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第41話:不在の世界

陸人視点です。






 



「そういえば、イルルとルルルには連絡とったの?」

「まだ。てかイルルは……」

「……そっか」

「あぁ」

 イルルは、兄さんと過ごす時間を楽しんでたからなぁ。一緒にイタズラしたり、兄さんの料理を堪能したり、ダンジョン行ったり、バカ騒ぎしたり……。真顔で「バカ騒ぎ最高だし、今は恋人要らねぇよ。カイトが死んでから残りの500年の間で考える」って言ってたくらいだし。

 だからきっと、イルルは自分が百歳になるまで……兄さんの寿命が尽きたと納得できるまで、探し続けるつもりなんだ。

 あの竜人族の里―――俺ら【希望(ホープ)】が最後に訪れた地で。

「ってことはハルル、竜人族の里には寄ってこなかったの?」

 ハルルたち三バカ兄弟の故郷。今では復興もかなり進んだって聞いたけど。それってつまり、ハルルの父さん―――クルドおじさんが、ほとんど眠らずに頑張ってるってことなんじゃないの?

「いや、寄ろうとは思ったんだけどなぁ。ほら、仕事? 的な?」

「仕事?」

「そうそう。偶然出会った商隊によ、ここまでの護衛を頼まれちまってな」

「………美男か美女でもいたんだろ?」

「……やっぱわかる?」

 ったく。

 俺は、ハルルの奔放さには慣れてるつもりだけどさぁ。

 でも、ハルルと出会い恋に落ちたみなさんが全員、その奔放さを良しとはしないんじゃないの?

 だからきっといつか刺されると思うわけ。浮気とか、嫉妬とか、そういう感じのトラブルで。

 まぁ、ランクS冒険者だし。ハルルに傷を負わせられる生命体なんて、そう多くはないだろうけど。

 でもだからって、何をしてもいいわけじゃないんだぞ?

「あ、でもイルルも帰ってくるかもよ? 武術大会あるしな」

「そっか。そうかもね」

 でもきっと、帰ってこないと思う。

 ハルルも、心の中じゃ、帰ってこないと思ってるんじゃないかな。

 遠く……吹雪く空とうねる大海を眺めながらきっと……イルルは待ってるに違いない。心に、兄さんとの思い出を灯して。その微かな温もりで、凍てつく心身を絶望から救いながら……。

「じゃあ、これからルルルに会いに? 」

「でもさっき、デートの約束が入っちまったからなぁ。ま、気が向いたら明日にでも行ってみるさ」

 入っちまったんじゃなくて、予約を入れたの間違いでしょ?

 それにその、今夜は帰りません前提……どうなの? ハイネさんにグーパンくらいながら門前払いされればいいのに。

「兄さんがいたら……リア充陽キャ爆ぜろって怒ったと思うよ?」

「確かにな!」

 ニシシっと笑うハルルの声に、いつもの豪快さがない。

 きっと今、胸をよぎったんだと思う。イケメンは敵って文句をたれる兄さんの姿が。そんなやり取りに満ちた兄さんとのバカバカしくも刺激的な冒険の日々が。たわいなくて、くだらいない。けど、友とだから弾む話ってのがあるわけで。三バカ兄弟と兄さん、それにジェイはいっつも、そんな感じだったもんなぁ。

「それにしても……この都市も変わっちまったなぁ」

「でしょ?」

 軽くたいらげた牛丼のお代わりを頼みながら、思ってたよりもうまいってシェフを労っちゃう。こんなところが、ズルいんだよね。これだからイケメンは……。

 ほら……店長ちょっと泣いちゃってるじゃん。ま、嬉しいよねそりゃ。ミのつくシュラン的なグルメ本の審査員から、星二つ分の高評価もらったレベルの出来事だろうから。

「で、やっぱこの都市計画って陸人の案?」

「や、ほとんぼ兄さんのおかげだよ」

「カイトの?」

「まぁ、ね。昔、兄さんと雑談してたアイデアばっかりってこと」

「そっか」

 ヒュム族の国際都市国家―――希望(ホープ)

