第39話:帰還
「ほぅ? 確かに怪しい見た目ではあるが……。兵士長、拘束を解いてやれ。この若者は、我が使いだ」
「はっ!」
なんて?
「面を上げよ。此度の遠征について報告せよ」
「はっ! い、偉大なる陛下に謹んで申し上げます」
巨大な椅子に腰かけて。
わかりやすく、美男美女を両サイドに侍らせて。
なぞの巨大な葉っぱ型扇で送風してもらってる。
国王ってそんな感じの勤務形態なの?
マジで?
役得多すぎじぇね?
「苦しゅうない。申してみよ」
「はっ! 我ら【希望】、任務を達成。世界樹イブ、叡智の箱、ハイ・エルフの里の全てを守り抜きました。里の民、我がパーティともに、死傷者ゼロ―――被害はございません」
「そうか。ヒュム族の王として礼を言おう。【希望】よ、大儀であった」
「ありがたき幸せ」
「うむ。では、さがるがよい」
「はっ」
てかマジで?
つか、なにごと?
オレらが必死になってバトるしてた間に、何があったわけ?
「あ、そうだカイト。母さんが家に顔を出せって言ってたぞ?」
「承知しました、陛下」
「うむ! くるしゅうない」
まっさらな純白のローブっぽい衣装。
謎に無駄に豪華な王冠。
不敵にほほ笑みながら偉そうに長い脚を組んでるこのおっさん。
どっからどう見ても…………親父だ。
なんなの?
オレらが世界救ってる間に、うっかり王様になっちゃったの?
ヒュムって王いなかったろ?
なにがどうなってそんなに成り上がったわけ?
「陛下? ということはこちらは……まさか……」
「あぁ。我が息子だ」
「し、失礼しました! 皇太子殿下、わ、我らのご、ごごごごご無礼を、お許しください」
「「「お許しください!」」」
え?
オレ、殿下なの?
マジで?
兵士長さんも部下の兵隊さんたち、一斉にひれ伏してるんだけど?
「よいよい。気にするな」
いやいや、お前が言うなよおっさん。
お前がいたずら心を無駄に発揮したせいだろ?
そのせいで、兵士長みたいな重責にあるいい大人が、オレみたいなガキに頭下げる羽目になったんだろ?
気にしろよ!
てか説明しろ!
てかその両サイドの美男美女十人は、なんなの?
ずっと立ってるお仕事なの?
フルーツの山盛りやワインを抱えてステイするお仕事なの?
そちらのタオルを持っておられる方は……まさか汗拭き係っすか?
それに、紅蓮と黄龍!
足元に控える紅蓮も、宝石輝く豪華バングルを前脚に装着してるし。
父さんの肩に乗った黄龍も、首に金のネックレス的な光物を装着してる。
あれ?
ちょっとまって紅蓮。そのルビーって……オレが商人に売ったやつじゃね?
献上されたの?
王の精霊は貴族階級なの?
あぁ~、わけわからん!
説明を!
誰かオレに説明を!
どう考えても説明が必要な案件なのであるからして!
+++
「それで? なにがあってヒュム族の王になったわけ?」
「あぁ、それな。言ってなかったっけ?」
「聞いてねぇよ!」
ったく。
頼むぜ国王さんよぉ。
てかなんで上裸なの?
家だと裸族になんなきゃダメなの?
さっきの王冠と白いローブ風な衣装を身につけとけよ!
「ヒュム族の領主二十からの提言で、この都市―――希望は、ヒュム族の王都になった。王都の領主、つまり俺が初代国王に選出されたってわけだ。ま、救星の勇者だしな」
「あっそ」
ったく。
先日、竜人族の里で開かれた異種族間会議。
そこで各種族の代表に、この件を報告済みなんだろうな。
「ねぇ父さん、なんでそんな話にあったの? 領主が王の擁立を提言するなんて……ありえないでしょ?」
「これまでならな。ま、ざっくり言うと、責任転嫁ってやつだろうよ」
「なるほど。自分たちより権力のある者―――国王を生み出して、自分たちに伸し掛かる責任を取ってもらうってことだね」
「さすが陸人、その通りだ! 褒美に王が頭なでなでしてやろう! うりゃうりゃ―――」
「―――ちょ、父さん! 痛いって……」
ふむふむ。
そういうことか。
てか、確かにさすが陸人! 察しがいい!
