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第55話:創造神の巫女

 



 空間って、そうそう頻繁に割れたりしないもの。

 もちろん地球人の感覚からすると、一生に一度も、リアルで見ることがまずない現象。

 二次元、つまりアニメとか映画とかで主要キャラが登場する場面で、ガラスのように空間が砕けたり、雷のようにジグザグに割れたりする演出は、見たことがあるけども。

 けどこの星では、割と、神々が空間を割って登場してこられる。

 今もそうだ。

 部屋の四方から、空間をぶち破って飛び出してきた四つの球体。

 青白いそれが回転し……部屋の中央で合体したと思ったら………空間が飲みこまれて…………球体の体積が増大していく。

 気が付けばまるで薔薇のような花弁へと球体は変形し………その中心から女神が現れた。美しいブルーの長髪、色白い透明感たっぷりのお肌、そして整ったくっきりめの顔……。

 うっとりするくらい圧倒的な美を誇る………そして強大な存在感を有する女神。

 俺の転生にも関わった大恩人でもある……ガイア様。

「地上は、久しぶりね」

 長い髪をなびかせながら………優雅な仕草で、ソファーに腰掛ける。

「……あなたは来ないと思っていたのだけれども……フフフ?」

 ディーテさんは微笑みながらも、俺の前に歩み出た。

 その様子を楽しそうに見つめながら、ガイア様はふわりと神威を解放した。

「あら? 他の巫女が来た方がめんどくさいことになってたわよ?」

「フフフ? そうかしら?」

 兄さんが先輩と呼び慕う偉大なる女神………。草原を駆ける優しい風のような神威に……永遠に包まれていたくなる。

「フフフ? それにしても遅かったわね? 大天使たちは既に意を決したわよ?」

「仕方ないわ。アグニが全裸で降臨しようとしてたのを止めてたら……遅くなったの」

「………火の神アグニ様がいらっしゃろうとしていたの?」

「えぇ。めんどくさいことになってたでしょ?」

「……そうね」

 アグニ様か……。お会いしたことはないけど……裸族の女神。きっと脳筋系の怪力女神様に違いない……。

「リク、久しぶりね?」

「お久しぶりですガイア様」

「元気?」

「はい!」

 駆け寄って膝待づく。

 そっと差し出された手の甲には、キスの仕草で応えて………深々と黙礼する。

 俺のすぐ後ろに立つディーテさんが、神威で俺を包んでくれて…………。それを見たガイア様がクスクスっと微笑んだ。

「それでガイア……リクを(さら)いに来たのかしら? それともカイトを?」

「えぇ。そうするよう巫女に命が下されていたのは事実ね」

「下されていた?」

「過去形で正解よ。先ほど新たな命が下されたわ。カイトの自由意思に委ねる、とね。つまり私は無駄足ってこと」

「本当ですか?」

「えぇ。それを聞いてアグニは降臨を止めたの。退屈だって言ってね」

 やっぱ脳筋バトル系か……。アグニ様、覚えておこう……。

「命令の撤回はわかりました。でも、いったいどうして?」

「大悪魔王ルシファー、そして大天使たち……。恐らく創造神と新たな契約でも結んだんでしょうね」

 ………そっか。

「よかった。戦わずに済んだんですね」

「それは不明ね。けど、安心なさい。かれらが無事ことは、私が保証するわ」

「……わかりました」

 ここは……信じよう。

 女神ガイア様は、兄さんを可愛がってると聞いてる。兄さんが悲しむような嘘はおっしゃらないだろう。

「では、そろそろ警戒を解いてもらえる?」

「フフフ………わかったわ」

「トールも、いいわね?」

 あれ? っと思った瞬間、稲光とともにガラスが砕け………トールさんがドドンと、テーブルの上で仁王立ち状態に。

「わかったじゃん!」

 手にはしっかりとミョルニルが握られてる。

 つまり………いざという時は戦う気だったってことだ。

「トールさん!」

