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第34話:兄の立ち位置

 




「……なんか嫌な予感すんだけど」

「兄さん? どうしたのさ? 」

「敵か?」

「いや……」

 なんかこう、こめかみのあたりがピクピクすんだよ。

 それでいて、胸の奥がムズムズっとして。

 はぁ~って感じの残念感と羨ましいなぁって気持ち……。

 えっとあの、アレだアレ。

 あの時の感情に似てる。

 陸人から恋愛物語を聞いた時だこれ。

 とくに、イケメンの主人公に恋人ができたシーンで感じるような……モヤモヤ感。

 嫉妬心?

 えっと、リア充爆ぜろ的な感じ?

 ふむ。

 ふむふむ。

 ……………………はっ⁉

 この流れで恋人できるって、ま、まさか……。

「いや、敵じゃない。ハルイルルルの誰かがに恋人ができた気がする」

「「は?」」

「いやアイツら、こそ錬してた必殺技かなんかで巨大なダブルヘッドの水龍的なクソカッコいい必殺技をドラゴンにぶちかましやがったに違いない!」

「「え?」」

「それで周りの女子からの株価爆上がり! ハルルのヤツなんかへへへって笑いながら「怪我はないか?」なんてカッコつけてやがるに違いないし! ピンチを救ってくれたカッコいいヒーローに思わず胸がときめくのは普遍の真理だし!」

 し、しまった!

「オレがあっちに残ればよかった……」

「なに言ってんだお前?」

「ジェイに同意。兄さん、さっきからなに言ってんの?」

 ふむ。

 ジェイと陸人にはわかるまい。

 お前らモテるもんな!

 てか人選ミスった……。

 こっち、男三人じゃん。

 恋愛もオレモテモテイベントも発生しないじゃん……。

「もしそうだとして、なんでそれが嫌なのさ? 友人なら喜ぶべきとこでしょ?」

「それは…………………そうだな」

 うん。陸人の言うとおりだ。

 まったもってその通り!

 だからさ、そんな残念な人を見るような目で兄ちゃんを見ないでくれよ……。

「カイトは付き合ってるやつ、誰かいねぇのかよ?」

「……うるせー」

「ジェイ。兄さんはね……恋愛したいけど色々とこじらせすぎてる上に超奥手だから恋人ができない人生を邁進してやがて魔法使いになる運命なんだよ。や、大賢者も夢じゃないね」

 陸人、なんて嫌な予言を……。

 もうちょっと兄に期待してくれてもいいんだからな?

「魔法使いになる? なんだそれ?」

「今度じっくり教えてあげるよ。でもきっと、ジェイには無縁の話だよ」

 そうですね。

 モテモテイケメンのお二人には無縁でしょうとも……。

「てかジェイは? 恋人は?」

「恋人はいねぇ。村に残してきた幼馴染はいるがな」

「ほほぅ……詳しく!」

 幼馴染かぁ。

 オレとナナちゃんと一緒だな。

 きっとさぞ甘酸っぱくて照れくさいエピソードがあるに違いない……。

 後学のために聞いておかねばなるまい!

「兄さん!」

「おぅ!」

 大事な話の邪魔をする野生の魔獣ども……カイトさんオコだぞ?

「ロココさん! 聞こえてる?」

『もちろんでございます』

「力を借りる! 詠唱破棄……【千変の風刃】発動」

『オーダー、承りました!』

 おぉ……。

 やっぱりできた。

 熊や牡鹿っぽい魔獣の群れがスパスパと………数ミリ単位に。

 自分で使っててあれだけど……エグい魔法だなこれ。

 てかロココさんマジ有能!

 やはりあなたが神か!