「なぁ親父、責任って、星外からの侵攻の件だよな?」
「あぁ」
「うわぁ……貧乏クジじゃん。よく引き受けたな」
それにしても残念領主どもめ。
なんて小賢しいんだ。
「ま、実際に、マジで残念な領主ばっかりだしなぁ。今後、下手したら壊滅する領土が出てくるかもしれない。そう考えると、この危機をヒュム族として組織的に乗り越えるにはちょうどいい椅子だって思ってな」
「なるほど」
クソ。
ちょっとだけカッコいいじゃねぇか。
重い責任を前にサラッと腹くくるあたり、やっぱイケメンなんだよなこのクソ親父。
裸族だけど。
「で、あの王宮は?」
「そうそうあれ! あんな王宮、いつの間に造ったのさ? 一瞬、どっか別の都市に来ちゃったかと思ったもん!」
そうなんだよ。
スライムのゲートをくぐったら、そこは巨大な王城の前だったわけで。
警備の兵隊がわらわら駆けつけてきたわけで。
警鐘がガンガン鳴ったわけで。
思いっきり不法侵入扱いされたわけで。
責任者ってことで、オレだけ王の御前に引っ張られていったわけで。
したら、ニヤニヤが笑ってる親父が居たわけで。
遠征の報告を求められたわけで。
…………思い出したら腹立ってきた。
今度、わさびたっぷり蕎麦でも食わせてやろっと。
「だろ? アレにはさすがに父さんもビビった。ある朝目覚めたら、都市の北部にドドンと王宮が建ってたのさ! ま、洞窟の女神様からの授かりものってことだろ。なにせ父さん、神様に愛されてるからな!」
ふむ。
親父の妄言はスルーするとして、だ。
洞窟の女神、やるじゃん。
だってあの城、超デカかったぞ?
一夜にして巨大な純白の城を建てるなんてなぁ。
や、城だけじゃない。
巨大な庭園に迎賓館のおまけつき……。
ちなみに【希望】のメンバーは、みんな今、その迎賓館に滞在中。
多分、とんでもない接待を受けてるはず……。
「あ、カイトに陸人。お前ら皇太子だから。カイトが第一皇太子殿下、陸人が第二皇太子殿下な。ちなみに母さんは王女様だ」
「「え?」」
マジで?
「なによ? 母さんが王女だとなにかおかしい?」
「や、べつに」
「そうでしょ? 母さんもともと貴族だしね。育ちはいいんだから!」
「だよね~」
うん。
ただ、思っただけです。
【しゃもじのひとすくいで白米を三キロよそえる怪力王女爆誕】って……。
絶対に口には出さないけど……。
王女ってさぁ、もっとこう……華奢で大人しくて優しい上品なお姉さまってイメージなんだけど?
「ふふふ。カイト? なにか言いたそうね?」
「とっ、ととっとと、とんでもございませんですはい!」
「ふふふふふ?」
女王陛下?
お顔がとっても怖くていらっしゃいますわよ?
「ねぇ父さん、この家はどうするの? 俺らは城に住むの?」
「あ、オレは店のことが気になる。母さん、店はどうすんのさ?」
「それなんだよなぁ。このままこの家は残すとして、だ。生活の拠点は城じゃないとマズいだろってことになった」
「「マジで?」」
「警護とか、緊急事態への対応って点から、そう決まった」
「「や、警護って」」
父さんと母さん、救星だぞ?
オレもランクSだぞ?
陸人だって、多分、ランクBかAだぞ?
オレらより強い護衛なんて、この星にほとんどいないじゃん、
てか、星外の敵を除けば、この家族より強敵なんて、この星に五十もいないだろ?
むしろ、父さんと母さんの夫婦喧嘩の方が危険だって話じゃん。
てか夫婦喧嘩はいっつも、武術大会決勝レベルのバトルになってるし。
あ、それに……ドラゴン。
わが家のドラゴン以上に心強いガーディアンなんて、この星にいないだろ?