 エルフにドワーフ、竜人族に魔人族、海人族の定住者も増え、今や人口二十万人を超える勢いだ。

 人気の秘密は、たくさんある。

 まずはやっぱり、アカデメイア。ダンジョン攻略の基礎基本を教えてもらえるし、薬学や魔法に関する体系的な知識を得られるし、鍛冶や精霊との付き合い方なんかを体験的に学べちゃう。最近は、アカデメイアの教養コースも人気。商いの基本や読み書き算なんかが学べるから。

 もちろん、アカデメイアの講師陣は、有名な冒険者や元冒険者ばっかり。憧れの人から教えてもらえるって特典は、思ったよりも人々を引き付けるものらしい。

 その証拠が……国王。俺の父さん―――救星の勇者は、視察と称してアカデメイアにやって来ては、生徒との模擬バトルに興じてる。まぁ、父さんにもストレス発散は必要だから。視察の頻度が多くても、臣下からは割と大目に見られてるっぽい。それに、アカデメイア的にも、これは徳がある話。在校生にとっても刺激になるし、生徒募集効果も高まるってことで、学長の北斗おじさんはニヨニヨしっぱなしだ。

 あと、やっぱりダンジョン。この存在は大きい。都市近郊にあるダンジョンは、アマテラさんが管理してる。実質的にはアマテラさんの眷属、サクヤさんが取り仕切ってるわけだけども。有能秘書と評判のサクヤさんだけあって、ほんとダンジョンの難易度調整がお上手。浅い階層は、新米冒険者パーティがドロップアイテム目当てに周回プレイしてるうちに、ミスから学び成長できるようにしてある。中層以降には、レアドロップアイテム―――鍛冶の素材になるレア金属系や宝石系をドロップするボス階層が、ランダムで配置されてて。もうひと狩り行こう的なトークで盛り上がったパーティが連携し、プチレイドバトルが展開されている。

 そして……深層。最近のリニューアルで新八十層以降が解禁されたんだけど。そこに踏み入ったパーティは少ない。それゆえ、都市伝説が飛び交ってる状態。例えば、レアな金属や高価な宝石類がまとまってキロ単位でドロップするとか。上位精霊との出会いのチャンスがあるとか………。

 噂の深層やいかに? ってことでこないだ俺も、ソロで遊びに行ってみた。あ、俺、顔パスなんだよね。だってほら、ここのダンジョン、知り合いばっかりだし。ダンジョンで敵役をしてくれてるのは、アマテラさんの眷属だから。道中、みなさんとこっそり挨拶しつつ、途中からエスコートされながら……行ってみました第百層。

 なんと。今週のお当番は……かの雷神トールさん()()()。もどきって言うのは……トールさんが、ダンジョン遊びのために自分の神権で創造した地上用身体に憑依してる状態って意味。ドロップアイテムになるヒヒイロカネ百トンの台座に座りながら、トールさんが嬉しそうに積層型魔方陣で雷撃ブッパされて………気が付いたら俺、ダンジョンの外でした。一発ノックアウトで場外転送なんてカッコ悪ぃ……とすら思えない。格が違いすぎるから。

 ちなみに先週はラグナさんもどき―――わが家のドラゴンがご当番だったとか。来週はポセイドン先生もどきがご当番らしい……。

 いや、俺にもわかってる。

 こんなの攻略できるパーティなんて、この星に居るはずがない。いや、この宇宙全部を探しまくっても見つからないと思う。つまり、どう考えても百層の難易度調整が狂ってる。

 けどまぁ、サクヤさんもわかってて放置してるんだろうな……。神々の戯れってことで……。

 ま、深層以降……特に最後の階層を除けば、新米から熟練のパーティまで、多くの人々がのめり込みやすいと評判のダンジョンは、今も昔も大人気なわけで。昨日も今日も、そして明日もきっと、千客万来状態。

