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第47話:解除条件

 



『陸人様……陸人様………』

『―――ロ、ココさん?』

『はい。お休みのところ失礼いたします』

『気にしないで。なにかあればすぐ連絡をってお願いしたのは俺だし。兄さんのことでしょ?』

『はい』

『なにかわかった?』

『解除条件が判明しました』

「っ!? ―――……しゃあぁぁあ! さっすがロココさん! 超有能!」

 あ、ヤバ。

 ……………叫んじゃった。

 部屋の扉がドドンと開く音と、数名が入室してくる気配(あしおと)が……。間違いない、第一皇太子専属の執事と近衛兵たちだ。

「陸人様?」

「―――いや大丈夫。心配かけちゃったね。ちょっと寝ぼけただけだから」

「ほっっほっほ………さようでございますか」

「うん。驚かせてごめんね。爺やも、みんなも下がって。休んでいいよ」

「では、失礼いたします」

 頭を深々と下げながら、スススススっと後退していく。そのままガチャリと扉が閉まって、気配が遠のいていった。

「はぁ~、慣れないなぁ」

 自由気ままに生活してた頃が、ちょっと懐かしい。爺やも近衛兵も、みんないい人なんだけどね。

『ごめんねロココさん、お待たせです。それで? 解除条件って………なんなの?』

『それがいささか………、いや、かなりやっかいでございます』

『やっかい?』

『実は―――………』

『―――っ!?』




 +++ +++ +++




「「「あ``~~~」」」」

 王城の西館屋上。ここは―――最高だ。

 いつ来ても、最高……!

 つい低めの唸り声が自然と出ちゃう聖地―――露天風呂。

 まず、眺めが最高っ。

 街並み、城壁、そして朝陽を受けて輝く黄金色の海―――小麦畑が見渡せる。

 大人がたっぷり百人は入浴できそうな露天風呂……開放感がヤバい。

 もちろん、お湯もすばらしいんだ!

 今日の白桃色の濁り湯も………最高っ。

 日本各地のお湯とこの星のお湯をブレンドして、日替わりで注いでくれてるんだよね。もちろん、ロココさんが!

 ちなみに、お湯の調合は、その日の気分で変えてるんだって。

 そのおかげで、今日はどんなお湯かなぁって、毎日、楽しみでさぁ。朝の修練後に上裸で温泉にダッシュするのが日課になっちゃってる。はしたないって爺やに叱られるのも日課ね。

 ちなみにここで、父さんや母さんも、朝風呂や夕風呂を満喫してるんだ。たまに、救星のメンバーも、父さんや母さんと一緒に温泉を楽しんで、仕事の疲れを洗い流してる。

 でも、今日は、救星メンバーも、父さんと母さんもいない。お願いして、貸し切らせてもらっちゃってる。

「「「はぁ~」」」」

「………最っっ高」

「あぁ…………っとにきもちいぃ」

「マジそれなぁ~」

 ジェイもハルルもルルルも、ニヨニヨっとした表情を隠しきれてない。

 俺も、だけどね。

 ここ―――王城の露天風呂に、男同士で裸の付き合いをって誘い文句で呼び出してみた。みんなここの風呂が大好きだから、日の出前にすっとんできた。

 とくに大司教様(ジェイ)は、全裸で超上空から滑空して入浴ダイビングをかましたほど……。「「「先に体洗えよっ!」」」ってみんなのツッコミに、「家で洗ってきたぜぇ」ってドヤ顔で返してきた。服は後で、司祭に届けさせる手はずらしい……。

 天使の翼をはやした全裸男の怪―――そんな都市伝説が生まれてなきゃいいけど………。

 まぁ、そんな都市伝説が飛び出そうものなら、教会が、全力でもみ消すだろうな。まるで人気アイドルの不祥事をもみ消す大手芸能事務所のように……。

 …………怖っ。

 ジェイは実際、とんでもなく人気あるし。正神教信者をガンガン獲得してる稼ぎ頭だし。事務所(きょうかい)としても、多少の問題には目を瞑る覚悟なんだろうから。

 まぁ、全裸で上空を舞って露天風呂に向かったり、地下闘技場にこっそり出場したりするのが、上層部の考える多少の範囲に収まってるのかどうか、俺にはわかんないけどね。

 あ、そうそう。

「地下闘技場はどうだった?」

「「圧勝」」

 だよね……。

「ハルルはよぉ……右手のワンパンで全勝しやがったんだぜぇ?」

 日本にあったよ、そんなタイトルの漫画。

 ―――はっ⁉ ま、まさかハルル………すでにあの(レベル)なの? 頭ツルツルになっちゃわない?

