第76話:ボーナスステージ
本日の天気は、快晴。雲一つない。
そんな第六層。
このフロアも水面、水面世界だ。膝より少し上くらいの深さをほこる巨大な湖が、永遠と広がっている空間。
晴天なこともあって、ここでバカンスを楽しめたら最高だろうとすら思うような、透明度の高い湖。水中には可愛い大きさのカラフルな魚さんたちや蟹さんたちが居て、眺めるだけでも癒される。
「カイト! 行くぞ!」
「おぅ!」
こんな素敵空間に登場する敵は、巨大なイカさん。クラーケンっていうのかな? 二十メートル前後くらいの大きさで、ニュルンニュルンしておられる。
大タコさんと同じように、体力や守備力は高め。
でも、リズムとパターンは比較的単調。既に十戦目に突入しているオレとハルルは、とっくの昔にイカさんのパターンを解析済みなのである。
「くっそ……うぜぇ!」
ふむ。
またもご立腹モードのハルルさん。
でもまぁ、その理由は明快なわけだ。
なにせイカさんたちはみんな、ちゃんと網タイツを装着しておられる。
ふむ。
一体、どういった経緯でこの装備になったのかは不明だけれども。深く考えないようにしている。なにせこの世界には知らない方が良いこともたくさんあるのであるからして。
「っしゃあ! こいつで……フィニッシュだ!」
「おぉ!」
正拳一撃。
ハルルとオレの拳が、巨大イカさんの胴体にめり込む。グニュリとした感触の奥で、硬い核に拳が触れるのが分かる。
「ぐぅぅぅっ」
核が砕けるのと同時に、イカさんが唸り声を上げる。ピクリピクリと巨体が揺らいだ後、霧散して消えた。
「ふぅ……お疲れ!」
「おぅ! カイトもな!」
ハイタッチを交わして勝利の余韻を共有する。
この瞬間は、いつだって心地いい。
……でも、今回のダンジョンは、いつもとちょっと違う。
初見の敵とバトルする時は、めちゃくちゃ緊張するし、興奮するし。だから勝つとめちゃめちゃテンション上がる。
でも、二度、三度と、同じ敵と遭遇すると、飽きると言うか……。勝利がもたらす効力感も、その余韻も、回数を重ねるたびに低減していく感じなのである。
命や財産をかけて戦うダンジョン。ここでの勝利に不満を覚えるなんて、不謹慎かもしれない。
チラリとハルルの表情を確認すると……なんとも微妙に頬を歪めたまま、湖面に映る自分を眺めてる。
「……なぁ」
「……おぅ」
「「微妙だよなぁ」」
どうやらハルルも、同じ境地に辿り着いたらしくて。互いの顔に浮かんだ苦笑を見つけて、また苦笑を浮かべあう。
「なんかこう、な? もうちっとよぉ……緊張感っていうのか? 欲しくね?」
「そうそう! わかるわかる!」
「相手の攻撃パターンとリズムが分かっちまえば、後は、作業って感じなんだよなぁ」
「だよなぁ」
「まぁ、バトル相手のいる修練……型の反復練習だと思えばいいんだろうけどよぉ」
「そうそ……えっ」
また、アレだ。
「どうした?」
「……な、なんでもない」
水面にただようドロップアイテム……網タイツさんを見つけただけですとも、えぇ。
「あっそ。てかまぁ、タコとバトルした後は焦ったけどよぉ。パターン化するって思えば、たいしたことねぇし。この調子なら、俺らで次の階層も軽々と攻略できそうじゃね?」
「だな!」
「あとまぁ気になると言えば、バトル環境だな」
「そうそう」
このダンジョン。階を進むごとに、湖が、徐々に深くなってる。
このまま深くなって。いずれ腰元まで水で覆われるような環境になれば、かなり面倒なころになるだろうな。こちらが動きにくくなる一方で、水生生物系の敵にとっては、動きやすくなるわけだから。
「ん? この階層……条件を満たしたっぽいな」
ハルルの視線の先、二百メートル。
そこに、デデンとそそり立つ巨大な旗が現れた。高さ三十メートルはありそうな旗に、【フロアボスなう】とカラフルな発光文字が書かれている。青や赤、黄色に紫、ピンクへと……文字の色が次々に変化していく。お? 花火も上がったぞ? どんだけ来て欲しいんだよ……。
「ど派手だな」
「過去一じゃね?」
「ハルルに同意」
フロアボス登場の条件は、ダンジョンによって異なる。厳密にいえば、同じダンジョンであっても、階層によっても異なる場合が結構ある。
多くの場合、何かしらの条件を満たした後、ボスの空間へと続くサインが現れるのである。今回はどでかい旗だったけど、ダンジョンの壁面の色が変わったり、急に地面が割れたり、巨大なブラックホールみたいなのが空中に浮かんだりと、演出は様々。
「今回の条件は何だったんだろ?」
