第51話:キス祭り会場
第51話:キス祭り会場
今朝のこと。
起きてすぐ、爺やが部屋に駆け込んできた。
口をパクパクさせながら慌てふためく珍しい姿に首を捻りつつ、指さされた方向を見て納得……。
窓の外、少し遠めの位置に……見慣れない巨大な構造物が登場。
間違いなくロココさんだと思い確認してみたら、なんとなんと、キス祭りの会場を創ってくれたとか。
しかし……すっごい目立つ。
木目調のドーム型野球場っぽい建物。大きさは野球場の五倍はありそう。そして、巨大な天井は開閉自由らしい。さっきは閉まってたのに、今は、フルオープン。
人々が天井を見上げながらぽかんと大口を開く姿を、天界にいる神々はどのような表情で見つめてるだろうか……。きっと、ハイタッチしてサプライズ成功ってはしゃいでるに違いない……。
でも、天井付きの施設はありがたい。
つまり……これでキス大会は雨天決行可能ってことなわけである。
そして確かに、ここは野球場じゃない。
キス祭り会場。
……内部もすんごい。
野球のグランドで例えるなら、ホームベースの辺りに薔薇に囲まれた舞台があって。そこに王様が座るような黄金の椅子がある。
ジェイがそこに座って……キスをするのかな?
まぁ、この椅子はまだ理解できるとして、だ。
ちょっとよく理解できない空間もある。
まず………一塁の辺り。そこはテレビ番組のセットのような造りになってて……。うっすらと夕日のような光が差し込む学校の教室っぽい空間が登場してる。机、イス、カーテンに黒板……掃除道具入れのロッカーに習字の作品掲示まである。
そして、二塁の辺り。
ここは公園っぽい空間になってるんだよね……。コンビニっぽい建物の隣にある小さな公園には、砂場、ブランコ、ジャングルジムに大きめのベンチが設置されてるわけだけども。ふんだんにヒヒイロカネが使われてるっぽい。
てか、こんな高級素材で創られた遊具で遊ばせるメンタルを持つ保護者なんて、いないと思う。
神兄さんと守護神のみなさんが、ターニャさんのおもちゃを超レア素材で創りまくってたらしいけど……。それは神々の感覚であって、星の住民の感覚ではありえないわけだ。地球感覚でも、ありえない。ボールやピン、レーンにガーターベルトが全部、あますところなく純金でできたボーリング場で、ゴリゴリ十ゲーム遊ぶ人なんていない。そもそもそんなものを、純金で創る人なんていない……。
そして、三塁の辺り。
さっき打ち上げ花火が何発か上がってたけど、ここの確認用だったらしい。花火を見上げる橋の上って感じの空間になってるし。
夏っぽい演出を目指してか、蛍みたいな生き物がチラホラ舞ってるなぁって思ったら……違った。光の精霊さんたちだった。あと、なんかこのゾーンだけ薄ら暗いなぁって思ったら……闇の精霊さんたちのご協力のたまものだった……。
う~ん……上位精霊の無駄遣いだと思うオレがおかしいのかなぁ……。
まぁ、兄さんやウリエル様が精霊たちから獲得してる人気が推しはかれるってことにしておこっと。
それにしても全部……中高校生のファーストキスシチュエーションランキングに入ってそうな………そんな素敵空間。
きっとロココさんが日本のランキングをチェックしたんだろうなぁ。この他の空間としてあえて挙げるなら、恋人の部屋ってシチュエーションも上位入りしてそうだけど……。今日は用意されてないらしい。今回は、恋人になる前のイベントだからね。
そうそう。
ちなみに外野には、小さいけれどもアレがある。
いわゆるひとつの……観覧車。
どうやら、天井を突き抜ける高さまで伸縮可能らしい。今は、空高くゴンドラがグルグルしておられる。
これは………参加者は喜ぶだろうなぁ。
観覧車は、実はこの世界にもあるんだよね。あのテーマパーク煉獄に設置されてる。かなりの人気遊具で……わかりやすくカップルホイホイになってるんだ。
どうやら夜景を見つつゴンドラの中でキスをするってシチュエーションは、この異世界でも人気らしい。
ま、実は俺も、ナナちゃんとデートした時に寄ったんだけどね……。
うんまぁ……最高だった。控えめに言っても、だ。
………えへへ。
もちろん、観覧車のゴンドラが頂上にまわった瞬間……その六十秒がキスのチャンス。他のゴンドラから見えないポジションだから。
ソワソワとドキドキが混ざり合って……頭が沸騰するような熱さで心臓がバクついてるのに……。初めてのキス―――……互いの意思を探りあうように見つめ合う瞬間は、沈黙が支配していて……。
体内と体外の温度差に耐えるせいで、全身の薄い皮膚がひくついて……。腕も首も唇さえも、ただマヒしたように震えるだけ。微かな振動を繰り返す身体は、ただただ、貴重な六十秒を浪費するためだけのメトロノームになる……。優しい微笑みが、俺の緊張をほぐしてくれるまで……。
つまりまぁ……やっぱ最高だった。とことん控えめに言っても、だ。ナナちゃん、可愛すぎる。
けど今回は、こんなに甘くはならないと思うんだよね。甘いって自分で言っちゃってるのも恥ずかしいけども。