「………ま、お前らの言いたいことはわかる。でも、形式美ってやつだ」
「「なるほど」」
形式美、ね。
王や王族は、きっちりと護衛されてるってことに意味があるんだろうな。
不届きな考えの奴ら―――例えばオレらを攻撃しようとたくらむ犯罪者へのメッセージってとこか。
「じゃあ、店は?」
「そうなのよねぇ」
「やめちゃうの?」
「さすがに王女が鍋を振るうのは好ましくないって言われてね。店には代理の店長を置くことにしたわ」
「それでいいの?」
母さん、あの店大好きじゃん。
あの店で客に料理振る舞って、酔っ払いのケンカ仲裁して、掃除して……。
「いいのよ。あの場所がなくなるわけじゃないし、いざとなったらお忍びで……ふふふ」
「あ、なるほどね」
さすが母さん。
ま、そもそも、母さんを止められる猛者なんて……父さんくらいだろ。
父さんが見逃すんなら、母さんの自由はある程度、これまで通りに保障されるってわけだ。
「じゃあオレは? あの店クビ?」
料理、オレの趣味なんだけど。
たまに、イルルやルルルに弁当つくってやんなきゃいけないし。
「ふふふ。王城にも素敵な巨大キッチンがあったわよ?」
「おっけ! 問題解決!」
なら、そこで料理すればいいや。
「そうそう。カイトの借金については、国庫から返済された。良かったな?」
「え? それって税金の不正使用なんじゃ………」
「や、今回の遠征に対する成功報酬ってことになった。あ、陸人や【希望】のメンバーには別途、報酬が支払われるぞ?」
「やった! なら俺、アカデメイアに入学したい! 学費をそっから払うからさ!」
おぉ!
陸人もいよいよ同級生に……。
モテる双子伝説の始まり始まり………って、ちょっと空しくなってきた。
でも、問題ナッシング!
なにせオレは今、初恋中なのであるからして!
「それなんだが…………なぁ母さん?」
「えぇ、そうなのよねぇ」
「「どうしたの?」」
「カイトと陸人には、アカデメイア講師の座が用意された」
「「え?」」
「断ってもいいのよ?」
「ま、お前らの実力的にも、皇太子殿下って肩書的にも、マエステリアって称号的にも、生徒として在籍させておく理由はないってことになったようだ。北斗学長の意向もあって、な」
「マジで?」
「そうなの?」
「あぁ。でも、返事は保留してある。お前たちの好きにするといいさ」
「「わかった」」
さてと。
どうしたもんかなぁ。
ダンジョンサークルも続けたいしなぁ。
ディーテ先生―――の膝枕は、この世界の平和の象徴なのであるからして。
それに、頼りになる先輩もできたし。
魔法の授業の他に、薬草学とか魔物に関する生態学、鍛冶も学びたいしなぁ。
あ、そうだった。
個人履修じゃなくて、【希望】としてパーティ単位で履修するのが基本方針になったんだった。
てかこれ、オレと陸人が提案したんだった。
や、待てよ。
他にも、オレが開き直って出した提案は……どうなった?
「親父。アカデメイアの改革案でさ、オレが最後に提案したアレって、どうなった?」
「あぁ、アレな。北斗学長はしぶしぶ、承諾してくれたぜ?」
「しゃあ!」
「兄さん、提案ってなに?」
「アカデメイアの講師陣を中心に、都市防衛ギルドを設立してくれってお願いしてみた」
「そうなの?」
「おぅ!」
冒険者の育成と、冒険者の実務研修を一体化したかったんだよね。
アカデメイアでは、生徒が卒業して新米冒険者になれるようなカリキュラムが組まれてる。
でも、実際にダンジョン攻略に、本格的に挑戦する科目はない。
前半のフロアを使った魔法や武術の演習はあるけど。
つまり実務については、卒業したてのほぼほぼ素人の集まりが、ダンジョンに飛び込んで、経験的に学んでいく場合が、ほとんど大半を占める。
つまり………とんっでもなく効率悪いわけで。
もちろん、超ラッキーなケースもある。例えば、父さんたちの【ラグナロク】グループに所属できた【雷刃】【聖火】【雪月花】は超ラッキー。徒弟的に、先輩からいろいろと教えてもらえるから。
でも、多くのグループは、所属するための実績審査を設けてるんだよね。実績をつめないと、グループに入れない。
その実績を積むまでは、経験的に学びながら頑張れよって世界が、新米冒険者たちの生きている現実なんだよ。
だから都市防衛ギルドを設立して、アカデメイアの講師陣がそこに加われば……卒業後も、新米パーティたちが経験豊かなスタッフから実務を学べることになる。
これは新米パーティにはメリットだらけだ。
それに、都市にとってもメリットは大きい。
上手に育てられれば、即戦力を都市に確保できるわけだから。
都市防衛ギルドのメンバーが、ダンジョン攻略に若手パーティをつれていって指導する。指導に関する報酬は、ダンジョンの攻略で得られるし……デメリットは特になさそうなんだよなぁ。
それに、オレにとってもメリット大!
