第65話:マカルディズ・ハウス
「あの店か……」
「はい」
通りの向かいにある、二階建てのレンガ造りハウス。
壁面に刻まれた店名。そしてサービス内容をほのめかす大きな立て看板。
「ドワーフ族に特化した店ね」
間違いない、ここだ。
「ガウェイン……あの建物を【謁見の間】で覆ってくれる?」
「その後、謁見の間内部にて我が神気を解放。建物内の生命体を失神させればよいのですね?」
「さっすが」
その通り。理解が早い。
「いけよね?」
「容易いことなれば。お任せください」
頼もしい。
そして超有能。
あっという間に、光の世界が建物を包み込んだと思ったら………隣に戻ってるし。
「主よ。ついでに建物内の構造を把握しました。地下室まで光球モードでお運びしましょうか?」
「頼む!」
マジ有能!
でもこれ………この救出作戦にオレ要らなかった説、急浮上してない?
+++ +++ +++ +++
「……悪趣味」
吐き気がする。
「……えぇ」
みんな、気絶して床に倒れてる。
でも、ついさっきまでここで何が行われていたのかは、よくわかる。
痕跡が、教えてくれるから。
地下牢は巨大な空間になってて。部屋の至る所に、鎖で繋がれたドワーフ族の姿がある。壁面に……大の字で磔にされるように鎖で拘束されている者たち。天上から吊るされてる者たち。大きなテーブルの上で手足を拘束されている者もたくさんいる。みんな、全裸にされてる。
本当に……吐き気のする光景だ。
吐き気の原因は、ドワーフ族の周囲を取り囲むように倒れこんでる奴らにある。海人、エルフ、獣人にヒュム……竜人族も。
こちらもみな、当たり前のように全裸で。ドワーフたちを痛め付けては、己の欲を満たしていたんだろうってことが、察せられる。
「主よ……いかがいたしましょうか?」
「鎖を破壊。その後、ドワーフ族を保護、移送して」
「移送先は?」
「王城。その後、ドワーフ族の外交官―――救星の鍛冶師ロダンに本件を報告して、対応するよう要請してくれ」
「承知」
集落を丸ごと奴隷商に売り飛ばすなんて領主の悪行を知れば、ロダン兄ちゃんなら放置しないはず。
「あと、城に着いたら、リクにルクスを呼んでもらって。彼らの傷を……全て元通りになるよう癒してほしいんだ」
虐げられる前の状態に……清らかな体に………戻してやってほしい。
「ルクス様は喜んでお引き受けになるでしょう」
「あと、クロノにも連絡を。彼らの時を―――嫌な記憶を食べてもらえるか、聞いてほしい」
クロノは、時を操る力を得るために、自分自身の記憶を食べてた。ひょっとしたら、他人の時間―――記憶も食べられるんじゃないかな。
「はっ!」
片膝をついたガウェインが、胸に拳を当てて。深々とした目礼をくれた。
「どうした?」
「……主にお仕えできて光栄だと、改めて実感した次第です」
「……オレも、ガウェインが居てくれてよかったよ」
本当に。
「こやつらのことは、どうなさるおつもりですか?」
空気が震える―――……そんな錯覚を覚えるほど、ガウェインがピリピリしてる。
唇をきつく噛みしめて……内面から暴れださんとする憤怒を押し留めてるガウェインの気持ちは、よく理解できる。
多分オレも、似たような顔になってるから……。
「ポセイドン先生の歌声を聞かせてやろう」
二度と、悪事が働けぬように。
「承知しました」
どうやらガウェインも、賛同してくれたらしい。唇を開放して、大きく頷いてくれた。
「我が運びましょうか?」
「大丈夫だよ。他の精霊を召喚して、手伝ってもらうから。運ぶ前に、確認したいこともあるし」
「例の入れ墨の件ですね?」
「うん」
さっすがガウェイン。
「この建物内にも一人、先日のアイツ―――ハロルドと同じ紋様を背負った者がおります。店の者かと思われます」
「さすが」
仕事が早い。
「では、我が客をポセイドン様のお店に運びましょう。そのまま、ドワーフ族を王城に移送します」
「頼む」
「承知しました。しかし主よ、ひとつ問題がございます」
ふむ?