その理由の一つは……観客席。
今回のキスは、大観衆付きってことだから。二人っきりの親密さってあんまりでないかもしれない。
この会場、少なくとも十万人くらい収容可能な客席が用意されてて。ここに、今回は、キス大会の参加者と関係者が待機する予定だ。
あと、VIPルームっぽい観覧席。ここには兄さん、父さんと母さん、そして各国の来賓―――救星メンバーが同席することになってる。兄さんの護衛もかねて、ね。
もう一つの理由は、参加者数。
ジェイはこの日、真実の愛が見つかるまでキスを繰り返すことになる。その参加者なんと……三百人。
一人に一秒で三百秒。
一人に一分で三百分。五時間だ。
挨拶や自己紹介、簡単な会話なんかの時間を含めて、一人五分かかったとしよう。
一人に五分で合計千五百分。二十五時間かかる。
全員とキスする可能性を含めて、休憩や食事の時間を考えると、丸二日かけての大会ってことになりそうだ。
『陸人様、会場はいかがでしょうか?』
『ロココさん! ありがと! 最高だよ!』
シチュエーションへのこだわりを感じるよね。
でも………そっか。
好きなシチュを相手の好みで決めてたら……やっぱ一人あたり十分はかかるかも。
花火見上げながらの不意キスとか、教室で壁ドンキスとか、ベンチでモジモジキスとか………観覧車でアオハルキスとか。
うんまぁ、そこはほら……相手によって、いろんなシチュがあり得るわけだから。
このあたり、空間をどう使ってキス祭りを進めるか……あとで、ジェイと確認しよう。ここはジェイの意向を最優先にしないと。恋に落ちるどころか、ご不満ご機嫌ナナメで本末転倒になっちゃうかもしれないから。
『ところで陸人様、例の件でございますが……』
『ウリエル様のこと?』
『はい。守護神のみなさまは陸人様の推察を支持される、とのことでございます』
『……そっか』
偉大なる神々(みなさん)が支持してくれるなら、読みは当たってると思っていい。みなさん、創造神との付き合いも長いわけだし。
やっぱりどうやら、創造神のねらいは、大天使ウリエル様。かの神に恋をさせること。それも、神々に恋愛を広めるために。
じゃあなぜ、創造神は神々に恋愛を広めたいのか……。
う~ん………さっぱりわかんない。この疑問の答えを導くための材料が少なすぎる。
うん。いったん保留しとこう。
まぁ、創造神の思惑はさておいて。
ジェイも恋愛に前向きみたいだし。今回は、恋人探しの合コンみたいなもんだと思えばいいのかもしんない。まぁ、行ったことないけどね。一人対三百の合コンなんてあるのかもわかんないけどね……。
『ところで陸人様……』
『どうしたの?』
『エントリーされた三百名について、私の方で情報を確認してみました』
『情報を確認?』
『はい。ウリエル様のお相手になるかもしれない方々でございますので』
『それは……そうだけども。それって……神々、みなさんの意向?』
『はい。大天使のみなさま、守護神のみなさま、そしてルシファー様のご意向にございます』
………保護者のメンツが凄まじい件について。
心ときめく同級生のお宅を訪問したらバルセロナの歴代名選手がリビングに勢ぞろいして来訪の意図を質問攻めにしてきました………なんて状況を百倍した以上のインパクト。
『教会関係者が百五十二名、正神教の信者が六十三名、希望在住の冒険者が三十八名、ヒュムの領主関係者が二十七名、その他の都市からのエントリーが二十名となっております』
『多いね、教会関係者』
……まったく。
恒例のごとく……何かあるにジェイを非難してたお偉いさんたちには、プライドってものがないんだろうか。自分の関係者をエントリーしまくってるに違いない。教会内での権力争いのために、ジェイを……大天使ウリエル様の威光を利用するつもりなんだろう。
正義を司るミカエル様あたりに一回、ガツンと叱ってほしいくらいだ。カッコいいって大評判の炎で、メラメラっと邪念を浄化してくんないかなぁ。
『ところで陸人様』
『ん?』
『参加者のなかに、身元が判明しない者がおりました。いずれも、他の都市からのエントリーです』
『え? 身元が判明しない? それ、どういうこと?』
『……血縁者、職業、性別、年齢に種族……すべて不明です』
『それって……ありえるの?』
守護神の神様業用の神権―――世界○見得。これを使えば、星をスキャンして生命体を補足できるはず。スキャンされた生命体の情報を把握することもできるはずだと思うんだけど……。
『現時点ではなんとも申し上げられません。しかし、会場に来れば更なる情報が得られるかと』
『そっか。一応、今の話は俺からみんなに伝えておくよ』
ジェイをねらってるのか。兄さんをねらってるのか。あるいは大天使ウリエル様をねらってるのか。それとも純粋な参加者か………。
『……陸人様』
『うん?』
『実は、更にお耳に入れておきたいことが………』
『なに?』
なんかヤバい系?
