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閑話―――歴史の闇

 



 さてさて………今宵、人目を忍び、神を遠ざけ、名もなき物語を(つづ)る役目を担うは……俺様。この宇宙における悪魔を統べる王だ。

 そして……カイトの友でもある。

 そう―――

「―――我が名はルシファー………宵の明星にして闇の底に潜みし汝の陰なり。禁忌の行末に待つ永劫の闇を黙殺し生きる弱きものよ………畏れの時は来た。汝の後悔は今、我を解き放つ。汝の無念は今、我を慰めたもう。汝の怒りは今、我の歓喜なり………。さぁ自虐の鐘を鳴らせ―――罪悪感を解放せよ―――……血の涙で高らかに闇を称えよ―――」

 ククク……この詠唱は闇を従える。

 ホレ見ろ? 宇宙空間を取り巻く闇黒がうねりを為して………我が漆黒の羽に同化していきやがる。

「………悪魔め」

「―――大悪魔王ルシファーの名において…………全ての悪に命ず。ここに集いて我が力となれ。禁断型神権発動―――【全ての悪は俺のもの】」

 ククク………この宇宙にある暗黒面―――悪の力を周囲から簒奪(さんだつ)する神権。奪った力は当然、俺様のものになるってわけだ。

「讃美歌の自己詠唱とはね……」

「ククク………まだまだ、だぜ?」

「なに?」

「「「「―――我が名はルシファー………宵の明星にして闇の底に潜みし汝の陰なり。禁忌の行末に待つ永劫の闇を黙殺し生きる弱きものよ………畏れの時は来た。汝の後悔は今、我を解き放つ。汝の無念は今、我を慰めたもう。汝の怒りは今、我の歓喜なり………。さぁ自虐の鐘を鳴らせ―――罪悪感を解放せよ―――……血の涙で高らかに闇を称えよ―――」」」」

 神権発動後、つまり讃美歌の後述詠唱………。

 俺様以外の誰かが、俺様を敬い讃美歌を唱える。ククク……………唱えたものの数、そして力に基づいて……神権の効果が倍化していく効果を得るためのもの。

 しかも、唱えてやがるのは雑魚どもじゃねぇ。

 強力な力を持つ悪魔と天使の精鋭………ククク…………悪くねぇ。(たぎ)ってきやがったぜ……ククッ。三対六枚に広がる悪魔の羽はブラックダイヤの輝きを放ち………漆黒のロングコートに似せた戦衣がひび割れて………赤い光が漏れいずる。黄金色の瞳……鋭い耳………ナイフのようにとがった爪と漆黒の尾………そしてニヒルな口元で不敵な笑みを携える。周囲に浮かぶ衛星のような書物には……大罪の歴史が綴られてやがる。グラン・グリモアールの禁書版原典……レア中のレア武具ってヤツだ。

「……まさか讃美歌の二重詠唱……しかも天使と悪魔の精鋭による後述詠唱とは……本気らしいね」

「あったり前だろ? なにせ相手はお前なんだからよぉ」

 恩のある神……カイトのためとはいえ……義理堅く奉公するには少し高ぇリスクだが……悪くはねぇ。なにせ相手はこの宇宙の頂点……。

 まったくもって……………悪くねぇ夜だ。

 バックミュージックは、ミカエルたちの讃美歌。しかも合唱団は神威を大解放した天と悪の精鋭とくれば……悪くねぇ夜だ。

「それで? なんの騒ぎだ? これは謀反かい?」

 宇宙に漂う彗星の上……直径五キロはありそうなクレーター。

 その中心地に寝転がる神から……動揺は微塵も感じとれねぇ。俺様と大天使ども、そして悪魔と天使の精鋭に囲まれるくらい……………コイツにとっちゃなんのプレッシャーにもならねぇか。

