撃退されたとはいえ、そう簡単に諦める理由が分からない。

「でも敵がいねえのは好都合だな。桜も一応変身が出来るようになったとはいえ」

「今のプラグローダーだとあのスレイジェルと戦うには……」

 デイノニクスジェノサイドになれるようになったとはいえ、あの姿を頼りにするのは危険すぎる。かといって今ではピュアフォームをはじめとした3種類のみしか使えない。

「VUローダーかアウェイクニングローダーが使えたら……」

「セムで複製は出来ないのか、え、と、転校生の妹さんよ」

「……いくらセムでも、あれだけのものを作り直すまでに時間がかかりすぎる。でも、あらかじめあるものを構築し直せば、同等のものをすぐに作り出せる筈」

 白葉はそこで、エリカの手を引いてサーバーセムの元へ近づいていく。

「ん、ん? 私は、何を?」

「あなたの中で眠る彼女の力と、少しだけ残ったインフェルノコードの力。それがあれば」

 初めて見た筈のサーバーセムのコンソールを慣れた手つきで操作する。するとエラー音を吐き続けていたセムが淡く発光し始めた。

《システム、再起動開始。データ破損率43%。データ修復に5日要します》

「セム、データ修復から最重要タスクを変更。新たなローダー構築」

《了承。最重要タスクをローダー構築へ変更。構築に必要なデータが不足しています》

「データなら揃っている。セム、私が言いたいこと、貴女なら分かる筈」

《周囲状況を読み込みました。該当データを確認。抽出を開始します》

 セムが言い終わると同時に、エリカの体に異変が訪れる。胸の中央が突然発光。渦が現れた。

「えっ、えぇ!? なになになに!?」

「ふぉぉすげぇ!! 光ってる、光ってるよエリカのおっ──」

 興奮する睡蓮の頭を山神が引っ叩き静かにさせる。両手をばたつかせながらパニックになるエリカを見ていたセラにも変化が訪れる。

「ん、ん!? なんか私も光って、うわっ!?」

 セラの中から放たれた一筋の光。それはエリカの胸に吸い込まれ、一際巨大な光の渦となる。

「桜、この中に貴方のチップを!」

「お、俺のってどっち!? ピュア!? 黒い方!?」

「ディノニクス!!」

「わ、分かった! 行くぞエリカ!」

「いやいやいやいやストップストップゥゥゥゥゥゥ!!」

 自らの中に眠るディノニクスのチップを呼び出し、エリカの渦の中へ投げ入れた。瞬間、渦は収束。光の球となった瞬間弾け飛び、その形を変えた。


 黄金に輝く神狐のチップと、黒き蛇神のチップ、そしてVUローダーに似たものと融合した竜のローダー。


「うわなんかエリカからめっちゃ出た」

「睡蓮ちゃんその言い方やめて!?」

「ていうかこれ何なんだ?」

 浮遊していた3つは吸い込まれるように桜の手元へ。プラグローダーに合わせてみるとしっかり嵌め込むことが出来る。

 観察していると白葉が歩み寄った。

「それは、エリカの中に眠るインフェルノコードの残滓、そしてエリカとセラの中に眠るジェノサイド、エヴィのヘルズローダーの力、そして桜のディノニクスジェノサイドの力を再構築したもの」

「エヴィの事まで知ってるのか!?」

 山神は白葉の発言に驚愕、次いで桜の方を見る。しかし桜は首を横に振り回してその疑いを否定する。

 しかし当の白葉は山神の問いには答えず、エリカに耳打ちする。

「この力は桜だけじゃない。貴女の力も必要になる」

「どういうこと?」

「それは、…………」

 更に小さな声が耳に入る。それを聞いたエリカの視線が僅かに桜の方を向く。その目の色が決意に染まるのを見た桜は、思わず首を傾げた。

「さぁ、行きましょう。手遅れになる前に」

「え、でも何処に?」

「衛星が直上に来る位置。そこに姉さん達はいる」

「その位置が分からないんだが……」

「あ、それここっすよ多分」

 頭を抱える桜と山神に、写見はタブレットにある写真を差し出した。

 ノアカンパニーに並ぶ高さのビルだ。

「今日夜に見える予定だったんすよね、人工衛星。まさかそれがノアとは限らないっすけど」

「ここ、もう使われてない廃ビルだったような……」

「何かやるにはピッタリだな」

「行き先は決まったわね」

 白葉は頷くと、外へ向かって歩き出す。

「待て待て、勝手に行くな」

「貴方も付いてきて山神真里。貴重な戦力だから」

「いやまぁ元からそのつもりだが……」

「ほんじゃ私も」

「睡蓮は待機な」

「は?」

 山神に頭を押さえられ青筋を立てる睡蓮。しかしすぐにその言葉の意味を理解した。

「あ、そっか。エリカとセラ守れるの私しかいない」

「そういう事。……じゃあ、行ってくる」

 エリカ達に言い残し、桜も前に進む。

「……いってらっしゃい」

 返すエリカは、自信に満ちた声色だった。




 街を覆い尽くすスレイジェル達から逃れる様に、下水道の壁にもたれかかる彼岸。侵食から逃れる為に負った傷は決して浅くはないが、動けなくなるほどではない。

「まずは日向桜達と合流しなければ」

 単独で敵の本拠地の目的を探るにしても、分からないことが多過ぎる。懐からスマートフォンを取り出し、桜へ繋ごうとした時だった。

 鳴り響く通知音。しかし画面に現れた名は、非通知。耳に当てると、先程聞いたあの声が出る。

『彼岸。指定した座標に来てもらおうか』

「No,3……では、なかったな。弟切、一体何を企んでいる?」

『そう殺気立つな。貴様に会いたいと、彼女が言っているんだ』

『痛い……彼岸、助けて、助けて!!』

「……」

 通話を切る。メールに添付された位置を確認すると、地上への道とは真逆、地下深くへ歩み始めた。

「安直だが、効果的な挑発だ」



続く

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