表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/85

急ぎ伝えよ、次男は童貞(閑話)―――その壱

イルルのお話。本編にチラッとでてきたエピソード。行方不明になったカイトを探し続けるため、北辺の冷たい海辺で暮らし始める頃のお話です。

 



 最初はただ…………眺めてた。凍える海のうねりを。

 砂浜に座して、冷てぇ風に身を晒して………。カイトが消えたと……受け入れるのに時間が必要だった。

 それからは………潜り続けた。海に。毎日。

 潜っては………陸に上がり冷えた体をたき火で温めて………また潜る。

 悪天候……波のきつい日は浜辺を歩いて……カイトを探した。せめて、アイツの身につけてた服の切れ端くらい見つけたくて………ここに確かにいると信じられる何かを………どうしても見つけたくて………たまんなかった。

 ………………期待は、裏切られ続けた。

 ある日の夕方、心が軋む音がハッキリと聞こえて……。それが日に日に……デカくなって………。時々、頭が割れそうな音量に膨れ上がる………。

 そんな時は決まって、カイトを想った。胸に手あてて、ただ、優しい過去に浸った。音は小さくなり、頭痛が和らぐから。

 しんどいのは、それが上手くいかない時。気が………狂いそうな時。意味のない叫びと嗚咽に感情が支配されて…………膝から崩れ落ちる。

 そのまま………地を殴り、掻きむしり、叩き潰す。

 意識が飛んで―――眠りに落ちるまで。繰り返し何度も、何度も、拳を痛めつけた。

 ……役立たずの拳を。

 幻聴も、悩みの種のひとつ。

 遠くから………カイトが、懐かしい声音で俺の名を呼んだような気がして。声のした方へ……感覚を頼りに駆けては………海に飛び込み…………絶望を繰り返す。

 疲れて眠りに落ちると、久しぶりに遊びに来たと言わんばかりの表情で………夢でカイトが笑いかけてくる。

 ………………頭の片隅で、理解できる自分が…………憎い。幸せに浸りながら、これは夢だ―――……妙に冷静な自分が夢の中に居て。絶望を抱えながら、黙って……カイトの笑顔を受け止める。夢でもいい、覚めないで―――……そう…繰り返し念じながら。この夢から覚めぬよう……間違っても目覚めないように……怯えて動かない。そんな馬鹿な自分が毎回、人気のない脚本よろしく登場してくる。

 悲劇だ。

 現実は……(まご)うことなき悲劇。

 日々………希望は、目減りしていく。

 もう絶望の淵に体が落ちている。

 それでも……淡い希望の光に指先でしがみついて………体を持ち上げる。食いしばって、食いしばって、心を奮い立たせて………日没を迎える。今日も悲劇だったと、現実を受け止めながら。

 ただただ欲した手がかり一つ……布の欠片さえ未だ姿をみせないのだから。

 絶望しても……腹は空く。

 食いたくと無気力になる自分を、毎日、説得してる。カイトを探す体力を得る必要があると……叱りつけながら。

 気乗りしないまま………海の幸に手を伸ばして。拒む胃に詰め込んでは吐き戻し………泣き崩れる。

 どうしても食べれない時は……カイトに頼った。パーティメンバーに配ってくれてた、カイトお手製の非常食。濃い目の味付けで……カリの実を潰したスパイシーな干し肉。俺の好みに合わせてくれたんだと、すぐにわかった。