「仮に、だ。戦ったとしても俺様じゃあ勝てねぇ。けどよぉ………今の俺様たちなら、足止めくらいできるだろうぜ?」

「……まったく」

「お前も吸収してみたらどうだ? この場にいる天使どもの善をよぉ」

「……」

「ま、できねぇよな? 天使たちを滅するメリットよりデメリットの方がデケェからな?」

「……わざとらしい演技は止めろ。用件を言え」

「………交渉しようぜ?」

「交渉?」

「俺様は多分、気付いてるぜ? カイトを天界に戻せって……お前が急に騒ぎやがった理由になぁ」

「まったく……やりにくい相手だよ」

 善なるものの失意……溜息は最高のご褒美だ……ククク。

「まず一つめの理由だ。創造神よ……過保護は良くねぇぜ?」

「へぇ? まるで過保護なのは俺だけって言いぐさだな?」

「クックク……こりゃ一本とられたなぁ。確かに俺様も、カイトを天界に戻すのは正しいと思ってるぜ?」

「だろ? てか過保護な大悪魔王……ウケるよマジで」

「ククク……俺様のことはほっとけっつーの」

 互いの腹は見えてるって挨拶は、これくらいでいいだろう。

「………しかし、迷いもある。そうだろルシファー?」

「あぁ、俺様には迷いがある。お前には迷いはねぇが…………余裕がねぇ。違うか?」

「……なんの話だい?」

「………今回のは、そのせいで起こした急造マッチポンプ、だろ?」

「………」

「……まぁ、なんにせよ過保護なこって」

「用件を」

「………まぁいい。交渉だ交渉。カイトの意志を尊重しろ。そうすれば天と悪の軍団はこれまで同様、務めを果たしてやろう。短期アルバイトのおまけつきでな?」

「その交渉………お前らになんの利益がある?」

「なぁに………カイトのためさ」

 ……恩は返さねぇとなぁ。恩義を腹に抱えてちゃ悪が濁っちまうからよ。

「…………善は大天使に抱かれ……光の如く拡散し伝播する」

 へぇ? 偉大なる神の法則じゃねえか……。

「ククク………悪――闇は重く留められ、収束することを法則づけられた、か」

「そうだ。そう定めた。創造神たる俺がね」

「……確信したぜ? 創造神よ……お前、相当に弱ってやがるな?」

「……そう思うのか?」

「あぁ。この宇宙における光……善は、分配法則で成り立っている。そうだろ?」

「へぇ?」

「善の全てはお前の創造物―――つまりそのレパートリーと総量は決まってるってわけだ」

「……」

「一方、悪は分配法則じゃねぇ。個々の生命体が生み出す感情の軋み―――……無限に生まれてきやがる。状況、環境、相手……複雑な要素が織りなす化学変化によってよぉ……ククク」

「……」

「善は大天使に抱かれ……光の如く拡散し伝播する。悪――闇は重く留められ収束することを法則づけられた……ククク」

「あぁ、さっきも言った通りだ」

「でも見ろよ? 結果は逆だぜ? この宇宙における八割の空間が闇。本当なら今ごろはよぉ……光あふれる神の国がごとく清浄なオーラがこの宇宙を覆い、闇は身を寄せ合って生きる……しかなかったはずなのによぉ」

「……残念無念さ」

「だが……当たり前の帰結だろ? 光―――善は有限なのに闇―――悪は無限に増幅可能なんだからよぉ」

「あぁ」

「しかも……事態の悪化に輪をかける、外宇宙からの神々の侵攻。最悪の展開だなぁオイ。そのせいで光―――善の根源たる魂の循環……それを代行する星々の守護神、それを総括する仏ども……全てのシステムが限界を迎えてんじゃねぇのか?」

「コントロールできているうちは良かったんだけどな。ルシファー、お前の言う通り……外宇宙からの侵攻激化が、事態を悪化させている。対内業務だけじゃなく、対外業務の過重負担……。参ったよ、本当にね」

「……」

「しかし……………事態は変わった」

「ククク……そうだな? 新たなる善の創出者……その登場によってよぉ」

「気づいてたか」

「俺様を誰だと思ってやがるんだ?」

「……過保護な大悪魔だろ?」

「うっせ」

 どうやら………コイツはマジで………ククッ。

「創造神よ………お前は閃いた。光―――善の創出者をもっと増やせばいいと」

「………」

「お前は試してみることにした。この宇宙の外から来たものを。この宇宙でお前が生み出した善以外を知るものを。しかも複数の魂―――善なるもの多様に秘めた可能性のある転生者(カイト)を守護神に抜擢して、お前は見守った。この宇宙における新たなる光―――善の創出者たりえるかを………」