「なら、【希望】は、都市防衛ギルドに加入するってことだな?」
親父、ニヤニヤしすぎ。
「そのつもり! 寂しいなら【ラグナロク】グループに入ってあげてもいいけど?」
クソ。
そうだよ、お察しの通り!
ディーテ先生と卒業後もダンジョンに挑戦できる好機を逃す手はないのであるからして!
「ま、一応、うちにも入っとけ。損はないだろ」
「了解」
確かに、損はない。
特することばっかり……のはずだ。
「兄さんはどうすんの? アカデメイアの講師、引き受ける?」
そうそう、それそれ。
「う~ん……まだまだ生徒がいいんだよなぁ。薬草学とか鍛冶とか、学びたいこともあるしなぁ」
「兄さん、鍛冶は救星の鍛冶師―――ロダン兄ちゃんに習ってるじゃん」
「……そうだけど」
「薬草学だって、基礎は知ってるでしょ? ハイ・エルフの里で教えてもらってたじゃん」
「それも……そうだけど」
「ぶっちゃけ、モテモテの学園生活のためでしょ? 学生生活満喫したいんでしょ?」
「それは、ついでのついでのついでに抱いてる野望みたいなもん……」
ま、陸人にわかってくれっていうのも、無理な話か。
なにせ常にモテモテの弟にはわかるまい。
兄のこの、溢れんばかりのモテたい衝動が……。
「あ、そうだ。もう一つの提案も通ってるぞ?」
「マジで? 北斗おじさん、怒ってなかった?」
「ん? あぁ、顔を真っ赤にしてたな」
そっか。
でもまぁ、予想通り。
ま、自業自得ってことで。
おじさんだってオレに、無茶ぶりしたわけだし。
例のあれ、あの称号―――マエステリアの件で。
オレらが生徒への指導を担うなんてさぁ、無茶ぶりもいいとこだよ。ま、その手前、オレからのお願いを断れないだろうともさ!
「もう一つって?」
「洞窟のダンジョンに、アカデメイアの分校を造ってもらうことにした」
「……なるほど」
「今のところ、簡単な宿泊施設っぽい建物しかないけどな」
「や、まずはそれで十分!」
「ってことは兄さん、ダンジョンの中にアカデメイアの分校を造る―――そこに常駐するスタッフは、アカデメイアの講師であり都市防衛ギルドのメンバーでもあるわけだね?」
「さっすが陸人!」
「敵がいつ襲ってくるかもわからない環境下で分校を守る―――つまり分校を都市と想定して、模擬都市防衛経験を積めるようにしたんでしょ?」
「正解!」
「……まったく、わが子ながら腹黒いこった」
さすが親父、気がついたっぽい。
今回、オレは、アカデメイアの経費で、自分たちに必要な成長環境を整えさせたってことに。
「長期的、計画的で戦略的だって言ってくんない?」
「物は言いよう過ぎるだろそれ」
解せない。
陸人も母さんも苦笑してるし。
オレ、こんなにいい子なのに……。
ちょっと計算高いだけなのに……。
「そういえば、分校に常駐する講師の人選は済んだらしいぞ?」
「ってことは、新しく講師を雇ったの?」
「あぁ。人件費がかさむって嘆いてたぜ?」
「それは……仕方ないってことで」
入学希望者多いし、補助金も出てるだろうし。
アカデメイアってけっこう稼いでるはずだし…………多分。
「で、どんな人?」
「さぁ、父さんは聞いてない。気になるんなら、明日にでも挨拶に行っておいで」
「「了解!」」
新しい先生かぁ~。
ふむ。
ふむふむ。
ディーテ先生とかペルシャ先生みたいな……素敵な人だといいなぁ。
や、べつに男性でもいい。
でも、それならポセイドン先生みたいな……面白い先生がいいなぁ。
「ほら、あなた……」
「わ、わかってるって母さん。あ~、ゴホン! ゴホンゴホン!」
なんだろ?