「問題?」
「はい。我が留守の間、主の護衛をいかがいたしましょう?」
「大丈夫だって、一日や二日くらい」
「しかし、リクト様から厳しく仰せつかっておりますれば」
「……だったね」
封印状態で行方不明になってた件。
同じことを繰り返さないように、王城の外では必ず護衛を傍に置けって、命令が出てたっけ。第一皇太子―――リクから。
「護衛というか、監視役というか……見張りだな」
ふむ。
あれだけ心配かけた後だから……やっぱこれは守らないとダメだよなぁ。
「僭越ですがその大役、私にお任せ願えませんでしょうか?」
ふむ?
こ、この声は……。
「あなた様は……確か……」
「えぇ。アニーと申します。ポセイドン様にお仕えする者でございます」
……………ふむっ。
お、落ちちゅ、お、落ち着け、オレ。
ま、まじゅは、か、っかか、確認がひちゅようなのでありゅ。
「ポ、ポセイドン先生の方は? 大丈夫なんでしょうか?」
キリっとした顔で。イケメン風ボイスで。
「あの御方のご指示です。それに本来、あの御方に護衛など不要。身の回りのお世話をする者であれば、もう一人が傍に仕えておりますので」
ふむ。あのイケメンさんか。
「主よ。この御方でしたら、我より護衛として適役かと」
「そうなの?」
アニーさん、まさか光の帝位精霊よりお強いってこと?
「この命に代えましても」
そんな、恐れ多いです。
でも、まぁ、せっかくだし?
ここはほら、ご好意を無碍にはできないといいますか? 断るのも申し訳ないといいますか?
「よ、よろしくお願いしましゅ!」
「光栄です」
美しいお姉さんが隣に居る生活を羨む……そんな日々よ、さようなら。
そして………こんにちは、新しい生活。
「では主よ、我は失礼します」
「うん! 頼んだ!」
「はっ!」
光の速度で去ったガウェイン。
そして、取り残されるオレとアニーさん。
その場所は、数々の拘束具がある室内……。
「さぁ、まいりましょう」
「ひゃい!」
いかん。
めっちゃ緊張してきた。
いやだってほら、アニーさん奇麗すぎでしょ?
透明感たっぷりのブルーヘアーは時折エメラルドの光を放つようにも見えて……長く美しい。透き通るようなお肌はプルプルツヤツヤ……。きっとノーメイクでこの奇麗さ……。瑞々しさの権化といっても過言ではない。
あと、なんかいい匂いがする。髪がふわりと揺れた瞬間……お花畑に舞い込んだような……甘い蜂蜜のような………胸がフワフワになっちゃう香りが、大解放状態。これはもう、ディーテ先生の膝枕に匹敵しそうな多幸感がジワジワと………ジワジワと……………。
「カイト様」
「ひゃい!」
や、やや、やややっ……やましいことはないっ、です! 何一つとして!
