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やがて再び神となる少年は恋愛に夢を見すぎている   作者: ゆうと
第Ⅰ章:アカデメイア
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第5話:魔法の授業

 


「陸人ー、目玉焼きも食べるか?」

「うん。塩たっぷりでお願い!」

 じゅわ~っと立ち上がる油と卵の焼ける匂いにつられて、今度は父さんが台所に顔を出した。

「お~いい匂い」

「おはよう父さん」

「おはよう。父さんにも目玉焼きくれ~」

 母さんが店に早めに行く日はオレが食事担当。

 テーブルの上は朝から華やかだ。

 野菜サラダのフルーツ添え、焼きたての目玉焼きとパン、そしてラグナが仕留めた大猪肉の香草焼きだ。

「朝からご馳走だな~」

「ラグナが食材たくさんくれたから。パンや卵と交換してもらった」

「そっか。それはありがたい」

 焼きたてのパンをちぎって配りながら、父さんは嬉しそうに笑った。

「じゃあ女神様に感謝の祈りを」

 手を繋いで黙礼する。「今日の恵みに感謝します」と、口々にお礼を述べて。

 恵みを感謝する祈りがヒュム族に根付いたのは、最近のこと。つまり恵みが豊かになったのも最近のこと。

 父さんがガキの頃は貧しかったらしい。今では異種族が集う都市となったホープも小さな集落だったそうだ。「飯は一日に一回。食べれるだけで幸せだった」とのこと。

 今では大都市となったホープ。

 変化のきっかけは全てダンジョンだ。

 挑戦者のいる集落には桜餅が神とされる存在から配給される。あとダンジョンのドロップアイテム。美味しい食料が手に入るようになった。作物の種なんかもだ。

「……さぁいただこう」

「うん!」

「兄さんミルクある?」

「あるある。ちょっと待っててな」

 冷蔵庫。

 このなかには雪の精霊特製の氷塊が入ってる。

 こうした便利グッズをもたらしたのもダンジョンだ。

 ダンジョンのドロップアイテムの一つが、謎の設計図。

 いくつかの破片を集めて設計図が完成すると、都市の住環境は徐々に進化した。上下水道の工事は今でも進められている。冷蔵庫という食物の保存用BOXや道路のつくり方、頑丈なブロックの作り方も、ダンジョンの設計図が基礎になっている。

 頑丈な家屋も増え、アカデメイアのような巨大な施設も建ち始めた。

「ミルクに抹茶いれる?」

「うん!」

 ミルクに抹茶を入れるのはエルフ族の食文化だ。

 ヒュム族は異文化をうまく取り入れて発展させてきた。

 建築にはドワーフの知恵が、農業には獣人、学問にはエルフの知恵が、芸術や文化の発展には海人族の知恵が、武術は竜人族の知恵が力を貸してくれている。

 発展の支えとなってくれているのが、精霊たちである。

 ホープに精霊が住み着くようになり、自然環境が豊かになった。農業や養殖などが盛んになり、氷の精霊たちが解けにくい氷を提供してくれるおかげで、食文化や住環境が豊かになっている。巨大な施設の建築にも、精霊たちが力を貸してくれている。

