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第42話:進んだ針

陸人視点です。

 

 ハルルとの再会から一週間。

 武術大会へのエントリーも順調!

 ……とは言い難い。

 なぜかって?

 そう………エントリー数が……ヤバいんだよ。この武術大会は、この国際都市をあげた大イベント! だから王室公認で税金投入して世界各地で超大々的に広報したのに。

 五名ってなに? 五名ってどういうこと? 

 ま、大会本部は焦るよね。で、王室に泣きついてくるよね。で、調べるよね。王室の名義で、各ギルドに調査をかけたわけだよ。

 そしたら……判明しました。

 でも、その理由がね……。はぁ。

 報告を受けた俺、初めて権力を乱用しそうになっちゃったよ。まず、思ったわけ。皇太子としての権力を使って、この調査結果をもみ消そうかって。次に……とある人物のエントリーを取り消させようかと思ったわけ。

 いや、わかってるよ。皇太子としてちゃんと、そこは踏みとどまった。俺の良心もお仕事してくれたし。ま、無為自然……なるようになるさケセラセラ~ってマインドでね。「もうこの際、五名でもいっかぁ」………なんて心境に、今は辿り着きつつあるし。

 ぶっちゃけ、理解できるっていうか。エントリーが少ない理由は、まぁ納得いくものだったし。きっと民心を反映してもいるんだろうし。

 だって、各ギルドからの回答はみんな同じだったから。

 どうやらエントリーが進まないのは……二つの噂のせいだそうだ。

 最初の噂は、俺の幼馴染のこと。

 大会に、高名なランクS冒険者、最強の竜種が一角である水龍の力を操る猛者ハルルが出場するって噂が、あっという間に、都市中を駆け巡ったらしい。きっと、エントリーを考えてた人の耳にも速達で届いたと思う。

 噂の発信源はきっと、実際にハルルを街中で見かけた人……あるいはナンパされた人。その目撃情報が、恋愛方面に感度が高い人々のネットワークで、あっと言う間に拡散しちゃったんだろう……。で、だいたい、そういう拡散の中心地は酒場。酒場で飲んでるお客と言えばもう、冒険者。最後のは二次元知識に基づく偏見だけど、きっと間違ってないと思う。

 まぁ……仕方ないよね。もし俺がそこそこ有望な猛者だとしたら、欠場を考えると思うんだよなぁ。誰だって、恥はかきたくないもんね。それも、何万人の観戦者がいるところで。あと、砕かれたくもないよね。ダンジョンでのバトルや修練でコツコツ努力して、せっかく芽生え始めてくれた自信を……。

 それじゃあもうハルルのエントリーを取り下げてもらうかって話も会議では飛び出したんだけど……。うん、もちろんボツになった。なにせハルルの出場を楽しみにしてる客はたくさんいて。ハルルが欠場なんてことになったら、大ブーイング必至なんだよね。

 ……だから、こっちの噂については打つ手なし―――諦めることに決定。

 で、もう一つの噂なんだけど。こっちはなんと、兄さん絡み。「おい知ってるか? ハルルと一緒に、なんとあの救星の勇者大和(やまと)の息子―――ランクS冒険者カイトが帰還したらしいぜ? どうやら大会に出場するらしいぞ?」―――なんて思いつきの噂話を、どっかの酒場で、そこそこ盛り上がった酔っ払いが口にしたんだろうな。で、それが拡散したんだろうけど……困ったことになった。噂が盛り上がった挙句の果てに兄さんが出場しなかったら……大ブーイングが起きそう。あと、傷つく人も多そう。兄さんの行方はやっぱり知れないままだって、実感しちゃうことになるから……。

 うん。

 だからナナちゃんには、この噂は内緒にしてある。きっと、傷ついちゃうから。

 あ、そうそう!