 大盛況のダンジョンは、冒険の舞台でありつつ、職場でもある。冒険者たちのね。

 そして冒険者を支えるお仕事に就いてる人も、この都市にはたくさんいる。つまりみんな、食うのに困らない。

 そして……安定収入の見込める仕事があれば、そこに人は集まる。

 でも、人が集まれば、問題も生じる。

 この都市は、今のところそこを上手に、解消、回避、予防してるんだよね。

 例えば、治安。

 色んな種族が世界中から集まれば、ご近所トラブルや犯罪が起こるわけで。

 そんなとき、パッと駆け込んでSOSを求められる派出所がある。

 うん。この都市は、警護体制もばっちりなんだよ。都市内には五千ほど、父さん直属の警察部隊が常駐する派出所が点在してて。市民の生命と生活を守るため、そこそこ近距離でスタンバってる。

 あと、医療。

 回復魔法使いや薬学に特化した病院も、三ブロックに一か所、設置済み。しかもこの病院、老若男女に関わらず、そして怪我や病の程度に関わらず……なんとすべて無償なんだよね。実は都市内の病院は全て、アカデメイアの附属施設なんだ。病院で、講師の指導のもと、生徒が患者さんを相手に実習してるってわけ。学んだことを実践できる場って位置づけだから、病院の経費は全て、アカデメイアが負担してる。そしてアカデメイアには、都市から税金が投入されてるわけで。人的資源と資金が充実し、医療の無償化に成功したってこと。

 じゃあ、その税金は誰が支払っているのか?

 そう。メインはやっぱり……製造ギルドだろうなぁ。ドワーフの名だたる工房と商人が連携する形で、幾つかの巨大な製造ギルドを立ち上げられたんだよ。製造ギルドは、国王に商業許可をもらうことで、都市や近郊の土地を商業用に利用できる。許可を得るには、土地の利用面積や目的によって定められた税金を、毎年、納付する必要があるわけで。そこそこ、費用がかかる。

 でも、人口が多く、物を作ればすぐに売れてしまうような巨大市場を、商人たちが見逃すはずはない。相次ぐ申請を受けて、今じゃ都市近郊に、広大な工房地域が区画整備されるほど。これで税収が飛躍的に安定すると同時に、ダンジョン攻略に必要な武器や防具の供給、そしてその修理が安定したわけである。

 あと……食も大事だよね。

 これだけの人口を支えるのに必要な食量供給も、安定してる。豊かになった自然環境は精霊たちにも大人気。農業や養業、酪農に林業なんかをパワフルに支援してくれて……年中、新鮮な野菜、果物、肉や魚に穀物が市場に溢れてる。地球で食べてた野菜や穀物なんかが大量収穫されるおかげで、食文化も発展してきたし。もちろん、そうした野菜や穀物の種は、ダンジョンのドロップ報酬でもたらされたもの。神兄さん、グッジョブだよ本当に。

 ま、こんな好環境だから、この都市への移住希望者はたくさんいて。庶民向けの新住居区画も大人気!

 建設ラッシュが進んではいるけど……俺が子どもの頃に過ごしてた街並みは、今もそのまま、区画ごと保全されてるんだ。歴史ある街の風景を残しておくことが、将来的には観光資源になる可能性を見越してのこと。まぁ、日本でも京都とか奈良とか、そうだもんね。

 転生者のオレとしては、テレビとかラジオとかスマホとかが発展すればよりありがたいんだけど……。

 ま、謎の原理で動くモニターやタブレット端末は、ロココさんが随時、必要に応じて支給してくれているわけで。武術大会やダンジョン攻略のライブ中継なんかも、時折、視聴できる。

