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やがて再び神となる少年は恋愛に夢を見すぎている   作者: ゆうと
第Ⅰ章:アカデメイア
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第8話:幸福な試練

 




 世界は、、、こんなにもどんよりしている。

 

 朝一番で学長室とは、、、初パターンだ。

 父さんと母さん、学長の北斗おじさん。

 そしてヘンゼルさん。エルフ族の天才で、多くの同族から慕われている。

 救星の一人なんだけど。ハッキリ言って、とっても怖い姉ちゃんだ。超絶綺麗だけど。

 実はちょっとオレは苦手。ヘンゼルさんは頭が良すぎる。だからこっちも何を話していいのかわからない。

 何よりヘンゼルさんは無駄なことは話さない。

 論理的でない会話や合理的じゃない時間の使い方は大嫌いらしい。

 つまり、子どもの相手は苦手だってこと。ガキだった頃、ヘンゼルさんはうちの家族と一緒に旅をしていたことがある。その間、ヘンゼルさんはオレにずっと超塩対応だった。今も昔も超絶綺麗だけど。

「光属性の精霊を一斉召喚をしたのね?」

「しました」

「光精霊の召喚はこの世界に残されていた【偉業】の一つなのよ」

「…… はい」

 存じ上げております。

 オレだって試しにやってみただけだし。そしたらできちゃっただけだし。

「それをあなたが達成した。間違いない?」

「間違いございません」

 じっと瞳を見つめられる。

 やっぱり超綺麗だ。短めに整えた金色の美しい髪。色白い肌に映えるエメラルドの瞳。まるで暗闇に浮かぶ半月のように魅惑的だ。 

 見つめるだけで癒されるような。高貴すぎて萎縮するような......

「学長。後でコロシアムをお借りしますね」

「それは構いませんが」

「実際に精霊を召喚してもらいます」

 なるほど。

 検証役ってわけか。

「大和とクルルに質問。陸人くんは?」

「あぁ。同属性の二重弱点化による虚弱性疾患―【二重症】」

 それが今朝改善されたこと、その理由が精霊憑依にあること、憑依したのは光属性のペガサスであることが伝えられた。

「これも【偉業】ね」

 無感情な表情で確認される。

 ちいさく知ってますと答えた。

 試しに光の精霊にお願いしてみただけだし。やってくれたのは光の精霊だし。オレが達成したわけじゃないし。

 無言で見つめて訴えてみるけど、ヘンゼルさんには通じない。端的に説明しなさいと言われておしまいだ。

「精霊が憑依して陸人に調光の膜を同化してくれました」

「なるほど。合理的ね」

「徐々に体質改善も見込めるようです」

 お茶をゆっくり味わって。超絶美女は小さく頷いた。

 どうやら美味しかったらしい。

「私はね。同じ症状に苦しむ人に薬学的なアプローチを採ってきたわ」

「そうですか」

「時間の無駄だったようね。でも今後の無駄が省けたわ」

 淡々と告げる表情には感情が見えない。

「お役に立てて何よりです?」

 この回答で正解なんだろうか。表情が読めない...... まったく。

「偉業が同日に二件。さすがあなたたちの子ね」

 あ、回答スルーされた。

 父さんと母さんが苦笑して、ガキに振り回されるのは悪くないって笑ってる。

 北斗さんも一緒になって苦笑してる。

「学長。コロシアムは止めておきます」

「よろしいので?」

「えぇ。ダンジョンに行きます。息子さんは預かるわね」

「え?」

 ヘンゼルさん何て?

「あぁ。任せる」

「え?」

 父さん?

「カイト迷惑かけちゃだめよ?」

「え?」

 母さんも?

「じゃあさっそく。時間を無駄にしないで」

「え?」

「行くわよ?」

「……はい」

 ということになった......




