第35話:兄の怒りと弟の嫉妬
Side:陸人
「兄さんごめん! 油断した!」
クソっ。
正直……油断じゃない。
強がっただけ、だ。
ここは強がらないといけないから。
油断してなかったら結果は違った―――そう相手に思わせないといけない。少しでも、だ。
ここで強がらないのはおろかな選択。だって「圧倒的にこっちが弱者だ」と自己申告するのと同じだから。
でも、動揺を上手に隠せてはいない気がする。
さっき、闇の星位精霊デネブリスさんが咄嗟に憑依してくれた。
憑依で高まった身体機能のおかげだ。反射的に……敵の攻撃を避けることができたのは。
そうじゃなかったら……俺、多分真っ二つにされてた。
シールドごと、真っ二つに。
あのデミ・ゴッドの一撃で。
クソっ。
「おっと、気がはやってしまったようだ。挨拶が遅れたな。非礼をお詫びしよう。我が名はケンタウロス。偉大なる父―――ケルヌンノス神の次男にして、本遠征隊のリーダーを拝命している」
あ、コイツ嘘つきだ。
こっちが動揺している間―――つまり冷静な判断が困難な状態の時に嘘の情報をほんとっぽく提供して……無意識に鵜呑みにさせる。
非礼を詫びるっていうのも、戦略だ。自分のことを真っ当だと暗にほのめかして、提供した情報の信頼度を俺たちの無意識下で高める気だろう。
でも、残念。俺と兄さんはイタズラをし慣れてるんだよ。
だましたり、嘘といかに上手につくかも、イタズラで鍛えてきた。
だからわかる。
コイツが嘘つきだって。
それにこれ、古典的な手法だし。色んな悪党がよく使う手だし……。
まず、相手をパニックの状態に陥れる。例えば急に会員登録が済んだ表示をスマホの画面に写したり、怪しいエッチなサイトで高額チャージが済んだという表示を写したりする。
そして丁寧な対応を相手に提供し、まるで相手の味方のように振る舞って自分に対する信頼度を高めるわけだ。「それはお困りでしょう。今なら、一定の手数料を振り込んでいただければ解約を代行しますよ」とか、「チャージの九割を無効にするために一割を現金で振り込んでください」とかね。こうやって相手の思考と行動を操るってわけだ。
じつはこれ、実話。
転生前に俺が一回ひっかかりかけてさ……兄さんが助けてくれたから……よく覚えてる。
「ケンタウロスさんだっけ? 嘘は良くないよ?」
「あぁ。陸人に同意。敵はお前を含めてあと二体ってとこか?」
兄さん、了解。
二体と理解した―――そういうことだね?
「……はぁ。せっかくの優しい嘘を台無しにするとはね」
「優しい嘘?」
「あぁ。僕レベルがあともう一人いると知ったら……絶望しかないだろう?」
「「別に」」
「フフフ。まぁ強がるのはお前らがまだまだ子どもな証拠。無礼は多めに見てやろう」
「……」
「それに三体一でいいぞ? 私が直々に相手をしてやる。ま、ハンデというやつだ」
マズい。
いつの間にか会話がアイツ主導になってる。
嘘を暴いたのはこっちなのに。
こっちが主導権を握らないといけない。
「ケンタウロスさんだっけ? あんたと同じレベルの敵が二体いるのに、ここにソイツが姿を現さない。つまりそうすることがあんたらにとってメリットになるからだろ?」
「そっか」
兄さん、あいかわらず視点が鋭い。
「あと一体、見た目のそっくりな双子の弟か兄かがいるんだろ? で、一体に見せかけて、位置を入れ替えたりしながら変則的な攻撃を仕掛けて……こっちを混乱させる気だな?」