「ジェイも凄かったぜ?」

「ったりめぇだろ?」

 ハルルがジェイと肩を組み、互いを褒めるハイタッチを交わす。

 この二人、武人同士、互いの実力を認めあってるんだよね。【希望(ホープ)】のメンバーは、ダンジョンを通して、互いの強さを理解して、信頼して、高めあってきた。そのなかでもこの二人は、切り裂くもの―――前衛役が中心だ。バトルでも、切り込み隊長役を果たしてくれてる。ダンジョンの中層以下だと、この二人にイルルを加えた三人が前線に立つと、バトルが一瞬で終わることも結構ある。ダンジョンで敵役をしてくれてる眷属の皆さん、まさに、ご愁傷さまとしかいいようがない。

「それで? ジェイはなにしでかしたの?」

 事務所(きょうかい)の人が、頭ツルツルになっちゃわない程度のやんちゃにしておきなよ?

「陸人……言い方」

「さすがに、‘しでかした’ってのはヒデェぜぇ?」

「ごめんごめん! でも、どうせあってるでしょ?」

 大天使ウリエル様の転生体が、地下闘技場とはいえ、生命体と戦ったんだから。なにもしでかしてないわけがない。

「一対五十の乱闘」

「は?」

 討伐される側でプチレイドバトルしてきたってこと? 

「ジェイのやつ、短気だろ? ‘まどろっこしいから出場者全員でかかって来いやぁ’ って言いやがったんだぜコイツ!」

「短気じゃねぇぜ? 雑魚相手の時短ってやつだ」

 おぃおぃ大司教……なにしてんの?

「しかも、五秒でフィニッシュ」

「は?」

 五十人を? 五秒で?

「高く飛び上がって……ワンパン」

「マジで?」

 ここにもワンパンの(マン)が?

「床に向けてはなった拳圧でよぉ……全員押しつぶしてやったぜぇ!」

「ったく頭いいよなぁ! 俺もそうすりゃよかったぜ!」

 ………なるほどね。

 二人して、地下闘技場のメンツを一撃で破壊してきたわけだ。

 多分これ、地下闘技場の元締め―――裏社会組織のリベンジリストに名前を載っけちゃったパターンだ。俺と同じく……。

 まぁ、心配はいらないだろうけど。

 獣人族のジェイ、竜人族のハルル。

 修練を欠かさないだけあって、二人ともさすがに綺麗な筋肉をしてる。

 熊のようないかつい身体って感じじゃないのに、二人とも、超がつくほどのバカ力だ。獣人や竜人は、そもそもヒュム族とは筋肉が違うんだろうなぁ。

 ま、この筋肉バトルバカ二人を暗殺ターゲットにしても、意味はないだろうけど。なにせ、その依頼を引き受ける方も命がけ―――つまりメリットがあんまりないわけだ。

 それに、二人とも強いだけじゃない。

 身長も百八十くらいあって、どっからどう見てもスポーティな爽やか好青年。

 つまり……モテる。

 強いだけじゃなくて、見た目だけがいい。そんな人気者を暗殺しようとすると、これまたリスクが高いわけだ。万が一、暗殺に成功したとしても、多くの支持者(ファン)や力ある友人たちから、今度は暗殺者の方がねらわれることになるから。