 話は変わるけどさぁ……。俺、まだ出場許可をもらえていないんだよね。ナナちゃんから。毎回、「どうして私の意見を尊重してくれないの?」って、わんわん泣きながらハグされちゃうから。こうなっちゃうと、俺は弱くて。「ゴメンね」って謝りながら……ハグを返しちゃう。あとはまぁ、様式美って感じなんだけど……。

 でも、このケンカを繰り返してさ……わかって来たこともあるんだ。大会に出て、オレがますますモテちゃうのが嫌だってのは……建前。ナナちゃん、本心ではきっと……怖いんだと思う。ナナちゃんはきっと、俺まで失っちゃうのが怖いんだよ。危険な大会に出て、不慮の事故で俺が死んじゃうかもって……最悪のケースを考えちゃうんだ。

 でも、その本心を俺に伝えるには……言葉に出さなきゃいけない。直接的な表現じゃなくても、話の流れ伝えなきゃいけない。兄さんがいなくなったってことをね……。で、それが俺を傷つけるって……ナナちゃんは心配してくれてるんだと思う。

 うん。

「つまりさぁ……やっぱ俺、ナナちゃんに超愛されてるよなぁ。そう思わない?」

「え? 嘘だろ?」

「何が?」

「いや、まさかまさか……違うよなぁ?」

「え? だから何が?」

「まさか……マジガチか?」

「?」

「まさか………そのクソ甘っっったるい惚気(のろけ)を聞かせるため? そのために俺様を呼んだのか? このクソ遠い王城まで?」

「そうだけど?」

「…………嘘だろ?」

「いや、マジガチだって。誰かに聞いてほしくてさ~」

 巨大な王城。

 高さ三十メートルほどにあるこのテラスは、皇太子用の応接室に隣接してる。街を眺めながら飲むコーヒーの味は格別な気がして。俺のお気に入りスポットなんだよね。

「ジェイも暇なんだし。いいでしょ?」

「……俺様、そこそこ忙しいんだけどなぁ?」

 ブツクサ言いながら紅茶を飲んでるジェイは、正神教の大司教に祭り上げられてる。世界樹の攻防戦以降、天使の羽を自由自在に取り出せちゃうようになったんだけど。ある日うっかり、ジェイさんたら大天使モードで飛行―――逃亡しちゃったんだって。教会の会議から。それを見たら……ほっとけないよね。教会の偉い人達も。

「忙しいって……嘘でしょ」

 いっつも暇そうにしてるじゃん。

「……本当だぜ」

 目が泳いでるよ?

「大司教って普段、何してんの?」

「だいたい……ミサと会議……メンドくせぇんだよなぁ」

「他には?」

「あとはよぉ……色紙にサイン書いたり、街中で手を振って歩いたり、集会場で武芸を披露した後に握手会したり……」

 アイドルか。

「……大口の寄付者と食事会したり? 大使や領主と接見して布教活動の許可もらったり? そのお礼に食事会したり?」

 売れっ子プロデューサーか。

「あとたまによぉ……」

「わかったわかった。それ以上はいい」

「そっか?」

「うん。お腹いっぱい」

 社会の闇を知ってしまいそうで怖いから……。

「ジェイが大人気みたいでなによりだよ」

「だろ?」

 ま、世間もほっとかないよなそりゃ。

 なにせ……十代の若さで大司教に登りつめたイケメン。武芸に秀でた獣人は、ヤンチャな笑顔がカワイイと評判。深く輝く青い短髪に、キリリとした目鼻立ちを装備したこの細マッチョは……正神教の信者獲得に大貢献中らしい。

 大天使ウリエル様。その加護を授かりし敬謙なる正神教徒―――なんて言われてるけど。ジェイ、実はウリエルさんご本人らしい。これ、俺が天界に行ったとき、大天使ミカエルさんが教えてくれたけどね。大天使ウリエルさんの転生状態がジェイなんだとか。ジェイ本人は、よくわかってないっぽいけどね……。

「悪ぃ。ちょっくら便所行ってくるぜ」

「お手洗いって言いなよ、一応」

 大司教なんだし。ここ、王城なわけだし。

 後ろにスタンバってるメイドさんたちが困惑してるじゃん。

「気にすんなって。なぁあんた、便所まで案内してくれっか?」

「承知しました」

「……ごゆっくり」

 すんごいから。わが家のトイレ。

 神が創造したこの王城。実はロココさんがデザインしたんだって。

 この星の豪華な建物って、見た目ばっかよくてさ。実際、使い勝手わるかったりするんだけど……。さすがロココさん。この城はとっても機能的。

 それに、神々も協力してくれたんだってさ。

 美の女神ディーテさんから特別に寄贈された絵画や彫刻。場内や園庭にさりげなく展示されてる。エントランスに飾ってある巨大な絵画なんていったい、おいくらなんだろうか……。興味本位でちょっと聞いてみたら「フフフフフ」って笑っておられた。きっとゴッホやピカソよりお高いんだろうな……。