 こんな時でも、カイトの飯は美味い。

 ただ………カイトと食う飯は……もっと美味かった。

 些細な事実が、全身を揺さぶって。後悔が……頭を塗りつぶす。

 一緒に………同行させてもらえるほどに、なぜ、俺は、強くなかったのか。

 もっと強くなっていれば、今頃、こんなことにはなってなかった。カイトも俺も、笑って飯を食ってた。

 ああしてたら………こうだったら………際限なく繰り返される―――()()()()の思考は、いつだって己を呪う言葉になって………心を痛めながら……眠りについた。

 そんな様子を見かねたのか。いつの頃からか………野宿に必要な物資―――……衣服や毛布が、枕元に置かれるようになった。里の知り合いが差し入れてくれているんだろう。

 必要なものは、それでなんとかなった。

 長くここを離れる気には……どうしてもなれねぇから。ありがたい。


 …………………………そんな生活が、数か月。

 手がかりの一つも得られぬ日々が………心を蝕んで……。

 ついうっかり、指先を離した。淡い希望から。

 暗闇に落ちるのは、一瞬。

 空腹で無気力なまま……眠気でぼんやりした頭と体が………寒さを心地いいと錯覚して…………ふと、思った。

 このまま、ここで死ぬのも悪くねぇな……って。

 一瞬…………ほんの、一瞬。

 心地よい気だるさと共に……悪魔の誘惑が耳元で炸裂して…………。

 ……………………腹が、立った。

 自分の頬を殴った拳は……力加減なんてできるわけもなくて―――

「―――や、べぇ……」

 脳、揺れた………かも。

 あぁ………………………あぁ………………バカだよ、な………。

 ………………………悪かった……………。

 も、許してくれって…………なぁ、カイト………。

 謝るから、よ。

 何度も、何度だって……………。

 なぁ……………………………………機嫌、直せよ。一瞬…………気が………迷ったんだ。

 あぁ…………ほんの一瞬……一瞬だ。

 ……あぁ。

 ……………だな。

 お前のことは……わかって……る。

 死ぬわけ……ねぇ……………。

 ずっとずっと…………生きてる―――……信じて―――

「―――……悪ぃ、カイ、ト……………ちょっと………眠ぃ。膝が………仕事しねぇの……ウケ、る……な?」

 …………冷たい波が……心地いい。

 服………きったねぇ……………体も……きたねぇ…………母さん……怒る…………よな。

 すげ………きたねぇ。……し………修練サボっちまった………………。鈍っちまった………ごめ、ん。

 ………………冷めてぇ……。

 でも…ありがてぇ。

 皮膚を刺す冷たい痛みで………思考力……蘇ってきた……………。

 指先………から心臓まで………………呼吸を欲して……る。脳が……叫んでんだ………生きろって、叫んで…………。

 こりゃあ……いい………。

 ……………………もっと…………………もっとだ。もっと……長く…………息を………………限界ギリギリまで…………もっ…と……………。

 叫ぶ……………体の悲鳴を………忘れねぇように。

 ……………………………………………………………………………………………あれは?

 …………………そこだけ…明るい………………。

 光………?

 アレ……掴めたら………会える………かなぁ。

 カイトに……………また……会うんだ………。手ぇ………伸ばせ………指もっ……動けっ。あれ……………掴んで……俺は………俺は―――

「――――ぶはぁっ………はあっ…はぁっ………はぁっ…………はぁっ…はぁ………ふぅぅぅぅ~………はぁっ……はぁ………ヤベェっ………はぁっ……」

 マジで……死ぬとこだった。

 血の流れを………肺が必死に取り戻そうと…………頑張ってる。

「よもや………死ぬおつもりか?」

「主のことを諦めるのか?」

「………いや………ちょっ………待って…………。ふぅ~~~………ふぅぅぅぅっ―――……っはぁ、はぁっ……………はぁっ……」

 さっきの………光。

 指先に触れた………淡い希望の光が―――………命を救ってくれた。

「………礼を言う」

 ……そうだ。

 なんで………気が付かなかった?

 ………俺は一人じゃない。

 カイトが生きてると信じ……必死に探す。こんなにも頼もしい―――力強い仲間が………俺にはいるじゃねぇか………。

 光の帝位精霊―――………カイトの守護者。

 騎士の装いをしたイケメン青年って雰囲気の……真面目キャラさんたちが。

「アーサー殿、ガウェイン殿。ちょうどさっき、生きようと思ったとこだよ。カイトを探すために」

「……それはよかった」

「……あぁ」

 感情表現に乏しい二人が安堵の顔を浮かべる程………俺はヤバいらしい。

「俺に何か用でも?」

 ずぶ濡れの全身が………温かい光波の力で………心地よく乾いていく。

 光の帝位精霊……マジ有能だな。

「伝言です。氷の星位精霊ニクス様より」

「ニクス様から?」

「えぇ。‘そこは心地よさそうだ。さっさと我を召喚しろ’、とのことです」

「………マジで?」

「マジです」

 さすが氷の星位精霊………。凍てつく大地が心地よさそうとはなぁ。

「でも俺、召喚下手だけど。てかここダンジョンじゃねぇし……ギアもコアもねぇけど?」

「ご安心を」

「えぇ。ただ祈り、名を呼べ………とのことです」

「偉大なる神がそれに応じ、精霊たちの住処に至る門を開くだろうと」

「オッケ。わからんけどわかった」

 祈って名を呼ぶ、ね。

「………太陽と闇を贄に開くは精霊の社。欲するは氷の力……ニクス様お越しください!」

 どう?

 てか……これで来るの?

 精霊ってツンデレじゃねぇの?

 だからギアとかコアが必要なんじゃねぇの?

 そもそも召喚しにダンジョン潜んなくてもいいの?

「………お越しください!! 頼んます!」

 ………いやいや。

 おかしいおかしい。

 さっさと来ないのはおかしいって。

 呼び出せっつったのはお前の方だろが?

「そろそろっ! 限界っつーか………はやく!」

 …………マジか。

 来ねぇの? なんも起んねぇし……。

「…………」

 おいおいおい………。

 精霊の住処とこことを繋ぐ門的なアレが出てこねぇ。

「ニクス様………超ワガママじゃん」

 呼べと言っておきながら、出てこないとか。

 あれっスか?

 ツンデレのツンのみ?

 ―――はっ!?