「なんだぁ? 俺の肉体美に見とれてんのか?」

「いや、全然」

 ハルルの裸なんて見慣れてるし。

「……あぁ、これか?」

「………」

「まぁ………こないだちょっとな?」

 どうやらハルルは……楽しんだらしい。

 俺も経験者だからわかるんだけどさぁ。

 地下闘技場で優勝するってことは、その……男女問わず、夜のお誘いがいっぱいあるってこと。

 もちろん俺は、全部断ったけどね。ナナちゃんひと筋だし。

 大司教様(ジェイ)は断ったとは思うんだけど……。ハルルに巻き込まれて火傷したかもしんないなぁ……。

 怖いからスルーしよっと。

「そういや……アイツは?」

「アイツ?」

「イルルだよイルル。こっちに帰ってきてんだろ?」

「うん。兄さんのそばに居るよ。部屋の護衛をしてくれてる」

 アーサー、ガウェインと一緒に。

「で、どうだった? アイツ、泣いたろ?」

「……内緒だよ」

 名誉のために。

 アーサーがイルルを、この城に運んできたとき。

 まず、扉が吹き飛んだ。兄さんの部屋の、ね。

 それから………たいへんだった。

「ま、あのカイトバカことだ。どうせカイトを抱きしめながら、泣き喚いて、泣きつかれて……そのままグースカ眠っちまったってとこだろ?」

「さぁね」

 さすが(ハルル)。ほぼほぼ正解。

 でもひとつ、間違ってる。

 先に泣いてたのは、俺なんだ。イルルは、そんな俺を見つけて……。俺と兄さんのために泣いてくれたんだよ。兄弟が再会できて良かったなぁって……力強いハグをくれながらさ。

「ところで陸人。今日はなんのお誘いなの?」

「ルルルに同意。そろそろ話せよ」

「そうだぜぇ。今日は握手会(ファンサ)だったってのによぉ。こっちに来てやったんだぜぇ?」

握手会(ファンサ)って……ミサのこと?」

「そうだぜぇ?」

 このアイドル大司教めっ。

「ジェイのことはいいから! そろそろ話せって」

「そうそう。いったいどうしたのさ?」

「……神託があった」

「「「カイトのことか?」」」

 ガバリと立ち上がった三人が、グググっと距離をつめてくる。

「ちょっ――……近いっ」

 近いから!

 全裸で急接近されんのはキツイって!

 はやく後ろ下がって!

