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第62話:偉大なる先生の怒り

 

 確かに。

 えぇ、確かに。

 最高に気持ちいいところですとも、えぇ。

 温泉、最高ですとも。

「でもちょっとやっぱ恥ずかしい」

 ハルルも、先生も、平気っぽいんだよなぁ。

 なにせ、さっきお金を集めてたイケイケしておられる海人族の美男美女……先生の部下的な人たちが、当然のように壁際で待機しておられるのに。二人とも、微塵も照れるそぶりがない。あれか? やっぱりイケメンだからか?

 イケメンだと、美男美女への耐性が高いとかあるのか?

 オレ的には、このイケイケしておられる先生の部下的な人たちが、文字通り美男美女だってところも、恥ずかしさを煽ってくる要素だったりするんだけど。これが、城の爺やとか、近所にいたおっちゃんとかだったら、全然恥ずかしくないわけで。

 ……いや、そもそも失礼か。爺やとか近所のおっちゃんと、このお二人を同じ次元で考えるのは。なにせお二人とも、オーラ溢れるほどイケイケイケイケしておられるのだから。

 男性は、すらっとした長身を際立たせるデザイン……タキシードを完璧に着こなし、長い黒髪を後ろで括って……超インテリって感じ。あと、なぜか曇らない縁なし眼鏡も、よくお似合い。

 女性の方は……奇麗。ちょっときつい感じの美人って感じのお顔立ちに、泣き黒子(ボクロ)が印象的で………スタイルが………えっちぃ。赤いスーツの上着が……隠しきれないくらいの豊満さ……。あと、同じく眼鏡が曇らないの……なんでだろ?

 ちなみに、温泉を見るやいなやスッポポーンと全裸になったオレの背後から気配なく現れて、服や下着を回収し、綺麗に畳んでくれたのも、このお二人なのである。

 だからもう、すべてを近距離で見られてしまってるわけで……。

 別に今更、全裸でも恥ずかしくはない……と自分に嘘をついてみるものの、騙されてくれないのだ。嘘を見抜くほど賢い自分の理性が憎い……。

 念のため、さっきはちょっと寒くてオレの象さんが子象さんになってたんだよって弁明は、繰り返しておきたい。心の中で。特にお姉さんに向かって。心の声よ、君に届け!

「ははぁ〜ん? カイト君ったら……そういうことかぁ~」

「んだよ急に」

 ニヨニヨして。きもいぞハルル……。

「みょ~っっっに静かだと思ってたんだけどよぉ。なるほどなぁ……うんうん、そうかそうなっちゃうかぁ~」

「なんだよ?」

 ニヨニヨしすぎじゃね?

「誤魔化さなくても……いいんだぜ?」

「は? 何を?」

 てか肩組むなよ急に。重いんだよお前。図体デカいんだから無駄に。

「あのお姉さんのこと、ずっっっと見てたろ?」

「違っ…………わねぇけど……そういうんじゃねぇよ」

 ほんと、そういんじゃねぇの。マジで。

「……アニー」

「アニー?」

「名前だよ、名前! 綺麗だよな!」

 お前、いつの間に聞いたんだよ……。

「なんかこう……エッロイし……雰囲気いいよなぁ」

「お……オレは? べべ……別にぃ? そんな風に見てないけど?」

 全然だけど?

「ま、失恋を癒すのは新しい恋ってことで!」

「違ぇし」

 ふ、振られてねぇし。

「じゃあ、なんでチラチラ見てたんだぁ? 言ってみ? 正直に言ってみ?」

「うっせ」

「ははぁ~ん? やっぱり? アニーさんを? そういう? エッチぃ感じで? 見てたんだろ? 白状しろよ!」

「バッカ! 声でけぇんだよお前っ」

 マジふざけんな!

「じゃあなんだよ? 他に理由なくね?」

 いや、あるだろいっぱい。むしろそれしか選択肢がねぇとか……お前の頭が怖いよオレは。

「……ハルルは平気そうだな。見られて風呂入んの」

「あぁ、そういうことか。つっまんねぇの」

 ふざけんなし。極めて重要な案件なのであるからして!

