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第68話:ゲームチェンジャー

 



「フフフ? 元気そうね?」

「はい!」

 ハルル君? 元気なお返事ですね? いつもの三割り増しくらい声出てますよ? 騒音レベルですよ?

「てか先生ぇ~、聞いてくださいよぉ。カイトがイジめるんですぅぅぅぅ」

「はぁ?」

 なぁに言ってんの?

 てかなに子どもみたいな口調を採用してんの? かわいくねぇからな?

「フフフ? そうなの?」

「そうなんです! だから先生………俺を甘やかしてくださいっ」

 おぃおぃバカ長男……なにシレっとハグしてんの? バカなの?

「あらあら? 甘えん坊なんだから……フフフ?」

 先生、この宇宙の真理に基づけば、イケメン陽キャを甘やかす必要なんてないんです。

 だからオレを甘やかしてください。

「……先生、俺、お願いがあって」

「あら? なにかしら?」

「膝枕……お願いします」

「ハルル! ふっざけんなよ!?」

 なにシレっとおねだりしてんの?

 ディーテ先生の膝枕はオレのなんですけど? ちゃんとオレから許可をもらってもらえませんかね?

 ま、もちろん絶対に認めねぇけど! 完全無欠に完全完璧に微塵の隙も無いくらい全力で却下するけど!

「膝枕……別に構わなくてよ? フフフ?」

「マジっスか!?」

「先生っ!?」

 ダメです!

 ソイツの御立派様すぐに顕現するから!

「でも……いいのかしら? ペルシャ先生が見てるわよ? フフフ?」

「「えっ!?」」

 扉の向こうから現れた……スルリと長い脚と美しい尻尾。猫型獣人族美人眼鏡美人美人先生が、スンっとした顔で立っておられる。眼鏡をクイっとしながら……。

「久しぶりね?」

 優雅に長い髪をたなびかせながら、コツコツとヒールで床を奏でる先生。

 それをポカンと見つめるハルル。

 まぁ……無理もない。割とガチだったもんな。

 今頃きっと、脳内で蘇ってるんだろう。ペルシャ先生に一目惚れしたアカデメイア時代の思い出が。

「……あの、聞こえなかったのかしら? 久しぶりね?」

「はっ!? は、はい!」

 はっとしたように首を左右に振って、ポカンとした間抜け顔を決め顔にチェンジ。

 ふむ。

 この間、僅か一秒である。

「お久しぶりです! 先生!」

 そしてハルル、いい子ちゃんモードにシフト。ペルシャ先生の前で発動してた優等生キャラを、今も演じ続けるつもりらしい。

 個人的には……バレバレだと思うんだけどなぁ。お前の素なんて……。

「……まったくもぅ」

 出た! ハルルがいっつも熱弁してたペルシャ先生の推し仕草その一。長い髪を、ちょっとうっとおしそうに手で払って後ろに流す仕草……。不意に露わになる首筋と鎖骨のホクロが……エロいんだそうだ。

「………」

 マジマジと見つめるハルルに、あきれたように微笑みながら。ペルシャ先生は人差し指をそっとのばして……バカ長男のおでこをノックした。コツンコツン、と。

「はっ!?」

「まったく。ほんと成長してないわね。いい? あなたっ……ちっ!?」

 そこで転ぶ、だと? 床にゴミ一つないのに?

「うぉっととととと! あっぶねぇ~」

 それを抱きとめる、だと?

「ふぅ~、あせったぁ~。先生? 大丈夫っスか?」

 ハルル……お前ってやつは……マジでイケメン役を演じるために生まれてきたんですか? ちなみに……その配役(ポジション)に空席はありますか? 五十億ジェムくらいで買えませんかね?

『理想的な~運命は~買えませ~ん』

『クッソ』

 マジで無情な世界にしやがって……神ならなんとかしろし!

「先生? どっか痛めてねぇ?」

 ほら……見てみ?

 イケメンによるイケメン役を眺めてもだもだする人生……辛いんですけど?

『なにを言う。創造された陽の世界を、画面越しにポテト揚げ揚げポリポリ貪りながら眺める……それが支配者の在り方なれば』

『……日陰者の在り方じゃねぇか、それ』

『全然? 全然ですけど?』

 やっぱ……引きこもり神はモテない属で決定だな、こりゃ。

「足首捻った? 痛くね?」

 ふむ。

 心配しながら、自然な仕草で女性の足首に触れるイケメンの背中は、背後から思いっきり蹴り飛ばしても罪にならないんじゃないでしょうか? セクハラを妨げる行為なわけですから、ほら。

「へっ!? へ、平気だにゃ」

 ふむ?