なるほど……。
「兄さんに同意。常に俺たちの前に姿と気配を晒すのは一体分にして、死角や不意打ち、瞬間移動したように見せかけたりして……」
「あぁ、陸人に同意。こっちがタネに気づく前にオレらを倒すつもりだったんだろ?」
「なるほどなぁ。二体いるのに一体しか姿を現さないことのメリット、か。そういうことか。てかカイリク、お前ら頭いいんだな」
……ジェイはやっぱ、考えるより行動派か。
てか間違いなく、大天使ウリエル様の方が俺らよりはるかに何億倍も頭いいと思うけどね……。
「ってことでケンタウロスさん。これで一体隠れてるメリットは消滅したに等しいけど、どうする? まだお前がオレたち三人を相手すんのか?」
「……出て来い」
おぉ。
兄さんの読み通り、だ。
衣装まで同じケンタウロスがもう一体……やっぱこいつ、嘘つきだった。
「まったくこざかしいガキどもだな兄者」
「あぁ弟よ。面倒だか別々に戦うことにしよう」
ウソがばれても動じた様子がない、か。
てことはやっぱり……兄さんの推察通りかもしれない。
「ジェイ、お前が弟タウロスな。兄タウロスはオレがやる」
「あいよ」
「陸人はシールド展開して備えてろよ?」
「了解」
クソっ。
悔しいけど……俺じゃ勝てないっぽい。
デネブリスさんの力を借りても届かない……かな。俺が精霊憑依の器として……まだまだ未熟だからだ。そのせいでデネブリスさんも本気を出せないせいだ。
「ごめんね」
「いいよー」
デネブリスさん、あんがと。
でもやっぱ悔しいなぁ。
「はぁ……もっと強くなりたい」
精霊、そして魔法。
あと、時々、神様もいる。
このファンタジー世界を思いっきり楽しみたい。
兄さんと、転生前の分まで……人生を楽しみたい。
「ジェイ! 精霊憑依!」
「おぉ!」
クソ……やっぱすごいなぁ。
「アーサー! ガウェイン! 精霊憑依……モード聖騎士!」
アーサーが光の矛に、ガウェインが無数の光の盾になって兄さんの周囲に浮いてる。
てかそれもう聖騎士じゃないよ。
それもうガン●ムシードでフリーダムすぎるアレだよ兄さん。
でもまぁ……くっそカッコいいけど……ズルいなぁ。
オレもフリーダムしたいなぁ……。
「イグニス精霊憑依……モード炎狼」
おぉ!
ジェイ、それは……漆黒の炎でできた道着?
や、ちがうな……あれはパーカーだ。狼の頭っぽいフードがついたパーカー。
で、炎のチェーンみたいなのが両腕に巻き付いてる。
そこはかとなくヤンチャでチャラい系のファッション……。
まぁ、イケメンだからさ、なに着てても似合うけど。
てかさぁ……
「………やっぱ悔しいなぁ」
「あせんなよ」
「……うん。ありがとデネブリスさん」
「おー」
兄さんとジェイの間には、特別な絆がある。らしい。
大天使ウリエル様のお言葉だから、間違いないはず。
兄さんができることをジェイもできるようになるし、逆もしかり。大天使ウリエル様の神器フェイルノートの力なんだろうなぁ。
つまり兄さんが精霊憑依できるなら、ジェイもできるようになるってことだ。そして精霊憑依の武装形態にも自在に扱えるってことだ。
まったく……ズルい。
てか兄さんもジェイもさぁ、チートが過ぎるってそれ。
だって一人で二人分の力を行使できるってことでしょ? 戦士が魔法使いの魔法を使えて、魔法使いが戦士のバトルスキルを使えるってことでしょ?