「悪ぃ」

「すまなかったぜぇ」

「ごめんね」

「ったく」

 てか、なんだかんだでみんな、兄さんのこと大好きだよね………。イルルのこと言えないじゃん。

「封印の解除条件―――わかったって」

「「「くわしく!」」」

「―――っ!? だから近いって!」

「「「悪ぃ」」」

 ……ったく。兄さん大好っ子たちめ。

「「「で? 解除条件って?」」」

「……それがさ……。とんでもなく、やっかいなんだ」

「「「やっかい?」」」

「うん」

 ロココさんからこの話を聞いた時………俺、思ったし。

 創造神ってバカなの? って。

「まず、解除方法は二つある。一つは、自動解除。これは時間が経過すれば自然と解ける」

「時間ってよぉ……どれくれぇだ?」

「……千年」

「「「は?」」

「だから……千年」

「「「アホか」」」

「……だよねぇ」

 なんでも封印は、兄さんへの罰を兼ねてるらしい。

「もう一つは? なんなの?」

「うん、それがさぁ………やっかいなんだよ」

「「「やっかい?」」」

「そうそう。もう一つの解除条件は―――……真実の愛」

「「「は?」」

 わかる。気持ちはわかるよみんな……。

「兄さんに対する真実の愛―――目覚めのキスが解除条件だって」

「「「なにそれ?」」」

「………だよねぇ」

 眠るお姫様が、王子様のキスで目覚めるっておとぎ話があるけどさ。

 今回は、その逆。眠る王子様が、キスで目覚めるってパターン。

 まぁ兄さん、一応、王子様だし。設定に無理はないけどさぁ。物語や演劇、ゲームや漫画だから成立するわけで。リアルですることじゃないよねこれ。

 うん、やっぱバカ確定だ創造神。

「でも、カイトって水晶に覆われてたよね?」

「それがさぁ……変化があったんだよ」

「「「変化?」」」

「うん。クリスタルの中に封印されてたんだけどさぁ。今は、兄さんの身体がクリスタルの薄い膜で覆われてるっていうか……皮膚の表面がクリスタル化してるっていうか……」

「「「ふ~ん」」」

「紫色の水晶でコーディングされたって感じかなぁ」

「「「なんで変わったんだ?」」」

「おそらく、真実の―――目覚めのキスをしやすくしたんじゃないかなぁって。創造神が」

「……まさか」

「いやいやいや。まさかそんなわけ―――」

「―――あるの? ないよね?」

 うん……わかる。本当にわかるよみんなの気持ち。

 でもさ―――

「―――神託ではその可能性が大だってさ」

「……嘘だろ?」

「……嘘でしょ?」

「……嘘だろぉ?」

「残念。本当」

 まったく。暇神(そうぞうしん)め。

「と、ところでさ! キスはするとしてもさ……真実の愛ってどうやったらわかるわけ?」

「ルルルに同意。俺もそう思ったんだよ。で、聞いてみたんだけどさ……」

「どうだった?」

「どうやら……創造神様が測定するらしいよ。変な機械を使ってね」

「「「……バカなの?」」」

「全力同意」

 どう考えても、嫌がらせだ。

 あと、自分が楽しみたいんだと思う。変な機械を使うって言ってるらしいけど、絶対にノリで判定しやがるに違いない……。

「そこで……どうしようか悩んでてさぁ」

「なるほどねぇ。それで男子会―――朝風呂に誘ってくれたんだね」

「ルルルさすが!」

「はぁ?」

「どういうことだぜぇ?」

「だってさぁ……マズいことになりそうじゃない?」

「「そっかぁ?」」

 ハルルとジェイは、鈍いんだか、器がでっかいんだか……。

「例えばさぁ……兄さんを好きな人、ここに並んでくださぁ~い! では、順番にキスをお願いしまぁ~す! あ~残念! 真実の愛じゃなかったようですね! 封印解けませんでした! ではお次の方、どうぞ~」

「「「……」」」

「どう? 失礼極まりないよね?」

「「「……確かに」」」

 どう考えても、兄さん嫌われる。

 それに、兄さんの愛しい人とのキス―――それが真実の愛じゃないって判定が下った日にはもう、悲惨なことになる……。

 うん……やっぱ絶対、これは創造神から兄さんへの嫌がらせだ。兄さん、損しかしないもん。

 キスしてもらえるってメリットに思えなくもないけど……。兄さん、意識ないわけだから。それに、クリスタルでうっすら覆われるから。ビニール越しのキスは、キスにカウントされないし、仮にカウントするにしても、記憶に残らないわけだから。

 やっぱり兄さん、損しかしない案件だ。

「でもさぁ………あんまり手はないよねぇ。さっき陸人が言ったみたいに募集かけて手当たり次第にキスしてもうか……。それか、こっちから個別に声かけてキスしてもらうか………。封印解除って話は抜きにして、つまり真実の愛ってとこは伏せるって手もあるけど……キスをお願いする理由の説明が難しいよねぇ」

「そうなんだよ」

 兄さんにキスをしてくれる人を探さなきゃいけない。

 そうなると、キスをしてほしい理由を伝えなきゃいけない。

「どっかの酒場にでも放り込めばよくね?」

「「「え?」」」

「酔っ払いなら、理由なんてなくてもキスしてくれっだろ?」

「……そこに真実の愛があるとは思えないんだけど?」

「え? あるだろ?」

「「「……ハルル」」」

 そういうとこだと思う。運命の人と出会えないの。

「なんだよ?」

「ま、ハルルはほっといてさ」

「なんでだよ? いいアイデアだろ?」

「ない。それはない。百パーない」

「はぁ? わっかんねぇだろ?」

「「「いいから黙れ」」」

 ったく。

「……わかったよ。んな怒んなくてもいいじゃねぇかよ」

 へこんだ振りしてイジイジしても、可愛くないから。ちゃんと反省しなさい!

「でもよぉ。実際、どうすんだぁ? 範囲が広すぎっだろ?」

「そうなんだよ。異性、同性、ヒュムに異種族、同世代に数百歳年上の異世代……ちょっと考えただけでも、対象範囲が広大なんだよね」

 もはや笑えるレベルだ。

「とりあえず、関係者―――俺らも含めて、まずはキスしてみるしかねんじゃねぇの?」

「やっぱそうなるか」

「そういやカイトの恋人―――」

「―――そこだよそこ! どう説明したもんかなぁ」

 兄さんの愛しい人―――そのキスが真実の愛じゃないって判定が下った日にはもう、悲惨なことになる……。

「「「難問過ぎっ」」」

「だよねぇ」

 はぁ……。

 まったく。創造神っていったい、なに考えてんだろ。



今日もありがとうございました!

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