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異常事態+He lost the power of a hero

 

「……やはりいない」

 彼岸達がここを出る前までモニターと睨み合っていた蒼葉の姿はない。周りは紙の資料が散らばり、パソコンのモニターは明滅を繰り返している。

「サーバー、セムは」

 地下に降りる。この場に人間の気配は感じない。しかしサーバーセムの様子がおかしい。

『警告 異常事態発生 警告 異常事態発生』

「異常事態?」

 しかしながら具体的にその異常を伝えようとはしない。サーバーセムですら把握できない現象が起き始めているのだ。

「早く報告しなければ」

『へぇ、誰に?』

 耳元で響いた声。反射的にブレイクソードを振るったが、姿がない。そしてブレイクソードからあるものも消えていることに気が付いた。

「デスレイズローダーが無い!?」

『こんなものまで。さすが成功作』

 変わらず声だけが聞こえている。サーバーセムの発する警告音に紛れて声は遠ざかっていく。

『サーバーセムは残しておいてあげる。私達の計画にも必要だからね』

「計画? 私達? 一体お前は ──」

 彼岸の問いに答えたのは、外からの破壊音。急いで地下から駆け上がると、そこには見覚えのない異形のスレイジェル達が大量にロビーを埋め尽くしていた。

「一体、何が起きようとしているんだ……」

『サクジョシマス、サクジョシマス。コノセカイハ、サクジョシマス』

「この場を突破しない事には論じようもないか」

 彼岸はデストロイローダーをセットしようとする。しかし、

「……何故、反応しない!?」

 一斉に飛びかかる謎のスレイジェルをブレイクソードで薙ぎ払い、掴みかかろうとするのを蹴り飛ばす。一縷の望みをかけ、残されたプラグローダーのみをブレイクソードへ接続。

「っ、変身」


《Scars don′t disappear Grudge is eternal 復讐者よ、怒りのままに力を奮え!!!》


 ヒガンバナ、《スカーアヴェンジャー》が振り抜いた黒い一閃が、スレイジェル達を両断した。



「睡蓮ちゃん、もう大丈夫なの?」

「へーき。ほら見て」

「うわぁぁぁ、何でぇ!?」

 睡蓮はセラをお姫様抱っこして健在ぶりを示す。慌てふためくセラを他所に、睡蓮は前と変わらぬ笑顔を見せていた。

「どや! こりゃ社長と一緒にエリカとセラを護衛出来ちゃうねー!」

「そう言うと思って貴女のプラグローダーに制限をかけておいたわ。ある程度は力を使えるけど、変身は出来ない」

「何でぇ!?」

 紅葉の言葉にセラと同じ声を上げる睡蓮。彼女のプラグローダーは以前と変わらず銀色だが、《セブンスロード》の力によって浄化された後も全てを凍てつかせる氷の力も残っていた。ノアによって得られた未知数の力である為、封印を施したのだった。

「彼岸の話だと、ノアは端末を再構成出来ない。衛星さえ破壊出来れば全てが終わる。もう貴女達はこの安全地帯でそれを待っていてくれればいいの」

「まさか私が知らない間にそこまで来ていたとは……」

「紅葉ちゃんが言う通り、私達はここでみんなの帰りを待つのが仕事。だよね?」

「紅葉ちゃ……ん、まぁ、その通り」

 あまりに自然に呼ばれた名に戸惑い、視線を逸らした時だった。

「っ、何!?」

 異様な気配を感じた瞬間、病室の扉が開く。そこにいた人物を見た時、紅葉は思わず息を呑んだ。

「あれ、蒼葉ちゃん。もう終わったの?」

「……ねぇ。エリカ、セラ、私の後ろにいて」

 睡蓮も異常を察し、エリカとセラを後ろに庇う。そして黙って俯く蒼葉の前に紅葉は出る。

「貴女、誰?」

『……冷たいわね紅葉。私達は貴女の姉。気づかなかった? 気づいてるよね? 貴女の心臓』

 手が紅葉の左胸に触れる。異常な程の冷たさに震え上がる。心臓が止まりそうになる。

『魂は』

「っ!!」

 手を払い除けた。空気を裂く様な鋭い音が響く。だが顔を上げた蒼葉は張り付いた様な笑みを浮かべ、舌が這う虫の如く唇を舐める。

『やっぱり必要。私達の妹、紅葉。貴女がいなければ計画は成り立たない』

「は……?」

 何処からともなく飛来するプレシオフォン。しかしその色は深海の様に暗い青となり、浮かび上がるラインが怪しく光を放つ。

「プレシオフォン、どうしてそんな色に……」

 蒼葉の手から現れた、黒いコネクトチップ。巨大な顎、あらゆる攻撃を防ぐ鉄壁の甲冑を持つ古代の海の覇者。


 ダンクルオステウス。


「そんなチップ、何処から!?」

『何としても貴女を手に入れる!』

 ディーププレシオフォンにダンクルオステウスチップを挿入。脱ぎ捨てた白衣の下から現れたリワインドローダーに装填。


《Purification Complete!》


 黒く揺らめくプレシオサウルス、そして海底火山の様にエネルギーを噴き上げるダンクルオステウス。それらが病室の壁を破壊し、瓦礫を巻き上げる。


「きゃあっ!!」

「セラ、伏せて!」

「2人共だよ! 社長も離れて!」

「いや! ここは私がやる! 貴女達は早く逃げて!」


『変身』



《Deep Sea!Shadow Abys! HeavyFang! Memory Revive!! Wake up Deep Ocean!!》


 藍色のインナースーツの上から、黒い装甲を纏う。刃は刀の様な鋭利なものから、大剣の様に叩き潰すのに適した形状に。普段より重厚なヘルムに、深淵から覗く様に金色のアイレンズが光る。

