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急ぎ伝えよ、次男は童貞(閑話)―――その弐

引き続き、イルルの物語です。

 

 精霊たちと修練を始めて……はや十数日。

 …………と言っても、ニクス様は近くで見てるだけなんだけど………。いい性格してるっていうか………やっぱあんた竜人族嫌いですよねって………百回は思った。なにせ俺が油断してるとみるやエグイ神気を急に大解放して……耐性を試してくるのだから。

 で、当然俺、バタンキュー。急に……重く冷たい空気に飲みまれて………目まい……からの失神。

 目が覚めた時、ニクス様は決まって俺のケツに乗っかってて……勝者のドヤ顔をかましておられる。そんなお茶目(ちゃめ)でやんちゃペンギンを掴んでは………遠く海に放り投げる。

 そんな日々。

 もちろん、定期的に海に潜ってカイトを探したり、ついでに漁をしたりして。濡れた身体を乾かしがてら、温泉の横でたき火を広げて、豪快に調理する。腹が膨れたら風呂に入って、ボロボロの自作小屋にて眠る日々。

 不思議なもんで、生活のリズムができてくると、欲求が湧いてくる。

 小屋、そんなに出来が悪いわけじゃねぇけど不便なんだよなぁ…………なぁんて思い始めた矢先のこと。

 温泉の隣に………でっけぇ平屋が爆誕。

 その衝撃でボロ小屋が吹っ飛んで消えたけど……文句はねぇ。アーサーが直ぐに教えてくれたから。「神の従者からメッセージ。質素な平屋を用意したので好きに使ってくれ、とのことだ」……てさ。

 ご厚意に大感謝。

 いや、もちろんツッコんだら負けだから。天に向けて礼をして………苦笑いを返しておいた。

 質素?

 多分…………世界樹、しかも直径五十メートルはある古木……。それを高さ二十メートル程切り出して………内部をくり抜いて……いい感じに家っぽく仕上げてある。

 そんな家が……質素?

 さすが世界樹……通気性、保湿性も完璧。

 なにより………木の香りがヤベェの。も、癒し効果満点。

 そんな家が、質素?

 リビングには、海を眺められる大きなガラス扉があって。そこから巨大なベランダに出て、隣にある温泉に直行できる。

 もちろん、室内にはシャワー室もあるし、デカい風呂もあって、ちゃんと温泉を引いてくれてるっぽいんだけど………いまんとこ未使用。

 ま、露天風呂の誘惑には勝てねぇし。

 あと、やっぱ気になって仕方ねぇし。露天風呂まで徒歩十歩の家が……質素だと?

 普段、神は、どんな生活をどんな住空間……都市環境で営んでるんだろ………。神々の神社って、扉開けたら露天温泉だったりすんのか?