「まさかまさかの………かまってちゃんでっ―――……痛っってぇよ? なんだよ誰だよこの野―――ろぅ…………」

 ガシガシ膝裏を突くこの痛みは―――………間違いない。

「ニクス様………いつからそこに?」

「さっきから後ろに居たけどな」

「………マジです?」

「嘘などつかん。我の気配に気が付かぬとは………竜人族の名折れだぞ」

「それ、精霊が言っちゃいます?」

「ん? 右膝も突いてほしいのか?」

「いえ、勘弁してくださいよっ……と!」

 ペンギンって名の………動物のフォルムだっけ。

 だいたい三十センチほどの大きさ。

 ついモギュッと抱えたくなる愛くるしさは………悪くねぇ。

「イ、イルル殿……」

「それは無礼が―――」

「―――え? やっぱマズい?」

 慌てるアーサーとガウェインって、始めて見た気がすんだけど。

「まぁ、よい。しかし…………我を抱っことは。畏れ知らずとはこのこと」

「ま、いいじゃないっスか」

 見た目で得してるって思ってください。

「お主……風呂に入れ。匂うぞ。ついでに髪を切れ。アーサー、スパッといけ」

「承知しました」

「………なんか……すいません」

 海水で汚れを洗い流すのは………無理だよなそりゃ。

「以前と同じ髪型……ベリーショートに」

「………どうも」

 三秒で顔剃りまで終わってる………。有能だな、マジで。

 あとは、風呂だな風呂。

「けど………ここにはねぇしなぁ」

 これまでも、海か川で全身の汚れを洗い流してたくらいだし。

 てか……やべぇ。

 考えだしたら………ウズウズしてきた。

 温泉、いいよなぁ。入りてぇなぁ…………………。

「それでしたらいったん、里に戻られますか?」

 あぁ、それもアリか。

「ガウェイン殿が運んでくれるの?」

「えぇ。瞬く間に辿り着くでしょう」

「それはありがてぇ」

 あんま長い間、ここを離れるのも嫌だからなぁ………。

 徒歩だと……全力で走っても往復二日とちょっとかかっちまう。

 光速で移動できるなら、用事を済ませて一時間以内に、ここに戻れるだろう。

「では、私とニクス様はここで待機しております。またすぐ、ここに戻って来られるのでしょう?」

「あぁ。もちろんそのつもりだよ、アーサー殿」

 ニシシっと笑うと、精霊の頬も嬉しそうに緩んだ。

 この気高い帝位精霊は、やっぱりカイトのことが大好きらしい。

「なにを言う。我はイルルと一緒に行くぞ?」

 ……………は?

 なに言いだすんだこのペンギン…………。

「………竜人族の里っスよ?」

「なにか問題でも?」

「いや、知ってるでしょ? うちの里、竜人族の脳筋ばっかっスよ? 星位精霊が来たなんてわかった日には………無限にバトル申し込まれるっスよ?」

 アホばっかだから。

 親父より上の……爺ちゃんの年齢層は特に………アホだ。

 精霊を倒して名を挙げる………それが竜人族の誉れだと思ってやがる世代だから。

「なに、案ずるな。我はこのまま人形の振りでもしておこう」

「いやそれ無理あるでしょ」

 神気でバレバレだから。

 そんな強烈な神気放つ人形なんて……もはや怪談話だから。

 仮に上手くいったとしても、だ。

 いや、わかってる。格闘好きの脳筋種族が強烈な神気を見逃すはずねぇし。ま、ほぼほぼ無理ゲーなんだけども。

 ………仮に、仮に上手くいったとして、だ。

 俺………人形抱えて帰郷したって都市伝説残すの………無理。

「では、どうしろと?」

「ここでお留守番?」

「それは選択肢にない。我が汝といるのは決定事項だ」

 いや初耳ですけど?

「では、我らの能力……謁見の間を使って里に入ってはいかがでしょうか」

「そう! それがあった! あの便利空間!」

 カイトが秘密基地っぽいってテンションバカ上げしてた能力!

「ならん。空間に閉じこもっているのは我が性に合わん故な」

 その………ドヤ顔やめてもらっていいです?

 鋭い口ばしもひっこめてもらっていいです?

 俺の顔面突く気配全力におわせすんのも、やめてもらっていいです?

「………なんだ?」

「………ですよね~」

 ………星位精霊ってそんななの? ワガママすぎじゃね?

 ……そもそも、こっちに何しに来たのわけ?

「あの、ニクス様。なにか用事があってこちらに?」

「我は当面、お主から離れるつもりはない。いいな?」

 それ、用事って言わない。

 行動って言う。

 だからその目的は?

 意図は?

 ねらいは?

「…………なんだ?」

「………いえ」

 ダメだ。質問に答えた気になっておられる。

「………アーサー? 一緒に里に行っても大丈夫だと思う?」

「えぇ」

「我もアーサーに同意です。ニクス様を害せるものなど………神以外におりますまい」

「いや、そっちじゃなくて」

 里の方だよ。

 大暴れして壊滅させるんじゃねぇの?

 ただでさえ邪竜の適当爆撃で甚大な被害が出てるんだぞ?

 里丸ごと氷漬けにされたりしたら………さすがにマズいんだけど?