ロープレなら絶対仲間にしないといけない強キャラじゃん。
投入と同時にゲームのバランス崩壊するレベルの強キャラじゃん。
しかも、二人とも雑魚レベルじゃない。精霊憑依で少なくともランクS相当になってる力が二人分、一人で使えちゃうとかもう……やっぱチートが過ぎるよ。
「弟よ。精霊憑依―――なかなか見事なものだな」
「あぁ兄者。雑魚だと舐めてかかるのは止めた方がよさそうだ」
ケンタウロスの方は……薄い鎖帷子をまとってる。武器は二体とも、長い槍。
馬だからスピードもあるだろうし、筋力もありそうだ。
突進しながら槍で刺されたら……痛そ。
おっと、いけないけない。
仕事しなきゃ。
「ところでお前らの名は? 二人ともケンタウロスなのか? 戦う相手には名乗るのがこの星の礼儀。だから名乗れよ」
実はこんな礼儀作法なんてないけどね。
「……良かろう。改めて名乗ろうではないか弟よ」
「あぁ、兄者」
「「我らの名はケンタウロスだ」」
「父にいただいたこの誉れ高き名を……」
「……胸に刻んで死ぬがよい」
安定の手抜き感……やっぱりお前らの父神さ、名づけめんどくさかったんじゃない?
「オレはヒュム族のカイト」
「その弟の陸人」
「俺様はジェイだぜ?」
わざとらしいお辞儀、似合ってるよ兄さん……。
そこはかとなくうさん臭くて、なんとなく詐欺師っぽいけども……。
「なぁ……なんで英知の箱をねらう?」
「……その問いに答えてやる必要はない」
ふむふむ。
なるほどね。
「つまりあんたらはやっぱり英知の箱ねらい。で、その理由を俺らに知られるとマズいってことだな?」
「いいぞ陸人もっと言え!」
「オッケー兄さん! 英知の箱をねらう理由は……英知の箱がどんなものかわかれば明らかになる可能性がある。つまりコイツらの口を割らせる必要はないってことだね」
「じゃあよぉ……思いっきりぶっ飛ばしていいってこったな?」
「そうだね。ってことでジェイの兄貴ぃ、思いっきりやっちゃってくださいよぉ」
「おっけ陸人、俺様に任せとけって!」
「あの……陸人? 兄ちゃんも頑張るからな?」
「兄さんはやり過ぎ注意で」
「……弟が冷たい件について」
さてと。
これぐらいが引き際だろ。
俺の仕事―――つまり時間稼ぎ終了っと。
ジェイは気がついてなかったかもしれないけど。
兄さんは、さっき、ケンタウロスに向かって「お前を含めて二体」って言った。
あれは芝居、だ。
こっちはこの二体が最後の敵だと思ってる―――そう相手に伝えるための芝居。
相手の奥の手―――ケンタウロス以外に敵がいる可能性を俺たちは考えてない―――そう思わせるための芝居。
相手の油断を誘い、相手に余裕を与える。そうすることでこっちの行動の意図―――つまり俺の時間稼ぎの無駄話に寛容になるよう仕向けた。
時間稼ぎで一分、一秒でも開戦を引き延ばせれば……ハルイルルルやみんな、さっきの超強いトールさんとシヴァさんが応援に駆けつけてくれる可能性が高まる。
「ではカイトとやらよ。弟との別れを済ませるがいい」
「優しいな兄者よ」
「それが礼儀だろうから……な?」
えっ……これ槍か?
あ、槍だ。
今投げたのか?
クッソ……槍が………動け、動け動け動け! 頭貫かれ――――
「――――アホか」
……ジェイ?
「俺様を舐めんじゃねぇ」
精霊憑依―――炎の鎖が槍を絡めとって………一瞬で灰に変えた……。
「雑魚がこの俺様の不意をつけるわけねぇだろうがよぉ?」
なにそのチェーン……クッソかっこいいじゃん!
フードを深めに被って、腹筋チラ見せしながら炎のチェーンをジャラジャラ振りまわすジェイ……俺の中二心くすぐり過ぎ。
なんかダークヒーローっぽいし!