「今―――……にゃって言いましたね?」

 絶対に。

「フフフ? にゃって言ったわね」

「えぇ。にゃって言ったスね」

「い、言ってにゃいんだからね? 聞き間違えにゃんだから!」

「「「……」」」

 いや、無理があるよ先生。

「ほ、本当なんだから!」

「「「……」」」

 そうそう……そうだった。思い出してきた。

 ペルシャ先生は、ドジっこさんなのである。

 アカデメイアのだだっぴろい廊下で転んだり。その拍子に手に抱えてたプリントを大量にバラまいたり……それを拾おうとした北斗学長にお礼のお辞儀をしながら頭突きをかましたり……その衝撃で後ろ向きに倒れこんだところを助けてくれた同僚の先生に照れながらお辞儀しようとして転んだ勢いでビンタをかましたり……その先生が抱えていたカバンがその衝撃で窓の外に飛びだして池にポチャンしたり………そのカバンに入ってたのが同僚の先生方が作成した生徒の科目別評価カードだったらしく前期の成績発表が一か月ずれ込んだり……したっけなぁ。三回ほど。

 成績発表が遅れるって通知が全校集会で伝えられるたびに、みんなでペルシャ先生を眺める文化が生徒に爆誕してたっけ。

 しかもそれを毎回、強気なことに、ツンデレで乗り切ろうとされるのである。「べ、別に転んでなんてないんだから! 勘違いしにゃいでよね!」とかツンツンする先生を見て……みんなホワワワワンっとニヨニヨするのである。

 そうそう、そうだった。懐かしいなぁ。

 うっかり転んだあと、「痛いにゃぁ」と猫っぽい素の話し方で呟いた上で、慌てて「別に転んでにゃいんだから! 床のせいにゃんだから!」と強がるお姿を、週に三度は見かけてましたとも、えぇ。

 そんなペルシャ先生も、実は救星のメンバー………。

 酔っぱらった親父が言うには、昔からドジっ子ツンデレキャラだった先生に、若かりし頃の救星の勇者と救星の武闘家は、恋に落ちたらしい。

 そして……救星の武闘家の息子ハルルも、ペルシャ先生に恋をしてた。アカデメイア時代には、ニヨニヨしながらペルシャ先生を眺めてたし、先生の授業中は優等生ぶってアピール挙手連発してたりもしてたっけ。

「先生!」

「な、なにかしら?」

 ハルル君? いつまで抱きしめてる気なのかな?

「ずっと言いたかったことがあすんスよ。俺もうアカデメイア卒業したし、冒険者として独り立ちできたし。だから言わせてもらうっス」

 イケメンモードで先生の両手を包み込む親友の姿を眺めるのは……きついものがある。

「ハルルく、ん?」

「先生が……………にゃって言うの、クソ可愛いです」

「にゃ!?」

 ハルルって、性別や種族を問わず性に奔放だけれども。獣人族の年上お姉さんが好きっぽいんだよなぁ。

 その原点は、間違いなくペルシャ先生だろうな……。

「先生、せっかく会えたんですからこの後―――」

「―――ハルル、盛り上がりかけてるところ悪いけども。御立派様が封印されてる可能性をお忘れか?」

 こっから先はアウトです。諦めてください。

「っ!? やっぱ俺に魔法をっ!?」

「あらあらカイトったら……ハルル君をいじめてるの? フフフフフ?」

「い、いじめてないです!」

 むしろ逆です!

 コイツのせいで気まずい野宿を経験する羽目になったのはオレの方なんで!

「そう?」

「おっまえ、嘘つくんじゃねぇよ!」

「嘘、とは?」

 まったくもって何の嘘もついてませんけれども?

「……解け」

「……かけてねぇって」

「嘘つくんじゃねぇよ?」

 おやおやハルル君ったら眉間の皺が凄いことになってますわよ? ペルシャ先生の御前ですぞよ?

「ついてませんけど?」

「……マジだろうなぁ?」

「……………………………おぅ」

「てんめぇぇぇ! なんだよ今の間はよぉぉぉぉ!」

「…………………………………さぁ?」

 少しは懲りるがよい、友よ。

「し、信じてるからな?」

「………………………………………………………………………おぅ」

「てんめぇぇぇぇっ」

 ふっ。

「あの……ハルル君? そろそろ手を放してもらえないかしら?」

「あ、すんません!」

 さっきまでキレてたわけだし。今更、先生の前で取り繕った笑顔を放っても、意味ないと思うんだけど?

