第32話:末っ子の自信
Side:末っ子ルルル
「いくぞイルル!」
「了解!」
やっぱりハルルとイルルは、すごい。
当たり前のように………強敵に向かって一歩、また一歩と前に進みでる。
未知の強敵が相手―――つまり二人は一歩、また一歩と死への距離を自分から詰めるようなもんなんだよ。
どう考えたって怖いのに。
ハルルもイルルも、ぜんぜん怖がってない。
臆することなく……隙を見せることなく………敵を煽るような自信たっぷりの笑みまで携えて。
前を向いて拳を握り構えをとる。
相変わらずカッコいいんだよなぁ。
思えばいっつも、僕の前には二人の背中がある。
だからかもしれない。
いつだってハルルとイルルの背中を見ると……安心するんだよねぇ。
その背中を超えて、怖い何かが僕のところにやってくることはない――――…そう思えるんだ。
「「オーラ―――…解放っ」」
相変わらず綺麗だなぁ。
全身から沸き立つ水色のオーラが………巨大な竜巻のような水柱を――――…って、いつもよりデカくない?
あ、精霊の力だね。
うん……二人ともすごいや。
ハルルとイルルの思うとおりにオーラを操ってさ……ほら、水が竜のように姿を変えて―――敵を飲みこんじゃった。
はぁ……。
「………やっぱすごいなぁ」
強い。
まぁ、僕とは比べもんになんないくらい二人が強いってこと、とっくにわかってるんだけどさぁ。
だって二人とも父さんの―――うちの家系に先祖から続く偉大な青龍の力を継承してるんだもん。
青竜は、炎竜、雷竜、風竜、地竜と並ぶ最強の竜種。
兄さんたちと違って、僕はその力を継承できなかったんだよね。
だからずっと、肩身が狭い思いをしてきたんだ。
あ、こんな僕にもさ、父さんや母さん、兄さんたちは優しいしんだ。ぜったいに僕をバカにしたりしない。
うん。むしろ守ってくれるし、愛情もたっぷり注いでもらってるって思う。
でも、爺ちゃんや親せきからは……そうでもないかも。
正直、期待されてないんだなぁって子どもながらに察する位には、兄さんたちと僕の扱いは違ったから。
修練の時間、期待を一身に背負って厚い指導を受ける兄さんたち。わかりやすいくらいに、兄さんたちを取り囲んで指導する大人はたくさんいて。僕の隣には……父さんしかいなかった。
みんな、自分の技を次世代に継承するために、兄さんたちを弟子にしたいんだよねぇ。
兄さんたちのような由緒正しき青竜の継承者なら、大器に違いないって―――ゆくゆくは竜人族を代表する強者になるに違いないってさ。
そう、みんな口々に言ってるし。
僕もそう思う。
だってハルルもイルルもすんごい強いから。
「「っしゃあ!」」
ほらね?
大きな水流が次々に敵を飲みこんで……竜の体内に飲みこまれたみたいにもがいてる。
やっぱりすごいんだよ。
だってこんなの、自分の竜種の力―――青龍の水のオーラをしっかりとコントロールしないとできないんだもん。
うん。
ハルルとイルルはやっぱ強い。
あ、体だけじゃないんだよ?
心も、だ。
えっと……周囲の期待って、その……いい言葉だけじゃない。
辛い言葉で寄せられることだってあるんだ。
ずっとそばに居たから、僕は知ってる。ハルルとイルルは、そんな辛い言葉とも戦ってるんだってこと。「なんだ青竜の一族は落ち目だなぁ」なんて言われないように。「青龍の一族が弱るのもそのはず。なにせ海人族の嫁では……仕方あるまい」だなんて、家名が、父さんが、母さんがバカにされないように。
ハルルとイルルは、色んな言葉に負けずに……ずっと修練を頑張ってる。
その上、僕にまで気を使って……励ましてくれるんだ。
「「ルルル! 任せたぞ!」」
「ん! 俺……頑張るよ!」
そしてこのヒュムの兄弟―――カイトと陸人。
二人はずっと、僕のことを見ててくれた。
竜人族のルルルとして。
兄さんたちに接するのとおんなじように、僕にも接してくれるんだ。
それってさぁ、信じらんないことなんだよ?