だいたいは、フロアの敵を何体か倒せとか、フロアに秘められた謎……暗号の解読が多いけれども、それをみんなで解けとか、そういったパターンが多い。
「敵を連続で三体倒す、とか?」
「かつ、合計十体以上、とか?」
「なるほど。それっぽいな」
ちなみにフロアボスの部屋は、回避できるパターンと、次の階層に進むために回避できないパターンとがある。
回避できないパターンのやつは、扉が黄金だからわかりやすい。
その扉が出たら、覚悟を決める必要がある。なにせその扉の奥には、次のフロアに進むための試練としてのフロアボスがドヤ顔でお待ちかね状態なのであるからして。
もちろん負けてしまえば、強制的にダンジョンの外に放り出される。そして、所持品のうち、何かひとつをランダムに失うことになる。
回避できるパターンのやつは、扉が黄金以外でできてる。
こっちは、いわゆるボーナスステージってやつだ。当該フロアの敵より強めのボスが出てくるので、通常よりも良さげなドロップアイテムが期待できる。
ちなみにこちらも、負けてしまうと所持品を失う。しかも、ごっそり持っていかれてしまうのである。少なくとも確実に、所持品の半数以上が失われるのだから、多くの冒険者が判断に迷う。
まぁ、よほど腕に覚えのあるパーティでもない限り、中層以上のボーナスステージは、スルーしがちなんだけど。
ぶっちゃけ、一生懸命頑張って集めたアイテムとか、コツコツと貯めたお金でやっと手に入れた装備品なんかが失われるリスクを考えると、ボーナスステージは、ギャンブル性が高すぎるんだよなぁ。
だから、ボーナスステージに挑戦するなら、低層に限る。
ドロップアイテムも、低層の敵の物なら、また集めればいいやってメンタリティになるし。低層なら、ボーナスステージとはいえ、ボスキャラも、中層に出てくる一般の敵以下の実力だから、勝算が高い。
つまり、ここ低層のボーナスステージは、腕に覚えのある冒険者にとっては、重要な稼ぎ場ってことになる。
そう。
普通なら、そう。
でも、今回のダンジョンは、これまでのルールを変更してる節がある。なにせダンジョンの序盤から、中ランクのパーティが苦戦する事態なのであるからして。
ふむ。
あのど派手な旗の辺りにあるボーナスステージも、これまでのルールを無視してるかもしれない。ひょっとしたら、むちゃくちゃ強い敵が出てこられる可能性もゼロではない。
「どうする? 挑戦してくか? してくだろ?」
嬉しそうに笑いながら肩をぐるぐる回して、旗に向かい歩み始めた友。その背を止める気は、オレにもないけれども。
「はいはい、お供しますですよ」
ニヤニヤ笑いながら、ハルルを追い抜く。
「待ちやがれ!」
「待ちませ~~ん? んん?」
おや?
「到着? したな?」
二百メートルの距離を、一瞬で移動。
こんなことができるのは……
「……ガウェインでしょ? 力を貸してくれた?」
「はい」
光の粒が集まって、片膝を付いたガウェインが顕現する。
今日も今日とてイケイケしておられる光の帝位精霊さんは、どうやらそろそろ、ウズウズしてきたようだ。
「ありがと! 助かったよ!」
「恐縮です」
頭を下げた姿勢のまま光の粒へと姿を変えていくガウェイン。その神々しさは何と表現していいのかわからない次元に達しておられる。
「しっかしイケメンが過ぎるよな、ガウェイン殿は」
「ハルルに同意」
「なんであんな高貴な精霊が、お前のことを主扱いしてるわけ?」
「召喚者だから?」
「いやまぁ、そういうことじゃなくてだな」
「なんだよ?」
「……はぁ。やっぱいい。気にすんな」
階層主の部屋へと続く扉は、縦横三メートル程。
溜息交じりのハルルが、扉の表面を撫でる。
「てか、細工がすげぇ」
「だな」
カラフルな扉の表面に彫刻されたクジラとイルカ、それにタコとイカ。深海の一場面を切り取ったようなリアルさは、見ていて飽きの来ない美しさだ。
それに……美しい。
「この……人魚の彫刻。すげぇな」
「……おぅ」
等身大っぽい美女人魚さんの彫刻。
海中の岩場に腰かけた姿勢の人魚さん。その御胸が、全開ノーガードなのである。
「どれどれ……」
むんずっと、両手で人魚さんのお胸をわしづかみにしたハルルが、瞳を大きく開いた。
「これは……」
「どうしたんだよ?」
「いや、マジですげぇ。この感触……本物みてぇだ。海人族特有の……もっちりとした弾力。それにこの、皮膚に吸い付くようなしっとり感……やべぇなこれ。永遠に揉んでられる……」
「……マジで?」
永遠に?