「例の入れ墨……ポセイドン様もお調べになっておられました」
「さすが先生」
抜かりがない。
「つまりアニーさんは、ここに潜伏なさっていたんですね?」
「はい」
仕事も早い。
「その男は、本日もいつものように二階の特別室に居たのですが……さすがガウェイン殿ですね」
「え?」
「そこの牢獄に囚われている男のことでございます」
「……マジか」
仕事できすぎだろ……。ドワーフたちを運ぶ前に、移送してくれてたのか。
マジでカイト君不要説爆誕なんだけど……。
「いかがいたしましょうか?」
「そうですねぇ……」
当然、目を覚ませば暴れるだろう。
そして、奴隷として購入したドワーフが居ないと分かれば、事を荒立てるだろう。
オレが身分を明かして揉み消してもいいんだけど……線で考えれば、それは悪手だ。ネオ・アールブがこの騒動を知れば、オレを警戒して、鳴りを潜めるだろう。つまり神モルとマルの実態に、手が届きにくくなる。
だからここは、この手に限る。
「潜入します」
正体を隠して。
「かしこまりました」
「え? 止めないんです?」
「もちろんです。カイト様の御意志を尊重します」
ペコリと目礼したアニーさんには、確固たる信念があるらしい。
「私にお手伝いできることは?」
「アニーさんはここに潜伏しておられたんですよね?」
「承知しました。私が培ったコネを使って、カイト様がこやつから信頼を得られるように致します」
「お願いします」
話が早すぎてヤバい。
「それで、カイト様はいかがなさるのでしょう?」
「コイツらがやってることを、やってやろうと思います」
「……承知しました」
ふむ。
理解が早すぎてヤバい。
「では、私は潜伏を続けます。カイト様がこの店を実質的に支配できるよう、お手伝いいたします」
「……どうも」
さすが先生のお付き人。一言で全てを察したっぽい。
「ではまず、ここでオレとハルルが接客できるように、準備をお願いします」
だってほら、一からお店つくるの大変だし。
「承知しました」
「念のため、確認です。オレとハルルは、神モルとマルを信じている振りをして、ここで客から金と信仰心を集める。そして、客から信頼を得た後、神ポセイドンを信仰していると明かし―――」
「―――こやつらから信仰心を奪う、と」
その通り。しかしニヤリと笑う美人さん……怖っ。なぜか背筋がピンと伸びるよね、ついつい……。
「カイト様?」
「あ、すいません」
ゴホン……。
「そ、そうなれば当然、ネオ・アールブの奴らは怒り狂うでしょう。つまり向こうから、オレ達に接近してくるはずです」
「そこがチャンスですね?」
「えぇ。オレらが優秀な稼ぎ頭であればあるほど、オレ達を味方につけたいと思うはず。だから、神モルとマルを信仰してもいいと、接触してきた相手に伝えてやる」
「そして、条件をお出しになると?」
「さすがです。神モルとマルに直接お会いして信仰を捧げる栄誉を頂ければ、生涯、忠誠を誓うこともやぶさかではない、とね」
この提案を断れないはず。
なにせ逆光のバブルが、大活躍中なのだから。先生が大口の客を奪って……パイを減らしている状態なのであるからして。残ってる少ないパイをなるべく多くとりたいはず。つまり、それができる……稼ぎ頭な接客係は、喉から手が出るくらい確保したい人材ってことになる。
「承知しました。つまり―――」
「―――ご懸念はわかります。今の作戦の成否は、オレとハルルの稼ぎにかかってる」
「ご明察です」
そこは大丈夫。
『だよな? 引きこもり神?』
『……ふむ? 呼んだ?』
『……おぃ、さてはお前今、ボケっとしてたな?』
『ちょっと待て―――……ロココさ~ん!』
『………』
『……あ、なるほどそういう話ね、了解了解。ありがと!』
『……おぃ』
『お待たせ! 大丈夫大丈夫! 汝が願えば力を貸せるというシステムで、こちらはやらせてもらっているのであるからして! ふむ!』
『……システムって。相変わらずよくわからん神だこと』
『ま、大船に乗ったつもりでいるがよいぞ! あとはお前のお願い能力次第なのであるからして』
『……了解』
ま、なんだかんだで頼りになるんだけどね。
「カイト様?」
「ひゃい!」
すいませっ。
ちょっとシークレットな確認してました。
「では、明日の夜からこちらで商いができるように、手はずを整えます」
「よろしくです!」
仕事できるよなぁ、マジで。美人で仕事ができてフワワワ~ンっとなる素敵な香りまで……さすが先生の付き人って感じだ。それに、先生とアニーさんが二人並んでると本当に絵になってて……素敵だった。
