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第60話:ハルルのお誘い

 


「ちょっと待てってハルル!」

 グイグイ進むんじゃねぇよ脳筋野郎……。

「あん? なんだよ? あんま時間ねぇんだけど?」

 やっと振り向きやがった。

 てかハルルまっしぐらな時点でもう、この先にある建物ヤバい気配が濃厚なんだけど?

「説明しろって。やるって何を? てかここ、なんなわけ? なんでここに来たわけ? てかオレ振られてねぇし?」

 ほんと、いい加減なこと言うなよマジで。

「ま、最後のはどうでもいいとして。軽く飯でも食おうぜ? 落ち着いて話せるしよ」

「……いいけど。ちゃんと説明しろよ?」

 そして最後のが一番重要だけどな。

「おぅ、任せとけって」

 またもズカズカと歩き出した親友は、背も伸びて、筋肉もムキムキしてる。

 封印されてた期間から察するに、ハルルは十九歳になるはず。まだまだクルドおじさんより細いけど、百九十に近づいてるっぽい身長は、人目を惹く。軽装―――シャツにベスト、茶色のズボンも、引き締まった身体と長い脚を隠しきれてはいない。やはりイケメンはすべからく滅びるがよいのであるからして……。

「確か……ダンジョンの入り口……ここ曲がった先によぉ…………お? あった! ここだよ、ここ! なかなかだぜ?」

「カフェ?」

「おぅ! ま、お前の料理ほどじゃねぇがよ。悪くはねぇぜ」

 ニシシっと笑いながら、オープンテラスのテーブルを横切って。眺めのよさそうな席をさらりと確保した。

「さ、座れよ」

「……おぅ」

 ふむ。さてはコイツ、モテやがるな? なんかさらりと今、オレの椅子を引いたぞ? それ、デートとかでやる仕草がつい出ちゃいました的なアレだろ?

「いらっしゃいませ。ご注文は―――」

「―――君のおすすめでいいよ。喉を潤し、腹を満たしたい。軽くね?」

 サラリと手を握り、そっと口づける仕草。ニコリと笑ったハルルに、店員さんも一瞬で赤面。

「かしこまりましたっ」

 ふらふらと店内に戻りながら……チラリと振り返って。手を振るハルルにまた赤面して、駆け出した。

「猫耳の獣人族ってかわいいよなぁ。あの黒くて長ぇ尻尾もすっげーセクシーだし」

「尻尾がセクシー?」

「おぉ。やってるときによ……アレを俺の腰に巻き付けてくんだよなぁ。気持ちいいとそうなるんだってよ」

「……あっそ。てか自重しろよ? どっかで刺されるぞ」

「すげぇ自重してんだけど?」

「もういい」

 ハルルとオレで、自重の次元が異なるってことだけは、よくわかったから。

「さっさと話せよ。料理来るまで時間あるし」

「そう……でもねぇみたいだぜ?」

「お、お待たせしました。鮮魚のカルパッチョです。お飲み物は白ワインとオレンジジュースを、お好みでどうぞ」

 なに? まさか超早い、だと? これ絶対、他のテーブルに出すために準備してたやつだろ。イケメンが頼んだからか? イケメンなだけで人生時短標準装備なのか?

「ありがと。君のサービスに感謝を」

「い、いえ。ごゆっくり……どうぞ」

 くっそイケメン滅べよマジで。今なんかもらったろ? 手紙か? なにかのお誘い的なアレか?

「どうする? お前はオレンジ?」

「……そうする」

 酒はもう、いいです。あんまり美味いとも思えねぇし。

 それよりもはるかに、飯の方が重要。大きめの皿に、豪快に盛り付けられたサラダは、ステージ役だ。なにせその上で、白い魚の切り身と貝類がドヤ顔中なのだから。ジグザグにかけられたソースも、鮮魚がまとうドレスのようで美しい。

「どうだ? うまそうだろ?」

「おぅ」

 オリーブオイルと………バルサミコ系のソースかな?

『あ、ズリぃ。ロココさ~ん、オレらも飯にしよう? 生牡蠣(なまがき)食べたい! レモンで!』

 バカ神よ……。今その情報、オレと共有しなくてよくね?

