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5.混血の同胞

 里を出た俺は、過去の記憶を頼りに街を探した。

 父と母と共に各地を巡った記憶は、今でもハッキリ覚えている。

 大切な思い出だから、忘れないように何度も思い返していたんだ。

 記憶の中で一番大きくて、人も多かった街がある。

 そこを目指して 里を出た俺は、過去の記憶を頼りに街を探した。

 

 道中、別の街を見つけた。

 行きかう人を見て、心の底からホッとする。


「良かった。世界が滅んだわけじゃないんだな」


 いや、しかし妙だな。

 この辺りは確か獣人種の縄張りだったはず。

 見たところ獣人は一人もいないし、というより人間が多すぎる気が……

 千年の間に、種族同士の関係も変わったのか?

 昔はどこも仲が悪くて、共存なんて夢物語だったのに。


「良い世界……になったのか? それにしては何だが……」


 嫌な雰囲気だ。

 街の活気はあるのに、どこか影を感じる。

 目につくのが人間ばかりというのも気がかりだ。

 加えて、吸血鬼の里の惨状。

 良くないことが起こったのかも……


 ドサッ。


「っ――」


 考え事をしながら歩いていたら、正面から来た人にぶつかってしまった。

 ぶつかった相手は小柄で、フラフラとよろめく。


「す、すみません。ちょっと考え事をしていて――」

「いえ、大丈夫です」


 全身を茶色い布で覆い、顔もフードで隠している。

 声からして、おそらく若い女の子だ。

 フードの隙間から見える肌は白くて、まるで吸血鬼みたいだと思った。

 それに全身を隠している格好は、太陽から逃げていたあの頃を連想させる。


「あ、あの……何ですか?」

「い、いや何でもない」

「……そうですか。じゃあ失礼します」


 彼女はぺこりと頭を下げてから、俺に背を向けて去っていった。

 しばらく俺は、彼女の後姿を眺めていた。

 何となく気になったから。

 活気ある街の雰囲気に溶け込めていない彼女が、昔の自分と重なって見えたから。


「……まさかな」


 その後、街をぐるっと見て周った。

 誰かに話しかけて情報を聞く手もあったけど、謎が多すぎて誰も信用できない。

 千年前ですら、人間は特に吸血鬼を恐れていたし。


「夕日……」


 オレンジ色の光が街を彩る。

 歩いている内に、いつの間にか時間が過ぎていたらしい。

 腹も減ってきたし、眠くもなってきた。

 今日はここで宿をとろう。


「どこが良いかな。まぁ別に適当――」

「――るせぇ! 良いから出ていけ!」

「っ……」


 宿を探していると、唐突に隣から怒声が聞こえた。

 ちょうど探していてた宿屋の看板がある方向。

 扉から出て来た男に、誰かが突き飛ばされたらしい。


「何だ?」


 あの子、さっきぶつかった……


「待ってください! お金ならちゃんと」

「黙れ! お前みたいな薄汚い吸血鬼が泊まる部屋なんて、うちにはないんだよ!」


 吸血鬼?

 今、そう言ったのか?

 あの女の子が――


「で、でも私」

「いい加減にしろよ!」

「あっ」


 食い下がる女の子に怒った男が、女の子のフードを強引に奪った。

 灰色の髪がヒラリと露出する。

 吸血鬼の特徴たる黒い髪ではないことに、一瞬気をとられた。

 次の瞬間、彼女の肌が焼けていく。


「う、うわあああああああああああああああ」

「がっはっはっは! ざまーねぇーな!」

 

 まさか……いや間違いない。

 彼女は吸血鬼。

 しかも、俺と同じ混血の吸血鬼だ。


 俺は歯を噛みしめ、すぐさま彼女に駆け寄った。

 倒れ込む彼女を抱きかかえ、日の光を身体で遮る。


「あ? 何だお前?」 

「う、うぁぁああああ……」

「しっかりしろ! 俺が見えるか?」

「……っ、あ、なた……は……」

「よし」


 意識はあるみたいだ。

 俺より日光の影響が弱いらしい。

 だけど再生も遅くて、ダメージの進行のほうが速いんだ。

 

「待ってろ。確か予備が……あった!」


 俺が腰のポーチから指輪を取り出した。

 中指にはめている物と同じ、日光を透過する指輪だ。

 それを彼女の中指にはめ込む。


「どうだ? 楽になっただろ?」

「え? あ、あれ……何で……」


 彼女は不思議そうな顔で俺を見てくる。

 ゆっくりだけど、焼けた部分も再生してるらしい。

 一先ずは安心だ。


「おいお前、何してんだ?」


 安心もつかの間。

 男がそう言って、俺を睨んでいた。


「こっちのセリフだよ。穏やかじゃないな? 彼女が何かしたのか?」

「あ? こいつは吸血鬼だぞ? 序列最下位の劣等種族だ! そんな奴を庇うのか?」

「序列?」


 何の話だ?

 それに今、吸血鬼を劣等種族って言ったのか?

 どういことだ……


「おい聞いてるのか? さっさと退けよにーちゃん」

「それはできない」

「何だと? まだ庇うのか?」

「当たり前だ。理由は知らないが、同胞が傷つけられているのに黙って見過ごせるか」


 ましてや混血の……俺と同じ存在だ。

 見捨てるなんて出来ない。


「同胞? はっ! なんだお前も吸血鬼かよ! だったら容赦は必要ねーな~」


 ニヤリと笑い、得意げに言う男。

 その後ろから、武器を持った男たちが姿を見せる。


「こいつらはウチの用心棒だ。じゃ、後は頼んだぜ」

「へいへーい、適当に痛めつければ良いんですね?」

「ああ、何なら殺しても良い。どうせ罪にも問われないしな」

「ですね。序列三位の俺たち人間に歯向かったことのほうが罪だ」


 さっきから序列って、何の話だよ。

 混血が自分以外にいたことも驚きだし、色々と聞きたいことはあるけど。


「まずはこいつらだな」

「お? 何だやる気か? いいぜ~ そうこなくっちゃな!」


 用心棒の一人が腰の剣を抜く。

 地面を蹴って跳びあがり、大きく剣を振り下ろす。


「死ねぇ!」

「待っ――」


 女の子が声を上げようとした。

 それより早く剣は振り下ろされる。


「なっ……」


 軽い剣だ。

 素手で簡単に受け止められたぞ。


 受け止めた手のひらから血が流れる。


血壊舞踏(けっかいぶとう)――」

「は?」


 流れた血が形をうねり、形を変えて刃を包み込み、砕いた。

 男の剣は砕かれ、代わりに俺の手には……


血刀(けっとう)

 

 赤い血の刃が握られている。

 

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新連載(再掲載)です!
氷結系こそ最強です! ~氷魔術しか適性が無いなど一族の恥だ! 家を追放された僕は小さくて可愛い大賢者様と修行して最強になりました。今更認められても……もう師匠と結婚すること以外興味ないので~

最後まで読んでいただきありがとうございます!
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ブクマもありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] 同じ目にあわしたいですね とりあえず日光反射で死なない程度に火炙りにお願いします
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