「は? 魔法って詠唱必要じゃねぇのかよ?」

「ジェイに同意。兄さん……さすがにこれは説明が必要な案件だよ?」

「あぁ。仕組みはわかんねー。でもロココさんが力貸してくれたら詠唱破棄できるっぽいんだよな」

「「ロココさんって誰?」」

「知らね。でもオレの味方!」

 どんな時も力を貸してくれるのであるからして。

 味方に違いないのである。

「……兄さん」

「……カイト」

「「悪魔と契約した?」」

「してないって。ロココさんに見返り求められたこともないし、契約交わしたこともないし!」

 ロココさんが悪魔のはずはない。

 断じて違うって……オレの直感が教えてくれてるし。

「信じてるよロココさぁ~ん!」

『恐縮です』

 くぅ~。

 このちょっと事務的な口調もカッコいいし……イケボだし。

 ぜったいロココさんもイケメンだと思うんだよなぁ。

 身長も高くて、細マッチョで身のこなしが紳士っぽくて……気配りができて。

『………』

「カイトのヤツ、誰と話してるんだ? ロココってやつか?」

「うん。多分兄さんにはロココって人の声が聞こえてるっぽいね」

「「………」」

「……なんだよ?」

 その残念な人を見る目を四つも揃えるんじゃない。

 兄さん、泣くからな?

「あ、そうだよジェイ! で、幼馴染との恋愛話! 詳しく!」

「それ、全力疾走しながらする話か?」

「ジェイに同意。魔獣を倒しながらする話?」

「いや、なに言ってんの? 大事な話に決まってんじゃん?」

 幼馴染との別れの日。

 とうとう素直になれなかった二人は、いつものようにそっけない会話を交わす。

 しかし堪えきれず涙を零す彼女。そっと抱きしめるジェイ。「バカ。バカバカバカバカバカ……なんで、なんで行っちゃうのよぉ」「悪ぃ。行かなきゃなんねぇんだ。俺はもっと強くなりてぇ」「……バカ……バカ」「あぁ」「ぜったい……ぜったい帰ってきなさいよね」「あぁ。でも待っててくれとは言わねぇ。幸せになれよ?」「ほんと……バカ」的なね!

「あ、ロココさん! 詠唱破棄! 【千変の風刃】発動よろしく!」

『承知しました』

 う~ん。

 スパスパ細切れになっていく魔獣さんたち。

 美味しい食材になりそうな鹿とか猪っぽいのもいるけど……今はいいや。

 絵的にね、なんかエグイし……。

「……兄さん」

「……カイト」

「「妄想激しすぎ」」

「恋愛はこういうもんなの! てか詳しく! はやく!」

 ジェイめ。

 きっともっと素敵な甘い思い出をたっぷり持ってるに違いないのであるからして。

 後学のために! 経験者の知恵を我に授けたもう……!

「わかったわかった。ったく仕方ねぇ」

「待てジェイ」

「は?」

 あ、これはアカン。

「アーサー、【謁見の間】を展開!」

「承知しました」

 素早い反応に素早い実行。

 やっぱりアーサー超有能!

「どうしたのさ?」

「あっかん気配がする。この先の広間で三匹……強敵っぽい。雰囲気的には父さん……それも黄龍を憑依した状態に近いっぽいレベルな気がする」

「……それ何の冗談?」

「お前の親父ってアレだろ? 救星の勇者だよなぁ?」

「あぁ。憑依状態ならランクSS……単独の戦闘能力でこの星五本の指に入ると思う」

 ただし移動要塞型ラスボス―――わが家ドラゴン最終兵器ラグナを除く。

 あれは別枠だから。

 生物としての格が違いすぎる。

「どうすっかなぁ。オレとジェイが神懸(かみがか)るには早い。まだ戦力を温存しなきゃだしな」

 まだ英知の箱に辿り着くまでの間に強敵が待ってる……気がする。

「ならここは俺と……闇の星位精霊テネブリスさんとが引き受けるしかないよね。デネブリスさん、頼めますか?」

「はいよー」

 軽っ。

 星位精霊、超偉いんだからもっと威厳に満ちた感じでいいのに。

 陸人に喉元なでられて気持ちよさそうに目を細める黒豹(ひょう)……今度絶対に肉球触らせてもらお。

「ありがとデネブリスさん!」

「いいよー」

 やっぱ軽っ。

 でもまぁデネブリっちが引き受けてくれるんなら……いけるかもしんない。

「けどよぉ。三体となると不利じゃねぇか?」

「あぁ。ジェイに同意。残り二体がすんなり先に進ませてくれるとも限らない、か」

 困った。

 あと戦力が二人欲しい。

 それも星位精霊が憑依した陸人クラス―――つまり救星の勇者クラス。

 ………………………ふむ。

 …………………ふむふむ。

 そんなのいるわけない。

 父さんかクルドおじさんを呼んで来いって話だ。

 あときっとポセイドン先生とディーテ先生も超強いっぽいから勝てる可能性あるかもだけど……ここに居ないしなぁ。

 はぁ……ディーテ先生の膝枕が恋しい……。

 ダンジョンサークル活動がしたい……。青春、学園、モテモテ……はぁ。

 ん?