『ターニャ様が地上に降りておられます』
『え? マジで?』
『はい。まさかとは思うのですが……』
『……身元が判明しない参加者の一人が……ターニャ様ってこと?』
『えぇ。可能性はあるかと』
マジか。
それって……マズくない?
例え参加はしなくても、大好きなウリエル様の恋人候補を見定めに来た可能性は……アリ寄りのアリアリだ。
『……それだけではございません』
『どうしたの?』
『アポロン様、オロチ様、ツクヨミ様のことです』
『まさか……違うよね? 五賢帝、エントリーしてないよね?』
いや、大丈夫だよ……うん。
シヴァっちさんはさっき、トールさんと一緒に居た。アカデミーで会ったし。多分、いざという時に兄さんを守りに駆けつけるため、地上に降りてきてくれてるんだ。だからアポロンさんたちも、兄さんを守りに降りてきてくれてるのかもしれない。
アマテラさんは………桜餅のあるところにいるんだろうけど。
『はい、エントリーされてはいないのです。いないのですが……』
『どうしたの?』
もっと深刻なこと?
『アポロン様、オロチ様、ツクヨミ様は、外宇宙から侵攻してきた神々との闘争に入られました』
『……嘘でしょ?』
『いえ。どうやら外宇宙の神々は、ダンジョンに目を付けたようです。お三方のダンジョンを乗っ取るつもりのようです』
『ならダンジョンを解除したら………。いや、ダメだね』
『はい。解除と同時に、この星にデミ・ゴッドの大群が顕現することになります』
『じゃあ、誰か加勢に?』
『いえ。今のところ各々対処する、とのことです』
『そっか。つまり……手を出すなってことだね』
『はい』
力のある神々だから。よほどのことがない限り、心配は無用ってことなんだろうけど……。
『御三方はこれから千年……闘争にかかりきりになる可能性がございます』
『……神々の千年闘争』
神体は頑丈。だからこそ神々の闘争は、なかなか決着がつかないらしい。
でも、そこまでしてダンジョンが欲しいってことは……。
『敵の要求は……ダンジョンを寄越せ。ダンジョンの神として我らを認めよ。この星の民に我らを信仰させよ。さもなくば星への侵攻を続ける………こんなとこ?』
『ご明察です』
『シヴァっちさんとアマテラさんのダンジョンは? 大丈夫なの?』
『はい。おそらく敵の戦力の問題かと』
『三つの同時侵略は可能だけど、五つとなると戦力が足りないってことだね………。あ、そっか』
『なにか?』
『敵はアマテラさんとシヴァっちさんのダンジョンを避けた。つまりアポロンさん、ツクヨミさん、オロチさんは……なめられたと思っていらっしゃる?』
『はい。たいそうご立腹のご様子です。しかし、それだけではございません』
『……兄さん?』
『はい。ダンジョンはカイト様が、五賢帝のみなさまと眷属の方々のためにご用意なさったものですので』
『そこに手を出されて……腹が立ったんだね』
エグい。
眷属に対する愛が深く、兄さんのことを特に慕うかの神の怒りは……凄まじいことになってるだろうな
『アポロンさん、激おこ?』
……超新星爆発並みの熱量で怒ってるんじゃないかな……。
『はい。アポロン様の怒りは特に熾烈のようです。実は……戦いの舞台となっているダンジョンのフロアを二百の防御層で覆ってあるのですが……』
『壊されちゃった?』
『既に十度、防御層を再展開しております』
大技をブッパしてるってわけですね。
つまりそれでもまだ、異世界の神々と配下の侵攻は止まらないってことになる。
『申し訳ございませんが、闘争の間、私はダンジョン修復のお手伝いに専念することになりそうです』
偉大なる神々が本気で戦えば……ダンジョンは常に修復を必要とする。眷属の皆さんも戦いに赴くことになるとすれば……修復できるのはロココさんしかいないってことになる。
つまりキス大会、ロココさんの支援はこれ以上、望めない。
『千年闘争を止められるとしたら……兄さんだよね』
『………間違いなく』
アポロンさん、ツクヨミさん、オロチさん。怒り狂う土地神の怒りを沈められるとしたら……兄さんだけだ。
『分神体―――……神兄さんは?』
『えぇ。そちらのカイト様同様、封印状態にございます』
やっぱり、兄さんの封印を解除するしかない。
『どうか……カイト様をよろしくお願いいたします』
『任せて!』
キス祭りの成否に、兄さんの幸せと五賢帝の安定、オレとジェイの平和な冒険者生活とがかかってるってわけだ。
「………覚醒―――恋愛の成就に地上と神界の命運がかかる、か」
やっぱそこ、おとぎ話の御姫様ポジションだから。
どう考えても兄さんには、似合わないって。
だから早く………早く……。
帰ってきなよ。