「……む?」

「ニクス様? どうかしました」

 念のため……。ムギュっとした口ばしから………顔を遠ざけておくとしよう……。

「連絡だ」

「連絡?」

「あぁ、偉大なる神の従者からな」

「神の従者?」

「……………えぇ、イルル殿。温泉を用意した、とのことです」

「温泉?」

「ここ………浜辺の後方に………あぁ、アレですね」

「………マジだ。湯気じゃんあれ」

 ありがてぇ。

 てか、神の従者超有能じゃん!

 これで里に戻らなくていい。

 つまり、ニクス様のワガママ問題も解消ってことだ。

 …………マジでありがとう! どっかの神の従者さん!

「じゃあ、里に戻るのはいったん中止で。とりま、みんなで風呂入りません?」

「ほぅ? この我………氷の星位精霊ニクスに、熱々の風呂を勧めるか」

「マズかったスか?」

 氷解けちゃう………体解けちゃう、的な?

「我が体を芯まで温もらせる湯など期待できぬが………。いや、神の従者殿の用意した温泉となれば………うむ。試す価値はあろう」

 …………ただのこだわり強めな客じゃねぇか。

「……じゃ、行きましょっか。アーサー殿とガウェイン殿も、行きましょう」

「では、お言葉に甘えて」

「えぇ」

 イケメンの精霊二体、そしてヌイグルミのようなペンギン一体と………湯を共にすることになるとは。

 人生ってのは不思議なもんだな。

 大和おじさんが精霊の召喚に久しぶりに成功して以来………状況は変わった。

 でも、精霊と竜人族は、まだまだ仲が悪ぃ。

 ガキの頃から、ずっとそう聞かされてきたし。相性最悪なのは、仕方ねぇ。

 これに関しちゃ、竜人族が全面的に悪ぃ。

 ………でも今は………どうだ?

 今この瞬間は………。

 ひょっとしたら俺、この星の歴史で初めて、精霊との混浴を成し遂げた竜人族ってことになるんじゃねぇの?

 ………死ぬ程どうでもいい歴史的イベント爆誕笑(わろ)た…………なんて言って………カイト……はしゃぐだろうなぁ。

「ほぅ? これは……なかなかよさそうだな」

「………そっスね」

 十人くらいなら、軽く入れそう。

 湯も綺麗だし。純白の濁り湯に………金粉と桜の花びらが………浮かんでは水中に消えていく感じは………悪くねぇ。

 てか癒し効果高めの演出…………最高っ。

「イルル殿、これは―――」

「―――ヒヒイロカネの原石っぽい。アーサー殿もびっくり?」

「………多少は」

 露天風呂っぽく、大きめの岩がゴロゴロと円形に並び……湯をせきとめてるわけだが………。

 その岩が、ヒヒイロカネの原石だ。

 ここで転んで頭打ったら…………死ぬな。頭かち割れるわ、こんなの。

「これだけありゃ、大貴族が一生……何世代もバカ騒ぎして暮らせるだろうに………」

 持ち運べるほどの力を持ってれば、だけど。

 デカすぎてピクリともしねぇだろうからまぁ…………盗まれる心配はねぇか。

「ではみなのもの、さっそく入るとするか」

「「えぇ」」

「いやいやいや―――………おぃおぃおぃ。まずは湯船から湯をすくって、体にかけるんスよ。汚れをさっと洗い流すために。で、体と頭を丁寧に洗う。入浴するのはそのあ………と?」

 そういや、アーサーとガウェインは光なんだっけ。

「その鎧って、脱げるの?」

「鎧を脱いで………別の服に着替えた姿になら」

「えぇ。我らの姿は、主がイメージしたものなれば」

 つまり、裸にはなれないってことか。

「ニクス様は? 実体あるっぽいけど?」

「あぁ。我は今、実体があるっぽい状態だ」

 自分で言っといてなんだけど…………っぽい状態ってなに?

「イルルよ。我は湯が待ち遠しい。作法があるなら、早う始めるがよい」

「……ご協力どうもっス。なら、体洗ってから入りましょう。よければ俺が洗いますよ?」

「苦しゅうない」

 ちょこちょこと椅子に向かうペンギン……可愛すぎか。

「アーサーとガウェインはどうする? その姿のまま入ってもいいけど………」

 …………なんとなく、違和感あるよなぁ。

 やっぱ、裸だろ。

 風呂は。

「では、模倣してみましょう」

「あ、変身できんの? 俺の裸見たら、形状をマネできる的な?」

「えぇ、可能です」

「よっしゃ。じゃあ、脱ぐからちょっと待…………待て待て待てよ俺……。やべぇ、タメ口だった今」

 帝位精霊は偉大で気高い。

 敬意は大事だって、カイトが言ってたっけ。

「構いません」

「そうなの?」

「えぇ。イルル様は主の大事な御方であり―――」

「―――主を探す仲間ですので」

「じゃ、タメ口でいかせてもらうわ! 二人もタメ口でいいぜ!」

「「善処します」」

「おう! ってことですいませんニクス様。桶は…………あったあった…………これでよし! 桶に湯を入れたんで、そこで足湯でもしててください」

「足湯……興味深いではないか」

「気持ちいいっスよ!」

 告げながらガバリと服を脱ぐと………やっぱちょっと臭ぇ。服、汚ねぇし。ボロボロだし………捨てちまうか。

「イルル殿、それでは拝見しても?」

「おう! 部位を簡単に説明するぜ! まず下から………足の指と足首…………ふくらはぎに膝………ここが太ももで………この辺が股関節な。で、これが腹筋と胸筋、それに後ろのが背筋………この肩甲骨と腕の動きが連動して………こんな感じな?」