 もしそうなら、それに比べりゃ確かに質素かもだけど。

 いやもちろん、俺的には質素じゃないからって、不満を言う気はない。

 実際、寝室も快適だし。

 キッチンも最高だし。冷蔵庫やコンロ、巨大なオーブンが設置されてて機能的。大理石のキッチンテーブルも美しい。

 たき火で調理してたころと比べると、衛生的で生産性も高い。

 室内もポカポカだし。

 薪を燃やせるストーブ、なぜかあったけぇ床、ふわっふわのクッションとベッドに……豪華な地下室。

 アホみてぇにバカでけぇ地下室はなんと………巨大なトレーニング施設になってやがる。

 定地点でランニングができる器具、ペダルをこいでグルグルする器具、腹筋や背筋を鍛える環境、重たい円形の塊を棒にはめて持ち上げる器具まである。

 あと………流れるプールっていう、泳いで全身運動する設備まで……。

 しかも基本的に、全部ヒヒイロカネ製………。

 耐久力に優れ、錆に強く、常に清潔………。いっそのこと、この器具を敵にぶん投げた方が破壊力あるんじゃねぇのって思ったくらいだ。

 しかし、驚くのは早かった。

 なんか……不思議な玩具があるんだよ。説明書にはフルダイブ型って書いてあるけど…………何それって感じだった。

 で、試してみたわけだ。

 そしたらなんと…………仮想空間で英雄ラグナとバトル開始。

 それも………若かりし頃の、今の俺と同じくらいの年齢っぽい少年ラグナと、本気バトルときたもんだ。

 ま、わかってたけど…………見事に瞬殺される。

 ほぼ毎回、ワンパンで沈められて………ゲームオーバー。

 悔しくてまた、修練に励むってサイクルが爆誕してる。

 そう。

 質素かどうかは、おいておいて。

 いい感じだ。

 全てが、いい感じ。

 気になることがあるとすれば………俺らを監視してる三つの視線くらいのもん。

 今もって、ただ、遠くから見てるだけだ。

 時折、近づいて来ようとする気配を感じはするが………途中で引き返していきやがる。

「やはり、今日も見てるだけのようだな?」

「……だな」

 用があるなら、そのうち来るだろう。

 害するつもりがあるなら、仕掛けてくるだろう。

 でも、気配を隠しきれねぇレベルの相手―――おそらくガキどもに、ビビる理由はねぇ。

 それに………こっちは今、鉄壁の布陣。

 なにせ光の帝位精霊、そして氷の星位精霊が一緒にいるわけだし。アイツらが不意打ちを企んだとしても、成功しねぇだろう。

「ま、無視だ無視」

「わかった」

「さ、修練を続け―――………え?」

「どうした?」

「………ガウェイン。俺の目、また……おかしくなっちまったかも?」

「いや、いつもの位置、いつもの大きさと色彩だが?」

「あ、そうじゃなくてさ。アレ………なんだと思う?」

「………さぁ」

 首を左右に振る様も……厭味ったらしくない。

 似あってるって言うか自然って言うか………マジでイケメンだなコイツ。

「だが恐らく、神々の手によるものだろう」

「だよなぁ」

 例の如く、今さっき急に登場してきたわけだ……。今度は、豪華な平屋の隣に、なんとも…………ファンシーな建物が。

 カラフルっていうのか……ナナが好きそうなピンクや青の可愛らしい人形細工が、壁面を彩って………何かの物語を表現してるっぽい。

「イルル、見ろ。看板に………謎のカウントダウンが。二時間から徐々に減っていってる」

「マジか。看板っていうと………アレか。ピンクのハートの―――」

「―――あぁ」

 ………マジか。

「大天使ラファエルの―――」

「―――キュンキュンショップ?」

 …………キュンキュン?

「……な、なぁガウェイン。大天使ラファエルってあの………アレだよな?」

「あぁ。正神教の神、偉大なる大天使様だな」

「だよなぁ」

 正神教の主神がひとり。あと、宗教画では可愛いく描かれることが多い。そんくらいの噂しか知らねぇ。

「大天使様のお名前をかりた店ってこと?」

「ま、入ってみればわかるさ。時間も限られてるようだし」

「だな。じゃあまぁ………入ってみますか。ニクス様も一緒に―――……って、あれ? ニクス様は?」

「先ほど、光速で店に入られたぞ?」

「はやっ」

 ペンギンまっしぐらなお店って………なに売ってんだろ?

「うおっっととっと………」

「すまん。急いだ」

 ガウェインお得意の光速移動は、便利だけど不意打ちされっと………ちょっと焦る。

 視界が急にグニャっと曲がる感覚が……どうも苦手なんだよなぁ。

「いや、サンキュ! では、お邪魔しま―――す!? うぉっ!」

「どうした?」

「………おぃ、見たか? 今、扉が勝手に開いたぞ! しかも変な音楽が急に!」

 ピンポンパンポンピンコーンって。変な音楽が。急に……。怖っ。

「……そんなに怯えるようなことか?」

「いやだってよ………扉は勝手に開くし……誰もいねぇのに音楽鳴ったんだぜ?」

 ………幽霊か? 悪魔の仕業か? いやでもここ大天使様の名前借りた店だよな? 大丈夫だよな? 神聖ななんかで守られてるよな?

「ほら、入るぞ。ビビるなよ」

「………おぅ」

 てかビビってねぇし。警戒してるだけなのであるからして………。

「失礼します」

 へぇ~。綺麗な店じゃん。こじんまりとしてるけど………棚が立体的で商品もきっちり並べられてる。

 おかげで一つ一つの商品が―――……見やすいし、取りやすそうだ。ここまで配慮が行く届いてる店、見たことねぇかも。

 壁は……ピンクとか白とかオレンジとか………カラフルなかわいらしい感じの配色。天使とかハートマークとか……きらびやかなミニ看板が天井から吊るされてる。

「ん? 食料品と……文具? あぁ、どこに何があるのか教えてくれる看板か」

 すげぇな。

 客目線で作られてる。

「こっちはアロマキャンドルで………そっちは包丁」

 いいじゃん。

 一個、カイトに土産として―――

「―――ヒヒイロカネ製。万能包丁……作名は春雷(しゅんらい)? 雷神トールの手による逸品ゆえにお値段要相談……ははっ!」

 冗談まで行き届いてやがる。

 いいじゃん。気に入った。貴族御用達の老舗でも、ここまで客目線で作られてねぇ。

 あとは接客だけども………店員がいねぇ? 留守か?

