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第67話:加速

 



「にっ、にににっ!?」

 にっ!

「ににに……二十億円!?」

「だってよ。さっきマカルディがニヤニヤ泣きながらハグしてきやがったぜ?」

 蹴り飛ばしたけどよって、笑顔で言いながら。ハルルは、両肩に抱えたバカでかい金袋を下ろしながら爆笑した。

「にじゅ!?」

「おぅ! 二十億だ!」

 ま、待てよ?

 ハルルとオレの取り分は、半分。つまり、十億円。つまりつまりオレの取り分は、五億。

 五億の半分は、ポセイドン先生に渡すとして……。

「に、ににおっっくぅ……?」

「そうそう。二億五千万な」

 ……一晩で。

「やべぇだろ?」

「…………クソやべぇ」

 借金は、残り四十七億くらいかな?

 この調子なら、あと二十日くらい頑張れば完済できそうじゃね?

「しかしやっぱカイト! すげぇよお前!」

「そうかな?」

「おぅ! マリソンを利用した噂の流布……効果抜群じゃねぇか!」

 狙ってた大物のひとり、マリソン。アイツが二度目の権利を求めて二億を用意してるって噂を流した。

 なにせ、釣れた大物はしっかり利用しないと勿体ないのであるからして。

「マリソンの動きを察知した奴らが二億以上を用意したとしても……一晩で二十億か」

 恐ろしい。

 どんだけ金を蓄えてやがるのか。

 そしてハーツクライの破壊力。病みつきになるくらいの快感なんだろうけど……。

 いや……別にオレは試す必要がないのであるからして?

 でもまぁ、興味は湧くよね。やっぱ今度、ハルルの御子息が暴れたら、御立派様の怒りを鎮めるために唱えてみよっかな……。

「おぃ」

「……何でしょ?」

「俺にかけるんじゃねぇぞ?」

「わかってるって」

 察しのいい男め。

「なぁ、カイト」

「なんだよ?」

「特権を握るために億を軽く払えるってことは、アイツら、これまでに莫大な儲けを上げてきたってことだよな?」

「だな」

 奴隷商たちが儲けるってことは、奴隷がたくさん売買されたってことだ。

「ガンガン散財させてやろうぜ?」

「おぅ。なにせ二億でも競り落とせなかった奴がいるわけだから」

「あぁ。解放役の権利―――……値段が爆上がりしてもおかしくねぇよな?」

「だよな!」

 しっかりと、払ってもらおう。

 その分、奴隷として買われた罪なき人々の社会復帰支援金が豊かになるわけだから。

「たんまりと稼がせてもらう」

「おぅ! しかしやっぱカイトはすげぇわ!」

「だろ?」

 ニシシっと笑うハルルは、過去のことを何も語らないけど。

 きっとオレの居ない間に、ネオ・アールブが親友(ハルル)を傷つけた。それも深く……深く傷つけたんだろうと思う。救星の武闘家が本気でキレたんだから。奴隷商たちの背後に、アイツ等がいる。オレが少しでも手を抜く理由は……なにも見当たらない。

「順調すぎてやべぇくれぇだな!」

「ハルルに同意!」

 ハイタッチして笑顔を交わせば、テンションもバフられるっていうもの。

「この調子ならよぉ……早けりゃ明日にも事態が動くかもな?」

「だな。売上金については、マカルディから教団に報告が入ってるだろうし」

「さっき、飛び跳ねて喜んでやがったもんな?」

「おぅ。ちょっと怖かったけどな」

 絵的に。あのマッチョが軽快に飛び跳ねて喜ぶ姿は……何周まわっても可愛いには到達しなさそうだった。

「マカルディの奴、全力で走って行ったからな。双子の神への宗旨替えの件、今頃、教団に伝えてる頃だろうぜ?」

「自分の手柄を強調しながら、な」

 分かりやすい。

 けど、扱いやすい。

 マカルディが実績(げんきん)を示しつつ己の手柄を強調すれば、マカルディの株も上がるというもの。マカルディの株が上がれば、マカルディの発言力が増すというもの。マカルディの発言力が増せば、こちらの要望を通しやすくなるというもの。