「まぁ、見られて恥ずかしいところなんて、俺にはねぇしよ。誰かさんと違ってなぁ?」

 ほぅ?

 別にオレもないけど?

 てかニヤニヤすんなし。

 確かにオレ、封印期間中は成長が止まってたっぽくて、身体は十五歳くらいのままだけど。ちゃんとした冒険者だし? 鍛えてるし?

「ま、心配すんな。あと数年もすりゃお前のもこうなるって。知らんけど」

「だから……ニヤニヤしながら下を見るんじゃねぇよ」

 濁り湯に潜む……人の息子を。

 まだまだ成長の余地を残してるんだから。伸びしろしかねぇんだから。

 現にほら、背もまだ伸びてるし? 親父はヒュムにしちゃ結構デカいし? だからオレもそうなるはずだし?

「それにまぁ、裸なんて見られ慣れてるしよぉ」

「……不潔、嫌い」

 ほんとお前、どうかと思うよマジで。

 裸を見られ慣れてるとか、大きな声で言うなし。ふしだらな私生活が察せられちゃうのであるからして。

「あん? 不潔って何だ?」

「だぁ~かぁ~らぁ……人前で脱いでその………ってことだろ?」

 エッチいことを。頻繁に。

「え? そういう意味じゃねぇけど?」

「え?」

「いや俺ほら、一応、貴族の血筋だろ? だから、召使いやメイドが風呂に付き添うの当たり前だったし………って意味なんだけど?」

「え?」

「あれぇ~? カイト君ったらひょっとして……なんかエロいことでも連想しちゃった? やっぱりお姉さんでエッチぃ―――」

「―――ばっ! 声でけぇんだよテメェェぇっ……」

 マジ黙れ!

「ち、違います! してないですから! 全然ですから! 全然あのアレですからはいっ!」

 クソっ。なんでこんな釈明を……。否定すればするほど、マジっぽくなるじゃねぇか……。

「ふぅ~ん? なら、いいんだけど?」

 おっまえ……マジで覚えとけよ?

「ってことで、気にしすぎんなよ。二人ともノーリアクションだったろ?」

「ま、まぁ。確かに」

 オレの弁解すらスルーされた感じ。そっと頭を下げたくらい。

「こういう時は視線を伏せて壁になっておく……そういう教育を受けてるもんだぜ、使用人っていうのはよ」

「ふ~ん……さすが。腐ってもなんちゃらってやつだな」

 もともと一般人のオレとは違うってわけね。感覚が。

「あん? 腐ってねぇだろうが?」

 うん、わかってる。見たことあるから。わざわざ立ち上がって見せつけなくてもオッケーです。

「……腐ってもげればいいと思ってる奴はたくさんいると思うけどな」

 あと、なんでもすぐ息子さんの話にするの、貴族として本当にどうかと思うぞ、親友よ……。

「そうなんだよなぁ。まぁ、羨望っていうのか? 嫉妬されんのにも慣れたぜ!」

 ニシシっと笑う親友は、多分、気が付いてない。微妙に話がかみ合ってないってことに。

 ま、いいや。心底、どうでもいい話題だし。

「どうだい? いい湯だろう?」

 い、いかんっ……緊急事態っ!