「いただきます!」

「あ、オレも。いただきます!」

 どれどれ? お味はどんなかな?

「はぁ……最高かよ。くそ美味ぇ」

 ……おぉ。確かに。

「……濃厚なミルクっぽい味わいと……さっぱりしたソースのコンボ。やっぱ海が近いといいよなぁ。生で食えてさぁ」

「だな! この量で低価格なんだぜ?」

「お得だな」

 イケメンだと、色々と。料理や飲み物の量が増し増しなのはきっと、ハルルへのサービスに違いないのであるからして。

「くぅ~っ、最高! 白ワインと合うんだよなぁ」

「お前、そんなグルメだったっけ?」

 飯は、特にこだわりがない。量があればいい。食えればなんでも一緒って感じだったろ?

「酒を覚えたからかもな」

「なるほど」

「まぁでも、一番の理由はお前だろ」

「オレ?」

「そうそう。なんだかんだで、お前の飯ばっか食ってたじゃん? 気が付いたら舌が肥えてたらしくてよぉ。うまい店じゃねぇと食う気しねぇんだよなぁ」

「それはそれは、オレに感謝だな?」

「……だな」

 グイグイっとワインをあおったのはきっと、照れ隠しだろう。

「お? そろそろだぜ?」

「そろそろ?」

「あぁ。海岸線(あっち)、見てみろよ」

 高台にあるこの店のオープンテラスからは、海岸線が一望できる。

 ハルルの指さす先。そこに……太陽が沈み始めた。

「……奇麗だろ?」

「あぁ」

 文句なし。最高の眺め。

 通り抜ける冷たい風が素肌を撫でて心地いいけど……それだけじゃあない。ここの風は、景色を彩るらしい。高台から舞い落ちる桜の花びらが……遠く海へと運ばれていく。無数の花びらが空を優雅に舞い続ける風景は……見る者の心を必ず奪うだろう。

「去年、ここに来た時によ。この景色をお前にも見せてやりてぇって……思ってな。美味い飯と一緒によ」

「……サンキュ」

 さっき急いでたのは、このためか。

 こういうとこ、あるんだよな。ハルルのクセに……。

「さてと。飯も景色も堪能したし、本題に入ろうぜ?」

「おぉ。で、なんでここに? やるって何を?」

「確認な。カイトはここについて、どれくらい詳しい?」

「全然。風の噂で聞いたことがあるくらい」

 海人族の守護神。偉大なるポセイドンが民に授けたダンジョン。その一つに、エロダンジョンと呼ばれるところがあるって。そこは、大人の性的な欲望を満たす地で……確か比較的に新しいダンジョンだったはず。

「じゃあ、もう少し詳しく説明するな」

「あぁ、頼む」

 ハルルが見つめた先に、巻貝を模した巨大な建造物が見える。高さは百メートルほどで、大きな貝の入り口内部に、ダンジョンへと続くゲートがあるっぽい。

「このダンジョンの一階、まずはそこが俺らの目的地だ」

「一階?」

 高難易度の階層じゃねぇの?

「あぁ。需要と供給、欲求をマッチングする仕組みで、いろんな店主と客を募ってんだよ。そこで、な」

「募る? つまり元締めがいるってこと?」

「正解。店主から奉納金が元締めに贈られるって寸法だ」

「奉納金?」

「あぁ。このダンジョンは双子の神が創設したって言われてる。その神への奉納金だってことらしいぜ?」

「……神に、金ねぇ」

 要らんだろ。神が現金使うってイメージが、そもそもない。

「まぁ、元締めが儲けるためだろうぜ、ぶっちゃけな」

「だろうな」

 神への奉納金と称して、自らの私腹を肥やす。まぁ、よくあるパターンなのかもしれない。

「あとは、罪悪感を減らすためってところじゃね?」

「あん? なんだそりゃ?」

「ハルル、お前はまぁ、アレだからいいとして」

「アレって?」

「性に奔放(ほんぽう)ってこと」

「否定はしねぇけど?」

「でも、社会的地位のある人は、そうはいかない。めんどくさいことにな」

 オレも一応、現役の王子様だから、わかる。

「なるほどな。つまり元締めは、奉納金って建前―――……言い訳を、お偉い層の客に提供してるってことか」

「あぁ。これで堂々と、客として欲を満たせるってことなんだろうぜ。神への奉納金を払うために仕方なく来てますって言い訳できるからな」

 バカらしいけど……建前は必要らしい。悪いと自覚してる時ほど、鉄壁っぽい言い訳を、自他に求める。その点で、神っていうのは、悪用しやすい。神への奉納金っていうだけで、まさに鉄壁の言い訳っぽさが増すのだから。