てか本当ならここで、命を救ってくれたヒーローにお礼を言わなきゃいけないとこだけど。
それはバトルのあと、だ。
ここで礼を言うのは禁物。
これくらいの不意打ちを防ぐなんて造作もない―――そんな雰囲気を出しておかないと。
なんなら「俺も自力でよけられましたけど何か?」くらいの表情をしておかないと。
戦いはもう、とっくに始まってるんだから。
ここで俺やジェイがあせれば、相手の心にかなりの余裕が生まれる。心に余裕があれば、物事に冷静に対応できる。
俺らからすると、そうなっちゃマズい。
相手の不意打ちは失敗。
それも不意打ちにすらなってなかったって余裕を見せつけることが、今の最善手。
だから兄さんも、俺の無事を確認しない。
これくらい何の問題もないって相手に見せつけるために。
そしてアイツらから意識を離さないようにするため、だろうな。
………でも、兄弟だからわかる。
後ろ姿で顔見えないけど……わかる。
雰囲気でわかる。
兄さん……今…………ブチ切れてる。
過去一で。
+++
……すげぇ。
翻弄してる。
ランクSSの相手を、完璧に手玉に取ってる……。
「―――っ⁉ 生意気なガ…」
「黙れ」
「――っ」
あ、またも顔にクリーンヒット。
兄さん見てると最近、マジですげぇって言葉しか出てこない。
精霊憑依を完全に使いこなしてるし。
槍になってたアーサーが次々に変化する。矛、槍から大剣、ハンドアックスに鎖鎌。次々に変わる武器を巧みに使って相手の体勢を崩して……殴る蹴るの連打。
防御もヤバい。ガウェインのシールドが常に兄さんの周囲を取り囲んで、ケンタウロスの槍を完全に防いでる。
ずっとこんな感じだ。
特にさっきの攻防はすごかった。
兄さんが投げた短剣がケンタウロスにかわされた……っと思ったらヤツの背後でブーメランに変化。そのままブーメランの刃が背後からケンタウロスの肩を切り裂いた瞬間、兄さんは右拳をアイツの顔面に叩きこんでたし。
相手の反撃―――兄さんの脇腹に打ち込まれた一撃はガウェインが完全に防いだ。その盾を蹴りつけて相手の顔面にシールドアタックをかましたあたり、マジで容赦なかった。
兄さんやっぱ………ブチ切れてる。
一体、蹴りを何発叩きこんだか。
拳で何発、怒り叫ぶ声を封じたか。
そのたびにずっと、ずっと……「許さねぇ」って言ってるし。
「クソ忌々しい鎖めぇぇぇ」
ジェイもやばい。
拳と足に巻き付けたチェーンが破壊力を高めてる。
しかもその鎖、ジェイには無害。けどケンタウロスには無数の火傷ができてる。
避けることしかないケンタウロスは、さっきから防戦一方。
武器を焼きはらって相手に肉弾戦を強いる―――体裁きで勝る自分の得意舞台に相手を引きずり込んだジェイの勝利だ。
「あ、兄者よ!」
「あぁ弟よ。仕方ないがここで全力を出す」
全力?
大きく後方に飛び退いて……距離をとった。
何をする気だ?
「「開幕に歓喜せよ。滅びの音は我のもの。滅びの声は汝のもの……【ファウスト】」」
う、嘘だろ?
