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第31話:最良の日々

Side:イルル

 



 なんでコイツはヒュムなんだろ?―――カイトと出会ってから、俺がずっと抱いてる疑問がこれ。


 あ、二つの意味でな。

 ひとつはヒュムのガキに見合わない能力を持ってるから。心身共に、マジでお前ヒュムのガキなの?……って感じ。

 今だってほら、とんでもないことをサラッとしでかしてやがる。

 ……ったく。

 お前以外の誰に、んなことできるっていうんだ?

「………ってことで、よろしく!」

 だいたいさ。

 精霊の召喚なんてよ………そんなアッサリ成功するもんじゃないだろ?

 下級の精霊召喚だって、俺ら竜人族―――先祖の禍根で精霊に嫌われ気味―――からすれば、ほぼほぼ成功しないわけで。

 それが、なんだよその召喚の仕方。「強いのいっぱい出て来い!」ってアバウトな呼びかけ。

 呼び出したい属性をちゃんと伝えないと、向こうも誰が召喚門から出てきていいか、ワケがわかんなくなるだろうに。

 しかも、だ。

 基本的に、一回の召喚につき一体の精霊だろう?

 いっぱい出て来いって……どういうこと?

 で、なんで本当に出てくるわけ? しかもちゃんと強いのがいっぱい……。

「……まさか本当に呼び出せるとは」

「へへへ。やってみたらできちゃいました」

「星位精霊の召喚はこの世界に残された偉業の一つ。それが同時に十体……」

 救星の魔導士ヘンゼルさんはもう、カイトが何をしでかしても驚かない境地に達してるんだろうな。無表情だし。

 俺もまぁ、驚いてはいない。

 さっき神様見ちゃったし。

 だから最高位にある星位精霊を見ても別に………って、やっぱ無理ある。

 死ぬほど驚くに決まってるだろこんな光景。

 一体一体、どれもこれも、いろんな伝承の中でふわっと語り継がれるレベルのレアキャラなんだけど?

「兄さん……でかした!」

「だろ? (オレ)さんはやればできる子なんだよ!」

「うんうん! 星位精霊ってみんな動物キャラなんだね! わかってるよねさっすが! だって王道は正義だし! まずさぁ……」

 お?

 陸人がハイテンションで解説モードに入った。

 なになに……うんうん。

 水の星位精霊アクアは、エメラルドブルーのイルカ。ハルルの隣に浮いておられる。

 炎の星位精霊イグニスは……黒い犬か? ジェイの隣で大人しくしている。

 風の星位精霊アトモスは白馬で、ヘンゼルの隣に座った。

 土の星位精霊テルラは熊。体格差二メートル以上もあってウケる。モネがんばれ。

 闇の星位精霊テネブリスは黒豹。陸人はさっそくハグしてるけど噛まれるなよ?

 雷の星位精霊ヴォーチェが猫。ルルルの肩に飛び乗った。

 樹の星位精霊アルボルは鹿。ミルル、それは食用じゃないからな?

 氷の星位精霊ニクスはペンギンで、俺の膝を突いている。なんで?

 光の星位精霊ルクスは狼。ナナちゃんの隣に寝そべって欠伸中。

 そして時の星位精霊クロノがウサギ……か。カグヤさんの腕に抱っこされてる。てか動物って服着るのな。ま、星位精霊クラスになると、そんなこともあんのかも。

「兄さん! 次はどうするの?」

 えっ? 次って何?

 星位精霊召喚した時点でもう十分じゃね?

「何か考えがあるんだよね? 早く教えて!」

 ………ダメだ。

 陸人がもう、ワックワクした目をしちゃってる。

 陸人のワックワクがカイトの暴走を更に加速させるパターンのやつだこれ。

「ふっふっふ。弟よ! よくぞ聞いた! ここで時の星位精霊クロノさんの出番です!」

「おや? 僕かい? 何をしたらいいのかな?」

「精霊とオレらの時をちょっと加速してくんない? で、神気への耐性を高めたいんだけど……いける?」

「あ~、なるほどね。どうだろ? やってみないとわかんないかな、うん」

 いやカイト、ちょっと待て。

 そんな実験のためにいきなり星位精霊の皆さんを呼び出したわけ?

 普通まず、クロノさんだけ呼んでさ、できるかどうか相談するだろ?

「次元の裂け目の時を止めてたくらいだし、クロノならできるって! ちょちょいのちょいってやっちゃってくださいよ旦那!」

 だからなぜにタメ口?

 神といい星位精霊といい、カイトの辞書に無礼って言葉は不掲載なわけ?