「じゃあついでに、金を神に奉納することで何かしらの罪が免罪されるって考えるように、元締めが客に促してる可能性があるな」

「ハルルに同意」

 まったくもって、情けない。

 オレってばあんまり神を信じてない派だったけど、今は、神らしき超越した存在がいるってことは、理解してるつもりだ。

 だからあんまり、神の名をかたって悪行をしない方がいい。

 神はどうやら、この星を見てるらしいから。

『ふむ。もっとオレを(うらや)む……違った………敬うといいぞ?』

 ほら。

 こんな感じで心を読んで話しかけてくる自称神もいるわけだし。尊敬はしてないけど。

『あ、眠い。ちょっと寝る』

 そういう報告、まったく不要だから……。

 てか、神って寝るのかよ……。

「ここまでの説明で、不明な点はねぇな?」

「おぅ」

「じゃあ、説明を続ける」

「頼む」

「まず、覚えとけ。ここじゃ、店――……接客する方をアルファ、お客をガンマと呼ぶ」

「わかった」

「で、ここは、性癖のエロダンジョン。実に色んなニーズがあんのよ」

「例えば?」

「それを説明するために、ガンマが求める情報を確認するぞ」

「頼む」

「まず種族、性別、年齢層だ」

「なるほど。アルファの基本属性ってことだな?」

「そうそう。あと、求めるプレイ。大別すると三つ。見るだけ、話すだけ、触るだけ。あとは、その組み合わせってところだ」

「なるほど、概要は理解した」

 けど、もう少し具体レベルで教えてほしいことがある。

「例えば……触るだけって、どこまでOKなの?」

「ま、そこも自由だ。双方の合意だな」

「じゆ、う?」

「そう。アルファの許す範囲で、相手に応えてやればいい。握手やキス、ハグから……ちょっと、いやかなり危ねぇ性行為まで。もちろん、応じるってアルファが少ねぇ要望ほど、金額は高ぇ」

「確認。やっぱエッチぃのも含むわけだな?」

「あぁ。例えば……おぉ、ちょうどいい。このチラシを見た方が早いな」

「チラシ?」

「これこれ。ガンマのニーズ、求めるアルファや支払われる金額が記してある」

「……なるほど」

 このチラシを見て、店側は、抱えてる接客者(アルファ)をマッチングするってことか。

「このガンマ……獣人族の女な。求めるアルファは、竜人族、男性、青年初期三十歳まで。求めるプレイは………目隠しハードめ性交二連続、だってよ? で、こっちのチラシ。このガンマは海神族の男性で、求めるアルファは竜人族の男性、青年期百未満。求めるプレイ、アルファが他種族を抱いてるところを眺めたい……きもっ。病んでやがるなぁ。でも、この二人を同室に招いて、片方を抱いて、片方にそれを見せつければ料金がっぽがぽだぜ? 見ろよ? 合計十万ジェムだぜ?」

「なるほどな」

 日常生活じゃ満たせない性欲を満たすためのダンジョン、ってとこか。きっと、ガンマのニーズ傾向を踏まえて、獣人男性に特化とか、海人女性百歳以下に特化とか、各店で特色を出してるに違いない。

 しかし……今確認すべきは、そこじゃあない。

「……ところでハルル。そのチラシ、どこで手に入れた?」

「これは……さっきの店員が握らせてきたやつだな。あと道で他にも何枚か―――」

「―――ぶっっふぉ!?」

「うぉっ……ととと……きったねぇなぁ。ほら、拭けよ、これで」

「……悪ぃ」

 え?

