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1.鉄の掟

 世界には数多くの種族が存在している。

 どの種族も個性的で、それぞれに良さがあり、反対に欠点もある。

 誰が一番かなんて、簡単には決められない。

 だけど、最も優れた種族が何なのかは明白だった。


 不老不死の肉体。

 数多のスキルを有し、あらゆる魔術に適性を持ち、底なしの魔力量を誇る。

 弱点は存在しない。

 少数ながら、その気になれば世界を支配することも出来る。

 全ての種族の頂点であり、最古の一族。


 その名を――吸血鬼。


 見た目は人間と変わらない。

 特徴的なのは、ルビーのように赤い瞳と黒曜石のように黒い髪。

 そして肌は、男女問わず透き通るような純白。

 不老不死である彼らには、食事や睡眠は必要ない。

 生きるという行為に制限のない彼らにとって、それらは単なる娯楽に過ぎない。

 何でも出来てしまう彼らの天敵は、退屈だった。

 慢性的に見舞われる退屈を紛らわす何かを、彼らは求めていた。

 故に、退屈を解消するための努力を惜しまない。

 それが成されるなら、何をしてもかまわない。

 

 そんな吸血鬼にも、唯一普遍の掟があった。


 吸血鬼は、他種族と交わってはならない。

 交流は制限しない。

 ただし、身体を混じらわせ、子を生すことは許されない。


 そして、この掟に背いて生まれたのが……


「オギャー、オギャー」


 俺だった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 父の名はデビス、純血の吸血鬼。

 ある日、暇を持て余していた彼は人里に足を運んだ。

 退屈を解消する何かを探す目的もあったが、半分以上は戯れでしかなかった。

 他種族なんて、吸血鬼の足元にも及ばない劣等種族。

 自分たちより劣る者たちが、自分たちの退屈を解消できるはずもない。

 それが吸血鬼たちにとっての共通認識だった。


 そんな中、父は彼女に出会った。

 

 母の名はミリス。

 ただの人間で、小さな町で生まれた女性だった。

 他人から目を引かれるような物は何一つ持っていない。


 自由奔放で天真爛漫。

 他種族から恐れられる吸血鬼を前にして、態度を一つも変えない。

 度胸があるのか、単なるの馬鹿なのか。

 どちらにせよ、そこを父は気に入ったという。

 二人はともに時間を過ごし、恋をして、夫婦となった。

 母の奔放さに振り回されながら、父は日々を謳歌していく。

 退屈の文字は、いつの間にか頭から消えていたらしい。


 そうして、二人は子供を作った。

 父は長らく吸血鬼の里に戻っていなかったが、鉄の掟まで忘れたわけではない。

 母も父から聞いて、掟のことを知っていた。

 それでも二人は、子を成す道を選んだ。

 理由は互いを想い。

 永遠を生きる吸血鬼と、僅かな時の中でしか生きられない人間。

 いずれ必ず別れは来る。

 父は母のために、互いの愛を形に残したかった。

 母は父のために、自分がいなくなっても、彼と共に生きてくれる存在を残したかった。

 後悔はなかった。

 例え掟に背いて罰を受けようとも、互いの想いに応えられたのなら本望だと。


 だが、掟には必ず理由がある。

 破ってはならないならないから、掟は守られる。

 それを実感する機会は、すぐに訪れた。


 ある日、晴天にて――


「ぅ、あああああああああああああああああああ」

「な、なんだこれは!?」

「プラム! プラム! どうして? ねぇ貴方、プラムの身体から炎が!」


 日の光を始めて浴びた瞬間、幼い俺の身体は燃え上がった。

 生まれて間もない赤子だったけど、その時の痛みは激しくて、強く記憶に刻まれている。

 全身が文字通り炎に包まれて、焦げて、溶けて、消えてしまいそうだった。

 慌てて二人は日陰に入り、父が魔術で炎を消すと、俺の身体はすぐに再生して事なきを得た。

 その後、父と母は調べた。

 俺の身体に何が起こったのか、その原因を。


 結論は、弱点の発現だった。

 

 太陽の光に弱い。

 炎に弱い。

 聖なる力に弱い。

 十字架に弱い。

 鉛に弱い。


 完全無欠で弱点などないはずだった吸血鬼。

 しかし人間と混ざり合ったことで、隠れていた多くの弱点が露出してしまった。

 無限の魔力に数多のスキル……吸血鬼としての特性はもちろんある。

 だが、それ以上に弱点の存在は大きな足かせとなった。

 日の元を歩くことは叶わず、食事や睡眠という生命維持に必要な行為もしなければならない。

 不老不死ではなく、限りなく不老不死に近い存在となった俺には、父と違い死の概念が存在する。


 二人は早々に理解した。

 なぜ固く掟で禁じられていたのか。

 この掟を作った者は、きっと知っていたのだ。

 吸血鬼の血に、他の血が混ざることで何が起こるのかを。

 それを理解した上で、二人は俺を守るために尽力してくれた。

 少しでも弱点を補い、普通に暮らせる方法をないとかと。

 しかしそんな二人を……いや俺の存在を、周囲は認めてくれなかった。


「あそこの子供……太陽の下に出れないそうよ。何でも焼かれてしまうそうなの」

「それってまさか、悪しき存在だからじゃ」

「きっとそうに違いないわ」


 最初は小さな噂でしかなかった。

 それがどんどん大きくなり、尾ひれがついて広まる。

 噂は人々の恐怖と不安を煽り、俺たち家族を村から追い出した。

 それから俺たちは、各地を転々として生活した。

 どれだけ蔑まれようと、石を投げられようと。

 二人は俺のことを、必死に守ってくれた。

久しぶりのハイファンタジーです。

楽しんでいただければ幸いです!

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新連載(再掲載)です!
氷結系こそ最強です! ~氷魔術しか適性が無いなど一族の恥だ! 家を追放された僕は小さくて可愛い大賢者様と修行して最強になりました。今更認められても……もう師匠と結婚すること以外興味ないので~

最後まで読んでいただきありがとうございます!
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ブクマもありがとうございます!

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