「そうまで言われたら悪い気はしないね。あ、時を加速するだけだから、神気に酔って気分悪くなったら倒れちゃうよ?」

「そしたらルクスがなんとかしてくれるって! 回復的な処置を! 前回してくれたらしいし!」

「あぁ、引き受けるとも」

「サンキュ! で、それを何セットか繰り返したらさぁ、神気への耐性を短期間に高められるんじゃないかなぁって思うんだよね。どう?」

「兄さん天才!」

「だろ? あ、皆さん、今回の召喚はオレらがこの世界樹を守る間でOKなんで!」

 そんなさらっと契約期間と内容を伝える感じでOKなのか?

 丁寧にお願いして交渉する感じじゃなくていいわけ?

「ん? ちょっと待ってよ兄さん……」

 お?

 いいぞ陸人! うんうん。そこは止めるべき。

 カイトの暴走を止められるのはお前だけだぞ陸人……頑張れ!

「……もしルクスさんが回復フィールドを展開できるならさぁ……」

「あ、そっか! みんな回復フィールドにインの、時の加速オンで……」

「そうそう! 回復しながら耐性高められちゃうかもしんないよね?」

「さっすが陸人!」

 ダメだった。

 カイリク兄弟が止まんない。

 特にカイト。お前ってマジで時々あれだぞ? 精霊とか(ラグナ)使いが荒いぞ?

 てか今回の皆さんは俺らのパーティメンバーじゃねぇんだからさ。

 そんなノリでホイホイと星位精霊に仕事振るなよなぁ。

 怒って帰ってもおかしくねぇぞ?

「問題ない。他ならぬ君の頼みだからね」

 え? いいの?

 てか、ルクスさんだけじゃない。

 みんな頷いてるし。

 なんで精霊のみなさんは、そんなにカイトに甘々仕様?

 カイト……調子に乗るぞ?

 ………てか痛い。

 さっきからずっと膝を突くこの星位精霊、蹴飛ばしてもいい?

 俺なんか瞬殺されるだろうから、マジで蹴ったりしないけどもさぁ。

 てか精霊様、なんで俺には塩対応何でしょうか?

「すまないね。機嫌が悪いのさ。なにせ氷の精霊は、特に竜人族に恨みがあるらしくてねぇ」

「そうなのルクス?」

「あぁ」

 マジで?

 逆恨みってこと?

「ってことらしいけど、まぁ頑張れイルル!」

 え?

 ちょっと待てよカイト―――俺、なにをどう頑張ればいいわけ?

 謝罪か?

 種族を代表して謝ったらいいのか?

「じゃあ僕とルクスでやってみようか?」

「えぇクロノ、始めよう」

 ちょっとお二人さん。

 時を加速して、ペンギンの逆恨みも緩和してくれる? 回復でもいいけど?




 +++




「っしゃあ! 成功!」

「さっすが兄さん!」

「だろ?」

 はぁ……。

 やっぱ惜しいなぁ。

 なんでカイトはヒュム族なんだろ……マジで。

 これが二つめなんだけどもさ、ヒュムの寿命はたかだか七十年。しかも長くて、だ。

 竜人族と比べると、五分の一にも満たない。

 それにヒュムの身体ピークは二十代、維持しても四十くらいからは低下が不可避だ。

 つまりヒュムのピークは、前後含めて三十年間ちょっと。

 これが、俺とカイトと一緒にパーティを組める制限時間ってことになる。

 カイトがパーティを引退して……寿命を全うしてからも、俺の人生は五百年ほど続いていく。

 その膨大な時間を俺は………どうやって生きていくんだろ。

 カイトがこの世を去ってから、いい出会いがあればのんびり家庭でも築こうかって思ってはいる。弟子でもとって、自分の技を後世に伝える傍ら、気が向いたときにダンジョンで稼いで………家族を養って。

 それで………。

 なんとも手堅い、竜人族では成功事例の積みあがった人生設計。

 まさに今、ハルルが歩もうとしている選択肢。

 ハルルは三秒で恋をして歩く。

 でも根っからの遊び人ってわけじゃないんだよなぁ。

 ハルルは、自分のポジションを理解してるんだ。自分の役割とか、寄せられてる期待とか。だって俺ら、竜人族の名門貴族だし。そんで、ハルルがいずれ家を継ぐ。長男だからな。