………オレも、もっとカッチョ良い男になりたいなぁ。
「それでこの男―――店主は、いかがいたしましょうか?」
「……放置で。明日には意識も戻るでしょうから。目覚めたら……オレとハルルがここで働けるように……そうですねぇ……仕事を求めに来たオレがたまたまコイツを助けてここ―――牢獄に保護したってシナリオを、それっぽく伝えてください」
「承知しました」
ふむ。
「明日にでも、ハロルドをこちらに向かわせます。ハロルドもオレに恩があると分かれば、謎の入れ墨仲間であるコイツ等からの信頼も上がるでしょう」
こいつらが、ネオ・アールブとつながってれば、話は早い。一気に、双子の神の正体に迫れる可能性もあるだろう。
「では、そのように。計画の細部と、残された本件の些事は、私の方で?」
「はい、お任せします!」
心強い。
有能な仕事上のパートナーって、最高にありがたい。
「では、オレは宿に戻ります。ハルルと情報を共有して、作戦の展開に備えますので」
「カイト様……ご不便をおかけして申し訳ないのですが、店の前でお待ちください。すぐに仕事を片付けます」
「あ、そうでした。すいません……」
お目付け役までお願いしちゃって。
「じゃあ、よろしくお願いします」
目礼したまま見送ってくれる。そんなアニーさんに緊張したからか、軽く躓いて。ドテっと転んだけれども……アニーさんは気が付かないふりをしてくれる。
……超有能。
「えへへっ」
「……」
でも、ちょびっとだけ寂しい。例えば今、ハルルがオレを見てたら、ゲラゲラ笑いながらツッコミ三連発してくれそうなところを、華麗にスルーされちゃうのだから。
「なんかちょっとだけ、恋しいかも」
おバカ長男が。
まだまだオレってば、友だちとバカ騒ぎして盛り上がりたい年頃ってことかも。恋愛と結婚とか、よくわかんなくなってきたし……。
「ま、御立派様が定期降臨するくらい、大目に見てやろっと」
そうだそうだ。
健全な証じゃないか―――……。
「………………なぁんて思ってたオレのバカ」
結局、二度めの公園野宿ライフを送ってる自分に、少しだけ涙がこぼれた。
そしてお隣には……アニーさんがいて。気まずいことこの上ない夜を過ごす羽目になった……。
+++ +++ +++ +++
「風呂に入るな。服を着ろ。部屋から出るな。話を聞け。その前に……ご立派様をしまえっ!」
「ふぁっ?」
「起きろよバカ野郎この野郎っ」
お前のせいで、まさかの野宿アゲインだったんだぞ? アニーさんとだぞ? 変態の群を眺めながらだぞ?
「ふぁっ……ふぁぁぁぁっ~……はよっ」
「……おはよ」
その御方との定期契約、解約したらいかがでしょ? 二百年くらい……。
「ふぁ~……眠ぃ。てかお前まぁた……一人で公園泊まったのかよ?」
「そ、そうそう」
一階でお茶を飲んでるアニーさんのことは……伏せておこう。
「それより、ハルルさんや。ドワーフの……ドガとミレーは? 出かけてんのか?」
「知らね。俺がシャワーから戻った時にゃ、誰も居なかったぜ?」
「そっか」
まさかまた、さらわれた?
「探しに行った方がいいか? 嫌な予感でもすんのかよ?」
「いや、あんまり。特に嫌な予感はしない」
直感だけど。
「多分、もうすぐアーサーとガウェインが戻ってくると思う」
これも勘だけど。
「手がかりのないこの状況なら、二人に頼んだ方が早い」
絶対に。圧倒的に。
「ま、そりゃそうか」
「ってことで……時間を無駄にしたくない。情報共有しようぜ?」
「おぅ」
さぁさぁ、こちらの椅子にお座りくださいな。
お茶も淹れておいたから。濡れタオルもたくさん用意しておいたから。
「でもその前にシャワーを―――」
「―――ダメ」
ここは心を鬼にして、ハルルを風呂に行かせはしない。
また、ホイホイされちまうから。なんだかんだで結局また野宿する羽目になるから。
「はいはい、りょーかいですよ」
ご理解とご協力に感謝を。
「お? 濡れタオルいい感じじゃん! サンキュ!」
ドカっと椅子に座ったハルルは、さっそくタオルで顔を拭って。そのままお茶に手を伸ばして……目をパチクリとさせた。
「これ、なんの茶葉だ?」
「ジンジャーティー。刺激的なお味だろ」
「……おぅ」
ふむ。
どうやらお気に召したらしい。嬉しそうに……ニヤニヤと笑っておられる。
「じゃあ、さっそく。とりあえず情報を表にしてみた」
入館料とか、見物料とかを払って。いくつかの店に入っては、どんな市場が形成されているのか調べてまわった結果を……見よ!