「宗旨替えの条件、マカルディがなんとしても押し通すだろうぜ?」

「おぅ。双子の神への謁見は時間の問題だな」

 教団も、ここまで金と信仰心を稼ぐ大魚を逃したくはないだろうから。

「これで新しい店への出向も進めば……俺らの利用価値もますます伝わるだろうしよぉ」

「だな!」

 先日、オレを待ち伏せてた刺客は、雇い主にしっかりと報告したらしい。売り上げは半々、週に一度ソイツの店でパフォーマンスを行うって契約が、刺客を通して今日の昼に成立してる。

「出向は、週に一度って条件だったよな?」

「おぅ」

「向こうもパフォーマンスはいつするんだって、急かしてくるだろうぜ?」

「だな!」

 二十億と聞けば、気も急くというもの。

「つまり、欲に目がくらみやすい状況にあるわけだな?」

 ついついニヤリ顔にもなるというもの。

「おぅ。この情報が拡散すれば……いろんな店から出演依頼が届くだろうぜ?」

「腹黒っ」

「なにを失礼なことを。ハルル君、ここは計算高いと言ってくれたまえよ! 計算高いと!」

 ふっふっふ。

「……俺らと契約したけりゃ、神ポセイドンの真なるダンジョンに潜れ、ね。そして到達階層を競えと煽るんだったよな?」

「そうそう」

 不当に奪われたものを、正々堂々と返してもらうだけです。

「やっぱ腹黒っ」

「計算高いと言ってくれたまえ! あ、でも無理強いはしないし」

 なにせ……ダンジョンで窮地に立った際、助けてくれた神ポセイドンへ感謝の祈りを捧げるかどうかは、当事者次第なのであるからして。

「まぁ、立たされた窮地がきつめなほど、感謝の気持ちは爆上がりだろうけど」

 感謝感激の祈り不可避状態になること必然なのであるからして。

「マッチポンプ……だよなぁ?」

「なんのことでしょう?」

 自作自演(マッチポンプ)だなんて、そんな。まるでオレが腹の底の底の底まで黒い人みたいじゃないですか。

『……腹黒くないけど? 全然ですけど? 戦略的なだけですけど何か?』

『なんだよ急に……弁解なんか始めたりして』

『全然ですけど?』

『引きこもり神……オレなんかツボついちゃった?』

『全然? 微塵も?』

 なんか必死に否定してるところが怪しいんだけど?

『ま、まままままぁ? まままマッチと? ポンプも? 使い方次第なのであるからして? そんなに悪く言うものじゃないぞよカイトよ』

『へいへい、わっかりましたよ』

 怪しい。

 実に怪しい。

『お前、マッチとポンプで悪いこといっぱいしてない?』

『ぎくっ!?』

『いや、分かりやすすぎて怖いんだけど? なにそのリアクション……』

『いやぁ……全然? 全然ですけど?』

『説得力ねぇし』

『わ、わわわわ悪いことは! 悪いことは全くしてないのであるからして! ふむ!』

『……あっそ』

 まぁ、いっか。

 世話になってるし。

 コイツがオレにマッチとポンプを仕掛ける可能性は低そうだし……。

『別に? これは別に? 全然? 全然自己弁護とかじゃないけど? ただほら念のため? あくまでもあくまでもあくまでぇもん念のため? 世の中の理的なことを確認するため? そ、そうそう! マッチとポンプは方法なのであってそれを行ったからといって必ずしも悪即斬ぐふっやられたぁ~的な感じには? ならないこともないこともないのであるからして?』

『いやそれどっちだよ』

 めんどくさっ。

『それに神としては守護する者たちを守るために誠心誠意知恵を巡らせた結果としてマッチポンプの立案と実施に至る的なこともあるのであるからして?』

『いや誠心誠意の自作自演って……怖っ』

 てか自己弁護しすぎじゃね?

