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第64話:迷い人?

 



「おぃ、起きろバカ長男」

「……っんが」

 昨夜もお楽しみだったみたいですね。人が頑張ってる間に……。

「……う~ん……………母ちゃ……あと五ふっ………んがぁ~」

 誰が母ちゃんだコラ。

「んがぁ~……すぴぴぴぴぃ~」

 ふむ。

 仕方あるまい。

「あ、ポセイドン先生が歌ってる」

「っ……んがぁ!? んががあああぁ!?」

 効果は抜群。

 両手をワタワタして目を見開きよった。

「お、おはようございますせんせ……い?」

「嘘」

「……嘘?」

「そう、嘘。先生、いない」

「……テメェ」

「はいはい、おはようございます。取り急ぎ服を着ろ。息子さんを仕舞え。風呂に入れ」

 てか、なんでなの?

 昨夜もお楽しみだったんだろ?

 なんでまだ御立派様になってるの? そんな頻繁に顕現なされるもんなの? 定期契約なの?

「はぁぁああああああ~~眠ぃ」

 上半身を起こしながら伸びをしたハルル。

 その動きにつられてずり落ちていく毛布。

 その下から―――

「―――ひっ!? な、なんだ?」

 ―――にょきにょきんと人の腕が……。

「うっせぇよ。叫ぶなって、こんくらいで」

「でもよぉ……腕だけって」

 いや普通、ビビるだろ?

 だってほら、毛布のふくらみ的に、誰もいないって思ってたんだよ。予想外だったんだよ。

「……これ、(ガンマ)か?」

「ん~……どうだったかなぁ」

 もう一度グググっと気持ちよさそうに伸びをしながらパラりとめくった毛布。

 その下からお姿を現したのは―――

「犯罪じゃね?」

 ―――少年と少女?

「ドワーフだろ? コイツらほら、成人しても子どもみたいな見た目だしよぉ」

 確かに。

 ドワーフ族は、ヒュムの少年少女のような見た目をしておられる。子どもかなって話しかけてみたら、オレよりはるかに年上だったりして。平謝りすることもしばしば……。

 だからこの二人も、オレらより年上かもだけど……。

「おぃ」

「なんだよ?」

「まさかお前、そんな凶悪なものを……ドワーフに?」

「してねぇよ。てか、できねぇだろ。入んねぇし」

「確かに」

 お前の御立派様は、こいつらの腕くらいの太さがありそうだもんな。いや、それは言い過ぎたか……な?

「なに見てんだ?」

「比較の比喩表現の適切性について思案中……」

「は?」

「そして容疑者の証言を検証中」

「はぁ?」

「ふむ。昨夜の相手は別人で……とっくに帰ったらしいしな?」

「おぅ?」

「長めのブロンドヘアを発見。コイツ等は黒い髪だから……ベッドに別人が居たと推理したわけ」

「あぁ。ブロンドだったぜ……確かによぉ」

 ふむ。

「他に? 証拠は?」

「証拠っつーかよぉ。コイツ等、服着てるだろ?」

「うん」

「ってことは絶対ぇに手を出しちゃいねぇってことだ!」

 いや、相手が服着て目覚めたら手を出してないって法則……なんなの?

 どこで通用する法則なの? バカなの? アカデメイアでそんな法則習った覚えないですけど?

「信じろって。な?」

「……………ま、信じてやるよ」

 確かに、見境なく手を出すほどハルルは飢えてない。イケメンだから。モテモテのモテだから。腹立つけど。

「それで? コイツ等は―――なんだ?」

「いや、オレが質問してんだけど? 昨夜、一緒に居たんじゃねぇの?」

「知らね」

「じゃあ、誰だよ? 侵入者? 強盗?」

「そんな風には見えねぇよなぁ。ま、どうせどっかの宿無しってところだろ」

 二人の頭をそっと頭をなでるハルルは、びっくりするくらい優しい表情で。

 ……………こういうのが、ズルいんだよなぁ。ギャップ狙いっていうの? なんなの? 実は賢いの?

「寝かせておいてやろうぜ?」

「了解」

 スヨスヨスピスピしておられるしな。

「んなことよりよぉ……」

「どうした?」

「ちょっとこっち来い。で、ちょっとここ座れって」

「あん?」

「いいから、隣! 座れって!」

「……なんだよ?」

 ベッド、そんなに広くねぇんだからな?

「ちょっと質問があってよぉ?」

 肩を組むなって。

 お前が体格いいんだから。重いんだから。

「情報収集の件?」

「違ぇよ……はぁ」

 なにその、残念そうなため息。

「……それでぇ? 昨夜はどうだったんだぁ?」

 え?