「横軸は金額。右から左に行くほど、平均額が高くなる。縦は、各種族な」
「なるほど。下の方に並んでる種族ほど、横軸がなげぇ。特に高額なのは―――」
「―――ドワーフ、ヒュム、獣人族」
「なるほど」
「こっちの表は、各種族の年齢別に、平均額を整理したもの。ヒュム、ドワーフ、獣人族の全てにおいて、十代が最も高額」
「少年や少女が好みってことか。竜人や魔人、海人族は身体の成長早ぇからなぁ」
「……だな。あと、獣人はまだまだ数が少ない。他の種族に比べるとな」
「だから付加価値がついてるってか? マジでクソだな……この偽ダンジョンはよぉ」
「ハルルに同意」
奴隷として買われてきた少年少女をアルファとして、接客させる。バカな金持ちが店主に高額を払って、自分たちが望むような奉仕をさせてやがるんだ……。
「地獄だ、ここは」
「……カイトに同意。クソ野郎どもがっ」
ハルルが怒る。
それはつまり、ランクS冒険者が敵になるってこと。相手がオレらに勝ちたいなら、救星メンバーかデミ・ゴッド、上位精霊を連れてくるしかない。
あとは、邪神。
世界樹の攻防戦で戦ったような―――悪しき神々。
本件の背後に邪神が居て、糸を引いてる可能性はある。ネオ・アールブと協力して……。
このあたりの見通しを、リクに伝えておいた方がいいかもしんない。
「それで? 作戦は? あるんだろ?」
「おぅ。それに絡んで、アニーさんのことを話しておこう」
「ほぅ? お前まさか―――……アニーさんと?」
「お前と一緒にするんじゃねぇよ」
オレからは指一つ、触れてませんけど?
「ったくよぉ……ヘタレだなぁ」
「節操があると言ってくれ給えよ」
ジェントルだと。紳士だと。己の分を弁えてるとも言うけど……。
「はいはい。それで?」
「おぅ。実は―――」
―――……入れ墨男の件、ドワーフ救出の件、アニーさんが協力してくれる件。
まとめてハルルに伝えたら、ニシシっと笑って。
肩をググっと組んできた。
「なんだよ?」
「いや、さすがだなぁって思ってよ!」
ニシシっと笑うハルルは、心底、楽しそうだ。
「とうとう帰ってきたなぁって、今、改めて思ったんだよ!」
「……ただいま」
「おぅ!」
感動的なシーンを台無しにする。そんな御立派様には、熱々の濡れタオルをかけておこう。
「うぉっ―――あっっっちぃだろ!? なにしやがんだ!」
「隠してやろうと思って」
親切心だぞ?
「ったく、使い物にならなくなったらどうすんだよ」
「そんな心配するくらいなら、さっさと仕舞え」
てか、そもそもなんで、宿の中なら全裸OKみたいに思ってんだろ。貴族だからか? イケメンだからか? 脳筋だからか?
「それで? ハルルの方は?」
「おぅ。経理の姉ちゃんからの情報だ。なんとなんと……入れ墨の奴らについての、な?」
「マジで?」
「おぅ! どうやらそいつらが裏でこの街の仕切ってやがるぜ? 入れ墨の男たち―――エビルスネークって三頭取だってよ!」
「エビルスネークねぇ」
ネーミングセンス、ゼロだな。入れ墨の絵柄そのままの名前じゃん。自己紹介で名前忘れてほしくない人レベルの気づかいじゃん……。そんな自己主張強い影の支配者って……大丈夫なの?
「これは、ラッキーな展開だな?」
「おぅ。つまり、いつの間にかその三人のボスの内の二人に、オレは借しを作ってるってわけだ」
「そうなるな!」
本当は、オレが店を壊滅に導いたんだけど……。そこはほら、知らぬが仏って、言うじゃない?