だって僕はずっと……空気だったんだから。
ハルルとイルルに話しかける人達が作る輪―――その隣に居て微笑んでるだけの空気。
兄さんたちの取り巻きの人たちは、僕を無視したりはしないけど……すすんで僕に話しかけたりはしない。兄さんたちが僕にも話を振ってくれるけど、誰も僕の話になんて興味はなくて……すぐ別の話題になっちゃうんだ。
でも、カイトと陸人は違う。
ハルルとイルルとおんなじように、僕にもいっぱい話しかけくれる。二人とおんなじように笑いかけてくれてるし、おんなじように仲間に入れてくれて―――イタズラにも加えてもらって……ご飯を振る舞ってくれる。
家族を除けば、僕たちの周りにいた竜人族はいつだって、誰だって……ハルルとイルルが優先。
弟子を探してる人、貴族の偉い人達やその子どもたちからすれば……僕は本当に空気みたいなもんだから。
僕を見て、僕に話しかけてくれて、僕の意見を聞いてくれて、僕のお願いを受け入れて美味しいご飯を用意してくれる。ハルルやイルルとおんなじように―――平等に接してくれる。
そんな人は家族以外には誰もいなかったから……。
うん。
だから、頑張る。
未知の強敵と戦うのはちょっとまだ怖いんだけど―――
「いくよ!」
―――期待に応えたい。
ハルルとイルルの。
カイトと陸人の。
「……ってことでヴォーチェさん……力借りるよ?」
「よいわ! よいのよ?」
「ん! ありがとね?」
「よいのよ! よいわ?」
「じゃあ行くよっ! 竜種……解放!」
息を深く吸って…………腹の奥……もっと、もっと奥に…………。
「もっと思いっきりでよいのよ? よいわ!」
「わ、わかった!」
もっと思いっきり……腹に力を込めて……来いっ!
あ、来た! 来た来た来た!
僕のオーラ………しかもいつもより多い……。
「っしゃあ! ハルル! イルル! 来いっ!」
「「応!」」
僕の竜種。
何の役にも立たない――――カッコ悪くて出すのも恥ずかしい力。
ドロドロとして汚いって言われたこともある。
でも、ハルルとイルルの役に立つ力だから……今はすっごく誇らしい。
触れた物質を粘動性の高いねばねばドロドロのなにかへと変質させる力―――粘竜。
しかもいっつもよりかなり粘度をコントロールでき…るぞ!
ありがとうヴォーチェさん!
「しゃあ! でかしたルルル!」
「ハルルに同意! さっすが!」
「ルルル! おっまえマジ最高な!」
「兄さんに同意!」
「「――――陸人! 後は……ヨロ!」」
「了解!」
はぁ……お腹空いちゃった。
「ヴォーチェさんありがと」
「あなた……すごいのね? すごいわ! だって見てごらんなさいよ! 私は見たわ!」
「うん……部屋中餅まみれっぽくなっちゃったねぇ。ヴォーチェさんのおかげだよ?」
それにやっぱり―――天高く跳び上がった陸人は、悔しいけどカッコいいなぁ。
僕の役割はここまで。
粘竜の力でハルルとイルルの水竜をちょっと硬めのネバネバお餅っぽくして……相手のほぼ全身を拘束する。これがいつものパターン。
でさ……フロアにいる逃げ遅れた敵が拘束されてるところに―――陸人がとどめを刺すんだ。
陸人の持つオーラの一つ――-偉大なる地竜の力を使って。
「みんな! 跳べ!」
「「「「おぉ!」」」
「秘儀……アースクエイク!」
着地した陸人と入れ替わりにみんなで空中に飛び上がって―――回避する。
振動を……。
餅のようなネバネバが振動を受けて細かく震えると………脳が何回も何回も揺れて……意識を失っちゃうんだってさ?
うん。
さっすが陸人だよ。
雑魚? っていうには強い気がするけど……これで討伐終了っと。
攻撃を回避した敵は……二十。
カイトの予測通りだなぁ。
さっすがカイトだよなぁ。
「スリーマンセル!」
「「「おぉ!」」」
あ、そうだった。
粘竜の力でフロアの餅っぽいのを水に戻してっと……。
「「お疲れ!」」
「ん! ハルイルもね」
「てかさっすがルルル」
「イルルに同意。さっすが俺の弟だ」
そっと背中を叩いて―――肩を組んでくれる。
「へへへへへ。ありがと」
ようやく、ちょっとだけ―――ついたかもしんない。
期待と戦う偉大な二人の隣に並べる自信。
僕にもできることがあるんなら、全力でやんないとね。
それに、頑張った後のカイトのご飯は――――ゴクリ。
いつもよりずっとずぅっと美味いんだから!
+++
「さてさてママンカ、なかなか曲芸の見事ね?」
「およおよルルンカ、それを言うなら見事な曲芸―――なりよ?」
「コホン。え~さてさて、見事な曲芸ね? これであってるわねママンカ?」
「およおよルルンカ…正解なり。しかし曲芸とは言い得て妙なりね?」
半獣半人のデミゴット?