「マジマジ。俺が揉んできた数々の胸の中で、確実にベスト5に……いやベスト3位もありうるか? いや、どうだろ? サーシャが圧倒的1位なのは確定として、その妹のアリシャの感触には勝てねぇけど……その従妹の双子姉妹ルーイとアーイ……あいつらと同等の感触と言えなくもねぇか?」
なにそのおっぱい血縁。
てかモテ男ハルルのランキング上位独占するってどんなだよ……。
いや、待てよ?
…………………………………ふむ。
この扉を触ってみれば、そのサラブレッドがどんな感じなのか判明するわけだな……。
「気になるみてぇだな?」
「はっ!?」
いつの間にかオレの両手が扉に向かってる、だと?
なんてトラップ……恐ろしい子。
「べ、別に! 別に下心じゃなくて! これはあの……そう! 純粋な! 学術的興味関心! それに他ならないのであるからして! てかその笑顔を止めろ! 今すぐストップ!」
ニマニマすんなし!
「いいからほら……触ってみ? 気持ちいいぜ?」
「……いや、だってだってオレはほら、だってだって恋人がいるわけだし」
「は? これ彫刻だぜ? 扉だぜ? 触ったからって浮気にはなんねぇだろ?」
ふむ?
「てか、これで揉む練習しとけばよくね? その大切な恋人のために」
ふむふむ…………ふむ。
「友よ!」
完璧な論理武装です。ありがとうございます。
「おぅ! ってことで、ほら? こんな感じでよ? 思う存分、揉んで揉んで揉みまく―――……」
ふむっ!?
「……なんか悪ぃ」
「別に?」
扉が消えて、光の渦が前方に現われた。
どうやら、人魚の胸を揉み続けると扉が開くって仕掛けだったらしい。
いや、胸以外でもよかったのかもしれない。一定時間、扉の表面に触れておくことで開く仕掛けになってたのかも。
「……行くぞ」
「カイト……泣いてね?」
「全然? 全然ですけど? ほら、さっさと行くぞ!」
ふむっ。
+++ +++ +++ +++
扉の向こうは……別空間。
まず、体が空中に浮く感覚があった。
足場を失って冷や汗をかいたのも束の間。
次いで直ぐに、ドボンと大きな音がした。
「「っ!?」」
水中に落下したと気づくやいなや、慌てて酸素を求めて浮上して。
「「ぷはぁっ」」
水面から顔を出したハルルと視線を交わして、互いの無事を確認する。
「水中戦か」
「っぽいな」
さっきの美しい扉。そこに描かれていた海中世界の様子。あの絵はどうやら、階層主とのバトルフィールドに関するヒントだったらしい。
「ハルル、水中でどれくらい活動できる?」
「潜ってるだけでいいなら十分弱。水中で動くなら五分弱ってところか」
「オレも似たようなもん」
「バトルしたとしても、長くはもたねぇな」
「……だな」
海人族は水中でもある程度の呼吸が可能だ。なかには、数日間ずっと海中生活ができるタイプの海人族もいるんだとか。
でも、残念ながら海人族以外には、水中呼吸が許されていない。体にそういう機能がないからだ。
肺の酸素がゼロになるまでに敵を倒さないと、こちらの敗戦が確定してしまう。
「しかも相手の攻撃パターンを解析して、リズムよく、テンポよく、隙をつかなきゃいけないとか……」
「難易度バグってるな」
「カイトに同意」
新米パーティなら敗戦確定だろ、こんなの。
海人族がたくさんメンバーにいれば、勝機はあるかもしれないけど。例え海人族がパーティにいたとしても、水中戦の経験が豊富な奴は、新米パーティには少ないだろう。
「……マジでやべぇ」
離脱するか?