 いや待てよ。

 うん。

 可能性はある、か。

 ダメ元で。

「アーサー、【謁見の間】解除! ちょっと試したいことがある」

「解除って……作戦決まったの?」

「あぁ。助っ人、呼んでみる。ダメだったらオレとジェイ、陸人の三人で戦う。助っ人が来てくれたら……陸人とここを任せられる!……と思う!」

「思う、ね。ま、兄さんがそう言うなら」

「だな。カイトが言うなら俺様も従うぜ」

「じゃあそういうことで!」

 頼んだぜ助っ人!




 +++




「「「ようこそゴミ(くず)ども」」」

 うわぁ。

 なんか、見た目エグイ……。

 鹿の頭に、成人男性の体。

 デミ・ゴット、だな。

 多分。

 てか、ブクブクに膨れた肩と腹と腕のそれは………卵かなんかか?

「陸人?」

「………解析終了。デミ・ゴット……弱点属性なし。物理攻撃の耐性高め……三体ともランクS~SS相当」

「やっぱり」

 嫌な予感程よく当たるってね。

「「「我らケルヌンノス神の子にして三位一体のデミ・ゴット。名をオリーブという。我らに殺されることを誇るといい」」」

 三体ともオリーブさんね。

 なるほどわからん。

 そのネーミングセンス。

「三体とも同じ名前って手抜きだな。お前らのとうさん、名づけめんどくさかったんじゃねぇの?」

「「「無駄だ屑よ。我らが父の愛を疑うことはない」」」

「あっそ」

 煽りに対する耐性も高い、か。

 このあたりは救星の勇者にも見習っていただきたい。

「ちょっと兄さん? あんま煽んないでくれる? 戦うの俺なんだけど?」

「あ、悪ぃ。ついクセで」

「クセで煽るってさ……モテないよきっと」

「マジで?」

「うん。褒めるクセがついてる方がそりゃモテるでしょ?」

「そっか。そうだな……」

 いや待て弟よ。

 それ実践してるってことでファイナルなアンサー?

「それで助っ人はどうしたよ? 精霊を呼ぶのかよ?」

「や、違ぇ。精霊じゃねぇよ。けど多分めっちゃ強い助っ人が来てくれる気がする」

「「多分くる?」」

「あぁ」

「「多分強い?」」

「あぁ」

 オレより強いのは間違いない。

「なーに大丈夫だって! 困ったら呼べって言ってくれてたし!」

「「は?」」

「ってことで……コホン」

「「……」」

「すぅ~~~~………トール! シヴァ! マジで助けてぇ……」

 頼んだよ先輩方!

 ダメもとだけども!

 三秒で来てくれるって言ってたし!

 ………一秒経過。

「………ダメか」

 まぁ、そりゃそうだよな。

 ……二秒経過。

 うん。無理か。

 こんな天然ダンジョンっぽい世界樹に、三秒で来れるわけが……ってアレ?

 ゴロロロロロロロロロ―――これって雷鳴か?

「に、兄さん!」

「カイト!」

「あぁ、伏せろ!」

 ま、マジか?

 だって世界樹の内部だぞここ!