 +++




 洞窟のダンジョン第六層。ヘンゼルさんと二人っきり。

 これはもう超絶美女とダンジョンデートだ。そう思って楽しむことにしよう。

 会話を楽しみながら歩こう。

「ヘンゼルさん、、、なぜダンジョンに?」

「あなたを試すため」

「試す?」

 確認ではなくて。試すと言ったよな今。

 なんとなく嫌な予感がする。

 でもどうやら答えてはくれないらしい。ヘンゼルさんの中で会話は完結したってことなんだろうな。

「お腹すきましたね~」

「…… 」

「ダンジョンに飯屋でも開こうかなぁ」

 無反応だ。

 どうやら無駄な会話と認定されたっぽい。

 ふと立ち止まったヘンゼルさんは、無感情の表情を浮かべたまま口を開いた。

「光の精霊で弟を治せたのは偶然?」

「はい、、偶然です」

「論理的に思考し未来を確定できると判断して実行した。違う?」

「や、、えっと」

「症状の的確な分析と対応策の構想ね」

「……ありがとうございます」

「これは確かな知識や思考力の産物。それを偶然で説明するの?」

「ヘンゼルさん、、、質問が難しいです」

 困った表情を浮かべてみるけど、全く通用しない。

 全てを見透かすような視線に、汗がとまらなくなる。

「自分を偽るのは止めなさい」

 そう言い放って、ヘンゼルさんはスタスタと歩いていく。

 これ以上の問答は無意味と判断したに違いない。


 それにしても不思議だ。

 まったくモンスターが襲ってこない。

 まぁ仮に襲ってきたとしても、ヘンゼルさんに勝てるレベルのモンスターはいないだろう。

 ここは浅い階層だし。

 特に会話もないまま。そして敵との遭遇もないまま。中層の大広間に到着した。

 広大なスペースに天井からの鍾乳石、、、まさにダンジョンっぽい。

「敵がでないわね」

 仕方ない、そう言ってヘンゼルさんはオレと距離をとった。

 そのまま呪文を詠唱しシールドを展開する。

「あの、、、ヘンゼルさん??」

「仕方ないわ。私が相手になる」

「へ?」

「あなたはSランク。私もSランク……」

 無表情のまま杖を掲げた。

「――っ!?」

 背筋がぞっとして後ろに飛び下がる。

 オレの判断は間違ってなかったようだ。

 地面に落雷し、オレの足跡を焦がした。

 周囲が焦げ臭いのは、攻撃がかすった服のせいだろう。

「…… マジですか?」

「いい勝負になりそうね」

 救星の魔導士ヘンゼル。

 呪文を戦略的に組み合わせる天才魔導士。しかも、超高速詠唱の達人。

 その人が今、オレに開戦宣言をしたわけだ。

「開幕に歓喜せよ。滅びの音は我のもの。滅びの声は汝のもの……【ファウスト】」

 超短文の身体強化魔法。

 唱えながら腰を落として構えをとる。

 ヘンゼルさんに長文詠唱魔法で勝てる気がしない。ここは肉弾戦に賭ける。

「何をしているの?」

「うわっと!?」

 ヤバい…!

 迫り来るシールドの群れ、、、いったい幾つあるんだよ!?

 地べたを転がっても、、、やっぱり全部かわしきれない。

「クソっ」

 眼前に迫ったシールドを拳で殴りつける。

 シールドと拳がぶつかる鈍い音が響いて、、、拳が勝利した。

 粉砕されたシールドが消え去っていく。

「やるわね」

「へへへっ」

 完全にまぐれだけど。

「笑ってる場合なの?」

 クソ!いつ詠唱したのかわからない......