「リク、頑張ってるじゃん!」

「………は、いっ」

 グリグリっと頭を撫でてくれる。

 その瞬間………自分の顔がクシャクシャになるのがわかった。

 雷神トール……まるで兄のような神からの労いで、心の(ふた)が開いたから。

 兄さんが不在の間、そして見つかってからも封印解除に向けて……寂しくて苦しかった日々が……俺の心を砕きかけてたってことに……。

「もう大丈夫じゃん! 我らがついてるじゃん!」

「………はい」

 ゴシゴシと腕をタオルにして……トールさんと同じようにニシシって笑ってみる。

「フフフ……それでガイア? もうお帰りになるのかしら?」

 ムギュっとハグしてくれるディーテさんに甘えてたくなるのは………仕方ない。

「せっかくだから、見ていこうと思うの。ジェイの恋愛―――キス祭りをね」

「フフフ? 神々の恋愛が今日この日、芽吹くかもしれないわね?」

「恋愛……我も楽しみじゃん!」

「あら? それならトール、私と付き合ってみる?」

 女神ガイアの仰天提案に、頭が取れそうなほど高速で首を振る雷神様……。

「え、遠慮するじゃん! それに我は多分、好きな奴がいるじゃん!」

「そうなの?」

「おぅ!」

「あら残念。振られちゃったわね」

 苦笑するガイア様は……冗談だから安心なさいと言いつつ、むぅっとほっぺを膨らませながらトールさんの頬を抓った。

 その瞬間、ディーテ先生もトールさんも楽しそうに笑って……どこか緊張してた雰囲気が、あっという間にほどけていった。

「それで? 誰が好きなのかしら?」

「フフフ?」

「秘密じゃん! はっきりしたらハッキリ言うじゃん!」

「フフフ? トールらしいわね?」

「それにしてもステキね。恋する神かぁ」

 急きょ始まる女子会……。

「あら? ガイアも恋愛すればいいじゃない? フフフ?」

「素敵な神がいればいいのだけれどねぇ」

 この居心地の悪い感じはなんだろう……。そして高ぶる嫌な予感……。

「リクはどう? 私と付き合ってみる?」

 来たっ。

「俺、地上に恋人がいるんで。すいません」

「……そうなの?」

「……すいません」

「もちろん、許さないわよ?」

 冗談、ですよね?

 あれ?

 本気です?

「フフフ? リク………頑張りなさいね。女神ガイアは強敵よ?」

「え? 冗談ですよね?」

「あら? どうかしら?」

 欲しい……。

 ニッコリと微笑む女神様の真意が読み解ける神権が欲しい……。

「それにしても、リクに恋人がいるなんてねぇ。こないだまで赤ちゃんだったと思うのだけれどねぇ」

「フフフ? ガイア知らないの? イケメンは倍率が高いらしいわよ? つまり恋人ができるのも早いのよ?」

「あら、そうなのね」

「なら我、超高倍率じゃん!」

「「そうなの?」」

「あったり前じゃん!」

 くぅ……。メンタル強いよ雷神トールっ。

 けど自信があってこその神……。見習いたい。いや、兄さんに見習ってほしい。

「ならトールの恋は成就しそうね?」

「フフフ? 楽しみねぇ」

「百パー大丈夫じゃん!」

 ニシシっと笑いながら仁王立ちする雷神様なら、自信たっぷりに、どんな障壁でも乗り越えちゃいそうだ。

 それにしても…………雷神トールが想いを寄せる相手、か。

 気になる………。

 けど今は…………ジェイの時間。

「そろそろ始まるわね」

「楽しみじゃん!」

 会場に設置された台座から手を振って……ジェイがマイクを握る。アイドルコンサートさながら……会場は黄色い声援で覆われていく。


「今日は集まってくれて感謝するぜぇ?」

「「「「「きゃあああああああー!!」」」」」

「おっと静かにな」

 さっと右手を掲げたジェイに従って、一瞬で沈黙が会場を支配する。

 つまりこれ、ファンなら知ってて当然のハンドサインなんだろうな………。

「キス祭りを始める前によぉ………ハッキリさせておくぜぇ?」

 一体……なにを伝える気なんだ?