「あ、お待たせしました! いらっしゃいませませ~!」

「「ませませ?」」

「ちょっと在庫整理してたの!では、気を取り直して―――……接客開始! それでは………ようこそ大天使ラファエルのお店へ!」

「どうも?」

 この子どもが店主?

 いや、子ども………なのか?

「―――っ」

 冷や汗、出てきやがった。

 なんかすげぇ……気配が―――濃厚だ。重くてデカくて……圧殺されそうな………。そうだ……あの日、世界樹を守るために力を貸してくれた………偉大なる…。

「あ、あなた様は―――」

「―――うん! 大天使ラファエルだよ! 仲良くしてね?」

「………し、失礼を…お許しください」

「ガウェイン……まさか」

「イルル………頭が高い。礼を尽くせ」

「やっぱ……マジもの?」

「うん! ラファはラファだよ?」

「し、失礼しました!」

 ………やべぇ。

 あの日見た大天使ウリエル様と……気配が似てる。これは………間違いねぇか。

「我らの無礼をお許しください。私はカイト様の従者、光の帝位精霊ガウェイン。こちらはイルル。カイト様のご友人です」

 深々と頭を下げたガウェインを見習って、慌てて高さを揃える。

「イルルと申します。まことに申し訳ございませんでした」

 大天使の店にふらっと入るとか……。

 俺、正神教徒じゃねぇし。神罰の対象とか言われたらどうしよ……。

「いいよいいよ~。今のラファはただの店主だからね! それにお客様は神様だって聞いたし! こっちも神でそっちも神! 今の君たちは、僕と同列ってことなの~! だから、頭をあげて!」

 ニコリと微笑み空を舞う………その姿と笑顔、透明な声音に………心が癒される。

 凍えてひび割れてた心の隅が………温もって………再生していくような感覚に……瞳が熱くなる。

 ………これが、大天使ラファエルの御業?

「さぁ! 頭をあげて! 商品を紹介したいからね!」

「で、では失礼します」

 大天使、ノリ軽いな。

 てか………やっぱかわいすぎねぇ? 小柄な少年……だよな? 金の巻き毛と大きな瞳が……愛くるしいっていうか………癒されるマジで………。

「ラファエル様、地上に降臨されるとは……もしや何か我らに御用でも?」

「そうそう! えっとねぇ~、頑張ってるイルル君にねぇ~……ふふふ?」

「お―――……私めに?」

 名指しで?

「うん! 差し入れだよ? この棚にある物をひとつ、持って帰っていいけど……気を付けてね!」

「気をつける?」

「うん! じゃじゃ~ん! なんとなんと! この棚にあるのはぜぇ~んぶ天使の秘宝なんだよ! だけど生命体が持つには危険がいぃっ~ぱいなの! うん!」

「いや、説明がザックリすぎてわかねぇんスけど……」

「え?」

「あ、やばっ」

 ついツッコミ口調に……。

「お、おいイルル! 口を慎め!」

「も、申し訳ございませんでした」

 謝罪は、潔さと時間が勝負を決める。イタズラして怒られまくってきた……カイトの教えは正しいはず。

「………嘘? ねぇ、嘘でしょ? ラファひょっとして……接客お下手さん? なの?」

「いやいやいや! そ、そんなことはございません! な、なぁイルル?」

「お、おぅ! もちろんです!」

「………ホント?」

「「本当です!」」

「だよね~! びっくりしちゃった! 驚きすぎてもうちょっとで………泣いちゃうとこだったよ?」

「……お……おたわむれを」

 え?

 泣くと……やべぇの?

 ガウェインが……小さく震えるなんて………。

「じゃあ、接客再開するね! ラファのおすすめを教えて……あ・げ・る!」

「お、オナシャス!」

 ヤベェ。

 なんかここ、ヤベェ……。

 可愛いが怖ぇ……。このドキドキのせいで……変な性癖に目覚めかねねぇ…………。

「まずはこれね。大天使の涙―――………とんでもない秘宝だよ?」

「指輪ってことは……装備アイテムっスか?」

「うん! これを身につけるだけでなあんと………強メンタルになれちゃうの!」

「へ、へぇ~。すごいな~」

 ヤバイ……強メンタルになれるって……具体的には? どういうこと? 質問しちゃっていいの? メンタルのメーター振り切れるってことなの?

