12.試験開始
「書き終わりました」
「ありがとうございます。ではお時間まで待機していてください」
記入事項を書き終えて、受付を離れる。
俺より少し遅れてラルフも手続きを済ませた。
人混みを逆流しなくていいように設けられた専用の出口を通って、広場から立ち去る。
「試験開始まで時間がありますね」
「そうだな。どうする?」
「待ちましょう。特に予定もありませんから」
「わかった。じゃあ適当に休めそうなところを……」
右も左も人だらけ。
ベンチはもちろん開いていない。
座れそうなブロックも占領されている。
広場の隅っこで、日陰になっている場所は開いているようだ。
「あのあたりで良いだろ」
「はい」
建物と鉄柵の間が空いていたのを見つけて、人混みをよけながら近づく。
スペース的には狭いし、足を広げて寛ぐなんて出来ないけど、ほどよく湿っていて涼しい場所だ。
指輪はあっても、日光を浴びる不快感そのものは消えないから、出来るだけ日陰にいるほうが落ち着く。
「よいしょっと」
「その掛け声はお年寄りみたいですね」
「間違ってないしな。現代で千歳超えたたら十分老人だろ?」
「ですね。村のみんなが知れば目を丸くすると思います」
他愛のない話をしながら、時間が来るのを待つ。
その間にも、近くを通りかかる人が大勢いて、コソコソと話声が聞こえてくる。
「おいあれ、吸血鬼だってよ」
「マジで? 試験受けに来たとか馬鹿じゃないの。日に焼かれて死にたいのか?」
「いやでもな。さっき聞いた話だとあいつら普通に日の元を歩いてたって」
「は? そんなん嘘だろ。見ろよあれ、日陰で隠れてるじゃん」
笑い声も一緒になって聞こえてくる。
遠いと内容までは聞き取れないけど、十中八九悪口で間違いなさそうだ。
俺は大きくため息をこぼす。
「もう広まってるのか」
「そのようですね」
「おかしくないか? まだ受付で話しただけだぞ?」
「吸血鬼が試験を受けに来るなんて珍しいこと……なんでしょうね。普通まともなら受けようなんて思いませんから」
その言い方だと、自分もまともじゃないって言っているように聞こえる。
いやその通りなのか。
日の元に出れば焼かれて死ぬ。
にも関わらず実技で外にでる試験を受けるなんて、頭がおかしいと思われるのか。
「見下されているのか、哀れまれているのか……」
「両方だと思います」
「そうか……これは是が非でも合格しないとな」
「はい!」
改めて合格に向けての意思表明をし合った。
後は周りの声を無視して日陰でのんびり過ごし、時間になると大音量で案内が流れた。
筆記試験用に開放された部屋がいくつかある。
受験者は開いている部屋の好きな席に座り、時間が来たら問題用紙が配られる。
俺とラルフも部屋を探して、席を見つけた。
受験者は万を超えているそうだが、その全員を収容できる広さがあるなんて、世界最大の学園は伊達じゃないな。
時間になり、試験問題が配布される。
制限時間は一時間半。
不正行為が見つかれば、その場で失格となり退場だ。
「さて……」
問題の文字はは全て、人間たちが使ってたものだ。
念のために各種族の言葉を覚えておいて正解だったな。
最初の問題は、この国の歴史について。
ラルフから教えてもらったことがいきなり役立つ内容だった。
それが数問続いて、今度は種族のことが問われている。
人類についてがほとんど……吸血鬼は一番少ないな。
それも弱点のことばかりだ。
他の種族、特に人類は良い点ばかり取り上げられているし、一部脚色されている。
人類が魔術師にもっとも適した種族である?
そんなわけない。
ないのだが……ラルフの話だと、現代ではそういうことになっているそうだ。
「さすがに脚色が過ぎるな……」
思わずため息と一緒に言葉が漏れた。
ちょっと声量もあって、試験監督にギロっと睨まれてしまう。
いけない、いけない。
失格になったら終わりだ。
俺は気を引き締めて問題に集中した。
歴史、種族の特徴、魔術、スキル。
後半は俺でも知っていることが多く簡単だった。
ほとんど基礎を聞かれているだけだ。
これは知っていて当然で、ラルフの言う通り筆記試験はあくまでふるい落とし。
本番は実技試験か。
一時間半後――
「それまで。解答用紙を順に回収していく。午後の試験開始までの間は自由行動だ。その間に昼食を済ませておくように」
試験監督の案内に従い、解答用紙を回収。
それから出口に近い席順に教室から出ていく。
「プラム、どうでしたか?」
「問題ないと思うよ。お陰様で歴史についても解けた」
「なら良かったです」
「そっちは? まぁ聞くまでもないか」
「はい。この日のために勉強してきましたから」
手ごたえを語り合い、順番がきて俺たちも席を立つ。
お互いに筆記は問題なく突破出来ていそうだ。
実技試験は午後一時から開始される。
ルール説明と入場に一時間、試験そのものも一時間。
その内容は、広大な訓練場を貸し切って行われるバトルロワイヤルだ。
殺す意外なら何をしても良い。
魔術もスキルも使い放題。
受付時に手渡されたバッジを右胸につけ、制限時間内にそのバッチを奪い合う。
一度でも奪われたら失格となり、最後まで守り抜くことと、より多くのバッチを奪うことが合格への鍵だ。
今回の受験者数は一万と五百五十。
その中から合格できるのは……たったの千人。
ブクマ、評価はモチベーション維持、向上につながります。
【面白い】、【続きが読みたい】という方は、ぜひぜひ評価☆☆☆☆☆⇒★★★★★をしてくれると嬉しいです!
【面白くなりそう】と思っった方も、期待を込めて評価してもらえるとやる気がチャージされます!