わざとらしく咳き込んだりして。
「あのなカイト……」
「どうしたの?」
「俺と母さんも、カイトに説明を求めたいことがあるんだけど?」
「なになに?」
急に改まっちゃって。
「「そちらの美女は誰?」」
「オレの初恋の人!」
「……あっそ」
「へ、へぇ~」
「目が覚めたら紹介する!」
「そうか。ま、頑張れよ」
「おぅ!」
「兄さん、ちょっと待って。説明はしょりすぎ」
「あ、そうか」
さすが陸人!
「こちらの美女が叡智の箱の中身!」
「「は?」」
「あ、これトップシークレットってことでよろしく!」
「母さんや……俺、頭痛がするんだけど?」
「奇遇ね……私もよ」
「ったくも~、それじゃまだまだ説明足りてないよ兄さん」
「そうか?」
「や、待て陸人。父さんと母さん、割ともうお腹いっぱいなんだけど?」
お腹いっぱい?
「でもね父さん、母さんも。今の情報は、これから伝える情報の残りかすレベルだよ?」
残りかすってそんな……や、確かに。
説明、端折り過ぎたかもしんない。
「えっと、俺から補足するけど……こちら、叡智の箱に安置されていたハイ・エルフのイブ様。かつてこの星を救った大天才で、没後はハイ・エルフの守護神として崇められている……まさにその人、だよ」
「……………は?」
「………嘘でしょ?」
「俺も驚いたけどね。どうやら本当なんだよ、これが」
「ま、待て待て陸人! それって数千、いや、一万年前の伝説だよな? や、もっとだったか?」
「うん」
「その伝説の人が、今、そこのソファーで眠ってるって言うの?」
「うん」
父さん。
それに母さん。
ちょっと落ち着きなって。
客用の高級茶葉なんか出しちゃってもぉ~。イブ様、寝てるんだよ? 今、お茶飲まないよ?
「時の星位精霊クロノが、イブ様の時を戻したんだって。結果、意識が一時的に戻られた。どうやらご本人で間違いないらしい」
「それが……」
「息子の……」
「「初恋の相手」」
「そう!」
「あなた……………私たち、どこかで育て方を間違ったのかしら?」
「母さん…………そんな次元じゃこんな息子には育たないと信じたい」
「父さんに同意。兄さんのこれは多分、カルマってやつじゃないかな。前世から続くね」
「「業か」」
「…………なんだよ?」
恋しちゃったんだから仕方ないだろ?
相手が何者かわかる前―――なんなら木像の時点で既にフォーリンラブだったんだよこっちは。
「ま、なんにせよソファーで寝かせておいていいお方じゃなさそうね」
「あぁ、そうだな。客間に運ぶとしよう。護衛もつけるか?」
「あ、俺と兄さんでやるよ。アーサーとガウェインもいるし、外にラグナもいるしさ。大丈夫だと思う」
「そっか。じゃあ任せたぞ?」
「うん!」
+++
「兄さん、そろそろ交代しようか?」
「ん~」
ヤバい。
永遠に眺めてられる。
マジで綺麗だよなぁ。まるで宝石みたいに、全身が輝いて見えるし。
「なぁ陸人」
「ん~?」
「星外の神は、イブ様を奪って……どうするつもりだったんだろ?」
「それは……わかんないね」
「そうだよなぁ」
「ただ、敵は神。この星で最高の叡智を誇り、この星で最も真理に近づいた頭脳―――そこから情報を抜き取ろうとした可能性はあると思う」
なるほど。
その線は……うん、ありえる。
「情報、つまりこの星を滅ぼしかねない何か。あるいは……」
「……うん。この星を乗っ取るために必要な何か、だろうね」
ふむ。
ふむふむ。
「つまりオレがこの人を守れば、それがこの星を守ることになるわけだ」
「そうだね」
ふむ。
「なぁ陸人」
「ん~?」
「この人を守って死ねるなら……悔いはない」
「……………」
「バカみたいに聞こえるだろ? でも、マジで今、そう思ってる」
「……そっか」
「あぁ」
「………兄さん、イブ様と話したんだよね?」
「あぁ、少しだけな。めちゃ優しい微笑みで、そっと頭を撫でてくれてさ」
「それで?」
「綺麗な声でさ…………ありがとう―――そう言ってくれた」
今でも、覚えてる。
全部全部、脳に焼き付いてる。
てか一生、あの瞬間を忘れない。
ぜっっったいに、忘れらんない。全細胞で記憶したし。
