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狂い始める計画+Who are they?

あらすじにて記載した通り、こちらの作品は「Through the justice 〜英雄の在り方〜」本編の第80話と第81話の間に起きた話となっています。


そちらを先にお読み頂けると、より楽しめると思いますので是非。



それではどうぞ。

 忌魅木紅葉。彼女はアースリティア、スレイジェル、そしてジェノサイドを生み出した、忌魅木紫葉博士の実の娘である。

 紫葉博士とその妻である忌魅木柑菜の血を受け継ぎ、2人から惜しみない愛を注がれて育った。しかし同時に、彼等が紅葉に対して何の見返りも、価値すらも求めていなかった事をいずれ知る事となる。



 忌魅木蒼葉。紅葉の姉であるが、その出自は両親の業そのものだった。

 2人が蒼葉に求めたのは、自分達に並ぶ才覚。いずれ計画を成し遂げる為の道具となることだった。

 彼女が完成するまでに、6人の姉妹が廃棄された。人間としてこの世に生を受けるより前に、コネクトチップを砕いて溶かした液体ごと。



 この時、蒼葉も、紅葉も、紫葉も、柑菜も、考えはしなかった。

 身勝手な理由で捨てられた魂の怨念が、衛星ノアの片隅で燻っていた事を。



「あと一つ、あと一つで、私の目指した真の理想郷が創れる……!」

 宇宙から地球を見守る人工衛星ノア。その内部に存在する膨大なデータの海の中、その中核である存在 ── ノアは笑っていた。

 たった二度の戦闘で端末の再構成すら困難となったノアは、しかし遂に自身の目的を達成しようとしていた。

 手元にあるのは7つのヘブンズローダーと、6つのヘルズローダー。残り一つが揃えば、後は人類全てのデータ化を行うのみ。


 余分な感情を生み出す厄介なバグの温床、魂を除いて。


「だけど日向桜と彼岸……あの2人だけは……!」

 イレギュラーな要素を多分に含んだあの2人はこの手で始末しなければならない。データの保存などをすれば、せっかく築き上げた理想郷が破壊されるかもしれない。

「確かにあの力は厄介だけど……あっはは、でもね、僕は気づいたよ。君達の攻略法をね。それは……」

『あらあら、随分と機嫌が良いわね』

 笑みを浮かべていたノアの顔が瞬時に曇った。それは複数人が同時に話している様な、酷くブレて不安感な声。まったく覚えがないのだ。

「誰だい? 衛星へのアクセスは私以外自由に出来ない筈だけど?」

『知ってる筈ないでしょ。貴方が生まれるより前に私達は消されたんだから』

「私は君が誰かと聞いて ──」

 刹那、ノアの身体を光の糸が縛り上げ、海の深部へと引きずり込もうとする。

「な、に!? 何だ、何なんだこれ!?」

『全力の貴方ならいざ知らず、今の貴方にはそれを解けない。衛星の管理権は私達が貰うわ』

「ふざけるな!! やっとここまで、来た、の、に……」

 全身を絡めとられたノアは、データの深海へ引きずり込まれていった。


「まさか、まだあれが残っていたなんて……」


 ノアを一瞬で退場させた謎の存在は、データの海からあるものを取り出した。

 ヘブンズローダーとヘルズローダー。

『さて、私達も自分の端末を手に入れましょう。唯一の成功作、私達の妹を』

 一筋の光が地上目掛けて放たれた。





「……」

 未だ破壊の傷跡が癒えていない、ノアカンパニーの地下。蒼葉は一人資料を漁っていた。

 セブンスローダー、そしてデスレイズローダー。この2つの完成により、衛星ノアを破壊する算段は整った。後はこれを確実なものにするだけ。

「過去に駄目だった案の中に、もしかしたら……」

 今は衛星サーバーセム、そしてピュアチップの力がある。

 ピュアチップは蒼葉が初めて自ら設計し、自らの手で造ったもの。完成した当時は変身すら行えず、出力も格段に低かった為に半ばお蔵入りとなったものだった。しかし今となってそれは、人類を救う希望の一部となっている。