「気が付きなくてすいません。さぁペルシャ先生、ここにおかけください」

 さらっと、ディーテ先生の椅子まで用意するイケメンは、モテる行動をとるって初期設定を背負って生まれてきているに違いない。

「フフフ? ありがとう」

「どういたしまして」

 まるで高級レストランのギャルソンのように、優雅な礼で謝意を受け取ったイケメンはそのまま片膝をついて。さりげなく手の甲にキスする仕草を添えておられる。

 もちろん、ペルシャ先生にも。

「では、ペルシャ先生? フフフ?」

「えぇ、ディーテ先生。そろそろ本題に入りましょう」

 長い脚を組む仕草も優雅で美しいです……先生方っ。

「それで……先生方はどうしてこちらに?」

「ハルルに同意です。なにかトラブルですか?」

 オレらがアカデメイアに戻る―――マエステリアとしての務めを果たすべき緊急事態が生じたとか?

 でもそれなら、引きこも神かイケボさんが連絡くれると思うんだよなぁ。

「五百億」

「「え?」」

「五百億ジェム、用意したことにするわ。フフフ?」

「「え?」」

「フフフ?」

「ご……ごひゃく、おく?」

「えぇ。謎の二人組―――つまり、あなたたちと優先契約を結ぶための資金よ」

「「優先?」」

 ふむ?

「そしてこれは至高の宝石メビウスをあしらったネックレス。土台とチェーンはヒヒイロカネよ? フフフ?」

「「めびうっ……す」」

 実物を……初めて見た。

 噂に聞いたことはある。だって、だいたいどこの家庭でも冗談のネタにされる宝石なのだから。

 我が家でもそうだし。朝帰りした親父による猛烈な謝罪後、母さんが「メビウスをプレゼントしてくれるなら許してあげる」って溜息交じりに伝えると……クスリと笑いが起きる。

 なにせ―――……絶対に手に入らないと、お互いに分かっているのだから。「代わりに愛を」ってイケメン顔する親父に、あきれたように母さんが微笑みかけて。オレとリクはげんなりするわけだ。

「奇麗っスね」

「ハルルに同意……」

 深い赤を基調とした宝石は、太陽にかざすと虹色の光を放つと言う。世界でも片手で数える程にしか発掘されていない希少度SSの鉱石……。

 それが今、目の前に二つある。しかも、ヒヒイロカネを従えて………。宝石を支えてる土台の細工も、細かくて奇麗。爪でメビウスを掴んでるグリフォンの彫刻は、まるで生きてるような躍動感がある。ヒヒイロカネをここまで見事に扱える人物がいるなんて……驚きだ。

「ひとつ、時価百五十億よ? フフフ?」

「「ひゃっ」」

 嘘でしょ?

 オレの借金これで完済できるじゃん! おつり来るじゃん!

「つまり……これを身に着けてステージに立てと?」

「ハルル君、さすがね?」

 ほぅ?

「そして、俺らとの優先契約を申し出てる富豪が居ると、噂を流す。五百億という交渉額とともに」

 なるほど。

「オレとハルルが他店でもパフォーマンスをするっていうのが、今の作戦。店主どもがオレとハルル―――パイをシェアするって方向で、値段を釣り上げてるわけだけども……配れる()()には限りがある」

「だな。俺とカイトが週に五日は働くとして。午前と午後一回ずつ舞台に立つ計算だと、パイは十切れ。最大でも十店ってことになるわけだが……」

「えぇ。そのパイを多めに分けてもらうための交渉額。一回のパフォーマンスで二十億稼いだ実績があるわけだから、五百億くらいは出しても十分に収益を見込めると、私は思うの」

 なるほど。

「十切れのうち二切れをセットにするってにおわせるわけですね? でも、それだとダンジョンの到達を競うって路線も、変更が必要になりませんか?」

 二切れを金で解決(かえる)できるなら、買うだろう。

「それは、そのままでいいのよ? ダンジョンの攻略にも挑戦させましょう。フフフ?」

「なるほど。つまり……二枠は公式に売りに出すわけじゃないってことっスね?」

「フフフ?」

 これまた……なるほど。

「オレ、やっと先生の提案が理解できました。つまり、ダンジョンに時間内で最も深く潜った店主に、その二枠を与える可能性があると? しかし、その枠の入手には賄賂が必要で、その相場は現在のところ五百億。そして……既にその交渉は水面下で始まっていることを、宝石(メビウス)で匂わせるわけですね?」

「カイトに同意。つまりパイを多く手に入れたいなら追加で五百億以上の賄賂を渡す必要があるって状況設定に追い込むってことか」

「フフフ? 二人の推察通りよ?」

「いや、待ってください。それだと先生たちがダンジョンに挑戦することになりますけど……」

「フフフ? そのつもりよ?」

「え? それはさすがにちょっと危な―――……いや、失礼しました」

 危ない?