「そりゃよかったね」
「おぉ。マジで心臓止まったし」
「そっか」
「………おぉ」
世界が静止した―――そんな感じだった。
や、本当にクロノが時を止めてはいたけども。
でも、時が止まったんじゃないかって感じたくらい………オレの細胞と心の全てが……釘づけになったんだよなぁ。
この……イブ様という存在に。
「なぁリク、どうしよ? オレ、どうしたらいいと思う?」
「いつも通りでいいんじゃないの?」
「でも、世界がヤベェの」
「星外の敵のこと?」
「や、違ぇ。オレの世界がさ、もうずっと明るく輝いてて………ずっとあの笑顔が心の真ん中にあって、ずっとずっと、その笑顔を守りたいって思っちゃって……心臓が痛ぇ。バクついて、痛ぇの」
寿命が縮まるレベルで鼓動が全力出してる件について。
「………なら、もっともっと強くなんないとね」
「うん」
「明日からは、クロノが護衛してくれるんでしょ?」
「うん」
「なら大丈夫だよ。なにかあれば時を止めて、ここから連れ出してくれるだろうし」
「うん」
「………あのね兄さん」
「うん」
「聞いてる?」
「うん」
「俺、神様になっちゃった」
「うん」
「どうやら、引きこもり神の従属神ってポジションらしい」
「うんうん………ん? 今、なんて言った?」
「だからオレ、神になった。しかも、引きこもり神の従属神」
「……マジで?」
「マジで。この体に、神として憑依してるって感じなんだよね今」
そういえば、薄っすら後光がさして見えるような……。
いやこれ、いつも出てるやつか。
いつもの、イケメンのイケメンによるイケメンのための自然発光―――モテモテオーラじゃね?
「兄さん?」
「や、陸人から後光がさしてるかと思ったら、いつものイケメンオーラだった」
「……なんだよそれ」
知らないのか?
あ、ひょっとしたらイケメンオーラは、オレのような非モテにしか見えないのかもしれない。
ふむ。
ありうるか……。
てか、それにしても憑依してるっぽいって―――
「―――なんかマズい?」
身体、どっか調子悪かったりしないわけ?
「や、ぜんぜん。この体は生命体として機能してるし、成長も老化もするんだって。神の力―――神威をとり込んで、むしろ前より頑丈になったくらいだよ」
「そっか。ならいい……のか?」
「いいんだよ」
「そっか」
「うん」
そっか。
なら、いいか。
今度、引きこもり神に、神々にちゃんと御礼を伝えないとな。
約束を守ってくれたわけだから。
まぁ、神様にしちゃうっていうのは予想外だったけど。
「まさか、神様になっちゃうなんてなぁ……」
「うん、さすがにびっくりした」
「ってかお前ってマジで神様にもモテモテなのな?」
なにせ神様にしてもらえるくらいなんだから。
「う~ん、モテモテかはわかんないけどさぁ。神様になれたのは、偉業を為したから、らしいよ?」
「偉業?」
「うん。叡智の箱を守った―――これが神々に偉業と認定されたんだ。それで、俺が神となることが認められたって感じらしい」
「そっか!」
良かった。
世界を守るために恐怖と立ち向かった―――そんな弟の偉大さを、神に認めてもらえたのか。
ちょっとはやるじゃん、神々も。
「うん。だからさ………」
「だから?」
「えっと、つまり弟がうっかり神になって降臨してるくらいなんだからさ。この世界にはなんだって起こり得るんだよ」
「うん?」
確かにそうかもな?
「だからさ、兄さんの初恋が実るくらい、ぜんっぜんあり得るわけで」
「………そっか」
「そうだよ! だから、だからちゃんと頑張んなよ?」
「うん」
「ナナちゃんの時みたいに、誰かに譲っちゃダメだからね?」
「ん……わかってる」
いつ目が覚めるか、わかんないけど。
その時に、オレのことを好きになってもらえるように。
うんと頑張って、いい男になろう。
カッコいい、モテモテの男になろう。
この人を守れるくらい、星外の神を叩きのめせるくらいに………強く、強くなろう。
「ってことで、これからも頼んだよロココさん!」
『承知しました』
頼りにしてます!
なにせロココさんはオレの神と言ってもいいのであるからして!