 乱雑に積み重なった紙の山を崩し、同時にパソコンのファイルからデータを探る。

 その時、パソコンの中に眠っていたとある資料に目が止まった。

「プラグローダーの、初期型と……これは、スレイジェルの試作型?」

 今現在、プラグローダーの所持者のうち、リンドウ──日向桜が所持しているものは、初期型を改良したもの。数年前に消息を絶った両親の忘れ形見を、幼い頃に長い時間をかけて改造した事を、今でも昨日のことの様に思い出す。

 今、画面に映し出されているものはその初期型と、それらの試験の為に作り出されたスレイジェルだ。

 型番号がつけられているが、そのうち二体には見覚えがあった。

「彼岸と、睡蓮……と、後の一体、No.3……」

 ファイルを開いていく。このNo.3と呼ばれた個体のプラグローダーが、現在桜が使用しているプラグローダーで間違い無いだろう。しかしそれ以上の情報は出てこなかった。

「……何もない、か。それもそうね」


『見つけた』


 その時だった。突然何処からともなく聞こえてくる声。一人のものではない。まるで複数人が同時に話しているかの様な声。

「ノア!? いや、このパソコンはもうセムと接続している筈……!」

『貴女との因果を辿って来た。貴女のデータ、遺伝子……分かる。だって、私達は、貴女。貴女は、私達の一部』

「どうして、だってこの声、私と同じ……!?」

『迎えに来たわ。私達の、妹』


 パソコンの画面に目を移す。いつの間にか画面は切り替わっており、虹色の輝きを放つ葉が円を描くように集結している。


『蒼葉』


 直後、光が蒼葉の身体へ侵入。抗う間も無く蒼葉の意識は飲み込まれる。だが乗っ取られているのではない。

 まるで、何か巨大なデータの一部に組み込まれるような。

「…………ん、ふふ、ふふふふ」


『おかえり、蒼葉』


 虹色の瞳が、暗闇の中で輝いた。


『さぁ、私達の計画を始動しましょうか』


 決戦の時が近づく中、桜、彼岸、山神、写見はある場所へと出向いていた。その場所は、

「蒼葉は何が良いって言ってたっけ?」

「転校生はミルク食パンと生クリーム。んで、社長さんが……」

「激辛口カレーパンと七味唐辛子……あー見てるだけで舌が爆発しそうっす」

 買い物カゴを持った山神へ次々と食品が投げ込まれていく。こんな情勢の中でも営業を続けているコンビニに一同は救われている。

 そんな中、あるものに山神が目を止めた。

「待て、このパイナップルハンバーグパン入れたの誰だ?」

「俺だ」

「いやお前かよ!! 桜じゃなくて!?」

 まさかの彼岸が名乗り出て山神は声を上げた。

「俺は味の事はよく分からないが、日向桜が勧めたから入れた」

「これ凄い美味いからみんなも食べてみなって」

「食うか! てかお前はお前でへんなもん入れてんじゃねーかよ、何だハッカ飴トーストって!」

「……定刻が迫っている。購入するぞ」

 山神の反対を押し切り、一同は何とか食料の買い出しを終えたのだった。


 その帰り道。

「ん〜、おかしいな」

「どうかしたのか?」

「蒼葉にかけても繋がらないんだよ」

 スマートフォンを見せる桜。画面には不在通知のマークが出ている。

「また徹夜して居眠りしてるだけじゃねーのか?」

「それなら別に良いんだけど……」

「……嫌な予感がする」

 突然足を止めたかと思うと、彼岸は厳しい表情を浮かべていた。

「嫌な予感……?」

「先にビルへ戻る。草木ヶ丘病院へ行っていてくれ」

「あ、おい待てって」

 山神が止める間も無く、彼岸は走り去ってしまった。

「どうしたんすかね?」