 そんな評価スポット満載の王城で、特に大絶賛されてるのがトイレなんだよね。

 トールさんからの贈り物。なんと、あのレア金属ヒヒイロカネをふんだんに用いた合金を、これでもかってくらいたっぷり使用した……便器と洗面台完備。フロアの敷石も。

 まさか便器がヒヒイロカネとアダマンタイトの合金製だなんて、普通の人は気が付かないだろうな。救星の鍛冶師―――ロダン兄ちゃんは、トイレ見てケタケタ笑ってたけど……。

 実際、かなり実用的なんだよね。なにせ便器に汚れがつかない。カビも生えない。いつもピカピカに輝いて超綺麗。消臭効果もあるから匂いも籠らない。ゆえに、トイレ専用洗剤不要。水を流すだけでよし。芳香剤も不要。多分、宇宙一清潔なお手洗いだと思う。

 きっと今ごろ、ジェイも驚いてるに違いない。

「お、おい‼ リク! なに考えてんだあれ!」

 ほらね?

「トイレがヤベェじゃねぇかよぉ! どこに金かけてんだっ」

「だよね」

 でも我が城は、あれが初期装備(ひのきのぼう)でした。

「税金の使いどころ間違ってんだろうがよ!」

「や、あれ寄付。全部寄付」

 超セレブな雷神様からの。

「だから国庫からの持ち出しはゼロ」

「マジか。ひょっとして……」

「そ。城のトイレ全部、あんな感じ」

「は?」

「だから全部。全部のトイレがヒヒイロカネ合金製だよ」

「……信じらんねぇ。そいつ、いったいどこの金持ちだ? 名前は?」

匿名(とくめい)なんだよね」

「つまり……どこの誰かわかんねぇってことか?」

「まぁね」

 だいたい天界にいるけどね。

 あと時々、アカデメイアに来てるよ。ダンジョンサークルで張り切って、じゃんじゃん言いながら騒いでるよ……。

「ま、そんなことよりさ。そろそろ昼食の―――」

 ―――あ、ちょうど鳴った。

 この夕刻を告げる鐘の音。

 それと………名曲モルダウ。

「これって……誰かが演奏してんのか?」

「や、巨大なオルゴールだよ」

 自動演奏されるパイプオルガンもあるけど。今日はオルゴールの出番らしい。

 これ、ポセイドンさんからの贈り物。王城の別塔に配備されてて。いろんな名曲が、毎日、流れてくる。市民にもすっかり定着して、みんな楽しみにしてるんだよね。朝から夕刻まで、日に三度、人々は手を止め足を止め、美しい音色に耳を傾けてる。最近になって、この演奏をバックミュージックに告白するとうまくいく―――そんな都市伝説も生まれ始めた。

「ふ~ん……。で? 今日のメニューは?」

「はいはい」

 花より団子だよね、ジェイは。

「園庭でバーベキューだよ」

「なにしてんだ? さっさと行くぞ?」

 ダッシュが速いよジェイ。昼休みのDKみたいだよ……。

「あ、てか飛べばよくねぇ?」

 いや、ダメだと思う。大天使ウリエルさんの羽、そんなことに使っちゃいけないと思う。もっと世界を救う的なことに使わないと。

「ほら! 行くぞ!」

「ちょっ、待っ―――」

 ―――たないよね。

 一瞬で俺を抱えて、天に舞い上がっちゃうよね。お腹空いてるもんね……。

「お、王子さまっ⁉」

「大丈夫だから!」

「おぅ! 俺様がちゃんと下まで運ぶぜ!」

 はぁ……。

「ったく。仕方ないなぁ」

 園庭が三十メートル下だからって、飛んで降りなくてもいいと思うよ? バーベキューは逃げないんだから。

「腹減ったしよぉ。急いで悪ぃことねぇだろ?」

「はいはい」

 こういうとこ、そっくり。ジェイと兄さん。

 発想が自由……っていうのかなぁ。規律とかルールとかに捉われない感じ。ほんと自由に物事を考えて、思ったように行動しちゃう。

 で、周囲の人はびっくりしちゃうんだよね。

「………どうした?」

「なんでもない」

 まぁ俺は、そういうの慣れてるし。ワクワクしちゃう方だけどさぁ。

 一般の人は……違うんだぞ?