「わかりました」

「腕は―――……大丈夫か」

 ま、腕はいろんなヤツのフォルム、見たことがあるよな。

「………ん? どうした?」

 視線が………。

 あぁ、そっか。

「その真ん中にあるのは?」

「生殖器だよ。生殖行為や排せつに使う器官。棒と袋二個あって………玉が一つずつ収納されてる。あ、今から大事なこと言うから。絶対に覚えてほしいんだけど……」

「わかりました。なんでしょう?」

「いいか? 棒は下向き。これが標準姿勢だから」

 常時上向きにしてると………変態だからな?

「わかりましたが……。アーサー?」

「あぁ、ガウェイン………」

「どうしたんだ?」

「………主のとは、少し違うようなのです」

 なるほど。

 温泉かどっかで、カイトのを見たことがあるのか。

「竜人族はヒュム族より体がデカいからな。ここもデケェ傾向にある」

「………いや、体の大きさに生殖器のそれが比例すると仮定すれば、その点は理解できるのです」

「あぁ。アーサーの言う通り。大きさではなく……先端の形状が異なるのです」

「あ、そっか。アイツのまだ半分………」

 ………アレだったっけ。

「ま、そこは気にするな。カイトも体が大人になればこうなるはずだ。でも………いいか? カイトに確認はするなよ? とりあえずこっちをマネしとけば問題はねぇんだから」

「わかりました」

「そうしましょう」

「そうそう! いい感じいい感じ!」

 客観的に見ると、アレだな。

 俺の体、けっこう成長したんだな。修練サボってた割に………筋肉もいい感じ。

 だけど………まだまだ細ぇなぁ。

 全体的に細ぇ。太ももやふくらはぎなんて、親父の半分あるかないかってとこだ。

 ………まぁ、背もまだ伸びてるし。

 筋肉は身長止まってから太くしていけばいいや。

「イルルよ。足湯はよいのだが……もう湯船に入ってよいのか?」

「あ、すいません。すぐに!」

 ご機嫌ナナメだ。

 息子に口ばしアタックされたら………死ねる。

「そうだ………二人はどうする? 光だから汚れてねぇだろうし、そのまま入浴してもいいけど……。実体化できるんなら、生命体のマネしてみっか?」

「「ぜひに」」

「じゃあ、そこ座れ。シャンプーとヘアトリートメント、洗顔、ボディソープ。この四つが扱えればいい。まず、シャンプーからな? 髪の毛を洗うためのや~つ」

「「や~つ?」」

「そう! こんな感じ」

 泡立てて……もむようにペンギンの頭を撫でる。ニクス、とさかっぽいのはあるけど……髪の毛はない。

「ほぅ? なかなか心地よいではないか」

「でしょ? トリートメントとボディーソープ、連続でいきますよ!」

「苦しゅうない!」

 まさか星位精霊のお背中を流す日が来るとは………。

「二人は――――……え?」

「なにか?」

「どうしました?」

「いや………そっか。そうだよな」

 俺がニクス様を洗ってやってるから。それをマネして、アーサーがガウェインを洗ってやってるわけね………。

「今日は互いに洗いあうってことでいいけど。一人で自分の体を洗うのが基本だからな?」

「わかりました」

「そうします」

 じゃないと………絵面がアレだから。ナナが見たら………笑顔で昇天しそうな感じになっちゃってるから………。

「あっ!」

「「なにか?」」

「そこは……ゴシゴシ擦るんじゃなくて………そっと……優しめに、な?」

「なるほど」

「生殖器はデリケートなんですね」

「そうそう」

 色んな意味でな。

「なぁ、アーサーよ」

「なんだ?」

「主が昔、夜中に部屋でゴシゴシ洗っていたように思わぬか?」

「あぁ、そういえば見かけたことがあるな」

「………たまに、そういうこともある」

 頻度と回数は、人それぞれだけど。

「ならば生殖器は、たまに部屋でゴシゴシ洗うものだと―――」

「―――違う違う。それ、絶対ダメ。見てもダメ、見たことを言ってもダメ。今度、カイト、いや誰かが部屋でゴシゴシしてたら……そっと消えてやれ」

「「消えていましたが?」」

「いや、実体(すがた)を消すって意味じゃなくてさ。部屋から出ていって、見ないでおいてやれってこと!」

「わかった」

「承知した。しかし、どういう行為なのだ?」

 それ………聞いちゃう?

「…………ま、男のトレーニングだよ」

 知らんけど。

 てか他にどう説明したらいいわけ?