地上に出てからもう一度、ダンジョンに潜り直せばいい。
それとも、今ここで戦うか。
それなら精霊を召喚する方がいいだろう。水の精霊の力を借りれば水中でも素早く動けるかもしれないし、ボスへの攻撃要員増も、期待できる。なんなら代わりに、ここのフロアボスと戦ってくれるかもしれない。
けれど、ハルルはもたないかもしれないな……。
もしバトルが長引けば、ハルルといえども精霊の神気にあてられてしまうだろう。
「カイト? どうする? 一時撤退もありな流れじゃね?」
ふむ。
確かに。
「オレもありだと思う」
ハルルも、ここで無理するのは非効率だと判断したっぽい。
今回は金稼ぎ……ドロップアイテム回収が主目的ではないし。
まぁ、オレは借金王だけれども、このフロアのドロップアイテムを手に入れられたとしても、焼け石に水だろうしなぁ。
「ボーナスステージだしよ。今なら撤退できるだろ?」
「おぅ」
もちろん、手元にあるアイテムをごっそりもっていかれるけど。
でも今、たいしたものは持っていない。オレが持ちこんだのは保存食と桜餅くらいのもんで、装備品も大したものじゃない。
「所持品とか装備品とか、なくなっても大丈夫か?」
「問題ねぇ。保存食と薬草類くらいだ」
「よし」
その程度なら、失くしたとしても、たいした損失じゃない。
「ここは撤退。すぐに再突入しようぜ!」
「異議なし!」
「よし! じゃあ撤退!」
この場合、脱出用のアイテムを使うか、魔法を使うかの、二択。
今回アイテムは持ってきてないから、魔法一択。
「憩いの場に満ちるは女神の慈愛と男神の酒杯なり……【撤退】発動!」
ふむ!
これでいい感じに景色が入れ替わって。ダンジョンの入り口付近に転送されることになるのであるからして。
そのまま再突入して、今度はボーナスステージを無視すればよいのである。
ふむ!
「……おぃ、カイト」
……ふむ。
「……マジか」
転送されない、だと?
「えっと、憩いの場に満ちるは女神の慈愛と男神の酒杯なり……【撤退】発動!」
ふむ!
「やっぱ……ダメっぽいな」
「詠唱文、間違ってないよな?」
「ねぇよ」
まさかまさかの……撤退できない仕様?
「カイト、どうする?」
「……ちょっと待てくれ」
困ったときには、神様に聞くのが一番なのであるからして。
『おぃ! 引きこもり神! 見てるだろ? 暇だろ?』
『ふむ? 我は今、人形づくり中で超絶多忙なのだが?』
『暇じゃねぇか。てか今、脱出魔法が発動しなくて困ってるんだけど? なんか知らねぇ?』
『……ふむ。どうやら……設定を変えられてるっぽい。階層主のフロアからは脱出不可だな』
『マジか……』
『ふむ。でもまぁ、確かにそういう設定もありだよなぁ。いったん戦って敵の強さを知らないと、攻略……対処が困難だし。そこ飛ばしてばっかだと冒険者も成長できないしなぁ』
『なるほど……成長か。そういう視点で考えると、撤退ばっかりしてても意味ねぇな』
『だよなぁ』
『わかった! 情報提供サンキュ!』
『おぅ! 頑張るがよいぞ!』
『おぅ!』
よし。
成長成長っと。
「カイト? 例のアレか?」
「おぅ。神からのメッセージ。どうやら脱出不可の設定になってるっぽいぜ」
「なるほどな。仕方ねぇ、消耗する覚悟を決めて……戦うか」
「おぅ!」
「ならまずは俺に任せてもらうぜ?」
「どうする気だ?」
「お前がふわふわしてる間に潜ってみたが……このフロア、水深五メートル弱ってとこだ」
「なるほど?」
それで?
「で、お前がふわふわしてる間に、フロアボスを目視した。二十メートルの距離を保って周回してやがる。巨大なサメがな?」
てかふわふわって何?
引きこもり神と交信してる状態のこと?
そん時、ふわふわなのオレ?
いやだからふわふわって何?
「だからいったん、割る」
「え?」
なんて?