デミ・ゴッドが魔法を使いやがった。
「ククククク」
「クハハハハ! いいぞ力が漲る!」
「兄者よ! この魔法とやら、実にいい!」
どっかで魔法を見たに違いない。
その時に自己バフ魔法【ファウスト】の詠唱文とその効果を覚えたってとこか。
「なんだ? 全力ってのはソイツのことかよ?」
「あせるでないジェイとやら」
「あぁ。お楽しみはここからだ」
クソ。
笑いやがった。
マジでまだ奥の手を残してるってことか……。
「偉大なる獣神にして偉大なる父―――ケルヌンノス神よ! 我らの血を捧げます!」
「我らの体に封じられし父の貴きお力をお借りします!」
なるほどね。
デミ・ゴット。コイツらは獣の神の力を授けられた半神半人の存在。
既に肉体に神の力を宿している……あるいは、借り受けている。
その神の力を……知肉を捧げることで使えるようになるってとこか。
ヤバい。
つまりは最悪、神と戦うに等しいってことになる。
「兄さん、ジェイ……解析結果報告。ランクSSオーバーで表示不可能……」
SSを超えた存在―――おそらく神の領域に踏み込んだ者たち、だ。
「つまり……どれくらいの強さだ?」
「オレの見立てじゃ……少なくとも星位精霊と同等レベルってとこだ」
「それは強ぇな」
「あぁ」
これほどの戦力を投入してまで手に入れたいもの―――英知の箱って何なんだ?
なんでここまで必死になる? てかコイツラの目的はなんだ?
現時点では全部……不明。
でも、ハッキリしたこともある。
コイツらがここまで必死になって英知の箱を捧げたい相手は、星外の神ケルヌンノス。いや……あるいはケルヌンノス含む複数の星外の神々。
「カイト……アイツらよぉ、その……顔がイっちまってねぇか?」
「多分、神の力を制御できずに暴走状態ってとこだろ」
あぁ、なるほどね。
さすが兄さん。
いわゆる狂戦士状態ってことだよね?
理性を捨て去って痛みや感情を放棄して……自分が傷つくことを厭わずに攻撃しつづける。あ、そのために自己バフ魔法を事前にかけておいたってことか。
「へぇ。死と引き換えにしても俺様たちを討つ覚悟があるってことか。つまりまだ……」
「あぁ。コイツらより強者が先行してるってことだな」
「……ったくよぉ、バトルを楽しむ余裕も時間もねぇなぁ」
楽しむ、ね。
ジェイのメンタリティ、兄さんにそっくりじゃん。
あと、窮地になるとワクワクして楽しそうに笑う強心臓で超ポジティブなとこは……尻尾の生えた棒戦闘民族の生き残り主人公さんにそっくりだ。
「すまねぇけどジェイ……ここ頼めるか?」
「あぁ、任されたぜ。兄弟で先に行けよ」
「でも兄さん、ジェイも。アイツら………」
ランクSSオーバーだよ?
「なぁに、いざとなったら大天使ウリエル様がなんとかしてくれっだろ」
「なんだよジェイ。オレらの話―――お前んなかにウリエルが居るって信じたのか?」
だから兄さん……神様を呼びすてにすんのやめようよ。
ちゃんと様を付けて、様を。
そういうとこでさぁ、神様たちから恋愛運下げられちゃってるんじゃないの?
「半信半疑だがよぉ……デミ・ゴッドどもの急変を見ちまったからなぁ。ま、神がいる可能性はゼロじゃねぇって思えるぜ」
「そーかよ」
「あぁ。ま、それに俺様の強さはよぉ、もともと神懸ってっからなぁ?」
「はいはいそーですね」
コツンと拳を重ね合わせて互いの存在を確認しあう。
それもノールックで。
息ピッタリじゃん。
兄さんとジェイってやっぱ……互いに信頼しあってんだね。
弟としては……ちょっとだけ複雑だなぁ。
「ここはジェイに任せて……陸人、先に行くぞ」
「や、兄さん。俺、確実に邪魔―――足手まといになる」
だからここに残ってた方がいいと思うんだけど。
「ない」
「え?」
どういうこと?
「陸人がオレの人生で邪魔だったことなんて一度もない。だから……」
「……だから?」
「これからもない。ずっとない。だから一緒に行くぞ!」
グッと手を引いて――― 一瞬で広間の外に俺を連れ出して……楽しそうに笑う。
兄さん……そういうとこだよ。
うん。
そういうとこをさぁ……もっと女子に見せればいいのに。
そしたらきっと、兄さんのことみんな大好きになると思うよ?