 偉大な貢献をしてくれている精霊の召喚が盛んになったきっかけをくれたのも、ダンジョンである。

「三日連続で学長室はないよな?」

「ないって! 今日から魔法の講義だし」

「なら大丈夫か。魔法は慣れてるもんな?」

「任せといて!」

「兄ちゃん知ってる?」

「何?」

「そういうの【フラグ】って言うんだよ」

「フラグ?」

「うん。そうなる未来を呼び込む言霊ってこと」

「……覚えておく」

 陸人はやっぱり賢い。何でも知ってる。

 さすが自慢の弟だ。




 +++




 アカデメイアの施設で最も有名な場所。

 それが、武術や魔法訓練場のコロシアム。

 異種族間交流が始まった聖地とされている。 

 ここに立つのはちょっと恥ずかしい。

 父さんと母さん、そしてクルドおじさんの巨大な像があるから。

 ここは、かつてヒュムの父さんと竜人族の二人がバトルを重ねた場所。

 当時は荒れ地だったらしい。そして種族間の仲がとても悪かったらしい。

 今では信じられないけど。だってホープは、この星で一番の異種族都市だから。

「はよー」

「おぉ三兄弟。おはよ」

「しかしここ恥いよなぁ」

「オレもちょうどそう思ってたとこ」

「いいじゃん。息子参上! って感じで」

「確かに! いっそあの像に落書きするか?」

「オレらまとめて母ちゃんにぶっとばされるぞ……」

 知ってるか。

 我が家ではしゃもじが、壁に突き刺さるんだぜ。


「それでポセイドン先生来たのか?」

「来たよ。母さんの飯屋の方に…… 」

「疲れた顔してんな?」

「あと女子がいっぱい来た。イケメン効果凄まじい……」

 オレは調理に駆り出されたわけで。

 ずっと鍋を振るっていたわけで。

 体は元気だけど心は疲れてる気がする。

 あとガーリックライス酔い……うっぷ。

「で、スコアカードは? どうなったんだ?」

「調査するってさ。それまで入学時のステータス扱い」

「ふ~ん」

「なぁなぁカイト~、知ってるか?」

「何?」

「魔法講義の先生、、、綺麗なんだぜ? 」

「大事な情報じゃん。もっと詳しく……」

「救星のひとりだぜ。獣人族のペルシャさん」

 ペルシャさんか。

 小さい頃に会ったことがあるらしいけど。覚えてはいない......

 可愛いって、父さんとクルドおじさんが言ってた。

「独身だってよ? 」

「マジで?」

「俺本気だから。邪魔すんなよ?」

 最年長のハルル。

 彼もまた愛の戦士。よく恋愛をしては、ことごとく振られる。

 残念なイケメンだ。

 見た目はクルドおじさんに似てマジイケメンなのに。

 短めの青い髪。美しい二本の角は耳の上あたりに乗っかってる。ハッキリとした目鼻立ち。きりっとした大きな瞳は意志が強そうで好印象だ。百七十㎝を既に超える高い身長に、引き締まった身体も装備とは。ズルい。神様は不平等だ。

 つまり、どう考えてもモテる。

 ただハルルは万人を愛しすぎる。海人族の母譲りらしいけど。

 男女や年齢関係なく口説いて回る。通称【三秒で恋をして歩く男】だ。

 ちなみにオレは、なぜか口説かれたことがない。

 ホッとはしている。

 けど何か納得いかない……

「それでは始めましょうか」

「やべぇ、、、マジで綺麗じゃん」

 猫の獣人。眼鏡がよくお似合いでソワソワする。

 青みがかった黒めのストレート。肩まで伸びる髪が綺麗に輝いている。

 とんがった猫耳がその髪によく似合ってる。細身の身体から長く伸びた尻尾も素敵だ。

 眼鏡のせいかな。ちょっとツンツンして見えるところもいい。

「ハルルのヤツ、、、もうポワンとしてるぜ?」

 イルルがいじってもハルルが乗ってこない。

 これはガチか…… 


「まずは一般常識の確認からね…… 」

 ペルシャ先生の説明内容は、魔法を使う者の常識だ。

 魔法は呪文の詠唱を伴う行為だということ。

 後述詠唱タイプと、前述詠唱タイプに分かれること。

 後述詠唱タイプは魔法が先に発生し、その効果を呪文の詠唱によって維持する。

 前述詠唱タイプは魔法発動前に呪文を詠唱して、効果を得る。


「そして未解明の謎。魔法の創造」

 これも、常識の一つ。

「これに成功したと証明した者はいないわ」

「どういう意味ですか?」

 ハルルが手を挙げて質問する。

 知ってるくせに……

「エルフ族には成功したと言っている者がいる。自称神と名乗っているわ」

 ペルシャ先生が咳払いをして、皆と視線を合わせてくれる。

「今確認されている魔法は自分たちが生み出したと言っているの」

「なるほどなぁ」

 ハルルのヤツ、ぐいぐい行く。

 これも知ってるだろうに。

 さすが愛の戦士だ。

「しかし、、、魔法の創造を目の前で成し遂げた者はいない」

「俺知ってます! この世界の【偉業】の一つですよね?」

「ハルル君正解よ」

 ペルシャ先生の笑顔とお褒めの言葉がハルルのハートを更に打ち抜いたようだ。「やったぁ!」なんて喜んで見せるハルルに、つい、顔が引きつる。ハルルのギャップ姿なんてオレは求めてない。

「では魔法の詠唱について練習していきます」

 いよいよだ…!

「スコアカードにある適正ジョブの呪文から始めましょう」

「……あ」

 オレは、どうしたらいいんだろ。

 切り裂くものでいいかな。

「先生! カイトの適正ジョブは無職なんですけど」

「イルル! 余計なこと言うんじゃねぇよ」

 合体魔法クスクスが唱えられたじゃないか......