 なにそのニヨニヨ笑顔……。

「楽しんできたんだろ?」

「は?」

 全然だけど?

「とぼけんなって! 昨日の夜……帰って来なかったじゃねぇかよぉ? お楽しみだったんだろ? ん? 言ってみ? ハル兄ちゃんに言ってみ?」

「きもっ」

 悪寒がするから。

 もはやハル兄ちゃんって可愛さ……ゼロだからなお前。

「いいじゃねぇか! 教えろよぉ~」

 バシバシ叩くな、背中を。

「別に?」

「隠すなって! どこで寝たんだ? 誰と寝たんだ? 言ってみ?」

 クソ。

 コイツ、答えるまで逃がさないつもりで隣に座らせやがったな?

「まさかお前、この俺にも言えないようなハードなプレイを?」

「違う」

 ……はぁ。

 まぁ、変な誤解をされるより、事実を伝えた方がいいか。噂広められてもアレだし。

「……………公園」

「は?」

「だから……公園で寝てました」

 面白みのないオチですいませんね。

「よし! でかした!」

「は?」

 何が?

「おっまえ……初日から野外プレイデビューとはなぁ。やるじゃねぇか!」

 いやそこ、褒めるとこなの?

「相手は? 何人だ?」

 一人だよ。

 てか複数で寝るのが普通だと思うなよ?

「もったい付けんなって! さっさと白状しちまえって!」

「ばっか……違ぇよ」

「あん? 何がだ?」

「いいか? 昨夜、ハルルの御立派様超大暴れ。カイト君部屋に入れない。お金ない。公園で寝た。一人で。以上で~す」

 どや?

「……クッソ寒いな、お前」

「うっせーし」

 普通だし。

「でもまぁ、ウケるけどな? ヒュム族の王子が野宿って……ぷぷっ」

 それはオレも思ったけど……お金ないし。

 それに……心強い仲間が居たから。

「大丈夫。ガウェインが【謁見の間】に入れてくれたから」

「あぁ、アレね。光の帝位精霊の特殊空間」

「そうそう」

 最初は、ベンチで寝ようとしたんだけど。

 まわりでほら、色んな営みが始まっちゃって。気まずくなっちゃって。謁見の間に入れてもらって……。

「覗き見プレイに興じてたわけだな?」

 ニヨニヨすんなし。

「違う。外に出るタイミングを見計らった時にほら、たまたま何件か、目に入っただけなのであるからして。ほんのちょび~っと……三秒ほど見ちゃっただけなのであるからして」

 だから覗きではないのである。完全な不可抗力なのである。

 でも―――

「―――世の中には……理解できない性癖がわんさか存在しているってことも確認できたよ、おかげで。まぁ、情報収集にはなった」

「へぇ? どんなのだ?」

「そうだなぁ。例えば―――」

 ―――複数人プレイとか。それを眺めてハァハァするプレイとか。厳つい竜人族が全裸で首輪をつけられてドワーフ族にお散歩させられてるのとか。その隣で、厳つい竜人族全裸がお馬さん役になってヒュムの女性を背中に乗っけてるのとか。木の幹に大事なところを猛烈な勢いで擦りつけてる痛そうな魔人族の御方とか。それを見ながら地面に擦りつけてる海人族の御方とか。ベンチに座った魔人族に落書きして悶えてる謎のマスク集団とか。テーブルの上で直立不動の海人族男女ペアをいろんな角度から眺めてハァハァしてる全裸集団とか。

「……やべぇな」

「あ、そうそう。恋人が別の人と―――」

「―――もう満腹でぇ~す。てか三秒にしては情報量多くね?」

「だよな。カイト君もびっくり」

 そういう公園だったっぽい。

 見渡す限り、ど変態さんがワラワラ溢れておられたのであるからして。

「それで? ハルルの方は?」

「おぅ。情報提供者と絡んだぜ?」

「情報提供者って……昨夜のお相手?」

「あぁ。例の経理のお姉ちゃん」

「そっか。さっそく(ガンマ)のお相手を始めたと思ってた」

「あ、悪ぃ。俺、金銭の授受を伴う性行為NGなんで。口止めや情報収集、コネづくりはギリギリセーフ。あとは双方合意の無報酬性交オンリーな純情派なんだよな」

「は?」

「え?」

「なら、ナンバーワンのアルファになるって依頼は?」

 ぶっちゃけハルルの御立派様が頼りだったとこあるんだけど?