「いったん、この湖の水を割る」
「は?」
水を、割る? 酒の水割りじゃないよな?
だって湖を割るって言ったもんな? いや、湖を割る? そう仰いました? とんだ脳筋発言ですよそれ? 大丈夫?
「だから、水を割る。サメなら、水がなきゃ動けねぇだろ? そん時にフルボッコにすれば勝てるだろうぜ? リズムとか無視して殴り続ける……ククク」
ハルルさん?
お顔が怒エスになっておられますよ?
「ただ、これだけの水量だ。すっげぇ疲れる。俺様はしばらく動けねぇ。だからフルボッコはお前に任せるぜ?」
「……了解」
割る、ね。
どうやら本気らしい。
「じゃあ、ちょっと空に浮いとけ。頼んだぜ? ガウェイン殿」
「承知した。主、失礼をお許しください」
「おっけ! 頼んだ!」
ガウェインに抱きかかえられて、水面から離脱。そのまま移動して、ハルルから少し距離を取って、上空で待機。
オレの避難を確認したハルルが、ニヤリとほほ笑んで。
それから右拳を天に捧げながら……オーラを解放した。
「……おぉ」
ハルルから、どんどんオーラが舞い上がる。
フロアの天井に届かん勢いで上昇を続けているオーラが、やがてじわじわとまとまって……水竜を型どっていく。
「……すげぇ」
首回り十メートルはありそうな竜。
周囲の水が渦を巻いて……巨大なうねりを起こして……フロアの水がまるで竜巻によって上空に巻き上げられるように天を舞い……竜の巨大な体を、どんどん形成していく。
「……マジか」
「見事なものです。さすがは竜人族ハルル殿……超越者に迫らんとする者」
天を舞う竜が大きくなればなるほど、フロアの水位が低下していく。
見た感じ、フロアの水位は三分の二程になってる。
フロアボスも慌ててハルルから距離を取ったようだけど……水位が低すぎて、既に背びれを水面下に沈められないっぽい。
「偉大なる守護神ラグナよ! 我が力を! 我が技を! ご照覧あれ!」
ハルルの咆哮は、きっと天界におわす神々にも届いただろう。
オレが神なら、絶対に見逃さないもん。
この美しくも偉大な技を。
ここまでの水量を操るハルルの修練……その成果を。
「我が竜気よ! 咆えろっ!」
ハルルの命ずるまま……竜の顎が大きく開かれる。
「奥義……【水竜咆哮】!」
一瞬の静寂。
そして巨大な破裂音。
巨大な竜が、フロアボス付近めがけて顔面から降りていく。
その勢いに抗う術もなく、爆散する湖の水たち。空から巨大な石が落下したように……水が円状に波打ちだって……湖底が露わになった。
「今だ!」
「承知!」
一瞬でボスまで距離を詰めるガウェイン。
「精霊憑依! モード…」
ガウェインと一体となる瞬間は、心が温かくなる。今のオレなら、なんだってできる。
「…剣闘士!」
両拳に光のグローブを纏い、両足に光の渦を漂わせる。
水を失った湖底でバタつくフロアボスを蹴り上げて、上空で全身をくまなく殴り……また蹴り上る。
「シュギャアーーー」
雄たけび一つ。
ドロップアイテムも一つ。
それを上空で握りしめた瞬間。
転送開始。
落下したのは、砂浜で。どうやらここは、湖に浮かぶちょっとした孤島らしいことが、景色から直ぐに分かる。
「痛ぇ」
大の字で砂に落下したハルル。
その間抜けな様子に苦笑しながら、右手に握りしめた戦利品を、慌てて背中で隠す。
「お疲れ! マジですげぇもん見せてもらった!」
「実に雄大な技。我も感服しました」
「……へへ」
偉大なる帝位精霊ガウェインからの高評価に、親友の顔もほころんだ。
うん。
「誇っていいぞ、これまでの修練を。オレもハルルを誇りに思う」
「……よせよ、照れるじゃ、ねぇか」
ふむ。
どうやら限界らしい。
「悪ぃけど、ちょっと寝る」
「警護は任せて……ゆっくり休め。お休み」
「……ん、おやす、み……」
スヨスヨと寝息を立て始めた親友。
その視線から隠し続けたドロップアイテム。
「見せるか、見せないか……」
それこそが問題なのであるからして。
今日もありがとうございました!
【3月27日】誤字等修正