「は、はい!」

「最高っス!」

「おや? 石鹸でも入ったのかい? 二人そろって瞳を閉じて」

「な、なんでもないです!」

「大丈夫っス!」

 ポセイドン先生の裸を見ると危ない説、オレらの中で浮上中なんで。

「あぁ……やっぱりいいねぇ。最高さ!」

 先生が湯舟に入って……肩まで隠れるのを待つ。濁り湯がベールになって、オレらを守ってくれるはず。

「しかし……いいですねぇ。洞窟内の秘湯って感じで」

 まず天井の鍾乳石を見上げて……視界の隅でチラリと確認。

「そうさ! ここはまさに秘湯なのさ! 僕のね?」

「へ、へぇ~! 凄いですねぇ。ほらハルル、見てみろよ! 大丈夫だから!」

「お、おぅ」

 ハルルがビビってるの、ちょっと面白い。さっきの御立派様案件が、ちょっとしたトラウマなんだろうな。

「お、おぅ! 本当だな! 大丈夫……ってか、すげぇ素敵な湯っスね! ここ!」

 よかったな、ハルル。心底安心しましたって、顔に書いてあるぞ……。

「そうだろう? 僕の自慢なのさ!」

 ポセイドン先生に導かれてやってきた、この温泉。

 なんと、ダンジョン内にある。

 先生がチラ見せパフォーマンスした部屋から、歩くこと十数分。いかにも秘密の部屋ですって隠し扉をくぐって……鍾乳石が本当にマジでいい感じの温泉にやってきたわけだけど。

 しかも湯もヤバくて、乳白色の超いい感じのぬったり感ちょっと熱め。

 ダンジョン内に、こんな素敵すぎるマイ温泉を持ってるって……どういうことなんだろ? 先生、やっぱりとんでもない貴族なんだろうか。

 でも、貴族だからって……できないはず。ダンジョン内の施設を、占有することなんて。何より―――

「ここって、モンスター出ないんスよね?」

 ―――命に関わる。

「あ、ハルルに同意。オレもそれ気になります!」

 普通なら、ダンジョンにある湖とか、川とかって、水系のモンスターがワラワラ登場する死闘ポイントの一つなんだけど。

「心配ないさ! ここは神ポセイドンの恩寵を授かりし聖地だからね!」

「……なるほど。つまり先生って、ひょっとしたら神ポセイドンの眷属さんです?」

「ま、そういう感じさ!」

 ふむ。神の眷属、か。

 そういう人がいるって、アカデメイアで習ったことがある。神の愛を授かりし希少な存在。神から、様々な力を分け与えられたり、強化されたりしてるんだとか。

 だとしたら、この人が異様なまでにお強いのも、超納得。しかも、ただの神じゃない。主神は……偉大なる海人族の守護神ポセイドンなのだから。

「それにしても……なんかすごいっスね。神と同じ名前って」

「お、そこもハルルに同意。珍しいですよねぇ」

「そうだねぇ。僕の両親がね、偉大なる神ポセイドンを心酔するあまり、僕に彼の神の名を授けたって感じさ!」

 なるほど。

「名家なんスね、相当の」

「まぁ、そんな感じさ!」

 代々、神ポセイドンを信仰してきた一族の末裔って感じかなぁ。

 しかも、神と同じ名をつけても顰蹙(ひんしゅく)を買わないんだから、相当に有力な家系なんだろう。だって、そう説明されて納得できるくらに……先生には品がある。家柄の由緒正しさを感じさせる仕草と……清潔感。

 あと、童顔っていうのかなぁ。大きな青い瞳と、同じく青い髪は……サラッサラで滑らか。百八十センチくらいの身長のうち、その長い脚が半分以上を占めてるって言われても、信じられる。

 さっきの部屋で見たけど……白い滑らかな肌と………無駄のない引き締まったお体は、細身ながらも、力強さを感じさせた。歌も上手いし。

 神ポセイドンは一体、幾つの天賦の才を先生に授けたのやら……。

 まぁ、だからこそ不思議なんだけど。

「それで先生は、ここで何してるんです?」

 お金に困ってないでしょ?