「ま、できる範囲で頑張るつもりだし。ヤんなくても……できることはあるしよ?」

 なんだその不敵な笑顔とワキワキした指の動きは……。

「それによぉ……俺の出番なんてねぇだろ?」

「は? なんで?」

「なんでってそりゃ……お前がいるからな」

「へ?」

「大丈夫だって。お前なら、な?」

「へ?」

「できっぞ!」

「おぅ?」

 変な流れになってねぇ?

「急に煽てても……何にもでねぇぞ?」

 まぁ、悪い気はしねぇけど?

「煽ててねぇよ。なにせお前は……星をひっそり救った男なんだしよ。こんなところでナンバーワンになるくらい余裕だって!」

「……わかった。努力はする」

「頼りにしてるぜ!」

「……おぅ」

 そろそろ恥ずかしいんだけど?

「ってことで、情報共有の前に風呂行ってくるわ。さすがにベトベトして気持ち悪ぃしよ」

「了解。共同シャワー室、部屋出て右奥な」

「了解」

「あ、せめて下着は身に着けて行けよ?」

「気が向いたらな!」

 ニシシっと笑いながら衣服を担いだ親友の背中に、眩い日光が差し込んで。修練の足跡を称えるように、背筋と無数の傷を照らし出した。

「その爪痕さえなければ完璧なのになぁ」

 まだ新しそうな……ひっかき傷。

「あ? 勲章だろうが?」

「……そうですね。ほら、さっさと行け」

「はいよ……。ふっ、ふわっ、ふわぁぁぁ~…………眠ぃ」

 おぃおぃ。気をつけろよ?

 あくびしながら廊下に出ると、我が家なら爺やが怒るぞ?

 ましてや全裸で出た日には、お説教半日だからな? 経験者は語るぞ?

「あら? お兄さん―――……素敵ね、色々と。どう? 今から?」

「ん~……どうすっかなぁ」

 おぃ。

 廊下出て一秒でホイホイするな。イケメンめ。

「いいじゃないの……ねぇ?」

 お誘いに乗るなよ?

 風呂に行けよ?

「おぉ、大胆。いいけど……双方無報酬な? あと、回数は少なめで頼むぜ?」

「いいわよ?」

 ……おかしい。

 全裸で部屋出て半日説教のオレ。

 全裸で部屋出て即ホイホイのハルル。

 神の不公平さはもはや論外の域に達してるのであるからして?

『そこんとこどうなのよ? 自称神として?』

『ふむ。ま、業だよ業。諦めるがいい』

『守護神のモテ具合が守護される種族のモテ具合に影響している説、ないか?』

『否定は……できない。ただしヒュム族にもモテ属性はたくさんいるのであるからして?』

『否定は……できない』

 悔しいことに。現に父さんはモテモテだし。腹立つけど。

『それよりも、そこのドワーフ族。目が覚めたらしいぞ?』

『了解』

 さて。

「おはよう。ここはどこだかわかるか?」

「……誰なの?」

「アイツは?」

「ここは宿屋。アイツってのは竜人族のことか?」

「……あぁ」

「風呂に行ってるよ」

 多分、長めの。

「オレはソイツの友人。ヒュム族のカイト。よろしくな?」

「……」

「……」

 警戒してるっぽい。

「話したくないなら、帰ってもいいぞ?」

 別に拘束してるわけじゃないし。

「その竜人族なら、二時間もすれば戻って来る。また、訪ねてくればいい」

「時間が、ないの」

 スピスピ寝てたのに?

「ま、なんか事情がありそうだな。とりあえず、オレでよければ話を聞くぞ?」

 そこそこ強いぞ? あ、金はないけど。王子だけど。

「姉ちゃん、どうする?」

「話してみよっか?」

「うん、わかった」

 ふむ。

「じゃあ、お名前は?」

「オイラはドガってんだ。こっちは姉ちゃんのミレー」

 二人とも、身長百三十センチくらいかな。黒い髪もお揃い。ミレーは肩くらいまで、ドガが短め。顔はそっくりさんだから……髪の長さで見分けるしかないかも。

「ドガにミレーな。改めてよろしく!」

 差し出した手は、華麗にスルーされる件。

「はぁ。ま、いいけど」

 とりあえず飯にしよっと。

「お前らもこっちに来て座れば? 干し肉のサンドイッチで良ければ……朝食も出してやるけど?」

 確かまだ、手作りした干し肉が十日分くらい残ってたはず。

「いらないわ」

「オイラも」

 でも、鳴ってるぞ? 腹の虫が。グゥグゥと。

「お、あったあった!」

 ハルルのパンも、勝手にもらっちゃおう。ちょっと固めの黒パンだけど……贅沢は言えない。

「ま、気が向いたら食えよ」

 ベッドの上に皿を置いてやると、じっと見つめる瞳と、唾を飲み込む気配。

「オレも同じものを食う。だから毒とかは心配ない……モグモグ」

 ふむ。ピリ辛い香辛料……我ながら最高なり。

「……一口だけ」

「えぇ」

「どうぞ?」

「い、いただきます」

「オイラも」

 ビビんなくていいよ。

 あ、美味くてビビるかもだけど?