 いや、そんなはずはないんだよ。

 なにせ、ペルシャ先生も救星メンバーなんだから。

 救星の魔導師ヘンゼルの一番弟子にして、この世界に存在する全ての魔法を扱える努力の天才。その二つ名は―――救星の守護者(オルガ)。鉄壁の防御魔法で仲間を守り、シールドの外で傷ついた仲間を治癒魔法で疾く癒す。まさに守護者。

 それにディーテ先生も……お強い。

 オレの直感が、告げる。この星で出会った存在のなかで、絶対に敵にしてはいけない存在。それがディーテ先生とポセイドン先生。

 あと……もう三人いる。

 それと、一匹。いや、一体かな?

「カイト、こっちに来てくれるかしら?」

「はい」

 なんでしょう?

「フフフ? 心配ありがとう?」

「ひゃ、ひゃい!」

 ハグあざますっ!

「安心して? もちろん、助っ人も呼ぶつもりよ? フフフ?」

「助っ人?」

「えぇ。歴代でも最強レベルの卒業生よ」

「それって……………トール先輩とシヴァっち先輩?」

「その通りよ?」

 これまた、オレの直感が告げる……敵にしてはいけない存在。トール先輩もシヴァっち先輩も、強さの底が見えない。自分が強くなればなるほど……先輩たちの強さを理解できるようになった。

「そして……最強のエルフ」

「「最強のエルフ?」」

「フフフ?」

「まさか……」

「フフフ? 秘密よ?」

 旅に出てる……あの御方?

「これで、私たちの勝利は確定。もちろん、正体を隠して挑戦するわ。序盤は手を抜いて他の参加者たちを先行させる。神ポセイドンに信仰心を捧げてもらうために、ね? フフフ?」

 作戦への理解度が凄い……。

「わかりました。ご協力に感謝します」

 おかげで、巨額が一気に動く事態になる。店主や、店主に出資してる奴隷商たちの貯蓄を大きく削り取れる可能性が出てきた。

「話し合いは終了ね? それじゃあ、行きましょう? フフフ?」

「「へ?」」

「あら? 行かないの?」

「ま、まさか………」

 嘘でしょ?

「フフフ? もちろん……温泉よ?」

「い、行きます! 全力で!」

 四十秒で支度します!

「カイトと温泉に入るのは……久しぶりね? フフフ?」

「へ?」

 いや、入ったことありませんけど?

「カイト? 説明するよな?」

 落ち着けバカ長男よ。

 今、親友をヘッドロックする必要はないのである。

 なにせ―――

「―――……ないよ、マジで誤解だって。入ったことない」

「本当だろうな?」

「あら………そうね。そうだったわね? フフフ?」

「そうです! そうですよ!」

 もし、ディーテ先生と一緒に温泉に入るなんてメビウス以上のレア度を誇る貴重な体験(イベント)を積んでたとしたら、確実に来世まで覚えてます! 絶対に忘れませんとも!

『……ふっ』

『……なんだよ?』

『いや、ナイスなボケだなぁと思って』

『ボケてねぇよ?』

 てか今はお前にかまってる場合じゃねぇの!

 だって!

 この流れだと……だって! だってだってだって……!

「……先生たちも入るんですか?」

 そ、そうそうそうそうそう!

 そこだよ! さっすがハルル! マジでいい質問!

「フフフ? そのために水着を持ってきたわ?」

「さっすがディーテ先生!」

 ありがとうございます!

「ま、まさか? ペルシャ先生もスか?」

「えぇ、私もよ。ポセイドン先生ご自慢のお湯なんでしょう? このチャンスを逃す手はないわ」

 ………………ゴクン。

「か、カイト! 行くぞ! 今すぐ行くぞ!」

「お、ぉぉおおおおおおおお! おぅっ!」

『ふむ!』

『いやお前は誘ってねぇんだよ!?』

 来るんじゃねぇぞ?