「ったく……まぁ兄さんらしいけどさぁ。でも、自分でも頑張りなよ?」
「わかってるって!」
「なら、明日からラグナと修練しよう。星外の神と戦うんだから、ラグナと戦えるくらいにはならないとね!」
「……マジで?」
いやむしろ、わが家のドラゴン星外の神より強い説、ない?
『失礼します。お二人にご報告です』
「はいよー」
「どうしたのロココさん?」
あ、そっか。
陸人にも声が聞こえるのか。
神だもんな。
『星外の魔物―――半獣半人の外宇宙が一時的に離脱。約二年後に最接近する模様。またそのころ、同じく竜の住まう外宇宙も接近する模様。なおこの情報は間もなく、天啓によって星の住民に伝達されます』
「了解!」
二年後、半獣半人界と竜界が接近してくると……。
その時、オレと陸人は十五歳前後ってとこか。
今よりもっと成長してるはずだ。
つまり今よりもっと、モテモテになってるはず……ふむ!
悪くない!
悪くない未来なのであるからして!
ここは思いっきり、自分で自分に期待しておこうじゃあないか!
『……既に侵攻していた星外の魔物の多くは、新設されたダンジョン【アビス】に封印済み。神々は、多くの冒険者が【アビス】攻略に挑戦するよう期待する、とのことです』
あ、そっか。
新しいダンジョン造るって言ってたっけ。
とうとう解禁、ってことだよな。【希望】も挑戦してみるか。成長のチャンスだしな。
『なお、カイト様が捉えた神より、敵の情報を入手。星外の神のねらいも判明しました。敵の神々―――十二神は、この星の守護神になることを画策しております』
「守護神に? なんで?」
『守護神は膨大な神威を持つ最高位の神々でございますれば』
なるほどね。
守護神になって、人気者になってチヤホヤされたいってとこか。
モテない神はたいへんだな。
でもさぁ、僻むのはカッコ悪すぎでしょ。ロココさんもそう思わない?
『………………』
……………ん? ロココさん?
『同感です』
「オレもロココさんに同意」
あれ?
陸人?
なんなの? そのじっとりした視線は……なんなの?
はっ⁉
ちょ、ちょっと待てよ……。
や、違うからね?
オレは違うからね?
確かにオレもモテないけど。
べ、べつにアレだ。
人気者になってチヤホヤされたいとか思って…………なくはないです。
なんてこった。
「兄さん。汝が深淵を見つめる時―――」
「―――深遠もまた汝を見つめている、だな」
これ以上、星外の神を―――非モテの神をディスるのは止めておこう。
かれらをディスればディスるほど、自分をディスることにつながるわけなのであるからして。
………でもまぁ、オレはしないけど?
人気者の神を引きずりおろして自分がその座に就くなんて、カッコ悪いし?
そんなの、なんの成長も前進もないわけだし?
自分が努力して成長しないと意味ないし?
現状維持でモテたいなんて、クズの論理じゃん?
「ってことで兄さん、やっぱここはラグナと修練だね」
「そうだなぁ………ってアレ? 陸人、ひょっとしてオレの心、読めちゃうの?」
「さぁ? じゃあ兄さん、さっさと寝なよ。あとは俺が護衛するから」
「ちょっと待てって! 陸人!」
ヤバい。
ヤバいヤバいヤバい。
陸人にオレの思考が駄々漏れ―――つまりあんなことやこんなことなんか、うっかりつい反射的に妄想しちゃったりしたら陸人にバレバレってことになりはしないかい?
「大丈夫だよ。普段は聞こえないようにしてるからさ」
「サンキュー! って、やっぱ聞こえてんじゃねぇか!」
「さぁ?」
と、取りあえず離れよう。
ここから離れよう。
そして、無になろう。
心を無にして。邪念を全て取り払って。清浄なる心で生活しよう。
そして二年後だ。
清い心で成長しまくってモテモテになったオレ爆誕キタコレ!
そんで、全力でイブ様のハートを射止めてみせる!
「っしゃあ! がんばるぞぉ~!」
「兄さん……それ、フラグ立て過ぎじゃない?」
『陸人さまに同意いたします』
陸人…………やっぱ聞こえてんだろ?
第Ⅱ章:希望、これにて終了です!
拙作に目を通してくださり、ありがとうございました!
マッチポンプとの進度調整も含めて、本作第Ⅲ章の更新開始まで、少しお時間を頂きます。
引き続き、ボチボチお付き合いください!