「すっごいんだよぉ……。どんな相手に持怯えず、冷静に、常に自分の感情をコントロールできちゃう優れものなんだからね! どやぁ!」

「お、おぉぉ! それ、修練にいいっスねぇ!」

 冷静に戦うって状態を経験して……学ぶ。

 将来的には指輪を外せるようになれればいいわけだし。

「でも! でもでも………でもねぇ。身に付けた反動で、しばらく動けなくなっちゃうの。ほんのちょっとの間なんだけどねぇ……」

「………どれくらいです?」

「えっとね~! これくらい!」

 指五本……か。

「五分くらい? スか?」

「違うよ? 五十年くらい!」

 ……………呪いのアイテムじゃねぇか。

 強メンタルなのに、それを生かすこともできず……部屋から一歩も出れずに最悪餓死する可能性もあるとかもぅ………バランス崩壊しすぎ。メリットとデメリットの。

「つ、次のも……教えてください」

「うん!えっとねぇ~……。次はこれ! 大天使の羽三枚セット!」

「うぉ! なかすげぇ……綺麗っスね!」

 プラチナのような……黄金のような………ルビーのような………。光の当たり具合で、色が変わって見えるっぽい……。

「でしょ? なんと、ミカエルとガブリエルと僕の羽が一枚ずつ入ってるお得な品だよ!」

「大天使の!? それで……効果は?」

「ふっふっふ~………すごいんだよぉ~。なにせこれ一枚につき一回、いつでもどこでも、大天使を呼び出せちゃうんだから!」

「おぉ! 召喚アイテムっスね! しかも大天使を呼べるとか無敵くせぇし!」

「うん! でも……………気を付けてね?」

「え?」

 これもヤベェの?

「ミカエルとガブリエルの羽なんだけどさぁ。さっき背後からブチって抜いて持ってきたの。だから………怒ってると思う」

「……え?」

「だからね? 召喚したら大天使の裁きが下される可能性があるよ? 割と高めで!」

「じゃ、じゃあ……当たりは一枚?」

「うん! 僕は怒ってないから大丈夫! でも………残りの二枚を使ったら………テヘ?」

「………」

 リスク高ぇよ………。

 強敵が出現! イルル大ピンチ! おっとここで大天使を召喚………しかし大天使は怒っている。イルルを攻撃………星の半分が壊滅した………ってなるじゃん。

「いっこ、質問いいです?」

「いいよ!」

「……なんでブチッっと?」

「分けてくれないって言うから! でもラファね………どうしてもお店にレアアイテムを並べたかったの!」

「…………」

「エヘヘ?」

「わ、わかりみです! で、ですよね~、うんうん! 並べたいですともええ!」

「だよね!」

 …………怖っ。

「そして最後のひとつは………これ。大天使の歌声!」

「歌声?」

「うん! この貝殻にはなんと、かの大天使ミカエル………その生歌が入ってるよ!」

「それ………ヤバいヤツです?」

「今回収録したミカエルの歌はねぇ………罪悪感をバフるの!」

「罪悪感を?」

「うん! 罪の意識がマシマシになって、自白したり自首したり……自分で自分に制裁を加えたりするかな? 多分!」

 多分って……。

「それだけです?」

「うん!」

 う~ん。

 バトルや修練向きじゃねぇけど……持ってると便利そうではあるか。悪意のあるやつに騙されねぇように守ってくれるアイテムっぽいし。

 でも―――

「デメリットは?」

 ―――ここが気になりすぎる。

「特にはないよ!」

「マジっすか!?」

 なら、これでよくね?

「うん! でも、聞いてる人みんな影響受けるから、使用時には注意してね!」

「………それ、使用した俺もってことっスか?」

「うん!」

 ヤベェ。

 使いどころが……ねぇ。自爆攻撃もいいとこじゃん………。罪を犯したことがない天使が使うならいいんだろうけど………。自信、あんまねぇぞ。イタズラとか……青い衝動とか………。罪悪感大なり小なり感じてきた覚えあるしなぁ。

「じゃあ……どれにする?」

「ど、どれにしよっかな~」

 全部要らん。

 絶対に要らん。

 でも、そんなこと言ったら泣かれそう。

 そしたら多分……このグッズ使うよりも……悪いことになるんだろうな………。

「ラファエル様。お仕事中に申し訳ございません」

「あ、ニクス君だ! さっきぶりだね!」

「えぇ。先ほどは石鹸を分けて頂きまして、ありがとうございます」

「いいのいいの! お買い上げありがとう!」

 石鹸って……雑貨も売ってるの?