「そうだねぇ……上からの命令で潜入中って感じさ!」

「潜入? ダンジョンに?」

「そうさ!」

 すげぇワクワクしてます……って、やんちゃな笑顔が雄弁に物語ってる。

「カイト、質問をいいかな?」

「もちろんです」

「さっきのダンジョン……どう感じた?」

 ふむ。

「えっと……あの辺って、他のダンジョンと違うくないです?」

「へぇ? どんな風に?」

 う~ん……、言語化は難しいんだけどなぁ。

「えっと……ダンジョンって、入ったら空気感が変わるっていうか……外とは違うっていうか……そんな感覚がするんですよね、いつも」

 ヒュム族のダンジョンも、竜人族のダンジョンも、例外はなかった。

「でも、あそこの……先生がパフォーマンスした建物の一帯。アルファとガンマがわんさかいた辺りって、その空気感の違いがなくて。普通って感じがして……」

 あの階層は敵が出現しない。だからオレに緊張感がないせい、かもしれない。

 あと、あの階層が、階層的に地上に近くて商業利用されてるから。あまりに、街中と同じ風景だから……オレの感覚がマヒしてるのかもしれない。

「この温泉はどうだい?」

「ここは……ダンジョンですね。空気感が違う」

 ピリピリしてて、でもどこか清浄で……張り詰めた感じがするんだよな。

「「正解!」」

 ハルルと先生がニヤニヤ笑いながら近寄ってきて。なぜかハイタッチを求めてきた。

「この辺りは確かに、海人族の守護神ポセイドンのダンジョンとされている。しかし、厳密には半分、間違っているのさ!」

「半分、間違い?」

 なにそれ?

「そうさ! 本物のダンジョンと偽ダンジョンが隣接しているのさ!」

「偽ダンジョン?」

 どういうこと?

「俺の調べによれば……さっき俺らが居た辺りは、偽ダンジョン。この区画にダンジョンが創設された時には、あそこはただの広場だったんだとよ。ダンジョンの入り口は、あの広場の壁にあったらしいぜ?」

「つまり、エッチい店があった辺りは自然の空間? さっきオレらが通ってきた道に、ダンジョンの入り口があったってことか?」

「そうそう! んで、あの商売もよ……厳密には、神ポセイドンの名では行われてねぇんだぜ?」

「じゃあ奉納金って、神ポセイドンに対して払うって名目じゃねぇの?」

「そうさ! 双子の神モルとマルに対してって名目なのさ! ちなみに……神ポセイドンの眷属に、そんな神はいないのさ。まったく……悪い子猫ちゃんたちだねぇ」

 ……なるほど。

「神の名を語ってこんなバカなことをしやがるのは……あの教団?」

「あぁ、そうだ。ネオ・アールブだ。アイツらがここで、悪だくみしてやがんだよ」

「なるほどな」

「ったく、懲りねぇ奴らだぜ。親父が一回、ここの支部を壊滅させたってのによぉ」

「クルドおじさんが? 壊滅させた?」

「ま、色々あってな」

「いやぁ、あれはなかなか見事だったねぇ。救星の武闘家クルドによる本気の一撃。支部が建物ごとぶっ飛んだのさ!」

「……おじさん」

 そこまで怒ったのか。

 となるときっと、家族関係のトラブルだろう。次いで、竜人族の誇り関係。いずれにせよ、相当な出来事があったはず。

 修練に関しては、とにかく自他に厳しくて。真面目で実直で頑固………でも、すっげぇ優しい。だから、舐められることもあるらしいけど……そんなことする奴は、大バカ確定。救星の武闘家を怒らせたいなんて……。

「ってことで僕は今、潜入捜査してるのさ!」

 ワクワク顔が止まりませんね……先生。

 ダメだ。

 こうなると、勢いとテンションで、訳もわからぬまま訳のわかんないことに巻き込まれる可能性が……極めて高い。

「ハルル、ちょっと整理していい?」

「おぅ」

「さっきオレらが居たのは、ダンジョンの入り口のある洞窟内に設置された、偽ダンジョンの一帯。ネオ・アールブは、そこもダンジョンの内部だと言い張り、その空間を提供しているという設定の神―――……双子の神モルとマルの偶像を掲げている。海神族の守護神ポセイドンの眷属、という肩書で」