 ほら……今だってそうだ。

 園庭でバーベキューの準備してたメイドさんが、皿を落っことした。あ、転んじゃったメイドさんもいる。ソムリエは口をあんぐり開けて……ワインを落下させちゃってるし。

 でも、無理もない。皇太子が空から落下して―――天使と共に舞い降りたら、そりゃ驚くよね。ま、天使じゃないけど。ジェイだけど。

「悪ぃ! 驚かせちまったなぁ!」

 ニシシっと笑うジェイに、メイドさんは一瞬で赤面。ま、無理もない。イケメンだし。上裸だし。

 てかジェイ、司祭ローブの下、裸なんだ……。

 あ、なるほどね。羽を使って飛びやすいようにしてんのか。つまりそんだけ、天使の羽を乱用してるわけだよね……。ミカエルさん、今ごろ天界で怒ってそうだなぁ……。怖っ。

「なぁジェイ。あんまり羽を……」

 ………マジか。

 ごくごく自然に、転んでたメイドさんを抱きかかえておられる……。

「怪我してねぇか?」

「はいっ! だ、大丈夫で……す」

「なら良かった!」

 まったく。こないだのハルルといい、ジェイといい……。さらっと恋心を回収していく。兄さんが見てたら、グヌヌヌヌって唸ってたに違いない。

「そういや陸人、今なんか言ったか?」

「や、なんでもない」

 いつの日か、天界で、ミカエルさんに叱られるといいよ……。

 あと、兄さんにも叱ってもらうといい。今は行方不明だけど。きっといつの日か、兄さんはまた神になるだろうから。


「二人ともぉ~! 元気そうだね!」

 このおだやかな声は―――

「ルルル! ミルルにモネも! よく来てくれたね!」

 ―――久しぶりじゃん!

「あ、そうだったそうだった。えっと……皇太子殿下。本日はお招きに預かり―――」

「いいってそんなの!」

 幼馴染じゃん!

「ミルルにモネも、大変な時にありがとう」

「モネは平気ですよ」

「ミルルも!」

 二人とも元気そうで良かった。うん。

「さぁ二人とも、ここに座って! ブランケットも用意してあるから」

 サササッと、メイドさんたちが動いてくれる。

「なぁカイ……リク。俺様は?」

「そうそう。僕は?」

「ルルルとジェイは、どっかその辺でいいでしょ」

 超高級なモコモコソファーに座らせるなんて勿体ない。どうせ、地面と高級モコモコの違いなんてわかんない脳筋キャラなんだから。俺もだけど……。

「じゃあお言葉に甘えて……ずっと立ってるな? 肉のそばでよぉ!」

「あっ、ズルい! 僕も!」

「はいはい。どうぞご自由に」

 ったく。

 ジェイは仕方ないとしても。ルルルはいいの?