『温泉に降臨する神とか……マジで必要性ねぇからな?』

『……ふっ』

『なんだよ?』

『ナイスボケ』

『ボケてねぇよ!』

 ったく。

『てか、引きこもり神。わかってるよな? ぜってぇ覗くなよ?』

『くっ………しかし下界の監視は神の重要な任務なり。ここはしっかりと、その務めを果たさねばならんのであるからして!』

『いや、なに言ってんの? 割と頻繁にさぼってるだろ? 二狩りくらいしてこいよ?』

『…………おや? 急になぁんにも聞こえませ~ん状態にっ』

 こいつやっぱ……モテねぇな。天界から下界に居る陽の世界を眺める……そんな日陰者の神で確定だなこりゃ。

『ふむっふっふっふっふ……日陰者の神に守護される汝もまた陰の者なり!』

『あれ? 急に聞こえなくなったなぁ』

『おい! 聞こえてるだろ! 己を見つめよ!』

『きっこえませ~ん! じゃあ、今日もおつありでした~』

 妬む神はスルー推奨なのであるからして!

 ふむ!




 +++ +++ +++





「まぁ、甘くはねぇよな。現実はよ」

「……オレはギリだけどな」

 これ以上は刺激が強すぎて鼻血出る。絶対に……。

「フフフ?」

「いいお湯ですね、本当に」

 ふむ。

 ポセイドン先生の温泉。

 相変わらず素晴らしいお湯ですとも、えぇ。

 そして、多分、一メートルくらい先に、ディーテ先生がおられる。ペルシャ先生も、その隣辺りにおられる。

 なにせオレはランクSの冒険者なのであるからして。

 どこにいるのかくらい、気配でわかるというもの。

「おぃ! ハルル! そっから動くんじゃねぇよ!」

「……ちっ」

 まったく……油断も隙もあったもんじゃない。

 マジで魔法かけてやろうか? 百年くらい……麻痺させてもいいんじゃね?

「はぁ~、素敵ねぇ。肌を潤してくれるトロトロしたお湯がもう……癒されるわ」

「フフフ? ペルシャ先生の首筋から胸元のライン……とってもお奇麗ですね?」

「そ、そんな! と、とんでもないです! ディーテ先生に比べたら私なんて」

「「……」」

「きゃっ!? ちょっと! ディーテ先生っ!?」

「お肌もすべすべだし……美しいわねぇ」

「ど、どこ触ってるんですか!」

「あら? 造形の美しいものに目がないものでして……フフフ?」

「そんな……美しいだなんて」

「この背中から腰元のラインも……素敵ですわよ?」

 くぅ。

 い、いかん。

「適度な筋肉と獣人族のしなりのあるライン……とても美しいですわ。フフフ?」

「先生っ! そこは尻尾っ」

「フフフ?」

「……もぅ」

 いかんいかんいかんいかんいかん!

 尻尾が?

 尻尾がどうしたんですか?

「もちろん、この尻尾も美しいですし……猫の耳も素敵ですわよ?」

「にゃっ!? せ、先生! 耳はちょっと………………ダメ」

「フフフ?」

 刺激が強すぎるぅぅぅぅっ。

 てか、にゃって言ったらダメでしょ! こんなところで!

「おぃカイト、お前まさか?」

「……………全然?」

 全然だけど?

「まぁ、気持ちはわかるけどよぉ」

「……うん」

「てかお前、マジで魔法掛けてなかったんだな。さすが親友」

「………その情報マジでノ―サンキューです」

「でも……感謝だな。さすがに今の状態じゃ湯船から出れねぇところだった」

「……おぅ」

 そう。

 御立派様が顕現していても大丈夫。

 なにせ今、温泉は真っ暗なのであるからして。

 召喚するやいなや、闇の星位精霊テネブリスさんがグッジョブなことに暗黒のカーテンを空間にもたらしてくれたのである……。

 もちろん、オレはテネブリスにそんなこと頼んでない。

 ハルルも頼んでない。

 先生たちも頼んでない。

 つまり―――

『―――お前の仕業だよな?』

『下界の秩序を守るのもまた我が義務なれば! ふむ!』

『……ま、そういうことにしておくけどもさ』

『ふむ!』

 コイツに感謝するのは腹立つから、礼は言わないでおこう。

『どうせ、オレがいい思いするのが許せなかったんだろ?』

『お呼びになった神様は電源が入っていないか電波の届かないところにおられます』

 やっぱり。

「なぁカイト」

「なんだよ?」

「やっぱ魔法、かけてくれね? じゃねぇとヤバい。そろそろマジで痛ぇ」

 どこが、なぜ痛いのかは、確認しなくてもわかる……。

「……了解」

 オレも念のために、魔法をかけておこっと。





 今日もありがとうございました!

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