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第58話:秘密

 

 秘密。

 誰にだって、誰かに言えない秘密の一つや二つあるもの。

 もちろん、俺にだってある。

 絶対に、兄さんには言えない秘密。

 転生前に、二つ。

 そのうち一つは、墓場まで持っていくって決めてる。

 まぁ、持っていった結果、転生して今に至るから………もう一回、墓場まで持っていく。神になった俺に、お墓があるのか不明だけども………。

 そして……もう一つの秘密。

 一度だけ、兄さんの友だちを殴ったことがあるんだ。家の前で。追い返した。二度と来るなって……自分でも驚くくらい冷たい声が出たこと…………よく覚えてる。

 こっちについては、後悔ゼロだけどさぁ………でも、兄さんが知れば傷つくだろうから………絶対に内緒。

 そして今日。

 もう一つ、俺の人生に秘密が増えた。

 今度のは、兄さんと俺との秘密。

 他の人には内緒の―――…………秘密。


 今より少し、時は遡る。

 場所は同じく……キス祭り会場。

 観覧車に始まり、花火を見学した後、教室再現ゾーンで楽しそうにトーク。どっぷりと二人の世界……会場貸し切りデートを繰り広げていたのは、ジェイとマリア。

 二人がラブラブデートを繰り広げるなかで……それは起きた。

 パリィィィンッと、嫌な音が響いて。

 貴賓室―――………その窓ガラスを破って………会場に降り立ったのはアマテラ様。

 その腕に抱えられていたのは、封印状態の兄さん。

 ニヤリと笑ったと思いきや、台座の上に兄さんを放り投げて………神威(しんい)を大解放。

 太陽が降臨したような……赤白色の光に会場全体が飲みこまれて……みな、その場にうずくまった。

 おそらく、だけど。

 人の眼では直視できなかったろう。

 神の末席に名を連ねているから、俺はかろうじて見ることができた。

 成体モード………絶世の美女のお姿を顕にしたアマテラ様が………摘まんでいるのを。

 兄さんの………鼻を。

 ムギュッと。

 そして―――

「天照大神の名において神権を行使する―――【全知全能】発動」

 ―――そう、厳かに唱えたのを。

 残念ながら、俺にはわからなかった。その神権が、どんな権能を発揮するものなのか。

 でも………確かなことが一つ。

 光り輝く台座の上で、アマテラ様が兄さんに―――……キスをした。

 時間にして、わずか数秒。

 でも、体感的にはたっぷりとした時の中で……静止画のように美しい二人の様は………俺の瞳に焼き付いた。

 恋人のような、情熱的なキスとは言えなかったけど………不思議なことに俺は、甘さを感じた。

 キスの最中じゃなくて……唇が離れてから。

 ………わずかに口元を緩ませて、そっと頬を撫でて………指先で額を軽く小突いたアマテラさんの笑顔を、俺は忘れられそうにない。

 気が付けば女神は消えていて………台座の上には、横たわる兄さんだけ。

 そこでやっと、俺は気が付いた。

 背後に立つ存在に。

 その人が歩み出て、台座に登り………横たわる兄さんに膝枕をしてあげる様子を………見守ることしかできなかった。

 そっと頬を撫でて……優しい笑みで…………やっぱり額を小突くのを、黙って見守ったんだ。

「ふふ? もう目覚められるんやろ? ジェイさんが真実の愛を見つけはったみたいやしね」

 その問いかけの声音は、どこか楽しそうでもあり………呆れたようでもある。

「ええんよ。無理せんでも……」

 またコツンと、額を小突いた。

「どうせあんたのことやから、私に気を使うてるんやろ?」

 そう………この人は、気付いてたんだ。

 ジェイのキス祭り―――真実の愛探し。世界樹防衛戦で見せた兄さんのジェイのシンクロ。この二つの情報をリンクさせて、結論を出したに違いない。

 封印解除の条件(カギ)が、兄さんの真実の愛……キスにあるって。

「みんなにここまで気を使うてもろて……せやのに私に気を使うてあんたが目覚めんなんて………申し訳ないやろ?」

 封印は………まだ解けない。

「ええから………。誰も怒ってない。傷ついてもない。はよう目覚めて……戻っておいで? ね?」

 目の錯覚、かもしれない。

 兄さんを包むクリスタルのような封印が………少し震えたように見えた。

「察してるんやろ? 寝てるアンタに、私がキスしたの。それで封印が解けへんかったこと……気にしてるんやろ?」

 ………眠れる兄さんのそばに居て、見守ってたんだから。無事を祈りながら……恋人がキスを落とすのは不自然じゃない。

「気にせんくてええんよ。だいたい、真実の愛なんて………最初から在るわけないやないの。そういうんは、二人で生み出していくもんなんよ。時間をかけて。思いでいっぱい作って……心の中でパズルを創るんよ。噛みあわないとこもあるけど……だからピッタリ噛みあうところを一緒に見つけていくもんなんよ? すり合わせて、ピッタリ噛みあうように整えていくもんなんよ? だから………大丈夫。私も傷ついてへんから………ね?」

 ミシミシと、クリスタルがひび割れて………霧散していく。

 そして響く………讃美歌。

 天使たちが再び空を覆いつくし………純白の羽を落としていく。まるで小雪のように舞いながら落下する羽は……夕闇時を明るく照らした。

 降り積もった羽が純白のドームを生み出して………兄さんと―――カグヤさんを優しく覆い隠す。


 ―――不思議な沈黙。


「「カイトっ!」」

 貴賓席から、父さんと母さんが飛び降りてくるのが見えた。

 役目を終えたのか………天使の羽は、半透明になって………消えていく。

「………お帰り」

「………おぅ」

 グッと、カグヤさんの肩を抱く兄さんと、まっすぐ視線がぶつかって。

 …………そっと、逸らされた。

 その照れた顔で………察する位には有能なつもりだ。

「おめでと」

「………おぅ」

 うん。

 わかってるって。

 これは―――……父さんたちには秘密にしとこう。





今日もありがとうございました! ちょっと体調を崩しており、更新が遅れて申し訳ありません。

ちょっと短めですが、最初は六千字あった文章を、淡々っとした雰囲気を出すために削りに削っていたら、半分以下の分量になった次第です。

さて、第Ⅲ章:羽化は、本作に終了です。

リク視点でお届けしましたが、いかがでしたでしょうか?

第Ⅳ部の更新開始まで、のんびりとお待ちいただけましたら幸いです。


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