 むしろそっちの方がありがてぇんだけど……。シャンプーとか、洗剤とか……。あ、木炭ねぇかなぁ。いい感じの火力でバーベキューしてぇ。

「今、ちょうど話を伺っていたのですが……」

「どうしたの?」

「棚にはまだ一つ、商品があるようです。好奇心には抗えぬものでして……そちらについても教えてはいただけませんでしょうか?」

「へぇ? ニクス君……イルルに優しいんだね!」

「恐縮です」

 優しい?

 このペンギンが?

 失神する度にケツに乗ってマウントとってくるドヤ顔精霊が? 優しい?

「イルル君が自分で気づくの待ってたんだけど……ニクス君に免じて紹介しちゃおう!」

「自分で?」

「うん! ラファの言葉に惑わされず………賞品が他にないか……ちゃあんと自分で確認できる子かどうか……様子を見てたんだけどねぇ?」

「すいません」

 ……パニックでした。

「いいよ! でもこれ、ラファ的にはあんまりお勧めじゃないんだけど………聞きたい?」

「お、お願いします!」

「じゃあ、教えてあげよ~っと。えっとねぇ、これはねぇ―――」

「これは?」

「―――大天使ウリエルの神威、その結晶だよ」

「結晶?」

 これもなんか……綺麗だ。

 琥珀色の小石を飾ったネックレス………どこにでもありそうなのに……目が離せねぇ。

「うん。地を司るウリエルが若いころにやんちゃして………神威を込めまくった宝石!」

「へ、へぇ~」

 大天使のやんちゃって……なにしたんだろ。

 なんかこれも、ヤバい気配がプンプンするんですけど?

「あの……効果は?」

「特にないよ?」

「え? ないんです?」

「うん。身につけてると体がちょっと丈夫になるくらい」

「……デメリットは?」

「う~ん……そうだねぇ。ちょびっとだけ……カッコつけ屋さんになっちゃうかもねぇ。ウリエル、カッコつけ屋さんだから!」

「これ、ください」

「え? これでいいの?」

「はい!」

 断然断トツトップでこれがいいです!

「理由は?」

「若輩者故、身の丈に合った物をと、考えました。まず、貴重な品をご用意くださったことに、どのようにお礼を申し上げればよいのか………言葉が紡げず、己が不勉強さを恥じるばかりです。しかし、よく理解できました。私はまだまだ至らぬ身だということが」

「至らぬ?」

「えぇ。問題なのはアイテムの方でなく、私めにあるのです。ラファエル様が用意してくださった品々は、私のような……心身のか弱き者には扱えません。大天使の涙を扱うには不十分なメンタル、大天使の羽を使うには不十分な度胸、大天使の歌を使うにはあまりに不勉強で不道徳……穢れた身なれば………頂いたお力を存分には使用できぬ結果を招いてしまいます。どうか、我が弱さをお許しください」

 片膝をついて、深々と頭を下げる。

 礼は尽くして……損はねぇ相手だ。

「ふふふ?」

「………ラファエル様?」

 ………怒っちゃった?

「正解正解だいせいか~い! 試練突破おめでとう!」

「試練?」

「うん。欲深くなく、冷静で謙虚。その若さで己の小さきを知るとは………君、いいね」

「恐縮で―――っ!?」

「ラファ、いい子は大好きだよ?」

 今、頬に触れたのはきっと……天使の羽。

 絶対に………唇じゃあない。

「い、今のは?」

「加護だよ」

「……加護?」

「うん。カイトのために力を尽くさんとする………謙虚なる(おのこ)イルルに、我が加護を与えた。一時の間、全てのものが汝の魅力を正しく理解するであろう。繋がりの全てを、己が力に変えるがいいよ」

「み、身に余る光栄です」

「じゃあ、またね! って言っても君は―――星の民である君は、間もなくここで起きたことを忘れちゃうけどね。バイバイ!」

「忘れ……?」

「じゃニクス君、ガウェイン、あとは任せたよ!」

「「承知しました」」

 え?