 たくさんの出会いと恋を楽しんで、自分がこれぞと思った相手と添い遂げて、家を守っていく。そのために、三秒で恋をして―――いや恋を探して歩いているんだろう。

 まったくもって、長男として責任感のある兄を持った次男は……幸せだ。

 おかげで俺は、自由に生きていられるし。

 ってことで俺は、少なくともカイトがこの世界に居る間、恋愛する気はゼロなわけだ。

 カイトと一緒に過ごす時間に、たっぷり時間を割きたい。

 どう考えても、この三十年が俺の人生でもっとも美味い飯が食えて、いっちばんワクワクする冒険ができる黄金期だから……。

 だって、まさかこんな日が来るなんて思ってもなかったし。

 竜人族の俺が精霊の憑依に成功。

 しかも、星位精霊―――つまりこの世界で最高位にあるとされる精霊と、だ。

「改めてましてご挨拶を。私は竜人族クルドが息子、青龍種のイルルと申します。氷の星位精霊ニクス様、お力添えに感謝します」

「……雪解けを期待。励め」

 ツンツンっとした喋り方は、嫌いじゃないけども。

 まぁ、仲良くやるとしよう。

 ご不興を買って瞬殺されないように……。

「防御は我。攻撃は汝を支援」

「承知しました」

 空中に浮かぶ氷の結晶。

 手のひらサイズだけど、見た目に騙されちゃいけない。きっとヤバい。

 それに全身を包む氷のような武闘着も、きっとヤバい。

 感覚的に、だけども。身体能力がかなり向上してると思うし。

 精霊憑依って、やっぱすげぇんだな。

 で、それがこんなにたくさん。カイト以外はみんな、精霊憑依に成功したみたいだし。

 そもそも憑依(これ)だって、普通なら一つの—パーティに一人いる程度なんだけども。全員、しかも星位精霊の憑依なんて……強すぎだろ?

「兄さんはいいの?」

「あぁ。オレにはアーサーとガウェインがいるから。な? 頼んだぜ?」

「「恐縮です」」

 あの二体は確か、帝位精霊だったよな。

 いやそれでも十分、伝説クラスというか……偉業なんだけども。

 ダメだ。オレも感覚がおかしくなってきてる気がする。

 カイトと陸人に毒され過ぎたかも……。

「はぁ……」

「どうした?」

「や、色々と驚きの連続でな。ハルルは水の星位精霊―――アクア様だったよな?」

「おぅ。スゲーな精霊って」

 腕に力を籠めたり、軽く蹴りの動作をしてみたり。

 ハルルも蹴りの速度や威力、身体感覚の上昇を実感してるっぽい。

「ハルルに同意」

 俺も同じだ。 

 身体が軽いし、キレッキレ。

 もう全身にエネルギーが満ちているのをガンガン感じる。

 絶好調ってやつだこれ。

 でも、これってつまり―――

「イルル、俺らってよぉ」

「あぁ。ハルルに同意」

 ―――まだまだ精進がぜんっぜん足りてねぇ。

 竜人族としてまだまだガキな俺らだけど、修練は人一倍積んできた。

 救星の勇者大和おじさん、救星の拳王って言われる父さん相手に。他人からすれば英才教育って言われるけども、俺らからするとプライドをへし折られ続ける負け確定無限ループイベントのなかで。歯を食いしばって頑張ってる自負はある。

 でも、よくわかった。

 自分にはまだまだ伸びしろがある。まぁ、まだまだオレらガキだしな。当たり前っちゃ当たり前なんだけど……。

 少なくとも今の―――精霊憑依状態の自分を乗り越えるくらいには……強くなりてぇ。カイトともっと冒険するつもりなら、もっと俺も強くなんねぇと。足手まといになっちまうから。

 マエステリアの称号をもらったり、掃討戦でそれなりに戦ったりしたけど……慢心せずに精進しなきゃなぁ。

「なぁイルル……」

「なんだ?」

「精霊の力を借りるなんて竜人族の名折れだ―――なんて爺ちゃんあたりはいいそうじゃね?」

「ウケる。絶対それ言うわ……ブチ切れながら」

 強者である精霊に勝つことは竜人族の誉れ―――そういう文化で父さん以上の世代は育ってきた。

 でも、オレらは生まれた時から身近に精霊と接してきた世代だし―――竜人族以外にも強者がいるって理解できてる世代、だ。

 きっかけはダンジョン。

 この世界にダンジョンができて、魔法ができて、精霊が増えて……種族間の交流が進んだことで、いろんな強者がこの世界に登場してきた。

 もう竜人族最強説を疑わずに信じ続けるなんてばからしい―――そう思う世代でもある。

 これが、大和おじさんが精霊と切り開いた新たな世界の常識だし、それが受け入れられつつある時代にオレらは生きてる。

 それでも、誇りはある。

 身体面で他種族に秀でる竜人族としての誇り。

 この星で最強でありたいと誰よりも願い、世代を超えて武の探究を続けてるっていう種族としての誇り。

 けど今は、その探究方法に変化が起きてるってさ……俺は思うんだよ。

 爺ちゃんたちの世代は、竜人族が最強だったから、竜人族内で競い合い高め合うのが最適な成長方法だって考えて来たんだと思う。その成果を試す強敵として精霊が位置付けられていたってわけだ。