「そうだったわね。カイト君は好きなジョブで練習していいわよ」

「わかりました!」

 憧れるのは、、、唱えるもの。

 長文詠唱で難易度が高い。

 けど威力が凄い。一気にバトルを決める最も目立つパーティの花型職。

 つまりモテる。

 知力と精神力が高い落ち着いたカッコよさがある職だ。

「まずは先生が基本となる呪文を見せるわね」

 ペルシャ先生は魔法のエキスパートだったっけ。

 現在確認されている全ての魔法を使いこなせるって母さんが言ってた。

「呪文の効果はイメージの具体度によって変わると考えられています。先生の魔法を見て、効果をしっかりとイメージできるようになりましょう」

「はい! がんばります!!」

 どこまでもいい子かハルル……




 +++




「先生ぇ~、上手く発動しません…」

 ルルルがのんびり質問。すると、ペルシャ先生が優しく微笑んだ。

「振り返ってごらんなさい。何が問題だったと思う?」

「……呪文の詠唱に時間がかかりすぎた?」

「そうね。他には?」

「3回くらい間違って言い直したから?」

「うんうん。まずはイメージ。そして詠唱の正確さ。最後に詠唱時間の高速化ね」

「わかりました!」

「先生!俺も上手く発動できません!!」

 いや知ってるぞ。

 ハルル切り裂くものの魔法そこそこ得意じゃんか。

「ハルル君? じゃあ見せてくれる?」

「はいっ! 頑張ります!!」

 ハルルが瞳を閉じて集中する。

「開幕に歓喜せよ。滅びの音は我のもの。滅びの声は汝のもの…… 【ファウスト】」

 これは切り裂くものの短文詠唱。

 自己バフ用の低レベル魔法だ。筋力面を強化してくれる。

 もともと身体能力の高い竜人族と相性がいい。

「いい詠唱ね。そのまま岩を殴ってみなさい」

「はい!」

 腰を低く落とし、正拳一発。

 ハルルの拳は見事、岩に大きな亀裂を生じさせた。

 まさに化け物。クルドおじさんとの修練の賜物だろうな。

「これは…… すばらしいわね」

「ありがとうございます!」

「詠唱が適切で高速。だから筋力の補正値も高い。バフの持続時間も長いわ」

「えへへ! 頑張りました!」

「さぁ他の皆も頑張りましょう!」

「はい! みんな頑張ろうぜ!」

 ハルル......


「カイトはできたか?」

「呪文確認してるとこ……」

「唱えるもの?」

「せっかくだし。初挑戦してみようかと」

「まぁ頑張れよ」

「失敗しても笑うなよ?」

「もちろん」

 ニヤニヤと笑うイルルの頬をつねって抗議して。

 もう一度集中する。

「離れとくな~。暴発しそうだし」

「うるせーよ」

 まったく。


 もういっかい仕切り直し。

 まずは集中。

 そして効果を具体的にイメージして、、、、詠唱。

「静寂を破る罪をいとわず。猛威を振るう罪を背負いて歩む。我いかなる時も、森羅万象を支配する覚悟を持ちてこの力を振るわん。精霊のしもべよ、、、」

 一陣の風が体を覆い、風の流れが勢いを増す。


「にゃ!?」

 慌てたペルシャ先生が眼鏡をクイっとした。

「皆ここに集まって!!」

 視界の隅でペルシャ先生がシールドを展開し始める。

 それもすぐに見えなくなる。

 気が付けば自分が竜巻の中心にいたからだ。

 

「…… 多き時は波となり、少なき時は矢となって具現化せよ。我の欲するままの色をまとえ。欲するは緑、風の力なり。集え、我が声に」

 【千変の風刃】。

 放たれたのは無数に連なる風の刃。

 それがターゲットの岩を切り刻む。まるで柔らかいパンを切り裂くように…… 

 刃がそのまま周辺の全てを切り刻んで、、、岩は細かい砂ボコりとなって消えた。


「っしゃあ!! できた! 先生できました!」

 成功の喜びで飛び跳ねる。

 皆にハイタッチを求めに駆けだしたのに。

 シールドに阻まれた......

「……先生?」

 ペルシャ先生がクイクイっと眼鏡を押し上げて。

 あたふたと両手を動かしながらシールドを解除してくれた。

 冷静そうな先生の慌てふためく様子…… いい。

 ちょっとドキドキする。

 何かを察したのか。ハルルが頬をつねってきやがった。 

「カイト君、、、ちょっといいかしら?」

「え? 個別指導ですか?」

 ドキドキする展開。

「いえ。学長室ね。威力がおかしい。そして……」

「……わかりました」

 追加で二千万ジェムですね。

 合計…… 六千万ジェム。

 母さん、父さん。

 ごめんなさい。







本日もありがとうございました!


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