 この部屋に落雷なんて――――あるわけ――――――

「―――おっせーじゃん!」

「マジおせーぞカイトっち!」

「「「え?」」」

 でも、間違いない。

 この懐かしい声と話し方。

 稲光が静まって………笑顔が二つ、はっきりと視界に飛び込んできた。

 なめならかな色白の肌。

 美しく輝くショートヘアの金髪。

 大きな瞳にキリっとした金色の眉。

 頬の傷と立ち上がった前髪にやんちゃで人懐っこそうな笑顔。

 トール先輩。

 それに…健康そうに日焼けした肌、水色のウェービーな髪。大きな瞳が真っ黒で力強い。

 シヴァっち先輩。

「カイトっち、ウェーイ!」

「シヴァっち? ウェーイ! てかマジで三秒で来てくれたんすね!」

「あったり前じゃん!」

 ニシシっと笑うトールに、よく頑張ったなって褒められると……つい兄ちゃんって呼びたくなる不思議。

 頼れる先輩、マジカッコいい。

「で、アイツラを倒せばいいんだよな?」

「うん。でもランクS~SS相当で……」

「まったく問題ねぇじゃん!」

 ニヤリと好戦的に笑うトール……それにシヴァっちも。

 トールから黄金色のオーラみたいなのが溢れて―――グググっと心臓が圧迫されるような強者の気配が漂ってくる。

 まるでうちのドラゴンのような……。

 シヴァっちからもダークブルーのオーラが……。

 ん? 赤のオーラも混じってて……クッソカッコいいなにそれどうやるの?

 はっ⁉

 まさかこれが……伝説のモテオーラってやつか?

 爽やかで、カッコ良く輝いて、全てが明るく見えちゃうモテオーラか?

「ってことでカイトっちと皆は先に行っちゃっていいよ!」

「さっさと行くじゃん!」

「あ、お、、お、俺も残ります」

 陸人、わかるよ。

 ちょっとビビるよね。

 このモテオーラに。

「たしかカイトっちの弟だよな?」

「……は、はい。陸人です」

「陸人、ここは大丈夫じゃん。ここは我とシヴァっちに任せて先に行くじゃん!」

「でも、三人相手に……」

「我を信じろじゃん! それに陸人は兄ちゃんを頼むじゃん?」

「そうだぜ! カイトっちは油断すっと色々やらかすからな!」

「その通りじゃん!」

 むぅ。

 評価が高いようで低い。

 てかオレ、二人になんかしたっけ?

「わ、わかりました! ご武運を!」

「ジェイもな! カイトを頼むじゃん!」

「お、おお!」

 あぁ……。

 クシャリと頭を撫でられた陸人が、憧れの目で二人を見ている件。

 兄のポジションがこの二人に奪取されそうな予感……。

「ってことでさっさと行くじゃん!」

「うん! 頼みます!」

 告げながら全力ダッシュ―――したのに先回りされてる件。

 やっぱ強ぇなデミ・ゴッドめ。

「「「誰が行っていいと言っ――――――っ!?」」」

「あ? この我が許可したじゃん?」

「てかお前らの許可なんていらねぇし?」

 おぉ。

 一瞬、だ。

 一瞬でオリーブたちが吹っ飛ばされた件。

 くっそ強ぇ。

 トールたちの動き、全然見えなかったし。

「それにしても……この星でカイトっちに手を出すなんてな」

「あぁ、超バカじゃん。我の大切な弟に手を出すなんて………」

「「お前らここで滅べ」」

 トゥンク……。

 アカン。

 こ、これは……ホレる。

 二人ともオーラが変わった。ブチ切れてるのがわかるくらいに……攻撃的な気配がビンビンする。

 トール兄ちゃん、シヴァっち、マジありがとう!

「兄さん! この隙に!」

「わかってる! トール、シヴァっち! あとは頼みました!」

 振り返り見れば、二人とも右手を掲げて応えてくれてる件について。

 アカン。

 マジでカッコいい。

 オリーブの身体にブクブクと着いてた卵っぽいのから……ウネウネと何かがたくさん飛び出してきたけども。

 多分、二人なら大丈夫。

 神様なんていない―――オレはずっとそう思ってた。

 けど、(ウリエル)様はいた。

 神は―――神と呼ばれる未知の超越的な何かは、確かに存在するんだ。

 今のオレなら、この二人がもしも神様なら……喜んで信仰すると思う。

 全身全霊で、だ。





今日もありがとうございました!

更新が遅れ気味になり申し訳ありません。気が付いたら繁忙期に突入しているようです……。

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