 でも今は違う。

 他種族にも強者はいるし、ダンジョンに行けば強敵モンスターがゴロゴロいる。つまり最適な成長方法は、ダンジョンでのバトルだ。他種族の強者から見て学べるし、強敵との戦闘経験もたっぷり積める。

 あと、かなり身近になった精霊って存在も、最適な成長方法に変化をもたらす。ぶっちゃけ、俺は強くなれるなら、自分たちの成長に資するように精霊と協同できたらいいって思う。精霊の力を借りて武の高みを目指して……いずれ精霊に自力で勝てるようになればいいじゃん。 

 だから俺は、今回の星位精霊の憑依も、自分の上限を超える体の動きや戦闘イメージを獲得するチャンスだって思うし、無駄にしたくない。

 こんな経験できる奴なんて今、この星で俺らだけだからな。

 無駄にするなんてバカだバカ。

 ハルルもルルルも同じ意見だと思う。さっきからずっと、移動しながら体の動きを確かめてるし。

 うん。

「せっかくカイトがくれた貴重なこの機会……無駄にしちゃもったいねぇよな」

「ハルルに同意。ちゃんと体の動かし方、覚えとかなぇとな。もったいねぇよ」

「イルルに同意。あとまぁ……カイトの‘ちょっと’は偉業レベルだってことも覚えておかねぇとな?」

「……ハルルに全力で同意」

 まったくもってその通りだ。

 これだからカイトからは目を離せないっつーか、離れがたい。

 パーティのリーダー適性もクソ高いって証明してる幼馴染との出会いに感謝だな。


「停止。ちょっと様子見てくる」

 スルスルっと前方に駆けだしたカイトを目で追いながら……呼吸を抑える。

 どうやら敵の気配を感じたらしい。

 スルスルっと戻って来たと思ったら、あっという間に……【謁見の間】に通された。

 ここで作戦会議ってことか。

「報告。やっぱりこの先に大きな空間が広がってる……そこでオレらを迎え撃つつもりらしい」

 やっぱりって。

 まるでわかってたみたいな言い方するけど……多分、わかってたんだろうな。

 勘で。

 頼もしいことこの上ねぇよリーダー。

「まず大量の雑魚的を一掃する。ハルイルルルと陸人の竜種連携でいくぞ?」

「「「「了解」」」」

「それでも倒せない難敵はきっと二十体。おそらくランクA~S相当の個体だ」

「それって……デミゴッドか?」

「多分な。でも星位精霊が助けてくれるし、だいたいは問題ない」

「だいたいはって、兄さん……」

「二十体とのバトル時、こっちはスリーマンセルで行動。ハルイルルル、ミルル陸人モネ、ナナちゃんとヘンゼルさん、カグヤさん。俺とジェイはペアな。ナナちゃんたちは最後方で臨機応変に攻撃魔法と回復を、オレとジェイが中盤で戦況を見て加勢……前戦の三チームは、自由に頑張ってくれ!」

「「「「了解!」」」」

 カイトがこれで行けるというなら……大丈夫だ。

「最後に一体、難敵が残るけど……そいつは後退すると思う。英知の箱探しを続けるメンバーに戦況の伝令ってとこかな」

「兄さん、俺もそう思う。漫画だと鉄板の流れだしね」

「だろ? こっちの戦力を見極めて一時撤退。情報を仲間と共有して次のバトルに備えるってとこだな」

 出たよリクカイ兄弟の謎会話……。

 でもまぁ、二人の意見が一致するなら間違いない。

「……じゃあそろそろ行くか。英知の箱に敵が迫ってる気がするし。ハルイルルル、陸人……先行頼んだ!」

「「「「任せろ!」」」

 あ~、ヤバい。

 この高揚感……滾って来た。

 間違いない。

 数百年後、人生でいっちばん熱い時間を思う時―――俺は迷うことなく、この日々を克明に思い出す。

 カイトと過ごした【希望(ホープ)】での日々を。

 いつかカイトに子どもができて、いや、孫やひ孫ができたときにも、俺が語って聞かせてやるよ。親友の物語を、まるで英雄ラグナの冒険譚のようにな。

 ちょびっとカッコ悪くて、モテないところも含めて……だけどな?




今日もありがとうございました!


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