「トレーニングか」

「ならば我らも―――」

「―――ぶっ!? ちょ、お前ら! すぐ止めてさしあげろ!」

 なに始めようとしてやがんだ………。

「「なにか?」」

 イケメンが、キリッとした顔で………なんてことを……。

「………いいか? カイトのトレーニングに付き合う必要はないし………今ここでトレーニングを始めなくていい。それはプライベートなトレーニングなんだよ」

「なるほど」

「覚えておこう」

「ま、わかんないことがあったら………今度からは………リクに聞いてくれ」

「「わかった」」

 頼んだぞリク。

 本件は、俺の説明能力が有する限界(リミット)をブレイクした………。

「さ、終わりましたよ。ニクス様、先に湯船へどうぞ」

「………ふむ……ご苦労であった」

 今、寝てたよな?

 なんかフラフラしてんだけど?

「ならイルル殿、次は我らが体を洗ってやろう」

「あぁ。適切にできているか評価してくれ」

「了解! サンキュ!」

 カイトともよく、背中流しあったっけ……。

 修練の後で……互いの傷を笑いながら………。

「まずシャンプー」

「そうそう。泡立ててから………髪に塗り込んで………頭皮を揉む……。そうそう……上手上手!」

 やるじゃん。

 やっぱ帝位精霊、マジで有能。

「それからトリートメントな。洗顔は自分でやるから大丈夫」

「わかった。トリートメント役は引き続き、この我が務めよう」

「ならばアーサーよ、我が体を洗うとしよう」

「任せた」

「あぁ」

 そんなミッションっぽい行為じゃねぇんだけどなぁ………。

 ま、裸の付き合いなんて、精霊にはわかんないか。おいおい、理解していけばいいだろ。

「あ、そうそう。誰かの身体を洗う時は基本、後ろ側の背中が中心な?」

「承知。繊細な部位は己で洗うのが基本であると理解した」

「アーサー、正解!」

 しかし………客観的に見て……絵面がヤベェ。

 露天風呂で、真剣な顔した全裸イケメンに体を洗わせてるわけで。

 マジ、変態趣味のある貴族のバカ息子って感じだ……。

 ま、俺は確かに貴族の血筋にあたるけども。

 バカ息子ではないと信じたい……。

「力加減は?」

「もうちょい強めで」

「承知」

「あと痒いところはない? って聞くと、ポイント高ぇよ?」

「なら―――痒いところは?」

「そうそう! 首の辺りと……腰の方!」

「承知」

 ……っとに真面目だよなぁ。

 カイトなら絶対、わざと力入れなかったり………わざと一か所だけ洗わなかったりする………。

 で、ギャイギャイ騒いで………泡塗れになってさ………。

「イルル殿、これで洗い終えたと思うのだが………」

「あぁ。どうだろう?」

「サンキュ! スッキリした!」

「それは良かった」

「あぁ」

 達成感?

 二人とも笑顔だし……ハイタッチを交わしてるし。

 初めての挑戦を無事成し遂げた………そんな感覚なのかもな。

「じゃあ、湯船つかろうぜ!」

「「おぉ」」

 ニクス様は………湯に浮かんでやがる。

 空を見ながら漂ってるあたり……かなり、この温泉が気に入ったらしいじゃん?

 これは……期待できそうじゃん。

「湯船に入る時の作法は?」

「あぁ。どこか洗う必要が?」

「しいて言えば……足、だな。湯船に来る途中で足の指とかに汚れがついてっかもだから。軽く流すといいぜ」

「「わかった」」

 ほんと、真面目だなぁ。

 互いの足の裏を目視で確認しあう必要は……ま、いいか。楽しんでるっぽいしな。

「さてさて………」

 おぉ………。

 ちょっと熱めで………ぬめり感がある。

 まったり体にまとわりついて………名残惜しそうに皮膚を下る湯が…………愛おしい。

 ガウェインとアーサーも………気に入ったっぽい。ムムッと眉間に皺を寄せた後…………ほわりと頬を緩ませた。

「あぁ~、いい湯だなぁ」

「あぁ」

「素晴らしい」

「だろ?」

「「あぁ」」

 自然と笑顔になる………。温泉ってやっぱ…………いいよなぁ。

 脚を伸ばせるでっけぇ湯船って………贅沢だわやっぱ。

「イルルよ……体を洗うとは、よい営みだな」

「へぇ~? ニクス様、気にいっちゃいましたね?」

「ま、悪くない。これからも洗われてやろう」

「そいつはど~も」

 上からなのは仕方ない……そう思って付き合おう。

 ま、実際上だし。星位精霊だし。

 なにせ氷系精霊の頂点に位置する偉大なペンギンらしいし。

 氷系の精霊って、どれくらいの数がいるのか知らんけど………。

 ………そういや………精霊ってどうやって増えてるんだ?

「ニクス様、精霊って生殖器ねぇの? どうやって増えるの?」

「ふわぁあぁぁ~~……ねむぃ」

 眠そうにウトウトするペンギン………。可愛い路線でも目指してんだろうか?