モッテモテの学園生活を、ニッマニマ顔でおくれるようになると思うよ?
「な? ジェイは大丈夫だったろ?」
「え?」
どういうこと?
「陸人が時間稼いでくれたおかげ! やっぱ陸人はすげえよなぁ。オレの意図にすぐ気がついて合わせてくれてさぁ……オレすんげぇテンション上がったし!」
「や、すごいのは兄さんだって! てか今はそこじゃなくてさ……」
「間に合うんだって」
「あ、ひょっとして……」
「あぁ。トールにシヴァっちが参戦してくれる。あと二秒後くらいじゃね?」
二秒?
あ――――――
「ひゃっほぉぉぉぉぉい!」
「しゃあ! コイツらもぶっ飛ばすじゃん!」
―――ホントだ。
トールさんとシヴァっちさんの声……でか。
「しかも超絶妙な尺だったぞ? オレらが余力を残して先輩たちにバトンを渡せたってのが大きい。これで先行してる敵に間に合う……気がする!」
「気がする?」
「たぶん!」
「……多分、ね」
ま、兄さんがそう言うなら間違いないんだろうけどさ。
「それに思う存分……戦える! 英知の箱を守るために!」
そっか。
うん、そうなんだ……。
「どうした?」
「や……俺、少しは役に立ててるんだなって思ってさ」
「ったり前だろ? 陸人はオレの自慢の弟なんだぜ?」
ニシシっと笑う兄さんの言葉に、裏表なんてない。
転生前、俺たち家族を救ってくれたあの日以来………兄さんの言葉を疑ったことなんてない。
それに、いつだって兄さんは思ったことを正面からぶつけてくれる。
受け取る側としては……正直恥ずかしい。
めちゃくちゃ恥ずかしい……。
けど、俺の自己肯定感をバフするお言葉はいつだって大歓迎なのであるからして!
「俺も兄さんを誇りに思うよ」
「サンキュ!」
まったくもって……いい笑顔だ。
てかこの笑顔と真っすぐな言葉で嘘がつけるなら、稀代の名詐欺師になれるよ兄さん。
詐欺師の才能ありすぎて転職をお勧めするレベルだよ。「救星の勇者の息子なのに詐欺師の才能に恵まれたのでハーレムつくってみました」って薄い内容の薄っすらエッチなラノベで主人公はれるよ……。
ま、兄さんがそんな器用じゃないってこと、オレが誰よりも知ってるけどね。
魔法使い経由大賢者街道まっしぐらだし。
「……主よ、申し訳ありません」
ん?
どうしたのアーサー?
「あぁ、そろそろか」
「えぇ。先のバトルで………」
「……我らは力をほぼ使い果たしました」
いや二人とも、光のほぼない洞窟で、よく頑張ってくれてると思うよ。
兄さんのムチャクチャフリーダムな戦い方に、きっちり合わせてたしね。
まさに帝位精霊の底力を見せてもらったって感じ!
つまり俺的には大満足!
「もはや道を照らす灯ほどの力しか……」
「主よ、申し訳ございません」
「や、むしろ大感謝! 二人のおかげでここまで来れたんだって!」
小さなオーブ状になった偉大なる帝位精霊二体を握り締めながら、兄さんはニカって笑う。
実に、実にいい笑顔だ。
嫌な予感しかしない……。
「見ろよ陸人! コレ、まるできんた……」
「それモテないワード」
「……了解」
うん。
そういうとこだよ、兄さん。
でも、アレだよね?
寒いジョークで、テンション下がり気味だった俺を、元気づけようとしてくれたんだよね?
「……そっか。女子にモテないワードってのがあるんだな」
あれ?
違った?
今日もありがとうございました!
世界樹編、佳境に突入中のようです!
またぼちぼちお付き合いくださいませ。