「「っ!?」」

 ほらね?

 二人とも一気に、瞳が大きくなった。

「落ち着いて食えよ」

 ガバリと食いついたら最後。

 食べ尽くすまで止まらないのは……お見通し。

「どうだ? 美味かったろ?」

「うん!」

「美味しかったわ!」

「だろ?」

 人々に愛されし干し肉なのだから。

「これ……昔、一度だけ食べたことがある気がするわ」

「オイラも。希望の街で人気のお店が出してるって……お土産で貰った」

「そうだったわね。父さんがお土産でくれたあの味……」

「お? それって多分、子ども食堂じゃね? 貧しい子どもたちを支援するための食事場で、資金獲得用に売り出してるやつだろ?」

「うん、そう言ってた!」

 王家が商売するのは好ましくない。

 でも、貧しい子どもたちの支援名目なら認められる……ってことで、なんとか開店にこぎつけた。

 オレと母さんは時々、こっそり厨房には入っては料理を作らせてもらってる。

 あと、新商品をお土産として世に出させてもらってる。無料で子どもたちに飯を食わせる資金獲得のために。

「ヒュム族の王家は弱き者の味方だって、父さんが言ってた!」

「へへっ……照れるなぁ」

「なんで兄ちゃんが照れるんだ?」

「そうよ」

「……ま、確かにな。それで……時間がないんだろ?」

「そ、そうなの!」

「あの竜人族に! 助けてほしい!」

「落ち着け」

 よく見ると……二人とも目が赤い。服もボロボロで、痩せ気味で、床に靴も見当たらない。荷物も……持ってなさそうだ。

 どうやら、逃亡者らしい。

「なぜ逃げてるのか。何から逃げてるのか。オレに話してみてくれ」

「なっ、なんで?」

「ま、まさかオイラたちを追って?」

「落ち着け。違う。状況から推理しただけだ。捕まえる気があれば、お前らが寝てる間に連行してる。そうだろ?」

「……そうね」

「うん」

 肩から力が抜けて。ギュッと、互いの手を握りしめて。少しだけ涙を零したミレーの頬を、ドガが優しく拭った。

「オイラたちは、兄ちゃんの言う通り……逃げてきた。仲間をおいて」

「仲間をおいて?」

「あぁ。仲間が逃がしてくれたんだ。お前らだけでも逃げろって言ってくれて」

 ミレーの涙が……大きくなった。

「誰から?」

「奴隷商。オイラたちは、金で買われてここに来たんだ。集落ごと」

「集落ごと?」

「……うん。伝説の金属ヒヒイロカネ。それを買い付けるために資金が必要。そのために俺らのクソ領主は……集落ごと売りやがったんだっ」

「集落全員で何人だ?」

「四十。ドワーフは捕まえやすいって―――アイツら、笑いながらっ」

「わかった。全員、オレが助けてやる」

「ほ、本当に?」

「あぁ。絶対だ。約束する」

 止まらないミレーの涙を隠すように、ドガがハグをして。

 だからオレは、ドガにそっとタオルをかけてやることにする。きっと、ドガも見られたくはないだろうから。

「仲間は? どこに居るんだ?」

 自分でも驚くくらい、優しい声音になった。頭は怒りでいっぱいなのに……。

「マ、マカルディズ・ハウスって……店。そこのっ、地下にぃ、いるっ」

「わかった。任せとけ」

 本当なら……こうしてグリグリっと頭をなでるのは、失礼かもしれない。二人ともオレより……年上かもしれないから。

「ガウェイン?」

「ここに」

「店を探してくれ」

「主よ、すでに把握しております」

「さすが。じゃあ、頼む。運んでくれ」

「仰せのままに」

 ふわりと……光球に包まれて。

 窓から外に……そのまま急上昇して………一秒。

 本当に、わずかな時間だったけど。オレの頭は、冷静に、救出作戦をはじき出してくれた。




 今日もありがとうございました! ぼちぼち頑張ります!

 

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