「二人とも……答えて、やって」

「「はっ」」

 そして丸投げ。

 これぞまさに上位存在って感じ……。

「イルル殿、精霊は、属性と階層から個が同定されます」

「属性はわかる。光とか闇とかだろ? 階層ってのは……帝位とか星位とか?」

「えぇ、その通りです」

 光の帝位精霊………ガウェインの腕が暖色になり………光を放つ。

「帝位精霊の我らは、星の生命体のような実体を有するわけではありません」

「基本的には精神体です」

「なるほど。でも、今、湯船につかってる部分のように、実体を模倣することができる?」

「えぇ。模倣というか………半物質化(マテリアライズ)ですね」

「半物質化?」

「えぇ。例えるなら水が蒸気や氷へと状態変化するように―――」

「―――精神体と半物質体を行き来できます」

「ふ~ん………」

 じゃあ、半物質体で性交するんだろうか……。

 でもコイツら、生殖器なにそれって感じで俺のを見てたような………。

「さて、ここからがご質問の答えになります」

「えぇ。アーサーと我は帝位精霊……つまり高純度の神気に辿り着きし存在」

「高純度の神気?」

「えぇ。星の生命体は、‘神気が強い’などと表現しますね」

「なるほど」

「基本的に精神体の我らは、肉体的な性交を必要としません」

「そうなの?」

「えぇ。‘いかにして増えるのか?’という問いには、帝位精霊であれば次の四つであると回答可能でしょう。それは―――」

「―――分裂、複製、混合、特殊進化、です」

 なるほどなぁ。

「分裂は、一体が複数になるってこと。複製は、自分のコピーができるってことだよな?」

「はい」

「混合は………精神的配合のこと、ですね」

「精神的配合?」

 なんか尊くもエロイ響き……。

「精神体の一部を共有し、精神体内で混ぜ合せ……身ごもるのです」

「なるほど」

 精子と卵子は不要、生殖器も不要ってことか。

「残った特殊進化ですが……これは一概には言えません」

「属性によって異なる的な?」

「えぇ。属性やその組み合わせによって偶発的に生じる……混合の変形版、です」

「例えば?」

「カイト様の父上に懐いている紅蓮。炎と氷……真逆の属性を有する特殊個体」

「あぁ、あのわんこ精霊な」

 可愛いし……もっふもふの毛並みが最高の………。

「えぇ。本来、属性の真逆にある精霊とは交配が不可能」

「なるほど」

 氷と炎なら、交わった瞬間に融けそうだもんなぁ。

「しかし……肉体を有する一般の精霊と上位種……例えば帝位精霊との間で………子ができることが、極まれにあります」

「処女受胎?」

「えぇ。肉体的配合はなく、上位種の精神体……その一部が物質に作用し子を生す」

「なるほどなぁ」

「今のは一例ですが……珍しいと言えましょう」

「そっか」

 レアモフモフなのか紅蓮(アイツ)は………。

「レアものや帝位精霊についてはわかったけども。普通……上位種以外の精霊は? 肉体的配合で子を生すわけ?」

「多くの場合は、その通りです。しかし―――」

「―――属性によりけり、でもあります。闇の精霊は、身体を構成する要素を相手と交換―――その化学変化によって子を生します」

「そっか」

 実体があるか、ないか。

 そして属性。

 この組み合わせで、子を生す方法が決まってくるってことか。

「………それで? 二人はどうなの? 子どもいる?」

「いえ、おりません」

「私もおりません」

「そっか。恋人は? てか恋愛とかあるわけ?」

 精霊のこと、なんにも知らねぇんだよなぁ。

「恋愛という感情や、そうした関係は、我らにもありますよ」

 精霊にも夫婦………(つがい)っていうのかもしんねぇけど、そういうのが、あるにはあるってことか。

「ただし、それがこの星の民と同じものかどうかは、わかりかねますが………」

「なるほどなぁ」

 俺らだって、種族ごとに大きく恋愛観が違う。寿命や文化のせいだろうと思うけど。

「子どもがいないのは……いい出会いがなかったから?」

 合コンは………しねぇか。

 となると……恋愛? お見合い?