 どういうこ―――

「―――って………あれ?」

 今、なんかここに………………あれ?

 てか俺、なにしてんだ?

 なんかしてた……よな? ヤベェ……記憶が……ねぇぞ?

「ガウェイン?」

 俺ってば夢でも見てた?

「イルルよ。そのネックレスを身につけて、片時も外すな」

「ネックレスって………これか?」

「いいから、身につけろ」

「痛っ!? ちょ、何なんスかニクス様……」

「外すなよ? いいな?」

「はいはい、承知っスよ」

 綺麗なネックレスだな。

 琥珀色で……派手さはねぇけど、小ぶりなのに品があって………肌に吸い付く不思議仕様。これなら、修練中も邪魔になんねぇ。

「さて……イルルよ。我はそろそろ我慢の限界だが?」

「……あぁ、アイツらですね」

 偉大なる星位精霊様だ。興味本位に見られてるのって、俺以上に嫌なのかもしんねぇ。

「わかりました。そろそろ俺もうっとおしいし………捕まえましょう」

「右は私が―――」

「―――なら俺が左な」

「よかろう。我が真ん中の茂みを担ってやろう」

「頼んます。じゃあ―――散開っ」

 温泉から左に三十メートル。

 そこまで僅か………ジャンプ三回か………。

「へぇ? 成長したじゃん、俺」

「―――っ!?」

「おっと、逃げるなよ小僧。そろそろ挨拶しようぜ? 俺の名は―――」

「―――知ってる。ハルル、だろ?」

「あん?」

 違うけども?

 バカ兄貴と俺を間違ってるってことか?

「俺、名は………ナック。花龍集落、ヤルナック、一人息子」

「……それでナック。この辺をウロチョロしてるのはお前の仲間か?」

「別、ガキども」

「お前もガキだけどな。十ちょっとくらいだろ?」

「……十三。すぐ十四」

「それで? お前の目的は?」

「………」

「よし。じゃあ家まで来い。他のガキどもと一緒に……飯を食わしてやる」

「―――っ!?」

「その前に、風呂だな。ほら、行くぞ?」

「………飯、本当?」

「あぁ。でも好きにしろ。無理強いはしねぇ主義だ」

「………覚悟、決めた。俺も男」

 覚悟?

「行く」

「あぁ。行くぞ」

 おっと……やっぱそっちもそうなったか。

 ガウェインとニクス様が、連行したガキどもを全裸にして………温泉に入れてやるつもりらしい。

 ガウェインが楽しそうに、頭と体の洗い方を教え始めた。

「ナック、お前も急げ。あのイケメン兄さんが、体の洗い方を教えてくれるってよ?」

 偉大なる帝位精霊様に、ここは任せておけばいいだろう。

「………わかった」

 テケテケと駆けていく姿に、覚悟のようなものを感じる。

 もう戻らないと決めているような……そんな感じだ。

 カッコいい背中に見えなくもねぇけど………力強さと頼もしさが……まるでない。

 …………体が細ぇから。

 カイトが去ったあの日………周辺の集落も、大きな被害を受けたと聞いてる。まだ復興への道は遠く、大人も子どもも………飢えてるのかもしれねぇな。

「アーサーかガウェインに、伝言を頼んでみるか」

 大和おじさんに。

 食料の配送と、復興支援を。

 それに精霊の力を借りれれば………少しは互いに歩み寄れるようになるかもしんねぇし。

「さぁて………飯はどうすっかなぁ」

 カイトのように、工夫の行き届いた美味いもんは作れねぇけど。

 作り置きしてあった煮物、それと里の女どもからの差し入れが幾つか冷蔵庫に入ってたはず。

「後は…………ピリ辛のカレー鍋でも食わせてやるかな」

 肉と野菜、ゴロゴロと大きめのものがいいだろう。

 アッツアツの白米を、椀にたっぷりよそってやろう。

 話を聞くのは、その後でいい。

 俺のことを、なぜハルルだと思ってやがるのか?

 そしてここに、何しに来たのか?

「なぁ……カイト。お前なら、放っておかねぇんだろ?」

 腹をすかせたガキどものことも。

 この謎のことも………。

「……やっぱな」

 遠く………大波が岸壁にぶつかり………同意を示してくれた。

 ………やっぱ、この海のどこかに、カイトは潜んでるらしい。

 そんな気がした。


今日もありがとうございました!

あと一話、続く予定です!

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