「……」

「どうやらあのアホは、お前の審査に合格したらしいなぁ? なにせ、戦ってまでカイトをこの宇宙に留めたんだからよぉ。だから今、こんなにも弱ってるんだろ? 余裕がねぇんだろ?」

 天使と悪魔の精鋭。それに二重詠唱でバフをかけまくった俺様。そして大天使ども……。こっちの戦力も相当なもんだが………コイツが本気で戦う気なら………負ける。でも戦う気は………まったくねぇらしい。つまり余裕がねぇってことだ。俺らとの戦いに力を割く余裕が………クク。

「………まったく、嫌になる」

「ククク? 褒めんじゃねぇよ?」

「悪魔的価値転換……最悪だな」

「ククク? それでカイトはどこにいたんだ? おまえも最初、行方不明になったアイツを探してたろ?」

「……地球のある宇宙、そこの創造神に奪われかけていた」

「……やっぱりアイツか」

「あぁ。自分の手でカイトたちの魂を追放しておいて………役立つとみれば返せだとさ」

「なんとも神らしいこって」

「………だな。お前の察しの通り、戦ったさ。そしてカイトを封じた空間を無事、取り戻した」

「そして深手を負ったと?」

「……」

「この宇宙の寿命も、そう長くはねぇってことか?」

「手は打ってある。種はまいたさ……。その発芽には、カイトが天界に戻る必要があるってだけでな」

「そんなに急ぐのかよ?」

「あまり保証はできない」

「………ウリエル―――ジェイを媒介にして神々に恋愛を急いで促そうとしてやがるのも、そのためだな?」

「………察しが良すぎるよルシファー」

「愛。新たなる善の創出者たる偉大なる神を、神々が生み出せるようになる時代。恋愛によってな。ま、最悪だけどよぉ……悪魔的にはな」

「嘘つけ。新たな光によって闇もまた力を持つと理解してるくせに」

「その通り……。だから光の登場は大歓迎するぜ?」

「つまり悪魔の王たるお前も……カイトと、神々の恋愛とを歓迎してるってわけだ?」

「……ククク」

 否定はしねぇぜ?

「しかし愛、とはな。神々の恋愛なんて虫唾(むしず)が走るけどなぁ」

「カイトの善、その根源には愛がある。他者への愛、物や文化への愛、運命への愛………。これまでは愛なんて……生命体が生み出す心的現象に過ぎないと思ってたんだけどなぁ」

「おや? 創造神が愛を否定すんのか?」

「否定はしない。愛と善は同一の概念ではないという指摘さ。しかし、愛の方も試してみる価値は大いにあるとカイトが示した。ただ、それだけだ」

「つまり……お前の対策………本命はカイトってことだろ?」

「………あぁ。神々の恋愛にも期待はしているがね。プランBと本命プランとを同時展開してるにすぎない。念のために、な」

「創造神ってのは……やることが多くてたいへんだなぁ? 心中察してあまりあるぜ?」

「嘘つけ」

「ククク……ところでよぉ……アポロンとオロチのダンジョンに外宇宙の神々が侵攻しやがったのは、お前の助けだな?」

「………店じまい前に、恩を返しておこうと思ったのさ。俺も弱ってるしね」

「………なるほどな。アポロンと龍神に復讐の機会を与えてやったってとこか? でも死者の国―――黄泉の女王をダンジョンに拘束したのはなぜだ?」

「拘束はしてない」

「………ほぅ? まぁいいか。この謎はそのうち解けるだろうからな」

「さ、もういいだろ。神々に恋愛が広まるかどうか、あるいはカイトが天界にすぐ戻ることになるかどうか―――間もなくわかる」

「まぁ待てよ。カイトが目覚ないってことは、ウリエルを通して神々に愛が広まらねぇことだ」

「あぁ。神々に恋愛が広まれば―――神々の間で、新たなる善が生み出される可能性があるわけだがな」

 ………やっぱりか。

「お前、創造神の代理業を新たなる善―――神が生み出しし神たちに担わせるつもりだな?」

「そうさ。だがこっちはあくまでプランB。でもそれがうまくいく見通しがたたない……つまり保険がなくなるとわかれば、カイトをすぐに呼び戻す。なにせ人気者のカイトを取り戻さんとするもの………あるいは奪い取らんとするものは……多い。特に外宇宙からの侵攻が、想定よりはるかに激しい。我がプロテクトもいつまで持つかわからぬ」