ママンカ―――どうやら下半身が猫で上半身が女性。瞳も、長めの髪も深紅。
そしてルルンカ―――ゴリラの腕と足を持つ女性。ママンカと同じ瞳と髪の色。
ふざけてる―――けど強い。
父さんと対峙してるときのような圧迫感。
それにとんでもない殺気。
それも、まるで見せつけるようにたっぷりと―――ってヤバいっ⁉
「と、途絶えることのなき意志を持ちて、ここに優を示す。苛烈なる火、凍てつく風も我が熱を挫くこと叶わず………」
「―――っ⁉」
ふぅ~、よかったよかった。
シールドの展開、間に合ったっぽい。
「さてさてママンカ、バレちゃったわね?」
「およおよルルンカ……腹立つなりね?」
「「ったりまえだろ? ルルルを舐めるんじゃねぇよ」」
時間差攻撃ってやつかなぁ。
会話の前に放り投げてた巨大な岩石が、さっき降り注いできたってところ?
なんかの能力かもしれないけど。
わざとらしく殺気をはなったり、大声を挙げたりして相手の注意を引き付けるおとり作戦は、カイトや陸人がよくイタズラで使うテクニックだからね。
「………報告。解析終了―――デミ・ゴッドと確認。ママンカの弱点属性は水、ルルンカの弱点は火だよ。物理攻撃は―――とくに腹が弱いってさ」
「およおよルルンカ……あの魔法ってヤツ、邪魔ねぇ」
「さてさてママンカ、邪魔よ」
「およおよルルンカ、でも問題ないなりね?」
「さてさてママンカ、問題ない―――唱える前にぶっ飛ばせばいいんだものね?」
クルクルっと楽しそうに舞う―――つまり煽ってるってことだな。
これもよく、カイトがイタズラ大作戦で使う手。
怒らせて、相手の冷静さを奪って……自分たちに有利な状態をつくる。心理的にもね。
いつだったかなぁ。
父さんと大和おじさんのビールに牛乳を混ぜるイタズラをしたんだけど……その時にカイトが煽ったんだよねぇ。「父さんとクルドおじさんはもうおっさんだから……そんなに飲んだら胃がもたれるよ? 無理しない方が良くない? おっさん?」ってさ。
父さんも大和おじさんも怒ってさぁ、「じゃあ勝負する? 同じ料理を五品、どっちが早く完食できるか?」って、カイトとのいっき食い勝負にのっちゃって―――流れで思いっきり牛乳ビールを飲みこんで……吹き出して。大和の母さんに思いっきり叱られちゃってさ。
あの時は……楽しかったなぁ。
「およおよルルンカ、怯えさせてしまったようであるなりか?」
「されさてママンカ、ひとおもいにぶっ飛ばしてあげよう。呪文を唱える前にね?」
舞の速度がドンドンあがっちゃって―――僕じゃ姿が微かにしか見えないし。
言葉と行動で煽って―――隙をつくのかな?
えっとこんなときはどうすればいいんだっけ?
確か陸人が―――うん。
そうだったね。
「えっと……」
冷静に、冷静に。
こっちが冷静に対応してるってことを伝えるんだった。
で、可能なら煽り返すとよりカッコいいよって言ってた。
「ルルンカにママンカ、君たちじゃ無理だよ?」
「「―――っ⁉」」
お? 殺気が増したってことは―――煽り返し、成功かな?
「「このガキがっ! なにを―――」」
「―――だって無理だよ? 教えてあげてるんだ、俺は優しいからね。身のこなしでわかる。武術の素養がないんだもん」
確かに……体力も筋力も向こうの方が上かな。
でも、たったそれだけの奴らに、ハルルとイルルを吹っ飛ばせるわけないんだから。
「俺はずっと、二人が強者と戦うのを見て来た。小さい頃からずっと、ずぅっとね。だからわかる。ハルルとイルルが、コイツらなんかにぶっ飛ばされるはずがないって」
僕は、自分には自信がないけど。
ハルルとイルルのことについてなら、自信がある。
ひょっとしたら二人よりも客観的に理解してるかもしんない。
うん。
それくらい……二人の強さと努力を理解してるって自信があるだよねぇ。
「……だってよハルル」
「あぁイルル……」
「「ルルルが正しいって証明しないとな?」」
証明?
逆だと思うんだけど……。
僕の言葉が正しいかを証明する必要ってないんじゃない?
だってさぁ……二人はもうずっと、証明してきたんだから。
何度だって言う。
いつだってそう思うから。
ハルルとイルルは強い。そして最高にカッコいいんだよ?
僕の自慢の―――ライバルなんだから。
今日もありがとうございました!
時代や社会の変化の最中に生きる子どもたちの戦いを描くの、ちょっとツボなんです。