 タブレットでダンジョン攻略について学ぶアカデメイアの講義は、大人気。まさに今、学んでるでしょ状態なんだよね。

 だってバトルの最中や、バトル後、ダンジョンにいる冒険者と教室が繋がっちゃうわけだから。冒険者たちの振り返りミーティングを参観できたり、簡単な質問を投げかけたりできるライブ感に、生徒の学びに没頭状態なわけで。生徒のレベルも格段に向上してきた。 

 ……うん。

 改めて考えると、兄さんはやっぱスゴイ。

 こうした構想って、兄さんがヒュム族の守護神になって割とすぐ立てたらしいだよね。ダンジョンを中心に、学問と商業を住民の手で構築していけるようにって。そのおかげで、世界は今、こんなにも平和でハッピーになった。

 変化が速すぎて、父さんはたまに城から都市を見下ろして、遠い目をしてる。嬉しそうに微笑みながら。で、酔っぱらって語る。その、父さんが子どもの頃は、毎日、食べるのにも苦しんでたって。

 でも、今の子どもたちにこのエピソードを熱弁しても、冗談に聞こえちゃうだろうな。

「お? あれって……野良ドラゴンじゃね?」

 でも、ね。

 そうなんだよ。いつだって世代間ギャップは、一方向じゃない。

 双方向なんだよね。

 ガキのころの父さんに、今の光景を伝えたらきっと……冗談だろって大笑いするだろうな。

「うん。最近、この辺でよく見る個体。ランクAのワイバーンと―――」

「―――その群れ、か?」

「そうそう。また子どもが生まれたのかも。六十体ほどの群れになってるね」

 ほぼ絶滅したと考えられてたドラゴンの生体を、肉眼で、それも大量に確認できる社会が到来するだなんて。俺が子どもの時でさえ、信じられなかった状態だ。ま、わが家には常駐ドラゴンが居たけども……。

 でも、それは例外中の例外。

 まさに今、時代は大きく変化してて。野生ドラゴンの増加は、その象徴と言っていい。

 そしてドラゴンの増加は、自然繁殖の結果じゃない。

 新たな外宇宙と、この星のある宇宙が接触。神々が言うには、現在、竜界と接触深度中レベルにあるとか。

 そのおかげで、ザックリ言うと、他の宇宙からこの星にドラゴンの移住が進んだわけだ。

 あのワイバーンの群れのように、平和的な移住を果たしているドラゴンも多い。ほとんどの個体は、深海、天空、火山の奥を居場所と定め、星の民と、相互不干渉という名の共生を果たしつつある。

 しかし、平和的な移住者ばかりってわけでもなくて。

 あ、そうだった。

「……そう言えばハルル」

「おぅ」

「最近、新ダンジョン―――アビスの階層都市には顔出した?」

「ん? カキツバタか? そういや最近、顔出してねぇなぁ………。最後は多分、半年前くらいじゃね?」

「そっか」

「どうした?」

「や、知ってるのかなぁって思ってさ」

「何を?」

「カキツバタの守護代表、最近代わってね」

「マジで? てか誰?」

「ヘンゼルさん」

 救星の魔導士ヘンゼルさん―――ハルルの初恋相手だ。

「……明日、行ってくるわ」

「だと思った」

 特に知能の低いドラゴン亜種たちは、侵略者と認定されている。この星の民や都市に、隙あらば攻撃を加えてくるタイプだから。

 なかでも、とってもやんちゃ系なドラゴンや、これまたやんちゃな半獣半人のデミ・ゴッドたちは、新ダンジョン―――アビスに幽閉されてる。神々の力によってね。

 つまり、有害な侵略者たちを一か所にまとめてちゃおうって作戦。

 もちろん、まとめるだけじゃない。ちゃんと討伐もする。逃げ出されたら迷惑だし。

 でも、アビスへの挑戦権は、個人ランクS相当の上級冒険者、パーティランクA以上の厳選された個人や集団にだけ認められてるんだ。

 アビス中層のダンジョン内都市カキツバタは、そんな腕に覚えのある冒険者たちの支援を目的として創られた。

 冒険者たちにとって、密かに憧れの都市でもある。なにせ、右を見ても左を見ても、超有名人やパーティの面々ばかりなのだから。アビスへの挑戦権は、超一流冒険者の証になってるしね。