「旦那さん肉にまっしぐらだけど……OKなの?」

「モネは構わないですよ」

「ミルルも!」

「………ならいいんだけどね」

 いっぱい食べる彼が好き、ってところか。肉をモグモグする旦那(ルルル)を見て、二人とも嬉しそうにほほ笑んでおられるし。

「結婚して半年くらい経ったけど……どう?」

「「幸せ!」」

「そりゃ良かった!」

 ルルルは、ミルルとモネの二人と結婚して。今、二人のお腹には赤ちゃんがいる。身重で移動するのも大変なんだろうけど……そこは彼が大活躍。

「アーサー、ありがとう」

 光の帝位精霊アーサー。超高速で空を飛んで、みんなをここまで運んでくれた。ルルルたちが住んでる大使館からここまで二キロちょっと。多分、二秒もかかってないと思う。

「いえ。問題ありません」

「ガウェインは……あそこ?」

「えぇ。イルル様のおそばに」

「……そっか」

「呼び戻しましょうか?」

「大丈夫。むしろありがたいよ。アーサーも、いつもありがとう」

「いえ。私どものためでもありますので」

 爽やかに笑う王子系イケメン精霊は、兄さんのことが大好きで。

 いや、違う。正確に言うと……この星にいる精霊たちはみんな、兄さんのことが大好きなんだ。この星に転生する前、まだ神様だった兄さん―――神兄さんが、神権を使って、精霊たちに居場所を与えたんだって。その恩もあってか、精霊たちは今も、イルルの兄さん捜索に力を貸してくれてるんだ。

 例えば、空から海を見下ろして探したいときとか。海中に長時間潜りたいときとか。水と風の精霊さんたちが大活躍。イルルは空を飛べないし。水龍種とはいえ、深海で長時間活動できないから。

 で、アーサーとガウェインは、交代でイルルの側にいてくれてる。転寝(うたたね)を告げる微かな寝息とともに、イルルを【謁見の間】に招き入れて……冬空で風邪をひかないように、暖を提供してくれてるんだって。

 ホント、大感謝だよ。

「……モグモグ……それで? ……モグ…今日……モグモグモグ…は、どうしたの?……あっ! その肉! あ~……せっかく僕が育ててたのにぃ」

「お? そりゃ悪かったなぁ?」

「もぉ~! 気を付けて!」

 まぁ、この二人は諦めよう。食べながら、ちゃんと聞いてはいるだろうし。

「そうそう。実は今日、みんなに声をかけたのは……」

「……それ、私からお話ししましょか?」

 フワリと舞う花びらに、透明感たっぷりの綺麗な京言葉のイントネーション……。かつて世界樹を救う冒険をともにしたハイ・エルフの―――

「―――カグヤさん! 早かったですね!」

「えぇ。会議が早めに終わりましたんで」

「「カグヤさん!」」

「あらあら~、ちょっと見ん間に……お(なか)大きなったねぇ。モネちゃんもミルルちゃんも、お幸せそうやわぁ」

「「うん!」」

 三人がハグしてる絵面がもう、それだけで美しい。

「………よぉ……モグモグ」

「お久しぶりです………モグモグッん⁉ んっ‼」

「はぁ……ったくよぉ。ほら、水のめ水」

「ング……ゴクゴク…………ぶっっはぁ~……死ぬかと思った。ありがと!」

「口に肉……モグモグモグ……詰め込みすぎだってぇの」

 ………ちょっと男子。絵面が汚いよ……。焼肉のタレついてるから! ちゃんと口元拭って!

 てか挨拶はちゃんとして! 怒ると怖いんだから!