『全然? 全然ですけど? むしろ我がマッチポンプは良いこととして神界の神々には大好評だったりするのであるからして?』

『そうですか。それはよかったですね』

『棒読みで展開される他人行儀な言葉遣い……つらたんっ』

『つらたんって何でしょう? 辛いってことでしょうか?』

『むっ、すまんなカイトよ。我は晩御飯の時間なのであるからして!』

『はいはい。おつかれっした』

『ふむ! 煮込みハンバーグは食卓の王者!』

『……ですね』

 晩御飯って。神も定期的に飯食うんだな……。

 しかも肉食……。神って、霞とか空気とか水とか食べるんじゃねぇの? てかなにも食わなくてもいい存在なんじゃねぇの? アイツ本当に神なの?

「……おぃってばおぃ! カイト!」

「あ、悪ぃ! またボケっとしてた」

 気づけばハルル、ちょびっとご立腹モード顔だ。

「ったくよぉ」

「マジでごめん」

「ま、いいけどよぉ。ボケっとしてたって言う割には、毎度毎度、表情豊かなんだよなぁ」

「マジで?」

「おぅ」

 完全に変な人じゃん。

 引きこもり神と話すときは、スンっとした顔を意識しよう……。

「で、どうせ聞いてなかったんだろうからよ。もう一回言うぜ?」

「……頼む」

 全然聞いてなかった。

「アニーさんから伝言」

「え?」

「お前、アニーさんが来たことにも、帰ったことにも、気づいてなかったもんなぁ」

「いやそこはお前、声かけろよ! ちゃんと気づかせろよ!」

「なんでだよ?」

「アニーさんに一人黙々と変顔してるとこ見られちゃったじゃん!」

「いやお前、アニーさんに全裸見られてるくせに変顔恥ずかしいとか……価値基準が混沌(マッド)すぎじゃね?」

「う、うっせーし!」

「本当はそこじゃねぇんだろ? 見逃したから怒ってんだろ? え?」

「別に?」

 全然ですけど?

「ほらほら……正直に言ってみ?」

「ニヤニヤしながら肩を組むんじゃねぇよ」

 重いんだっつーの。

「正直に言うならよぉ。今日の衣装、教えてやらんこともないけど?」

「くっ」

 えぇ、見逃したと思いましたとも……。

 今日は一体、どんなご衣裳だったんだろって、気になるのは普通でしょうとも。

 朝お会いした時からずっと、今日は足首しか見てないからわからないけれども。その貴重な足首の情報―――長めの赤いピンヒールから察するに………むふっ。

「へぇ? なんか察しがついたらしいな?」

「全然?」

「お前の表情筋、にへらっとしたぞ?」

「なんのことでしょう?」

「ま、そうだな。いいよな別に。衣装なんてどうでも。どぉ~せ……いつものように、アニーさんのセクシーな衣装姿見てもよぉ……。どぉ~せ鼻血出して終わりなんだしよぉ?」

「うっせ! 耐性を高めないとダメなんだよ! エッチい方面での! 鋼の心を手に入れないと!」

「……ま、頑張れよ。頑張る方向おかしいと思うけどよぉ」

「いいんだよ、別に。てかアニーさんからの伝言って?」

 衣装のことは、あとで絶対に確認するからな?

「そうそう。ポセイドン先生が言うにはよぉ……神ポセイドンが動くらしいぜ?」

「動くってことは? まさか?」

「おぅ! カイトの提案を承諾、協力するってことらしいぜ? やったじゃねぇか!」

「よっしゃあ!」

 これで作戦の土台は整った! 神ポセイドンに感謝を!