 あの清楚な感じのお姉さんが?

 目隠しハードプレイをご所望、だと?

「お? これはソフトだぜ?」

「ソフト?」

「求めるアルファは、ドワーフ族、女性、青年期二十歳まで。求めるプレイは着せ替えだってよ? アルファに自分の求める衣装を着てもらって、眺めたいらしいぜ?」

「いいの? 眺めるだけで?」

「おぅ」

 う~ん……そういうのなら、オレでもできるかもしんない。

「あと、多分これはお前宛かなぁ」

「オレ宛?」

「求めるアルファはヒュム族、男性、少年期から青年期、見た目の若い童貞っぽい子限定」

 なんかディスられてる気がするんですけど?

「求めるプレイは………えぐっ。止めとけ、こんなの」

「え? 気になるんだけど?」

 このオレに、どんな価値を見出したというのか……。

「……童貞っぽい子に見せつけながら……カップルでやりてぇんだとよ。多分、グヌヌヌヌってなったり、我慢できなさそうになってハァハァしてる童貞の顔見て……性的に興奮する変態カップルなんだろうな、このガンマ」

 解せぬ……。

 それのどこに興奮する要素があるというのか……。

「で、三百ジェムだってよ」

「安っす」

 ほんと解せぬ……。

「まぁ、人に見られて興奮するっていうの、割とメジャーな性癖だからな。その相手とシチュエーションが、ちょっと尖ってるってだけだし。値段は安めでも仕方ねぇだろ」

 仕方ない要素が一ミリも見つからないんですけど?

 てかメジャーなの? 人に見られて興奮するのって割とメジャーなの? 驚きなんですけど?

「あと、店側からも募集ができるんだぜ?」

「募集?」

「そうそう。こういうのしますから課金しませんか?って感じ」

「へぇ~」

 なるほど。

 供給を示して、需要があればお金を払ってもらうってパターンか。それなら、こっちが嫌なことはしなくてもいいわけであるからして。

「つまり、やるっていうのは、店を開いて接客しようぜってことか?」

「そういうこと!」

 なるほど。

「でも、一般的にコアなニーズに応じるほど課金額は高くなるからよぉ」

「だろうなぁ」

 オレと話ができるよって言われても、オレなら一ジェムも払わない。

「そこで……耳寄りな情報。例外もあるって話だぜ?」

「例外?」

「あぁ。先月、突如このダンジョンに現れた新人アルファ。なんと来て二日めで稼ぎナンバーワンに上り詰めた男がいるんだとよ」

「すげぇじゃん」

 いったい、何者なのか。

 どんなサービスを提供してやがるのか……。

「海神族のバブルって名乗ってるらしいんだけど、そいつなんと……お触りなしで億を稼ぐんだとよ?」

「お…く?」

 しかも、お触りなし?

「あぁ。経理のお姉ちゃん情報だから間違いねぇぜ?」

「手、出したろ?」

「ここの流儀だろ? 情報料を相手のニーズで払っただけだっつーの」

「……滅べイケメン」

 こいつの下半身、マジで大馬鹿になってね?

「で、とりあえずお前も……行くだろ?」

「行くって……どこに?」

「そのバブルがいる店だよ。入室料は千ジェム。追加料金の支払いは任意。お触りなし、見るだけのガンマ限定なんだとよ? あ、でも、入店できるかは、入り口で判断されるらしいぜ?」

「ほぅ? つまり―――」

「―――あぁ。そのノウハウ、盗ませてもらおうぜ?」

「それは……悪くない提案じゃん?」

「だろ?」

 ニヤニヤが止まらんねぇ。

 借金返済ロードのために、オレの肥やしになってもらおうじゃないか。バブルとやら……。

『無理だと思うぞ?』

『うっせ。黙って寝とけよ』

 なにせオレ、世界を救ったわけなので。そんなイケてる少年に、不可能なんてないわけなのであるからして?

「善は急げだ! そろそろ夜の店が開く時間帯だ。並ぼうぜ?」

「よっしゃ!」

 お触りなしで億を稼ぐ男に、オレはなる!

 目指せ五十億!




 今日もありがとうございました!

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