「俺様はよぉ……今この瞬間、正神教を脱会し司祭を辞めるぜぇ!」

「「「「「えっ!?」」」」」

 ……そう来たか。

「地位、金、教義のすべてを今、ここに捨てる。それでも参加したい奴だけ残れ」

 台座に慌てて駆け寄る大司教たちを、ジェイは愉快そうに眺めて。

 罵る声を心地よさそうに浴びながら…………高く………高く………空を舞い…………天使の羽を優雅にはばたかせて………観覧車の上に座った。

「俺様の真実の愛はよぉ……教会を捨てる道にある」

 ザワザワと広がる動揺の声が………ひとつ、またひとつ……会場を去る足音へと変わって。

 参加者の待機席は………わずか五十名ほど。

「さて、次だ。俺様は冒険者に戻る。世界のダンジョンを攻略し、獣人族の強さを知らしめるためによぉ。これについてこれる奴は残れっ」

 安全で快適な都市の生活を捨てて同行する覚悟、あるいは旦那(ジェイ)の帰りを都市で待つ日々が続く未来を受け入れる覚悟………。またひとり、一人と席を立ち………二十名が残った。

「最後の条件だ。俺様にはよぉ……愛してる女がいる。それでもよければ……残れ」

 ……バカにするなと言わんばかりの表情を携えたまま……十五名が去った。

 てかその愛してる女って、幼馴染のこと?

「残ったのは五名?」

「フフフ?」

 まずは………楊妃。

 ミカエルさんにビビって逃げ帰ったと思ったのに……しれっと参加者席に座ってやがる。

 そして……間違いない。アレは獣人族が守護神、兄さんが愛娘的ポジションにいるターニャ様だ。こちらもしれっと参加しておられる。

 ミカエルさんが降臨して、こっちがいっぱいいっぱいだったタイミングで、会場に潜り込んだに違いない……。

 そして……おや?

 ………見たことがない一般参加の……少年?

 どうやら猫の獣人族らしいけど………パッと見じゃ性別がわからないなぁ。

 綺麗な耳と尻尾が愛嬌を感じさせるけど………嫌な予感がする。ターニャ様の傍にぴったりくっついてるってことは、従者だろうか? でもそこ、参加者の席なんだけど?

 四人めは……これも誰だ? 顔が見えないくらい深めにフードを被り、隅に座ったまま動かない。

 そして五人めは………間違いない。ロココさんが身元を確認できなかった参加者がいたって話だったけど、それは楊妃、ターニャ様、そしてこの参加者だ間違いない。

「あそこにいるのは……アマテラさんですよね?」

「……フフフ?」

「まったくあの神は………なにを考えているのかしら?」

「さすがじゃん!」

 多分、なんにも考えてないと思います。

 なんかのお祭りだから参加しに降りてきたってところじゃないでしょうか。桜餅が景品になるとか勘違いして………。

「じゃあ、好きなゾーンを選べ。祭りを始めるぜぇ?」

 ジェイの指示を受けて、待機席から跳び上がった楊妃、ターニャ様、そしてアマテラさん。空を飛べるチートキャラ達がそれぞれ、ゾーンに向かって行く。

 少年らしき獣人はダッシュして会場への降り口を目指して………。残されたフードの人は、ゆったりと歩きだした。


 結果、楊妃は花火ゾーン、アマテラさんが観覧車、ターニャ様が教室ゾーンを選択。

 少年は教室ゾーンに向かって、テケテケと走っておられる。

 そしてフードの人は…………どうやら、ジェイが最初に座っていた台座に向かってるらしい。

「さて、それじゃあ私も行こうかしら? 護衛の必要もなくなったようだしね?」

「え? ディーテ先生も参加されるんです?」

「フフフ? こっそりエントリーしてたのよ?」

 ……マジですか。身元が不明の参加者………ここにも発見。

「ジェイ―――大天使ウリエル、か。さすがの人気ね」

「女神ばっかりですけどね」

 あとは腕力ゴリラの邪竜。

 そして謎の美少年?

「ガイア様、あの少年をご存知ですか?」

「……恐らくね」

 ってことは神か、その関係の………眷属かな。

「それよりも……あのフードね」

「あぁ、台座にいる参加者。気になりますね」

「……あれは何者なのかしら?」

「え?」

「ロココ……は今、多忙だったわね」

「はい。アポロン様たちの支援にまわってくれてます」

「理解」

 戦況にもよるだろうけど、多分、手一杯だろうと思う。ロココさんの手が空いたら、身元を確認してもらおっと。

「気になります?」

「………死者」

「え?」

「死者」

「死者ってつまりゾンビ? です?」

 人型のモンスターってこと? そんな気配は感じないんだけど……。

「いえ、違うわ。死者よ……魂のね」

「魂の?」

 つまり……どういうこと?