「てか、マジヤバくね? 先生、神ポセイドンと交信できんだな?」

「ハルルに同意!」

「神々ってよぉ? 俺らにもたまに語り掛けてくることあるじゃん? こっちからも語り掛けられるもんなんだなぁ」

「……確かにな?」

 オレは割と頻繁に、変な自称神に語り掛けてるけども……。

 超越した存在である神とのかかわりに、畏怖の念にとどまらず、恐ろしさを感じるって人もいる。

「ハルルは……怖くねぇの?」

「怖いって……神が?」

「そう」

「ま、俺の信仰の対象は偉大なる英雄にして竜人族の守護神ラグナだし。心の中で競う憧れの存在って感じだしなぁ」

「そっか」

 実力を認めたライバルってとこか。

「それによぉ……たまに女神様が語り掛けてくることあるじゃん?」

「あぁ、緊急通信的な感じのやつな?」

 外宇宙からの敵を封じる場であり戦う場。そのために用意された新しいダンジョン―――アビス。その開設アナウンスも、神々からの語り掛けによって知らされた。

「御神託っていうのか? なんか夢見似てるようなふわっとした感じになって……声だけが聞こえたり、ぼやっと光っぽいのが見えたりすることもあってよぉ」

「だな」

 眠りに入る前の、ふわふわっとした心地いい感じ。

「あの神聖で身の引き締まる雰囲気、なのにふわっとする感じがちょっと……アレなんだよなぁ」

「アレって?」

()()()()?」

 マジかコイツ……。

「……変態」

 しかも生粋の。

「うっせ」

「てかハルルお前、神からの御神託で御立派様召喚したりしてねぇだろうな? 即、魔法掛けるぞ?」

「それはねぇよ!」

 はい、自供頂きました。

 ガハハハっと笑いながら天を見上げて視線を逸らす。

 で、チラチラっとオレを見て……また点を見上げて笑うとは。分かりやすすぎだろお前……。

「ったく。マジで魔法かけてやろうか?」

「止めろって! てかまぁ、なんかわからんけどよくわからんタイミングで立つだろ? 寝起きとか、昼とか夕方とか夜とか……寝る前とかによぉ。ま、まだまだ若ぇからな!」

「……だな」

 それは否定しないけども。

「で、肝心のメッセージだけどよぉ」

「まだ続きあんの?」

「おぅ。ポセイドン先生も、カイトと同じ戦略で動く、とよ」

 ニヤリと笑うハルルには、ニヤリと笑うオレが見えてるだろう。

「つまり逆光のバブルも他店で商売して、シェアを拡大していくと?」

「おぅ。俺らとポセイドン先生の双方で客を虜にしていけば……この偽ダンジョンに群がる悪ぃ奴らはみんな、神ポセイドンの真なるダンジョン攻略に向かわざるを得なくなるわけだ?」

 ヤバい。

「勝ったな?」

「おぅ! さっすがカイトだぜ!」

「ちょ、苦しいって!」

「っせぇよ! ちょっとは我慢しろバカ野郎この野郎!」

 ハルルのハグは、感情をストレートに表してて。自分のことを認めてくれてるってよくわかるからこそ……照れくさかったりもする。

「っしゃあ! 金もたんまり入ったしよぉ! 今日はガンガン飲もうぜ!」

「おぅ!」

 今日くらいは、浮かれてもいいだろ。残りの主要なタスクは、双子の神マルとモルへの謁見。ネオ・アールブに現人神化させられてる状況を確認して、背後に居る関係者をあぶり出せればいいだけなんだし。

「主よ、ご歓談中に失礼します」

「アーサー?」

「はっ」

 片膝をついた姿勢で顕現したイケメン精霊は、今日も今日とて全てがイケイケしておられる。ポーズも、甲冑姿も後ろに流した奇麗な髪も……全てが絵になってる。爽やかで、いつ見ても奇麗で汗一つかいてなくて、キラキラ輝くオーラが溢れてて……声もイケてて……。