 だからこそ、アビスに挑戦したがる個人やパーティはたくさんいるんだよね。でも、新米や中堅パーティは、挑戦を認められない。

 その理由は、シンプル。瞬殺されるから。

 守護神たちが管理してるダンジョンは、神々の眷属さんたちが敵役。だから、いい感じでバランスをとった教育愛に満ちたバトルをしてくれる。

 でも、アビスはガチ勝負。敵は外宇宙からの侵略者なのだから、殺意まんまんなわけで。ダンジョン内で致命傷を追ったら緊急脱出できるようにはなってるけども。瞬殺されるってことは、脱出の隙もないってことになる。

 それだと、こっちの戦力が削られる一方だから。新米や中堅パーティをアビスに挑戦させることに、こっち側としてはなんのメリットもないってことになる。

 けど猛者たちからすれば、ガチバトルって経験は貴重な成長資源なわけで。ハルルも一時期、カキツバタに籠ってた。恋愛トラブルで追い出されるまでは……。

「お? ありゃ……ケンカか?」

「どうせまた夫婦喧嘩じゃないかなぁ」

 でも、ただの夫婦喧嘩じゃない。

 大怪獣大対決戦並みのド迫力。なにせワイバーンの夫婦喧嘩なのだから。

 ま、ドラゴンも夫婦喧嘩くらいするだろう。仲間割れくらいするだろう。ご機嫌ナナメでドラゴンブレス大放出しちゃうこともあるだろう。

 そんな時に、周囲の都市が巻き込まれないようにするにはどうしたらいいか?

 兄さんは、この問いの解として……生み出したんだ。

 都市防御型合体結界魔法―――【ロンギヌスの盾】。

 それは、この星では未だかつて誰も成功しなかった偉業―――星の民の手による新たな魔法の創出に成功した瞬間でもあった。

 まぁ、兄さんが考えた魔法を、神界にいる神々が採用して、即座に実装したってことなんだけども。

 星の住民的には、歴史が動いた瞬間だったわけで……。いろいろと大変だった。魔法研究の大家とか、偉い宗教的リーダーさんとか、いろんな人が怒ってたし。嘘偽りだと、兄さんを(ののし)った人も、結構いた。

 でも、くだらない反論ややっかみを、兄さんは結果で黙らせた。24時間限定の効果で、その都度、魔法を唱えおさないといけないけども。全種族が集まって唱えなきゃいけないけども。ちゃんと機能する。実際、【ロンギヌスの盾】のおかげで、都市に大きな被害が出ることはないわけで。兄さんは旅の先々で、みんなに感謝されまくってた。

 もちろん、最初は結界の効果を信じる人は少なくてさ。ビビってた人もたくさんいたんだけど。今じゃドラゴンの上空大決戦を眺めながら、それを肴に酒を嗜む人も多い。

「……兄さん、やっぱりグッジョブだよ」

「ほんそれな」

「うん」

 たまに、野生化した野良ドラゴンや魔獣なんかが都市を襲撃することもあるけど。

 その都度、迎撃に向かう都市防衛ギルド所属の冒険者たちと、【ロンギヌスの盾】のおかげで、都市内の日常は保たれてる。ちなみに都市防衛ギルドも兄さんの発案なんだけど……。所属する冒険者たちは、街のヒーローなわけで。所属してるだけでとってもモテるわけで。兄さん、嫉妬してたっけ。