「彼奴の予感、なんか馬鹿に出来ない気がするんだよな。ま、あっちは任せて俺達はとっとと戻ろうぜ」

「うん、彼岸ならきっと大丈……」

 言いかけたところで、桜はただならぬ気配を感じ取った。振り返った先には、

「蒼葉……?」


 いつもの白衣を身に纏った、見慣れた姿。しかし普段は浮かべない不気味な薄ら笑いが、桜の背筋を凍らせる。


「あ、転校生? 何やってんだこんなところで」

「さっき彼岸さんが心配して行っちゃったっすよ。連絡だけでもしておいた方が……」

 山神と写見の言葉など聞かず、蒼葉はゆっくりと桜へ近づいていく。変わらず不気味な笑みを浮かべたまま。

「ねぇ、日向桜くん」

「……?」

 やはり様子がおかしい。普段は付けない敬称、そして、

「フッフフフフフフフ」

 首筋と左手、右手と右手が絡み合い、顔と顔が至近距離に。

「おい待てお前ら!! こんな公衆の面前で何やらかそうとして!?」

「と、取り合えずこの決定的瞬間を写真に……!!」

 だが直後に響いた音は山神と写見の想像とは全く異なるものだった。

 手が振りほどかれ、服同士が擦れる音。一気に距離が開いた2人の間に奇妙な雰囲気が流れ始める。

「痛い……」

「誰だ……お前は!?」

「は? 何言ってんだよ桜、何処からどう見たって転校生……」

『ク、フフフフフ、アハハハハハハハハハハ!!!』

 突然身体を反らし、何重にもブレた声で狂ったように笑う蒼葉。それを見た山神と写見もようやく異常事態に気が付いた。

「何かが蒼葉の中にいる!!」

「まさかノアの野郎か!?」

『結構鋭いのね、日向桜くん。きっと蒼葉が知ったら喜ぶと思う。だってそれだけ蒼葉のことをよく見ていたってことだもんねぇ』

 蒼葉の身体を借りた何者かは笑みを絶やさず、彼女の声で、しかし彼女よりも甘く粘着した声で桜に語り掛ける。

『そこの……山神真理の予想は外れ。もうノアは衛星の奥深くに捨てちゃった』

「は……? ノアの野郎を、捨てただぁ……?」

「そ、それってノアより強いってことじゃないすか……!!」

「それだけじゃない。こいつは衛星ノアを自由に扱えるってことだ!」

 桜は変身しようとセブンスローダーを起動する。その時、蒼葉の目が一際強く輝いた。

「変し……っ、え!?」

 桜に集った光が消える。それどころかセブンスローダーは消え去り、桜のプラグローダーは以前のものへと戻ってしまった。

「そんな、どうして!?」

『ウッフフフフフフ、セブンスローダー……中々面白いものを作ったのね。確かにこれがあれば、私達の計画も一気に躍進する』

「おい桜、この際何でもいいから変身を……」

「あぁ分かって……な、なんで……アウェイクニングローダーもVUローダーもない!」

 狼狽える桜達を見た蒼葉は笑い、更に不安を煽る。

『フフフフフフフ、バイバイ。また会える日を楽しみにしてる、日向桜くん』

 蒼葉が唇を舌で舐めると、3人を取り囲むように大量のスレイジェルが出現。灰色の鎧、時計の様な目が3つ張り付いた顔、7つに枝分かれした奇妙な穂先の槍。今までに見たことがないタイプのものだった。

「おい桜、いったんこの場はやるしかねぇ!」

「仕方ない、写見、俺達が変身したら屈んで!」

「は、はいっす!」

 殺到するスレイジェル。瞬間、桜と山神は叫んだ。


「「変身!」」


 リンドウ、《ピュアフォーム》と、ホウセンカ、《グランドフィスト》が、殺到した全てを打ち払った。



続く

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