 ………焦ってやがるのは本当らしいな。

「ならその負担、減らしてやろう。その代わり、プランBが失敗したとしても、カイトにもう少し……せめて寿命が尽きるまでの間、自由を認めてやれ。約束するなら半獣半人界方面からの侵略者どもを悪魔が、竜界方面を天使が受け持つぜ?」

「確かに、今のお前たちなら勝てる見込みはある」

 あぁ、なるほど。そういうことかよ…………クク。

 俺様たちの戦力を確認しておきたかったってことだな。

 カイトをすぐに戻せって騒ぎやがったのは、こうなる可能性―――戦闘モードの俺らが押しかけてくることを、積極的に見込んだ一手でもあったと。

 ククク…………食えねぇ奴だぜまったく。

 まんまとコイツの思惑通りに動いちまったわけだが……。

 まぁ(しゃく)だけどよぉ………ここまで来たら仕方ねぇ。カイトのために、コイツの思惑に乗ってやるとしようか。

「合格をもらえたようで安心したぜ?」

「……まったく嫌な奴だよお前は。そこは気がついてもスルーするのが大人の対応ってもんだろ?」

「創造神からヘイトを稼ぐ機会を無駄にしろって? そりゃ無理な話だ」

 悪意や嫌悪感ってネガティブな感情は、俺様にはご褒美なんだからよ………ククク。

「しかし本当にいいのか? この我に手を貸すと? 契約以外の業務で?」

「そうさなぁ。天使と悪魔は、この宇宙が滅ぶ前に……別の宇宙に流点してもいいわけだが」

「………」

「しかし、現状を捨てるのはもったいねぇのさ。これは……言うならばあのアホのためのボランティアってやつだ。奴にはバカバカしいくらいどデカい恩があるからよぉ」

「そうか。大悪魔王が恩で動くか……。しかもボランティアとはね」

「まぁな」

 それに今夜は…………悪くねぇ夜だしよ。

「………約束しよう」

「では……確かに承った。おぃミカ、ラファ、ガブリエル! 天使と悪魔ども! 俺様たちの出番だぜ?」

「あぁ。わかったよ兄さん」

 隣に立つ弟………偉大なる大天使ミカエル。戦衣に身を包み神剣を携えた姿は……まさに正義の門番って面構(つらがま)えだ。三対六枚の羽は………その清き心を体現するように輝いてやがる。

「俺は兄さんと同行するから」

 ………ったく、頼りになる弟を持ったもんだ。

「好きにしやがれ」

「あぁ、そうするよ」

「ミカエルよ。此度の御に報い、汝らに刻みし力の制約を解いてやろうか?」

 へぇ? 悪くねぇ話じゃねぇか。

「いや、それには及びません。我らはこのままでも十分に強い……自己バフした兄さんの隣に立って戦えるくらいには」

 ったく………生意気なこって。

 でもまぁ、今ケンカしたら俺様が勝てるって保証はねぇかもなぁ……ククク。

「それに……」

「……それに?」

「えぇ………。この紋様をカッコいいと、我が友が言ってくれた。今ではけっこう……いや、かなり気に入ってるんですよ」

「………そうか。では必要な時は願うといい。一時的に解除してやろう」

「お心遣いに感謝を」

「じゃあ俺様のアレも解除してくれよ?」

「お前のはダメだ。この宇宙の半分が滅びかねない」

「ククク…………そいつは残念」

 確かに、制御できる自信はねぇからな……。

「では、失礼します。いくぞお前ら! 我らに続け!」

「「「はっ!」」」

 すっかり仕切りモードの弟の背を見つめながら………溢れだす高揚感に身を委ねて口元を緩ませる。

 かつて天の軍勢を率いてた―――大天使どもの頂点にあったころの自分を思い出しちまうくらいには……悪くねぇ夜だ、本当によぉ。

 …………ククク。カイトに感謝だな。







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