「ふふふふ……相変わらずやねぇ。でも、お元気そうで……よかった」

 その微笑みがちょっとだけ寂しそうなのは……俺の気のせいじゃないと思う。

「……急がせたようで申し訳ありません」

「申し訳ないのは、私の方やわぁ。こんなに忙しい人ぎょうさん集めてもろて……ありがとうね」

「いえ、まったく問題ありません。男性陣は暇してますから」

 アイドルもどきの大司教系獣人と、暇してる系竜人族大使ですから。

「あら? イルルさんは―――」

「まだ、あそこです」

「……そうなんやねぇ」

「はい。ハルルは多分、そのうちやってきます」

 バーベキューの匂いを嗅ぎつけて……。今のハルル、食欲が成長期DKなんで。

「アイスレモンティーで良かったです?」

「ふふふ……おおきに」

 ササッと、メイドさんが差し出してくれた。王家のメイド、超有能なんだよね。ロココさんには勝てないけども。

「おおきに」

 お礼を言いながら微笑んだカグヤさんは、ストローをマドラー代わりにした後……ゆったりと口元に運んだ。

「はぁ~……懐かしい味やわぁ。美味しい……ホンマに美味しい」

「恐縮です」

(うち)がコレ大好きやって……覚えててくれはったんやねぇ」

「もちろんですよ」

 兄さんが、ずっと言ってたから。

「茶葉の配合(レシピ)は変えてませんので………いつでも、飲みに来てくださいね」

「………おおきに」

「いえ」

 でもきっと、来てはくれない。

 ここ―――王城に来ると、兄さんを思い出しちゃうから。

「さてと。喉も潤ったことやし……始めましょか? それとも、ハルルさんを待ちましょか?」

「どうやらその必要はないようです……」

「あら? ふふふふふ……ホンマやねぇ」

「とりあえずハルル、肉を喰らう前に挨拶しようよ」

「悪ぃな……モグモグ……俺ぁ……モグ……腹ぁ減っちまってよぉ。力が出ねぇ」

 尻尾の生えた戦闘民族かっ。

「……モグモグ……修練が……きっつくって・・・・・モグ」

 紅葉色のビンタ痕が浮かんでますけど?

「じゃあ、みなさん揃ったみたいやし……始めましょか?」

「はい、お願いします」

 相談がある―――サクヤさんから俺に連絡があったのは昨日。内容は……念のため、会った時まで伏せておくってことだった。

「あくまでも噂、なんよ。でもね……気になってしもて。みんなに伝えようか……悩んだんやけどねぇ。でも(うち)ひとりで抱え込むことやないかもしれへんなぁ―――そう思て」

 みんなに関わる話ってことは―――

「―――まさか」

「えぇ。カイトの話」

「「「「―――っ⁉」」」」

 時間にして数秒……でも確かに震えた。

 王城が。

 ジェイが。ハルルとミルルが……。そして俺が―――殺気だったから。

 ハルルはオーラを解放して、アーサーが神気を放って……。混ざり合ったオーラが天を駆けのぼり……メイドさんたちは地面に座り込んだ。

「―――ごめん。ここはいいから、もう下がって」

「承知しました」

 そそくさと去っていくメイドを見送って。

 倒れたコップを拾い集めて。

 深呼吸をひとつ―――。

 ……うん。大丈夫。もう動揺してない。竜種のオーラも……うん。コントロールできてる。

「すいませんでした。続きを」

「えぇ。うちの若い子がね、見かけたそうなんよ。かの太陽神アポロン様のダンジョン都市―――デルフォイ。その安宿で、カイトさんにそっくりな人を」

「―――マジかよぉ」

「えぇ。(うち)も、なんどもなんども確認したんよ。でも、間違いないって。それにその子、カイトが(うち)らの里に来たときに()うてるから……」

 なら信ぴょう性は、そこそこある!

『ロココさん! 今の聞いてた?』

『…………アポロン様に連絡をとりました。さっそく都市の映像を確認してくださっています。ダンジョン内は眷属のみなさんが捜索してくださるとのこと。都市内は―――』

『今アーサーがもう向かってる! 俺たちもすぐ行く!』

 兄さん、待ってて。頼むから、頼むからどこにも行かないで……そこで待ってて。

「……おぃ! 陸人!」

「―――ごめん……ちょっと考え事してた」

「ってことは、どうするか決まったんだな? 指示をくれ!」

「ハルル一緒に来て! メモリー・ロード! スライム頼む! ゲートをデルフォイに接続! ジェイも! 行くぞ!」

「おぅ!」

「ルルルは―――」

 ―――どうする?

 身重な奥さんがいる。

 うん………わかってる。大事な時だってわかってるけど………けど……来てほしい。やっと掴んだ希望だし……。ここから始まる物語が……兄さんに繋がってるかもしれないから。

「―――絶対に行くよ。いいよね?」

「気をつけるですよ!」

「うん! いってらっしゃい!」

「ありがと!」

 あとは―――

「もちろん(うち)も」

「助かります!」

 ―――カグヤさん……心強いです。

「モネ! ミルル! 今の話を父さんに―――国王に伝えて!」

「わかったですよ!」

「うん!」

「じゃあ、行くぞ!」

「「「「おぉ!」」」

 ゲートの先に浮かぶ……古代都市デルフォイ。

 近隣にダンジョンの登場したことで再興を果たした都市は、巨大なコロシアムの形をしてて。その美しくも特殊な形状から……こう呼ばれてる。


 ―――血塗之都(ブラッディ・メアリ)





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