「アーサー、モテるだろ?」

 絶対にモテる。

「はぃ?」

 お? 目をパチクリさせた。意表を突くことに成功したらしい。

「カイト、偉大なる精霊殿をねたんでやるなよ」

「ねたんでねぇし! 事実の確認だし!」

 てか、半分冗談だし。

 最近、どこで習ったのか、冗談って文化を覚えつつあるアーサーに敬意を表して。

「……だとしても、アーサー殿が困ってるだろ? 止めて差し上げろって」

「それは……そうだな。ごめんな、アーサー。冗談だよ」

「いえ。ご質問への御答ですが、自分ではよくわかりません。申し訳ございません」

「そっか」

 精霊には、モテるという概念がないのかもしれない。

「でも、たまにはデートとか、長期休暇とか、必要ならとってくれていいんだからな?」

 プライベートの時間に、デートしたりとかしても……。

「ご配慮に心より感謝を。許されるのであれば、どうか常にお傍に。それが我らにとっての至福でございますれば」

「ん、わかった。ありがと!」

 こそばゆい言葉だけど、本音だと分かるから。ちゃんと受け取らないといけない。

「オレもアーサーとガウェインが居てくれて嬉しいよ。いつもありがと」

 フルフルと震える肩に手を置きながら放った労いの言葉は、アーサーの神気を揺るがせて……幸せそうな笑顔を生み出してくれた。

「それでアーサー殿、なにかカイトに伝えたいことが?」

「はい」

「あ、ごめんごめん。それで? どうした?」

「ガウェインから連絡がありました」

「連絡……ってことは?」

「はい。入れ墨の男たち―――エビルスネーク。ハロルド、マカルディの二人を追跡したとこと、三頭取最後のメンバーが明らかになりました」

「さっすがガウェイン!」

「カイトに同意! すげぇ順調じゃねぇか!」

「いえ、そうとも言えません」

 え? そうなの?

「その男は、偽ダンジョンの地中深くに潜伏。陽のあたる世界にはあがってこないようです。それゆえ、ガウェインも捜索が遅れたとのこと」

「なるほどね」

 光の届かぬ世界に、潜みに潜んでるタイプ。三頭取のトップ的な気配がムンムンするのであるからして。

「して、順調じゃないというのは? アーサー殿、まさかガウェイン殿に何か?」

「ハルル殿、ご明察です。発見の報告後、ガウェインと連絡が取れません」

「え? ガウェインと?」

「我も付近を捜索しましたが、発見に至らず。情報共有のためにリンクさせている感覚器官も、接続が途絶えたままです」

 ガウェインが?

「おぃおぃまさか……光の帝位精霊殿を拘束できるレベルの相手だってことか?」

「ハルル殿に同意です。神々、デミ・ゴッド、あるいは闇の帝位精霊以上。そのいずれか、あるいは徒党を組んだそれらの存在の仕業かと愚考します」

「くそっ!」

 油断した。

 この件の背後に邪神が居る可能性は、わかってたはずなのにっ。

「カイト、落ち着け。な?」

「………おぅ」

 ありがと、ハルル。

 ハルルが腕を掴んでくれなきゃ、自分のことを殴るところだった……。

「アーサー、確認だ」

「はっ」

「アーサーがそこまで落ち着いてるってことは……ガウェインは無事なんだよな?」

「はい。弱いとは言え……ガウェインの存在を感じます」

「そっか」

「弱いというのは、弱ってるからではなく……恐らく【謁見の間】を展開しているのではないかと」

「……なるほど」

 隔離空間。内部に入れる存在を、空間を展開した光の帝位精霊が選択できる。

「ガウェインが【謁見の間】を展開して身を潜めれば、例え相手が神だとしても、直ぐには手を出せないでしょう。また、我らは光と神々の神威により力を得ますが、その供給が途絶えたとしても、内部に保留している神気を用いれば数か月は大丈夫かと」

 なるほどね。

「仮に……ガウェインが神気を消耗させられたとしたら?」

 もし、光の一切ない暗闇の中で、【謁見の間】を連続展開しなきゃいけない状況におかれてたとしたら?

「神気の内部留保状況や周辺の光の有無によりますが……己を隔離する最小の空間であれば、五日は展開できるでしょう」

「五日、ね」

 急がないといけない。

「主よ、許可をいただけませんでしょうか?」

「許可?」

「ガウェインを救うために、光の精霊たちがこの星に訪れる許可です」

「それはいいけど……オレの許可が必要なの?」

「主が召喚主でございますれば」

「そっか。いったん、オレが召喚したんだもんな」

 アカデメイア時代に。

 そっからみんな、オレのことを主だと思ってるのかもしれない。

「ルクスが来てくれるの?」

「恐らく」

「恐らく?」

「はい。しかし、偉大なる星位精霊であるルクス様が害されてはならぬと、他の星位精霊の皆様がおひきとめになるかもしれません」

「なるほど」

 ふむ。

「偽ダンジョンの奥深く―――地中の底に居るんだよな?」

「はい。ガウェインの情報では、地下二百メートル程かと」

「わかった。じゃぁ、ガウェインの救出はオレがなんとかするよ」

「主が?」

「もちろん!」

「へぇ? その悪ぃ笑顔は……なんかまた腹黒ぇこと思い付いたんだな?」

「別に?」

 このニヤリ笑顔はスルー推奨ですけど?