「出会いどころではなかったのです」

「………精霊の子は、とても弱いのですよ」

「そして我らには、安住の地がありませんでした。そのためにみな、力の多くを失いかけていた…………。子を生して育むなど、夢のまた夢だったのです」

 過去形(だった)ってことは―――

「―――状況は変わったってことだよな?」

「えぇ。天界におわす偉大なる守護神が、その能力と神威を膨大に用いてまで………我らに安住の地を授けてくださいました」

「しかも、その地には神々やその眷属もお越しになる」

「更に偉大なる守護神の皆様からも、加護を授かりし土地なのです」

「神々の神威に溢れ、清浄で豊かな…………平穏なる地を、我らに授けてくださいました」

「へぇ~、いい神様もいるんだなぁ」

「えぇ」

「それはもう」

 へぇ………いい感じじゃん。その笑顔、いいと思う。マジで………嬉しくてたまんねぇって気持ちが、溢れ出てる。

「精霊、増えたんだ?」

「えぇ。その地にて力を取り戻し、更に高め………心穏やかに………次々と子を生し……育んでおります」

「まさか……このような時代が来るとは思っておりませんでした」

「そっか。よかったじゃん!」

「「………えぇ」」

 なら二人はどうして………なんて聞くほど、バカじゃない。

 二人はカイトに恩があるって言ってた。

 カイトのために地上に留まり、恩返しを優先してるってことだろうから。

 ………俺と、同じだな。

 子を生すよりも、今、優先したいことがある。

 俺はカイトが死ぬまで………だいたい百年もねぇくらいの短い間は………恋愛する気はねぇ。

 カイトとバカやって、ちゃあんとアイツが天に昇るのを見送るって決めてる。

 そこから後の残された時間………五百年ほどの間で、家庭を築いて………子を生し育めばいい。

 なんなら、アイツの子孫も見送るつもりだし。

 ………だから早く、アイツを見つけねぇとな。

 死ぬわけねぇんだ、あのバカが………。お人よしなことに………また誰かを救おうとして………なんかトラブルがあって………帰って来れねぇってパターンに決まってる………。

「イルル殿―――」

「―――あぁ」

 誰か……こっちを見てやがる。

 この距離であっさり気づかれるなんて…………………コイツら………気配を隠すの下手すぎ。

 近隣の集落から来たガキどもってとこか?

「ま、見てるだけならいいさ」

「では、そのように」

 視察に来たか、様子見に来たか、遊んでたらここに辿り着いたか………ま、そんなとこだろ。

「それでイルル殿、体を清められた後は?」

「あぁ。風呂もできたし、ここに―――……小屋でも建てるか。カイトを探す拠点として」

「なら、我らと修練を積みながら探すというのは、いかがでしょう?」

 おぉ………マジで?

「それは……………すっっっっっげぇありがてぇ! けど王城は? 留守にしていいの?」

「陸人様がいらっしゃるので心配は不要かと思いますが―――」

「―――念のため、アーサーと我が交代で城に残ることにしましょう」

「なら………大丈夫か。じゃあ喜んで! お願いします!」

 テンションあがってきた!

 まずは……小屋だな。寒さを凌げて眠れるくらいの大きさでいい。風呂は温泉があるし………便所はなんとでもなる。

 次は………飯。カイトが配ってくれてた非常食は………そろそろ残が少ねぇんだよなぁ。ま、幸いなことに海があるし。川もある。腹が減ったら魚や貝で凌げばいい。

 う~ん………後は………米とか? 食器とか?

 ま、必要な物があれば、物々交換してもらえばいいだろう。近隣の集落に行って……魚や貝類なんか渡せば………雑貨類を譲ってくれるだろうし。なんなら、アーサーたちに里に運んでもらえれば……買い足せる。

 よっしゃ………。今後の方針も決まったし、生活の目途はついた。

 それもこれも……………風呂のおかげだ。

 あと、偉大なる精霊たちのおかげ。

 ………一人で海を眺めては潜り………潜っては眺めてた日々とは………ぜんぜん違ぇ………。

 うん。

 気持ちが……違う。

 心に明るい光が差しこんでる……そんな感じだ。それも疑いようのねぇ……確かな光が。

 ……っしゃあ。気合入ってきた!

「さぁニクス様! 起きてください! やることいっぱいっスよ!」

「……むっ? 里へ行くのか?」

「もう行きませんってば。予定変更っスよ。ここで俺は生きていきます。カイトを探しながら」

「………ならば我もそうしよう。里へはまたの機会に」

「俺はありがたいっスけど……なんで俺と?」

 そこを教えてほしい。

「ここは北の海………主が行方をたったのは海の中」

「??」

「我らは主に恩がある。それを返すために、汝に力を貸そう」

「俺に?」

「あぁ。まずは我が神気に慣れてもらわねばな」

「あぁ、そうい―――うっ」

 ……ヤバい。

 神気に……あてら、れ、た。

「先が思いやられるな。我が多少神気を放っただけでその様とは」

「………っス」

 わかりました。

 えぇ、わかりましたから………脛を突くのは………止めてくださいっ。

「しばし休め。その後、修練に入る」

「………っス」

 …………力は、欲しい。

 カイトの隣に並び立つために……。

 なにより今は、カイトを取り戻すために………。

 かの英雄ラグナが、邪竜との戦いで放った………命を賭けた一撃。星の形状を変えたって……伝説は、今、目前の海中…………星刻(アマル)海溝………。

「超越者に……」

 英雄の……ように。

「その意気やよし。我はニクス………最強の精霊が力を貸そう」

「………頼んま……す」

 人のケツに腰掛ける………このペンギンに……今は……頼るしか………ねぇ。

 不満は………ねぇ。

 この上な……く……………頼りがい……あ、る…………っ。


今日もありがとうございました!

イルルのこの物語はあと2話ほど、続く予定です。ぼちぼちお付き合いください!


・20220406誤字修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