「ユキワリを、蒼葉を乗っ取ったの!?」

『乗っとるも何も、私達は元々一つの存在。そしてこの力の名は、《シン・ユキワリ》。本来の性能を持った姿』

 紅葉は一度距離を取り、アルゲンタヴィスフォンを呼び出す。

「変身!」


《High! Wing! Flight! Memory Revive!! Wake up Sky!!》


 そのままネメシアへ変身。蒼葉に取り憑いた謎の存在に相対するのだった。



「ぬぉぉぉ全然減らねぇぇぇ!」

「せ、先輩達、俺はいつまで伏せてりゃいいっすか!?」

「後10分!」

「ひぇぇぇ!」

 ホウセンカは《ラースバースト》へフォームチェンジしているが、一切数が減っていない。1体ごとの戦闘能力は大したことがないものの、絶え間ない戦闘は2人からスタミナを奪っていく。

「おい桜、これは適当なところで切り上げて逃げた方が良い!」

「ちょうど考えてた! じゃあこの辺で」

 空を飛んで逃走しようと、《シュートエアレイダー》にチェンジしようとした時だった。スレイジェルの群れの動きが一斉に止まる。

「あ……?」

「動きが、と、止まった?」

 動揺する中、スレイジェル達の間に道が出来る。その先から現れたのは中性的な顔をした人物だった。

「誰だこいつ?」

「いや、見たことないけど……」

「まぁでも、状況を見るに味方じゃねえのは確定だよなぁ」

 一度は解きかけた臨戦態勢を再び取るリンドウとホウセンカ。だがその人物は小さく笑い、指を突き付けた。

 リンドウのプラグローダーに。

「返せ。私のプラグローダーを」

「お前の、って……っ!?」

 一筋の光が走った。刹那、桜の腕からプラグローダーが取り上げられた。

 本来なら腕が飛んでいたかもしれない。だがホウセンカが咄嗟に庇った事で避けられたのだ。

「あっぶね! おい桜、腕ちゃんとあるか!?」

「いやあるけど、プラグローダーがない! 盗られた!」

 幸い、衝撃で弾き出されたのかピュアチップが地面に落ちる。桜は急いでそれを拾い上げる。

「盗られた? ふざけたことを言うな。これは元々、私のものだ」

 プラグローダーを右腕に嵌めると、認証すらせずに起動。男の言うことがハッタリでないことを示す。

「だが、貴様らの様な雑兵相手に力を振るっても意味がない。こいつらのデータ材料になってもらおう」

「訳わからん事喋りやがって泥棒野郎!」

 拳から火柱を放つホウセンカ。しかし男を庇う様にスレイジェルが立ち塞がり、爆散する。


「私の目的は、ヒガンバナだからな」


 爆音に紛れて聞こえた呟き。桜はその内容に不穏な気配を感じた。

「彼岸が……目的?」

「もう、ダメだ、無理! 逃げるぞ!!」

 ホウセンカはパキケファロソナーを起動、サイドパキケファイナーとトリケライナーを呼び出す。桜と写見を乗せ、スレイジェル達を薙ぎ倒しながらその場を去る。

「ちきしょう、セブンスローダーどころかプラグローダーもねえんじゃ……!」

「まだ戦えない訳じゃない。でも、あの力は……」

 アウェイクニングローダーが無い今、《アウェイクニングブレイダー》になる事は出来ない。だが桜の中にはその前の姿、本来の力がまだ残されている。

 狂気の力、ディノニクスジェノサイドの力が。

「今のお前なら使えるんじゃねぇのか?」

「いや、前に蒼葉から聞いたんだ」


── 桜の力の本質は狂気。他のジェノサイド達が力に紐付けられた性質を持っていた様に、単一の力だといつか必ず暴走する。どれだけ強靭な精神力を持っていたとしても ──


「だから迂闊には使えない。とは言っても、もう手段はこれしか無いけど」

「頼みの綱の転校生も変な奴に乗っ取られてるし、こりゃ本当にやばい事態だな」

「……ダメっす。紅葉さんにも繋がらない。これって病院も安全じゃないって事じゃ」

「っ、まだ間に合うかもしれない。山神、飛ばして!」

「分かってる!!」

 トリケライナーが風を切る。最悪の事態に陥る前に、何としても蒼葉を止めなければならない。



続く

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