「おぅ。その通りだぜ」

 ……ふむ。

「不明なのは、アイツらの目的。あと………一回、支部がぶっ壊されたのに、なんでまたここで悪だくみをしてるのかも、不明」

「それについては、僕が独自に行った捜査結果を紹介しよう! 捜査結果を!」

 なるほど。

 捜査結果って言いたくて、ワクワクしてたんですね。かっこいいですもんね、なんか響きが。

「さっすが先生っスね! お願いします!」

「もちろんさ!」

 ガバリと立ち上がった先生は、ふわりとジャンプして……温泉横のベンチ脇に着地。

 そのまま両手を掲げた先生の上空から、ひらひらと舞い落ちてくるバスローブ。しかも、両手を空に掲げた先生にぴったりと、袖を通すように落下してきた。

「すっげ!」

 オレとハルルが拍手するレベルの曲芸なんだけど、できる部下的には、普通のスキルらしい。さも当然と言わんばかりの顔で、壁際にステイしておられる。

 でも、心からお礼を言いたい。そのスキルのおかげで、先生の肌を、ほぼ見ずに済んだ……。

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

 特にハルルは……感謝のお辞儀を連発してるし。よほど怖かったらしいな、あの部屋での出来事が……。

「彼らの目的……それはこの場所を再び選んだことと関連しているのさ!」

 ふむ?

 い、いつの間に……。ベンチの上にコーヒー牛乳瓶が。

「細分化すれば、奴らの目的は幾つかあるのさ。ひとつは、神ポセイドンの名を汚すため」

「汚すため?」

「そうさ! この偽ダンジョンは、賛否が割れているのさ。否に回った者の数だけ、ポセイドンへの信仰心が低減することになる。恐れ多いことに、ね」

「……なるほど」

「そして、もう一つ。賛成する者の信仰心を、ポセイドンに配分しないための装置。それが双子の神モルとマルなのさ!」

 ほほぅ。

「……信者が賛否どちらの立場にまわっても、損をするのは神ポセイドン。つまり、細分化された目的を統合すると……神ポセイドンへの信仰心を削ることが、大きな目的ってことですね。そのための装置が、この偽エロダンジョン」

「あぁ。賛成派の信仰心を、偽の神モル・マルに集めてね!」

 なるほど。確かに、よく考えてある。

 敵の体力を削りつつ、自分の体力にする。戦闘でも、デバフとバフを兼ねた攻撃は、合理的で効果的。

「ふむ。自分たちで一から信者を募るよりも、信者の多い神の御業―――……ダンジョン創設の功績を乗っ取ってしまう方が、楽か。だからまたここを選んだんですね」

「そうさ! ちなみに、神モルは正体不明なのさ。一方のマルは現人神として、偽造ダンジョンの象徴となっている。実際、最下層で生活しているらしいよ?」

「……またかよ、クソ野郎どもがっ」

 ハルル?

 お湯が竜っぽくなってるぞ? ちょっと落ち着いた方がよくね?

「あぁ、そうだよハルル。彼らの常套手段さ! マルは仕立て上げられた現人神。そいつに神罰を背負わせて、利得だけを得ようとするもの。それが正体不明の神、モルだろうね」

 なるほど。寄生型のモンスターと同じだな、手口が……。

「絶対ぇ許さねぇ……」

「落ち着きなよ、ハルル。君の怒りは、神ポセイドンも知るところ……必ず神罰が下るよ」

「……はい」

 どうやらハルルも、なにかあったらしい。ネオ・アールブと。そしてきっと、それがおじさんを怒らせた。

 あとで聞いてみたいところだけど……止めとくか。

 ハルルはカッコつけなところあるし。その件が傷になってるなら、あんまり、探らない方がいいの……。自分から語ってくれるまで、ちょっと様子を見よっと。

「ちなみにモルが本当の神なのか、現人神なのかは、今のところは不明さ」

 なるほど。

「でも、さすが先生っスね! もうそこまで掴んでいらしたとは!」

「いや、ハルルの貢献も大きいよ。君がいち早く、このダンジョン都市の異変を察知して、リクに情報を伝えてくれたおかげさ!」

「恐縮です!」

 ニシシっと笑ったってことは、ポセイドン先生の評価が事実だってことなわけで。どうやらこのおバカ長男は、世界のベッドをフラフラと遊びまわってるだけじゃないらしい。

 経理のお姉ちゃんと親密になったっていうのも、役目故のお仕事の一環ってことかもしんない……。

 なんかそれ……役得すぎねぇ? あ、でも、べ、別に……(うらや)ましくないんだからな? 勘違いすんなよな?