「ハルル、予定を繰り上げよう。すぐにでも双子の神マルとモルに謁見したいと、マカルディに伝える」

「了解。資金集めのパフォーマンスの方は?」

「明日、明後日に、ここと依頼のあった店舗一つで実施」

「つまり明後日のパフォーマンス後、ダンジョンへの挑戦を店舗への協力条件とすることをオープンにするわけだな?」

「そうそう。店主自らパーティに加わることを条件にして、到達階層とその速度を評価すると伝えればいいだろ? あと、挑戦期間は、協力条件をオープンにしてから五日間とするって感じだな」

「なるほど。それなら準備に一日かけたとして……四日後にはこぞって、神ポセイドンのダンジョンに向かうだろうぜ?」

「だな。平等を期すため、ダンジョンから戻るまで―――五日間はオレらも仕事を休むと伝える」

「つまり、その間は自由に動けるわけだな? 俺らの正体を探る必要もねぇし、そんな余力があればダンジョン攻略に人員を割くだろうしよぉ?」

「店主の護衛のために、冒険者ギルドにも声をかけるだろ。実力者はいっとき、地上から姿を消すはずだよなぁ?」

「おぉ! 俺もカイトに同意するぜ?」

「「っしゃあ!」」

 ぴったりタイミングが揃ったハイタッチが、意見の一致を表してる。

「では主、ガウェインの救出作戦は四日後に実施ですね?」

「その通り!」

「双子の神マルとモルとの対峙は?」

「早ければ明日。遅くとも明後日には声がかかると思う」

 一日も早く、信仰心を得たいだろうから。

「……なるほど」

「ん? アーサー、気になることでもある?」

「えぇ。双子の神との対峙と、ダンジョン攻略の奨励。前者が一日から二日後。後者が二日後。場合によっては、前者が先になり、主たちの行動に矛盾が生じることになるかと愚考しました」

「だ、だよね! うんうん! さっすがアーサー!」

 仰る通りです、はい。

「その矛盾を乗り越える必要があるわけですが……なるほど、さすが主。合理的です」

「アーサー殿、どういうことでしょうか?」

 ハルル、ナイス質問!

「神ポセイドンのダンジョン攻略を競わせる。そこで提供される挑戦者たちからの信仰心を手切れ金にして、主たちは双子の神に宗旨替えをするつもりだと、ネオ・アールブの連中には説明なさるおつもりですね?」

「さすがアーサー!」

 ご助言感謝です!

「……なるほどなぁ。俺らとしても神ポセイドンからの怒りを買いたくないって言えば、認められるか」

「そうそう! オレらの市場価値を前提にして考えれば、金も信仰心もたっぷり双子の神に入ってくることになるわけだから! たかが五日間のダンジョン挑戦なんて大したことないって結論不可避だもんな!」