 巨大な水球がヘンゼルさんの頭上に浮かび、、、水龍の形状になっていく。

「いくわ…… 【水龍の舞】」

「ちょ、、、っと!?」

 三又の龍。

 それが大きな口を開けて襲い掛かってくる。

「第一の龍。視界を奪う」

 直撃を交わしたのに。水龍が爆散した。

 高温の水蒸気に全身が飲みこまれる。

「熱ぃ、、、」

「第二の龍が体を縛る」

 考える暇もなく水龍が巻き付いてきた。

 手足が水にめり込んで重くなる。

「第三の龍…… 汝を喰らう」

「くっそぉぉおおおお!!」

 どこかの筋肉がちぎれるような音がするくらい、、、拳に力を込める。

 まとわりつく水龍を引きちぎり、、、、ギリギリのタイミングで第三の龍の鼻っ柱に拳を叩きこむ。

「しゃあぁぁぁぁ!!!」

 水圧に負けじと腹に力を籠めて、、、拳を振りぬいた。

 水しぶきが爆発音とともに室内に広がって、、、ヘンゼルさんが笑う。

「第三の龍。止めたのはあなが二人め」

「はぁ、、はぁ、、、、はぁ、、」

 ヤバい……

 ヤバすぎますよ。

 その笑顔。超綺麗すぎて直視できません。

「痛っぅ、、、、」

 水龍を殴った拳と腕が悲鳴を上げた。

 骨が折れているかと思ったけど…… 大丈夫そうだ。指も動く。

 ただ、、、涙が出そうなくらい痛い。

「穢れなき心が汝を救い汝を癒す……【ヒール】」

 ヘンゼルさんの回復魔法が痛みを緩和してくれる。

「ありがとうございます」 

 無表情のまま頭を撫でてくれた。労ってくれてるつもり、、、なんだろうか。

 しかし撫で方がひどい。首がぐわんぐわん揺れ動く。力入れすぎです……

 どうせならさっきの笑顔を見せていただけると嬉しい。

「スコアカード正しかったわね」

「……はい」

 こんなのもう、認めるしかない。

 Sランク、救星の魔導士ヘンゼルさんの魔法に対処できる身体。

「あなたのスコアは今、この星で三十番めに高い」 

「そんなに、、、ですか?」

「あくまでもスコアカード保持者に限った話だけどね」

 そっか。カードを持っていない強者もいるかもしれない。

「つまりアカデメイアに在籍する必要はないわ」

「え?」

 それは、、、困る。

 寮に入って、女子と仲良くなって、、、恋愛がしたい。

 できたらナナちゃんと。

 まぁ無理だってのはわかってるけど。

 あと、いろんなイベントを楽しみたい。

 三バカ兄弟もだ。一緒にもっとバカやりたい。

 ここは頑張って在籍し続けよう。

「そして光の精霊」

 そうだった。もう一度召喚できるかを試さなきゃいけないんだっけ。

「あなたを守るために常に控えてるようね」

 ヘンゼルさんが右手の袖を捲った。

 白くて美しい腕にうっすらと血筋が走っている。

「光の帝位精霊?」

『あぁ』

 その問いかけに応えたのは……光だった。

 周囲の光が寄り集まって光球になり空中に浮かぶ。

 古代の書物に記載があった、、、そう言ってヘンゼルさんがうっすら笑った。

「帝位?」

「えぇ。彼らは上から二番目の高位にいる精霊とされているわ」

 光球は無言でオレの両脇に控えた。

「あの、、、、お名前は??」

「主よ。我らに名はございません」

 帝位精霊は存在であって個体名はないらしい。

 どういうことだ??

「水は水、風は風、火は火という存在。彼らに光という存在名はあっても個体識別名はないということね」

 ふむ。全くわからない……

 でも名前がないなら付けてあげよう。

「アーサーとガウェインなんてどう?」

 陸人が教えてくれた物語の登場人物だ。

 すると球体が震え……明るくなっていく。

 光のモヤから現れたのは少年時代のアーサー王と聖騎士ガウェイン。

 オレが陸人の話を聞きながら想像していた姿にそっくりだ。

「これは、、、興味深い現象ね」

 二体の帝位精霊が具現化像を付与されたと、またも難しい解説のヘンゼルさん。

 でも、今日一番の笑顔で微笑んでおられる。尊い......

「我らは御身の剣と盾。常におそばに……」

 言葉より速く二人は光になり消え去った。

「消えた?」

「正確には違うわね」

 ヘンゼルさんが言うには、周囲の光が彼らそのもの、らしい。

 名を呼べば先の姿を象って現れるだろう、とのこと。

 なるほど。

「あ!? ひょっとして……」

 ナナちゃんって名づけたらナナちゃんになってた?

 いや、さすがにちょっと我ながらキモイ発想だなこれ。

 止めておこう。

 でもどうせ増やすならイケメン二体じゃないよな。美少女二体にしとけばよかった......

 やり直しできないかなぁ。

 さすがに無理だろうなきっと......

 それに、「ごめん美少女にチェンジして!」って頼むのは…… 我ながらキモイ。

「バカなこと考えてないで帰るわよ」

「ひゃい!!」

 な、なぜわかったんです?

 オレの心が読めるんですか??

「大和そっくりね」

 表情で考えていることが筒抜けらしい。

 なんて笑えないジョークなんだ。

「…… 似てない、です」

 ムスッとした顔で抗議する。

 すると証明終了と、なんだか楽しそうにヘンゼルさんは微笑んだ。 

 けどその笑顔は一瞬で消え去ってしまう。

「……嫌な気配ね」

「え?」

「気のせい、、、だといいのだけど」

 ダンジョン脱出魔法がいつの間にか発動し、入り口に辿り着く。

 超高速詠唱、おそるべし。

「私はもう一度ダンジョンにもぐる。大和に‘星外’と伝えて」

「あ、、、」

 声をかける間もなく姿が消えた。

 移動の魔法を使ったんだろうか。 

「アーサー、ガウェイン」

「ここに」

 音もなく二体の精霊が姿を現した。

「ヘンゼルさんを追いかけて。何かったら助けてくれる?」

「承知しました」

 こちらもあっという間にいなくなる。

 光の帝位精霊、たぶんとんでもなく強いだろうし。

 それにヘンゼルさんも強いし。

 多分、大丈夫だろうな。


 





今日もありがとうございました。


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