「さて! そこで僕から、二人にお願いがあるのさ! マルへの接触と……必要に応じて救出。そして偽ダンジョンの壊滅! どうだい?」

「えっと壊滅って、何をするんスか?」

 なるほど。

 先生とハルルは、別々に動いてたってわけか。

「まず、偽ダンジョンの破壊。物理的にも、システム的にも、ね?」

「システム的に?」

「そうさ! ハルル?」

「はい! ここが人身売買の温床になってるってことは、俺も掴んでました!」

「正解!」

「あざっス!」

 ……なるほど。人身売買の温床、ね。

「奴隷として買われてきた少年少女、大人を、接客(アルファ)にして、食い物にしてる奴らが、ここの元締め。そのアルファで、ゆがんだ性癖まで満たそうとするバカな金持ちガンマがわんさかい……る?」

「気づいたようだね?」

「……はい」

「そうさ! そんなゆがんだ性癖の悪徳ガンマを懲らしめる存在が、バブルってわけさ!」

「なるほど。でも、懲らしめるっていうのは?」

 バブルになって、悪徳ガンマから高額を回収して。あいつらを破産に追い込もうとしてるってことは、わかるけども。

「あぁ。僕の歌声でしか性的快楽を得られぬよう……体を躾けたのさ!」

 うわぁぁぁ……。

「えげつねぇ……」

 ハルル、わかるぞ。今つい、息子さんを確認しちゃう気持ちは……。

「なら、先生の体を見ただけでは、ああはならない感じっスか?」

「その通りさ!」

「よかったぁぁぁあ! 早く教えてくださいよもぉぉぉぉ! 俺マジでビビってたんスよ?」

 ビビる……心理的に効果抜群だったってことだな。

「てかハルルも躾けてもらえばよかったんじゃね?」

 将来、誰かにナイフでぶっ刺されないように。

「あん? 俺に死ねと?」

「そっか。このままでも、躾けられても死んじゃうのか。友よ、来世はちゃんとしろよ?」

「っせーよ!」

 なぜだか満面の笑み。ハルルはどうやら、オレの軽口悪態が懐かしいらしい……。

 こういう瞬間に……感じるんだよなぁ。オレが居なかったってことと……みんなが心配してくれたってことと……再会を喜んでくれてるってことを。うん………ありがとう。あと、本当に悪かった。心配かけてごめんな……ハル兄ちゃん。

「先生、もう少し教えてください! アレって具体的には、どんな攻撃だったんスか? 魔法?」

「いい質問だねハルル! 仕組みは簡単なのさ! さっきも言ったように歌だよ、歌!」

「「歌?」」

 あの、ちょびっと聞こえた気がしたアレのこと?

「そうさ! 曲名は、聖女の法悦! だいたい十分くらいの曲なんだけどねぇ。それを一秒に満たない時間で歌い上げ……集中的に、何度も刺激したのさ。記憶と脳をね?」

「一秒で歌い上げた?」

「記憶と脳を……刺激?」

「そうさ! 人生で一番の性的快楽を得た記憶。それを想起させて、歌で……脳の性的快楽物質を司る部分を強めに、連続で刺激。常時の数倍の快感物質を脳から放出させ……昇天に至らしめる」

 ……怖っ。

「つまり、カイトが普通だったのは、お子ちゃまだからってことです?」

「ど、、童貞ちゃうわ!」

 ……多分。

「どうだろうねぇ? まぁ二人には聞こえにくいように、注意しながら歌ったからねぇ」

「ほ、ほらな! 先生がすげぇんだよ、うん!」

 だからオレがお子ちゃまってことは何の実証もされてはいないのであるからして。

「……先生、優しいですね。カイトに」

「僕はいつだって生徒に優しいのさ!」

 出た。キラキラスマイル……。この裏表のなさそうな満点笑顔に、多くの生徒が虜になったわけで……。男女問わずみんな勘違いして……夕日を背に告白するもあえなく玉砕するってところまでが、テンプレだったわけで……。