「さすがです! 主の深謀に心からの敬意を!」

「いや、アーサーのおかげだよ!」

 賢い帝位精霊に心からの敬意を。

「主よ。ガウェインの救出に向けて、備えておくことがありますでしょうか?」

「上空に光の精霊たちを待機させておいてくれる?」

「上空に、ですか?」

「うん! 雲の上で! あとは合図を送るまで待機で!」

「なるほど……承知しました。合図とはどのような?」

「ま、見てればわかるよ!」

「はっ!」

「じゃあ、光の精霊たちに声をかけてくれる?」

「承知しました。一時間以内に戻ります」

 アーサーがチラリと送った視線を、ハルルが頷きながら引き取った。

「アーサー殿、カイトの護衛は私にお任せください。不肖ながら竜人族のハルルが全力をもって、代理を務めましょう」

「ご厚意に感謝を」

 スゥっと光状態に戻ったアーサーは、最後に微笑んでくれた。

 ガウェインの救出作戦、どうやら安心してくれたらしい。

「それで?」

「なんだよ?」

「ガウェイン殿の様子を探りに行く気なんだろ?」

「……バレてた?」

「アーサー殿を遠ざけてまですることなんて、エロいことかそれくらいじゃね?」

「エロいことは余計だけどな」

 お前と一緒にするんじゃねぇよ。

『むっ、餅つくがよいぞカイトよ』

『いや、餅はつかねぇよ』

『ふむ。ま、落ち着くがよい。ガウェインの様子を探るのであれば、うってつけの御方がいるのであるからして?』

『そうなの?』

『うむ! 闇の星位精霊テネブリスを頼るとよいぞよ。詳しくは召喚して聞いてみるといいのであるからして!』

『わかった。あとで召喚()んでみる。サンキュ!』

『ふむ!』

 引きこもり神、ちょっとアレだけども。こういう時、頼りになるんだよなぁ。

「カイト? どうしたんだ?」

「闇の星位精霊テネブリスを召喚して、協力してもらおうかなって」

「なるほど。地下……暗闇が支配する世界。闇の精霊殿が味方なら心強いな!」

「だろ? ってことで、ポセイドン先生の温泉に行かね?」

「なるほど。あそこはダンジョンだもんなぁ。精霊の召喚にはうってつけだな!」

「そういうこと!」

 だからこれは、広くて快適な温泉に入りたいからではないのであるからして?

『ま、そういうことにしておいてやるのであるからして……』

『なんだよ? 引きこもり神の割には妙にテンション低くね?』

『ま、人のふり見て我が振り直せって感じかなって』

『マジでやめろし。それだとお前とオレが似た者同士っぽく聞こえるじゃん』

『……ふっ』

『おぃ。なんかアレだぞ? 感じ悪いぞ? 似てねぇからな?』

『まぁ、今はその理解でいいよ。あ、オレも温泉行かなきゃなので! これにて失礼する! ふむ!』

 いや、似てないからな?

 オレは引きこもってりしてないからな?

 モテるからな? これからきっと……。

「カイト……お前、大丈夫か? 急にイライラ顔になったりしてよぉ……」

「全然? 全然だけど? 平穏だけど?」

「……ま、なんかあれば言えよ?」

「うん。頼りにしてる」

 とりあえず風呂に入る。

 そのために、ポセイドン先生の温泉に行く。

 そのためにはハルルの御立派様が顕現しないようにする。

 つまり、お誘いの声にコイツが付いていかないようにする必要があるのであるからして。

「ふむ。友よ、これは仕方ないのだ。この状況が仕方なくそうさせるのだ」

 ハルルの両肩に手を置いて、ご子息に視線を向ける。

「お、おぃ! 止めろよ? まさかお前、【沈黙の体】を使う気じゃねぇよな?」

「すまんな友よ。邪魔されずに温泉にたどり着くための手段なのであるからして」

「おまっ、ちょマジで止めろよ!」

「すまんな友よ。申し訳なく思う……」

「お、おまっ……マジか? マジで今、この俺に? 魔法を? 麻痺させたのか?」

「さて、どうでしょう? さ、そんなことどうでもいいから、温泉行こうぜ!」

「ちょ、ふざけんな! どっちだよ! どっちなんだよ!」

「きっこえませ~ん」

 ケラケラ笑いながら駆け出したオレをハルルが追いかけてきて……慌てて部屋から飛び出した瞬間。

 ばいぃぃぃ~んっと、オレの顔を優しく弾く柔らかい物体とぶつかった……。

「……マジかお前、うらやまっ」

「むぎゅっうぅ」

 そのままスッポリと挟まれてしまっているわけだが……鼻血がスプラッシュする前に退かねばっ。

「フフフ? 久しぶりね?」

 この感触―――……いや違う違う! この声は……。

「お久しぶりです、ディーテ先生」

 ハルルの嬉しそうな声を聴きながら、ムギュっとハグされた俺は、飛び出した鼻血を抑えるのに必死なわけで。

「たしゅけてっ」

「てかカイトてめぇ……さっさと離れろよ」

 ハルルの嫉妬を、心から嬉しく思う。オレを救済の谷間から救いだし、出血を止める手伝いをしてくれてるのであるからして……。

「おいっ! 離れろって!」

 べ、別に?

 名残惜しくてしがみついてるわけじゃあ……ないんだからな?


今日もありがとうございました!

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