「超古い言い方じゃん! 今風に言えば排斥者じゃん!」

「古い?」

 しかも超?

「トール? もしかして今、私が超年寄りだと言いたかったのかしら?」

「ち、違うじゃん!」

 さすが地雷神様。地雷を踏みぬかれたわけですね?

「ではなに?」

「表現の感覚が古いってことじゃん!」

「あら? 感覚が年寄りじみていると?」

 またも思ったことを、どストレートに表現なさる。

「ちちちち違うっ。違うじゃん! わ、我はぜっったいに無実じゃん!」

 なんて見事な有罪答弁……。手をワタワタさせながら目を泳がせるとは……わかりやすい。

「リ、リク! ほら、アレじゃん!」

 ………はいよ兄貴。もちろん助けますとも。話題転換ですね?

「ガイア様、質問してもよろしいでしょうか?」

「それじゃん!」

「質問………可」

 ガイア様、ここで単語トークモードとは………ご機嫌ナナメかもしれない。

 トールを見つめながら微笑みを絶やしておられないし……。まさにカエルを睨む蛇状態。

「ガイア様、魂の死者、つまり排斥者について教えて頂けませんか?」

 排斥者について俺が知ってることは、限られてるんだよね。

 神兄さんの眷属、つまり俺の同僚でもあるヒュアキントスさんが、もと排斥者だったらしくて。ちょっとした説明を、ロココさんから受けたことがある。

「確か……凶悪な土地神や、神樹の不法アクセスを繰り返した者が神罰を受けて排斥者となるんですよね?」

「そうじゃん!」

「そして排斥者は……認知の外に置かれる。神々には見えるらしい。でも、この星の住民からは見えないし、彼ら声は住民には聞こえない。互いに触れることもできない。当然ながら生物なんかと触れ合うような交流もできない………。孤独で寂しい存在」

 地球の感覚的には幽霊みたいな存在ってことだと、俺は理解してる。

 ただ、幽霊と違って、排斥者には意識や自我があるらしい。

 でも、例えば水を飲みたいと思っても、飲めない。

 けど、喉の乾いた感覚、それを飲んでおいしいと思った感覚、それにまつわる思い出なんかが全て、記憶の限り、残ってるんだってさ。その状態が永遠に続くともされていて……。

 怖い。どれだけ孤独で、辛くて、悲しくて、苦しいだろうか……。想像するだけで体が震える。まさに神罰……きっとバカ社長からの、重たい罰。

「正解。ロココ?」

「はい! ロココさんから教えてもらったのはここまで、です」

「魂の死者ってのは、星の住民から排斥者になった場合の呼称じゃん!」

「正解」

「さっすが我じゃん!」

 自分で自分をアゲていくスタイル……超ポジティブシンキングカッコよすぎっす。

「あと、星の住民が排斥者になるってことはつまり、魂の循環から外されるってことじゃん!」

「……なるほど。それで魂の死者か」

 魂の循環、きっと輪廻転生の流れのことだろう。

 そこから外されてしまえば……生まれ変われないことになる。永遠に排斥者として、罰を受け続けることになるわけだ。

「そして排斥者は神には見える。ってことは、神的には、相手が生者か排斥者かの判別がつきにくいってことになりますよね?」

「正解じゃん!」

 なるほど。

「ガイアは経験豊かだから見分けるの上手じゃん!」

 経験豊か、ね。

 古い、よりもはるかに絶妙な表現。さすが神……修正の能力値激高い。

「つまりあのフードの人は、今、我ら神々にしか見えていない。魂の死者ってことはつまり、重たい罰を受けている星の住民ってことですね?」

「正解」

 なるほど。

「ちなみに、なんの罪を犯したのか詳細は不明じゃん!」

「でも、神樹への不法アクセスに関わる罪ではあると?」

「正解」

 う~ん。

 そんな人がなぜ、この場に?

 それに参加者と同じように行動してるのは……なんでだろ?

「準備を」

「はい?」

 なんの準備です?

「聞くじゃん!」

「あ、なるほど。そうですね。話を聞きに行きましょう」

 ……ということになった。






今日もありがとうございます!

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