「まぁ、こんな感じで、あの部屋に居た犯罪者―――……金持ちたちの財を奪う。躾けることによって、かつて人身売買で得た奴隷たちで満たしていた性欲を、満たせぬようにして……バブルのリピーターにしていく。それが、奴隷の買い手をゼロにしていくことになる。そうなれば、市場は崩壊。子どもたちを誘拐する奴隷商のメリットを削いで……破壊していくってスンポーなのさ!」

「……なるほど」

 買い手から攻めて、売り手を壊滅させるってことね。

 市場の変化に気が付いても、奴隷商は対応できない。なにせ、買い手のニーズを満たせるのは、先生だけなのだから……。

 怖っ。

 虫も殺さないような、この世界の全てを愛しているような……慈愛に満ちた気配が常に漂う。

 そんな先生がここまでするとは……意外でもある。

 でも、本気で怒ってるってこと。神ポセイドンへ見えない攻撃を仕掛けた教団、そして奴隷商や悪徳金持ちたちに。

「事情はわかりました。ぜひオレにも協力させてください!」

「カイトの申し出に、心からの感謝を」

「当然です。それでオレらは何をすればいいんでしょう?」

「人身売買のシステムは、(バブル)が破滅に追い込むよ。だから君たちにはあっちをお願いしたい」

「情報収集っスね」

「いいねハルル君、その通りさ! モルの正体を探ってほしい。そのためには、ここの商いを取り仕切る幹部―――ネオ・アールブの連中に取り入らねばならない。つまり、目指せナンバーワンアルファ!」

「わかりました! がんばるっス!」

「ふぐっ」

 え? 嘘だろ?

「カイト? どうしたんだい?」

「あ、先生。多分、予知ですねこれ。自分が役に立たなさそうな未来を確信したんだと思うっス」

「どうしてだい?」

「こいつ、奥手なんス。あと、息子が半分子どもっぽいし」

「息子って……あぁ、例えだったね、性器の。つまり子どもっぽいっていうのは、カイトは魅了耐性が高いってことだね?」

「え? 魅了耐性? なんスかそれ?」

「神々の言い伝えさ! 息子さんが大人……つまり大きいほど、魅了耐性が低いのさ!」

「うわぁ……それ言っちゃいます?」

「どうしてだい? 耐性が高いのはいいことだろう?」

「……ま、そっスね」

 くっ。好き放題言われたい放題ぃぃぃぃっ。

 でも、それどころじゃあない。

 なにせオレ、ミッション開始前に戦力外通告危機っ。

 先生みたいに歌で満足させられるはずもないし。ハルルのように、実際にエッチぃことして客を満足させられる可能性は……ないこともない、と信じたいところだけども……ない可能性が高い気がするし。

 なによりもオレ、そういうことするのは、好きになった人とだけって、決めてるし。だから息子さんは関係ないし。全然関係ないし。普通だし。竜人族の……ハルルのが異常なんだし。

 でも五十億………ぐふぅっ。

『ほぅ? どうやらオレの出番キタコレなのであるからして?』

『引きこもり神?』

 いや、無理だろ。

 明らかにお前、絶対にこっち側じゃん? 非モテ族純情派だろ? なにせ引きこもってるくらいなんだから。

『ま、ダメもとで願うがいいぞよ。お前はオレに何ができるか、経験的に知ってるはずなのであるからして?』

『経験的にって―――……そうじゃん! 神よ!』

『うわっはっはっは! 願うがいい! その勢いで心底丁寧に崇めるがいい!』

 ついていきます! 一生……やっぱ一年……ぎり半月くらい!





今日もありがとうございました!


追記

誤字修正(0516)


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