「でも、どうすんだよ? これから乗っとる店はドワーフに特化してんだろ?」
「そうそう」
客の目当ては、ドワーフ族の接客係だ。
「変装でもすんのか?」
「いや、二段階接客ってことにする」
「ほぅ?」
「ドワーフの前に……オレとハルルで前座……余興するって作戦はどうだ?」
視察した店でも余興やってたし。客も受け入れやすいと思う。
なにより、個別に指名をもらうより、大勢の客を相手にできる前座の方が、費用対効果がいいし。
それに、見込みもある。ドワーフを虐げて喜ぶようなマカルディズ・ハウスの客層なら、か弱い十代のヒュムが厳つい竜人に虐げられる的な余興をすれば、絶対に見逃さないだろう。
「へぇ? なにやら悪い顔してやがるじゃねぇか?」
「失礼な」
計算高いと言ってくれ。
「詳しく教えろよ……兄弟?」
「協力しろよ……兄弟?」
「ったりめぇだろ?」
ふむ。
『あとは、お前の出番だぞ?』
『お前、まさかハルルとBがLする展開に? ラブラブイチャイチャするフラグを?』
『は? なにそれ? お前ほんと、マジ分かんねぇ表現自重しろし』
『ま、まぁ? オレは? 見守るけど?』
『なんか誤解してるっぽいけどよ。作戦は―――……(ごにょごにょごにょにょ)……』
『―――了解した! ふむ!』
ふむ!……ってこの口癖、完全にコイツからオレに移っちまってんだよなぁ。
『それより、いいのか?』
『ん? 何のこと―――』
「―――はっ!? あのバカ野郎ぅぅぅ」
いつの間にぃぃぃぃ……。
ハルルの奴、風呂に行きやがった!
無駄に気配を完消ししてまで風呂に行くってことは……。
「……はぁ」
しばらく、帰ってこないだろう。御立派様が顕現なさるだろうから。
「やっぱり、ポセイドン先生に歌ってもらうか」
仕方ない。
「最終手段も視野に、対処せねば」
「主よ、その最終手段をお聞かせ下さい。我らもお手伝いしたく存じます」
「ぜひ」
「お、お帰り……」
ガウェイン、それにアーサーも。
「いや、今のは違う。ハルルの話だから、大丈夫」
「承知しておりました。冗談です」
「冗談って……アーサーが? 冗談を?」
「はっ」
ふむ。
「無礼をお許しください」
「いや、どんどん出していこう! そういうのオレ大好きだから! むしろ嬉しいよ!」
「承知しました」
おぉ。
封印されてた間に、なにか心境の変化でもあったっぽい。いいことだよ、これは。真面目なイメージが強かったけど、おかげでもっと親しみやすくなったし!
「あ、お礼が遅くなっちゃった。ふたりとも、ありがとうな!」
ググっと握手を交わすと、嬉しそうに笑ってくれる。
「「主の正義に、敬意を」」
「こっちこそ。偉大なる光の帝位精霊アーサー、同じく偉大なる光の帝位精霊ガウェインに、心から敬意を」
正義を共有する仲間って、やっぱり、ありがたい。自分に自信をくれるから。勇気をくれるから。
「お疲れのところごめん。でも、さっそくお願いしてもいい?」
「「もちろんです」」
「ここに居たドワーフのドガとミレーが居なくなったんだ。事件性があるかも不明。探して、必要があれば保護して、ここに連れてきてくれる?」
「では、その役は我が。アーサーは主の護衛を頼む」
「承知」
「うん! 頼んだよガウェイン!」
「はっ」
一瞬で消えた光の粒子を、心強く思う。
頭の片隅にぼんやりと浮かんだ―――オレ不用説。これはもう、全力でスルーすることにしよっと。
「アーサー、ちょっと出かけようぜ!」
「お供します。目的地はどちらでしょうか?」
「温泉! 先生の所の!」
ひとっ風呂浴びて、のんびりしたい。
今夜に備えて、奇麗にしときたいし。
「承知しました。では、階下にいらっしゃるあの御方も?」
「うん。アニーさんが同行してくれれば、温泉を使わせてくれると思う」
先生が居れば、情報共有もしちゃおう。
「では、さっそく」
「頼むよ!」
光の帝位精霊の光球モード移送は、マジで有能。
なにせ、マジで秒で……温泉にたどり着いてしまうのであるからして。
ふむ!
今日もありがとうございました!