 でもほんと―――

「―――兄さんには敵わないなぁ」

「やっべ。アイツのドヤ顔思い出したら腹立ってきた」

「うん」

「まぁ、敵わねぇよ。認めんのはマジで腹立つけどな」

「うん」

「死ぬほど誇らしい。アイツの隣にいれたことは、人生で最大の誇りだ」

「……うん」

 天界において、この星全体を、人々の生活を、人生を変革する仕組みを提供した神。

 地上において、外宇宙の侵攻から人々を守り支える偉業を為した英雄。

 (カイト)さんの行方を、天界におわす高名な神々と、地上を生きる有力な冒険者たちが総力をあげて、追っている。

 でも、あの日、あの時、あの場所を最後に。

 兄さんは姿を消したままだ。

 その行方を知る者は誰もいない。


 きっかけは、兄さんとその分神体の予知。

 最愛の人と、まさに人生の記憶に残る初めての一夜を迎えんとしていた十五の夜に、最悪の予知が兄さんを襲った。

 そして兄さんは……吐いた。

 予知が見せた未来―――その凄惨さがもたらす悪寒に震えながら。

 そして兄さんの兄さんは、陥った。

 肝心なところで機能不全状態に……。

 色んなショックを抱えながら、トボトボと寝室から出て来た兄さんが、呆然としながら俺に語った予知。

 それはまさに、災厄が発見された瞬間。

 かつて最悪のドラゴンと言われた災厄の名は……レーテ。

 この星において唯一無二の英雄。かの武人がその生命を賭して戦った相手が今なお存命し、深き眠りから目覚めようとしている。英雄ラグナが生前、生命エネルギーを燃やし放った最後の一撃が生んだ……アマル海溝の深き寝所から……。

 国王である父さんや、【救星】メンバーである各種族の大使に連絡をとりながら。【希望(ホープ)】は急ぎ、竜人族の里にワープした。

 アーサーたちの力を借りて、里から北へ百キロ移動。

 雪の吹き荒ぶ荒波の先に、アマル海溝はある。

 不意に降り注いだブレス攻撃から、咄嗟に【アイギスの盾】で俺らを守って。

 兄さんは笑ったんだ。

 ニシシって笑ったんだよ。大好きだ―――そうみんなに告げながら……。

 いつもの笑顔を浮かべて……ちょっと散歩に行って来る! みたいな雰囲気で。

 楽しそうに、禍々しいオーラに向かって……消えていった。

 ブレス攻撃が止んで、アイギスの盾が消滅するまで約二十分。

 ランクS冒険者の集まり【希望(ホープ)】が、帝位精霊や星位精霊の力を借りて、天地空海幅広く全力で探したのに……。

 兄さんは、いなくなってた。痕跡も見つからなかった。

 ロココさんも、天界の神々も大騒ぎで……。嫌な予感ばかりが胸をよぎった。

 そしてその予感は、的中を続けてる。

「泣くなって」

「……ハルルもね」

 カフェにまた、喧騒の気配。

 休み時間に入った学生が、バタバタと席を埋め始める。

 この平和な日常が示すように、今なお予知の日―――災厄の目覚めは訪れていない。

 きっと兄さんが、稼いでくれたんだ。

 生徒たちが青春を謳歌する時間を。

 夢、冒険、そして恋愛を謳歌する時間を。

 全ての人々が幸福の甘みと苦みを味わえる時間を……。

 そして何より、俺たちが準備を整える時間を。

「レーテとの全面対決は、そう遠くないかもよ」

 アマテラさんの直感によれば、一年以内らしい。

「……そっか」

 なにせ偉大なる女神アマテラさんの直感は、悪い時ほどよく当たる。

 ちなみに、アマテラさんの直感は、兄さんの生死については働かないらしい。それが何よりの救いに思えて……思いっきり泣いたあの日、俺は大人の階段を登ったんだよなぁ。

 凍えて静止したままだった時計の針が……動き始めたんだよね。兄さんのこと諦めなくていいんだって、この異世界でもうちょっと生きてみようって。そう腹の底から思えたから。






今日もありがとうございました!


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